意思表示をわかりやすく:心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫の違い

意思表示(いしひょうじ)とは、「売ります」「買います」のように、約束をするために気持ちを外に表すことです。民法93条〜96条は、気持ちと口に出したことがずれていたときや、だまされたりおどされたりしたとき、約束がどうなるかを決めています。

ひとことで言うと、心裡留保(しんりりゅうほ)と虚偽表示(きょぎひょうじ)は「無効」になりうるものです。無効とは、はじめから効き目がないことです。錯誤(さくご)・詐欺(さぎ)・強迫(きょうはく)は「取り消せる」ものです。取り消すまでは有効です。さらに、事情を知らない第三者をどこまで守るかが、5つで少しずつちがいます。試験で問われるのは、主にこの2点です。

この記事では、5つの意思表示の要件と効果、第三者の保護までを扱います。意思表示が相手に届く時期(97条)などは扱いません。

身近な例で考えるとどうなるか

登場人物は3人です。売る人=さくらさん、買う人=ゆうとさん、ゆうとさんからさらに買う人=けんたさん。売り物は、さくらさんのロードバイクと土地です。

① 冗談で「1円で売る」と言った(心裡留保)

さくらさんは、本当は売る気がないのに、冗談で「このロードバイク、1円で売るよ」と言いました。ゆうとさんは「買う」と答えました。本心でないことを、言った本人が分かっている。これが心裡留保です。

この場合、約束は原則として有効です。冗談を言った本人より、信じた相手を守るためです。ただし、ゆうとさんが「冗談だ」と知っていたか、ふつうに注意すれば分かったときは、無効になります。

② 二人で示し合わせてうその売買をした(虚偽表示)

さくらさんは借金があり、土地を差し押さえられたくありません。そこでゆうとさんと相談し、売るつもりがないのに「土地を売った」ことにして、名義をゆうとさんに移しました。二人で示し合わせたうその約束、これが虚偽表示(通謀虚偽表示)です。

二人の間では、この売買は無効です。ところが、ゆうとさんがこの土地を、事情を知らないけんたさんに売ってしまいました。このとき、さくらさんはけんたさんに「あれはうその売買だから無効だ」と言えません。うそを作った人より、知らずに信じた人を守るのが条文のルールです。

③ 勘ちがいで売った(錯誤)

さくらさんは、ロードバイクを10万円で売るつもりが、メッセージに「1万円」と打ちまちがえました。言ったことと本心がずれていて、本人はそれに気づいていません。これが錯誤です。

この場合、さくらさんは取り消すことができます。ただし、まちがいが大事な点についてのものであることが必要です。また、さくらさんに大きな不注意(重大な過失)があると、原則として取り消せません。

④ だまされた・おどされた(詐欺・強迫)

ゆうとさんが「この土地の近くにごみ処理場ができるから、今のうちに安く売ったほうがいい」とうそをつき、さくらさんは安く売りました。これが詐欺です。ゆうとさんが「売らないとただではすまないぞ」とおどして売らせたなら、強迫です。どちらも、さくらさんは取り消すことができます。

ちがいが出るのは、けんたさんのような第三者がいるときです。詐欺なら、事情を知らず落ち度もないけんたさんには取消しを主張できません。強迫なら、けんたさんが何も知らなくても主張できます。おどされた人は、だまされた人より責めにくいからです。

ここでいう第三者は、さくらさんが取り消す前に土地を買ったけんたさんです。取り消した後に買った人との関係は、登記(177条)の問題として別に考えます。

条文ではどう決まっているか

先に、よく出る言葉を置きかえておきます。善意(ぜんい)=その事情を知らないこと。悪意(あくい)=知っていること。どちらも「いい人・悪い人」という意味ではありません。無過失=知らなかったことに落ち度がないこと。対抗(たいこう)できない=その人に向かって言い張れない、という意味です。

93条:心裡留保

  • 本心でないと分かっていて言っても、その意思表示は有効(1項本文)。
  • 相手が本心でないと「知り、又は知ることができたとき」は無効(1項ただし書)。
  • その無効は、善意の第三者に対抗できない(2項)。

