宅建の用語集:善意・悪意・対抗・追認・援用など、権利関係でつまずく言葉の意味

宅建の問題文には、日常とは違う意味で使われる法律の言葉が出てきます。いちばん差が大きいのは「善意」と「悪意」で、法律では「よい心・悪い心」ではなく、ある事情を「知らない」・「知っている」という意味です。この言葉を日常の意味で読むと、問題文の筋そのものを取り違えます。

この用語集は、日常の意味と違う言葉から順に、①法律での一行の意味、②その言葉が出てくる条文、③その言葉が使われる論点の記事、の3つを並べました。意味だけを覚えるより、言葉が出てくる条文を一度読み、論点の記事で使われ方を見るほうが、問題文の中で意味を取り違えにくくなります。

辞書のようにすべての言葉を並べてはいません。権利関係(民法など)と宅建業法の問題文で、意味を取り違えると正誤が変わる言葉に絞っています。条文は令和8年4月1日時点のものです。

この用語集の並べ方と使い方

言葉を、日常の意味からの遠さで4つの段に分けました。

  1. 日常の意味とまったく違う言葉(善意・悪意・対抗・援用など)
  2. 日常でも使うが、法律では中身が決まっている言葉(過失・保存行為・履行の着手など)
  3. 似た言葉と区別が要る言葉(無効と取消し、みなすと推定する、超えると以上など)
  4. 宅建業法の問題文に出る言葉(宅地・免許権者・役員など)

使い方は、最初から全部を覚えるのではなく、問題を解いていて止まった言葉を引く形をすすめます。引いたら、表の「条文」の欄の条文を e-Gov 法令検索で一度読み、「記事」の欄の論点の記事で、その言葉がどんな場面で使われるかを確かめます。権利関係の中でどの論点から手をつけるかは、宅建の権利関係(民法)の勉強法で説明しています。

1. 日常の意味とまったく違う言葉

言葉法律での意味条文の例記事
善意ある事情を知らないこと民法94条2項「善意の第三者」意思表示
悪意ある事情を知っていること民法704条「悪意の受益者」事務管理と不当利得
第三者当事者以外の人。177条では登記がないことを主張する正当な利益がある人民法177条第三者
対抗する当事者の間で起きた権利の変動などを、第三者にも主張すること民法177条二重譲渡と登記
援用時効の利益を受けると言い出すこと民法145条時効の援用権者
追認後から「それでよい」と認めること民法113条1項・122条代理
表意者意思表示をした本人民法93条1項・95条3項意思表示
果実物から生まれる収益(作物・家賃など)民法88条・371条物上代位
占有自分のためにする意思で物を持っていること民法180条占有
瑕疵欠陥民法717条1項工作物責任
  • 善意・悪意は「知っていたか」だけ:道徳の良し悪しは関係ありません。「善意でかつ過失がない」(善意無過失)は、知らなかったうえに、知らなかったことに落ち度もないという意味です。虚偽表示の第三者は「善意」(94条2項)、錯誤の取消しの第三者は「善意でかつ過失がない」(95条4項)と、条文の一語で守られる範囲が変わります。
  • 第三者と対抗:177条の「第三者」には、登記がないことを主張する正当な利益がない人は入りません。背信的悪意者がその例です(最高裁判所第二小法廷昭和43年8月2日判決)。だれが第三者に当たるかは宅建の「第三者」の記事、「対抗できる」の意味は177条の記事でくわしく扱っています。
  • 追認は2つの場面で出てくる:無権代理の契約を本人が認める追認(113条1項)と、取り消せる行為を取り消せる人が認める追認(122条)です。122条の追認をすると、以後は取り消せなくなります。
  • 援用は自分から言う:時効は、当事者などが援用しなければ、裁判所はそれによって裁判できません(145条)。消滅時効では、保証人・物上保証人・第三取得者なども援用できる人に入ります。
  • 果実は食べ物に限らない:作物などの天然果実のほか、家賃のように物を使わせた対価も法定果実です(88条)。抵当権は、債務の不履行があった後に生じた果実に及びます(371条)。

2. 日常でも使うが、法律では中身が決まっている言葉

言葉法律での意味条文の例記事
重大な過失わずかな注意でたやすく分かったのに見すごした、著しい不注意失火責任法失火責任法
善良な管理者の注意その立場の人に求められるきちんとした注意民法400条債務不履行と解除
保存行為物の今の状態を守る行為(修理など)民法103条1号・252条5項共有
催告相手に、するよう求めること民法541条債務不履行と解除
履行の着手契約で約束したことを始めること民法557条1項手付
弁済約束どおりに払って、債務を消すこと民法473条弁済と相殺
  • 重大な過失は、ふつうの過失よりかなり重い:失火責任法の重大な過失について、判例は、わずかの注意さえすればたやすく違法有害な結果を予見できたのに、漫然と見すごした、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態としています(最高裁判所第三小法廷昭和32年7月9日判決)。錯誤の取消し(95条3項)にも「重大な過失」の言葉があり、表意者に重大な過失があると、原則として取り消せません。
  • 手付の「履行の着手」は相手方の着手:手付による解除ができなくなるのは、「その相手方が」契約の履行に着手した後です(557条1項ただし書)。自分が着手したかどうかではありません。
  • 催告は「相当の期間を定めて」:541条の解除は、相当の期間を定めて催告し、その期間内に履行がないときにできます。期間が過ぎた時の不履行が軽微なら解除できません(同条ただし書)。