94条:虚偽表示

  • 「相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。」(1項)
  • その無効は、善意の第三者に対抗できない(2項)。条文は「善意」だけで、「過失がない」までは求めていません。

95条:錯誤

  • 取り消せる錯誤は2種類(1項)。1号は、言ったことに見合う本心がない錯誤(言いまちがい・書きまちがいなど)。2号は、約束の前提にした事情についての思いちがい(動機の錯誤)。
  • どちらも、約束の目的や世の中の常識から見て「重要なもの」であることが必要(1項)。
  • 2号の錯誤は、その事情が約束の前提だと相手に「表示されていたとき」に限って取り消せる(2項)。
  • 本人に重大な過失があると取り消せない。ただし、相手が錯誤を知っていたか重大な過失で知らなかったとき、相手も同じ錯誤におちいっていたときは、取り消せる(3項)。
  • 取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗できない(4項)。

96条:詐欺・強迫

  • 「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」(1項)
  • 相手以外の人(第三者)がだました場合は、相手がその事実を知っていたか、知ることができたときに限って取り消せる(2項)。
  • 詐欺による取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗できない(3項)。強迫には、このような第三者を守る規定がありません。

取り消すときの共通ルール

  • 錯誤・詐欺・強迫で取り消せるのは、その意思表示をした本人、その代理人、承継人(あとを継いだ人)だけ(120条2項)。
  • 取り消すと、はじめから無効だったものとみなされる(121条)。受け取った物やお金は、元の状態に戻す(121条の2第1項)。
  • 取消権は、追認(ついにん=取り消さないと決めること)ができる時から5年、または行為の時から20年で消える(126条)。

期間のほかの数字とまとめて覚えたい人は、行政書士試験で覚える期間・数字の一覧も使えます。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(錯誤・1号):さくらさんが、売り物の欄で別のロードバイクを選んだまま「売ります」と送った。売る物そのものをまちがえているので、重要な錯誤として取り消せる余地があります。
  2. 当てはまらない(錯誤・2号):ゆうとさんは「近くに新しい駅ができる」と思いこんで土地を買った。でも、その理由をさくらさんに一言も伝えていなかった。前提にした事情が「表示されていた」とはいえないので、2項により取り消せません。
  3. 当てはまらない(心裡留保の無効):さくらさんの「1円で売る」が冗談だと、ゆうとさんがまったく気づけない言い方だった。相手が知らず、知ることもできなかったので、売買は有効のままです。
  4. ひっかけやすい(第三者の詐欺):さくらさんをだましたのは、ゆうとさんではなく、友人のみおさんだった。ゆうとさんがそのうそを知らず、知ることもできなかったなら、さくらさんは取り消せません(96条2項)。
  5. ひっかけやすい(第三者の強迫):おどしたのが、みおさんだった場合。強迫には96条2項のような限定がないので、ゆうとさんが何も知らなくても、さくらさんは取り消せます。
  6. ひっかけやすい(虚偽表示の第三者):けんたさんは、少し調べればうその売買だと分かったのに、調べなかった(善意だが過失あり)。94条2項は「善意」しか求めていないので、さくらさんはけんたさんに無効を主張できません。

似ているルールとどう違うか

5つを横に並べると、ちがいは「効果」と「守られる第三者の条件」に集まります。

種類効果守られる第三者
心裡留保(93条)原則有効。相手が知っていた・知ることができたなら無効善意
虚偽表示(94条)無効善意
錯誤(95条)取消し善意・無過失
詐欺(96条)取消し善意・無過失
強迫(96条)取消し守る規定なし

覚え方は、条文の理由に結びつけます。心裡留保と虚偽表示は、本人がわざとずれたことを言っています。だから本人の落ち度が大きく、第三者は「知らない」だけで守られます。錯誤と詐欺は、本人が知らずにずれています。本人にも同情の余地があるので、第三者には「落ち度もない」ことまで求めます。強迫は本人の自由そのものが奪われているので、第三者より本人を守ります。

もう一つまぎらわしいのが、意思能力がない場合(3条の2)と制限行為能力(5条・9条など)です。意思能力がない人の約束は「無効」、未成年者などの約束は「取り消せる」です。後者は制限行為能力者をわかりやすくで扱っています。また、代理人がだまされた場合などの代理の仕組みは代理をわかりやすくにまとめています。

試験ではどこをまちがえやすいか

  • 「錯誤は無効」と書かせる型:2020年4月1日施行の改正前、錯誤は「無効」でした。今は「取り消すことができる」です。古い教材の知識のまま選ぶと落とします。
  • 第三者の条件を入れかえる型:虚偽表示に「善意無過失」、詐欺に「善意」と書いてある選択肢。93条・94条は善意、95条・96条は善意無過失です。
  • 第三者の詐欺と強迫を入れかえる型:「第三者が強迫した場合、相手方が知っていたときに限り取り消せる」は誤り。この限定は詐欺だけです。
  • 動機の錯誤の「表示」を落とす型:「動機に勘ちがいがあれば、重要なら取り消せる」は足りません。前提の事情が表示されていたことが必要です。
  • 重大な過失の例外を落とす型:本人に重大な過失があっても、相手が悪意・重過失のときや、相手も同じ錯誤のときは取り消せます。
  • 心裡留保の「知ることができた」を落とす型:相手が知らなくても、知ることができた(過失がある)なら無効です。

行政書士試験では、5肢択一式で5つの効果と第三者の条件を細かく入れかえる形が考えられます。記述式(40字程度)では、「誰に対して、どんな条件で取消しを主張できないか」を条文の言葉で書けるかが問われやすい形です。たとえば「善意でかつ過失がない第三者」と正確に書けるかどうかです。書き方は記述式の書き方を参考にしてください。

宅建試験では、土地や建物の売買の場面で、「売主は第三者に取消しを主張できるか」を4肢択一で問う形が考えられます。不動産の転売が出てくると、登記(177条)の話と混ざりやすいので、不動産の二重譲渡と登記もあわせて読むと整理しやすくなります。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
りくさんは、友人と示し合わせて、売るつもりのないマンションの一室を友人に売ったことにした。友人はこの部屋を、うその売買だと知らないゆいさんに売った。ゆいさんが少し注意すれば事情に気づけた場合、りくさんはゆいさんに売買の無効を主張できる。

答え:✕ 虚偽表示の無効は「善意の第三者」に対抗できません(94条2項)。条文は過失がないことまで求めていないので、ゆいさんに過失があっても、知らなかった以上は守られます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
りくさんは、ゆいさんの知り合いにおどされて、自分のスマホをゆいさんに売った。ゆいさんは、おどしがあったことを知らず、知ることもできなかった。この場合、りくさんは売買を取り消すことができない。

答え:✕ 相手が知っていたときに限って取り消せる、という限定(96条2項)は、第三者が詐欺をした場合だけです。強迫なら、相手が知らなくても取り消せます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
りくさんは、売る気がないのに、冗談で「この土地を100万円で売る」とゆいさんに言った。ゆいさんは冗談だと知っていたのに「買う」と答えた。そのあと、ゆいさんはこの土地を、事情を知らないそうまさんに売った。この場合、りくさんはそうまさんに対して、売買の無効を主張できない。

答え:○ 相手のゆいさんが冗談だと知っていたので、りくさんとゆいさんの売買は無効です(93条1項ただし書)。でも、その無効は善意の第三者に対抗できません(93条2項)。事情を知らないそうまさんには、無効を言い張れません。

まとめ

  • 心裡留保・虚偽表示は「無効」、錯誤・詐欺・強迫は「取消し」。
  • 守られる第三者は、93条・94条が「善意」、95条・96条(詐欺)が「善意無過失」、強迫は規定なし。
  • 第三者がだましたときは、相手が知っていたか知ることができたときだけ取り消せる。強迫にはこの限定がない。
  • 動機の錯誤は「表示」が必要。本人に重大な過失があると原則として取り消せない。
  • 取消権は追認できる時から5年、行為の時から20年で消える。

次に読むなら、代理をわかりやすくがおすすめです。代理人がした意思表示がどこまで本人に効くかは、この記事の知識の上に組み立てられています。民法全体の中で意思表示をどの順番で固めるかは、民法の勉強法で確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています(2020年4月1日施行の債権法改正後の条文です)。