3. 似た言葉と区別が要る言葉

言葉法律での意味条文の例記事
無効初めから効力がない民法3条の2・94条1項無効と取消し
取消し取り消すまでは有効。取り消すと初めから無効だったとみなす民法121条無効と取消し
解除契約を解いて、お互いを元の状態に戻す民法541条・545条1項債務不履行と解除
撤回した意思表示などを、後から取りやめること民法1022条(遺言の撤回)遺言
みなす事実がどうであっても、そう扱う民法121条無効と取消し
推定する反対の証明がない限り、そう扱う民法186条1項占有
超える・以上超えるはその数を含まない、以上は含む宅建業法39条1項「十分の二を超える」手付
  • みなすと推定する:186条1項は、占有者は所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと「推定する」と定めます。反対の事実が証明されれば、推定は覆ります。121条は、取り消された行為を初めから無効であったものと「みなす」と定めます。こちらは反対の証明で変わる話ではありません。
  • 超えると以上:宅建業者が自ら売主のとき、受け取れない手付は「代金の額の十分の二を超える額」です(宅建業法39条1項)。ちょうど2割の手付は受け取れます。
  • 解除と原状回復:解除をすると、各当事者は相手方を原状に復させる義務を負います。ただし、第三者の権利を害することはできません(545条1項)。取消しや解除の後に買った人との関係は、取消し・解除と登記の記事で扱っています。

4. 宅建業法の問題文に出る言葉

言葉宅建業法での意味条文記事
宅地建物の敷地に使う土地と、用途地域内の土地(道路・公園・河川などを除く)2条1号宅建業の定義
宅地建物取引業宅地・建物の売買・交換と、売買・交換・貸借の代理・媒介を、業として行うこと2条2号自ら貸主
代理・媒介代理は本人に代わって契約する、媒介は間に立って契約をまとめる2条2号代理と媒介
免許権者免許をする国土交通大臣か知事を指す呼び方。事務所が1つの都道府県だけなら知事、2つ以上なら大臣3条1項免許
役員取締役などのほか、相談役・顧問など名前を問わず同等以上の支配力がある人5条1項2号欠格事由
  • 宅地は「建物の敷地」だけではない:用途地域の中の土地は、今は駐車場でも、道路・公園・河川などに使われているもの以外は宅地に入ります(2条1号)。
  • 自ら貸すことは宅建業に入らない:2条2号に並ぶのは、売買・交換と、売買・交換・貸借の代理・媒介です。自分の建物を自分で貸す「貸借」は入っていません。
  • 免許権者は事務所で決まる:「免許権者」は、その業者に免許をした大臣または知事を指す呼び方です。3条1項は、事務所を置く都道府県の数で国土交通大臣か知事かを分けています。物件がどこにあるか、どこで取引するかでは決まりません。
  • 役員は肩書きで決まらない:相談役や顧問でも、取締役などと同等以上の支配力があると認められれば役員に入ります(5条1項2号のかっこ書き)。

問題文で言葉につまずいたときの3つの手順

  1. その言葉の主語を確かめる:「善意」なら、だれが、何を知らないのかを問題文から拾います。第三者が善意か、相手方が善意かで、使う条文が変わります。
  2. 一語の入れかえを疑う:善意と善意無過失、超えると以上、みなすと推定する、取消しと解除は、一語を入れかえると正誤が変わる組み合わせです。ひっかけの型は宅建のひっかけ問題のパターンにまとめています。
  3. 出どころを確かめる:「背信的悪意者」のように、条文にはなく判例で使われる言葉もあります。条文に書いてあるかを聞く問題の解き方は、宅建の条文問題の解き方で扱っています。

この用語集は、言葉を覚える量を減らすためのものではありません。言葉の意味を条文と論点に結びつけておくと、事例問題を読むときの負担が減り、その分を論点の理解に回せます。権利関係の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

今日からやること

  • 権利関係の問題を5問解き、意味があいまいだった言葉に印をつける。
  • 印をつけた言葉を、この用語集の表で引き、「条文の例」の条文を e-Gov で一度読む。
  • 「善意」「悪意」「善意でかつ過失がない」が出てくる条文(民法93条2項・94条2項・95条4項)を並べて読み、どの第三者がどこまで守られるかを一行にまとめる。
  • 自分のノートに「似た言葉の組」(みなす・推定する、超える・以上、取消し・解除)の欄を作り、出会った例を書き足していく。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を e-Gov 法令検索(法令API)で確かめました。判例は裁判所ウェブサイトで確かめました。