遺言をわかりやすく:3つの方式・撤回・遺贈のルールを家族の例で

遺言(いごん)とは、自分が亡くなったあとに財産をだれにどう渡すかなどを、生きているうちに決めておくことです。ひとことで言うと、民法の決めた方式どおりに作らないと効力がなく(960条)、15歳からでき(961条)、いつでも撤回できます(1022条)。

遺言で財産をあげることを遺贈(いぞう)といいます。遺言は、遺言した人が亡くなった時に効力が生じます(985条1項)。

この記事では、遺言の方式、効力と遺贈、撤回、検認と遺言執行者を扱います。だれが相続人になるか、遺言でも奪えない取り分(遺留分)は相続をわかりやすくで説明しています。

身近な例で考えるとどうなるか

登場人物は4人です。遺言する人=しげるさん(70代。マンションと預金を持っている)、長女=まゆみさん、長男=たかしさん、しげるさんの友人=のぶおさんです。時間の流れで見ます。

  1. 1回目:しげるさんが手書きで遺言を書く。「マンションはまゆみに相続させる。預金のうち200万円は、のぶおに遺贈する」。全文・日付・氏名を自分で書き、印を押した。
  2. 2回目:数年後、公証役場で公正証書の遺言を作る。「預金はすべて、たかしに相続させる」。
  3. その後:しげるさんが、生きているうちにマンションを売る。
  4. 最後:しげるさんが亡くなる。手書きの遺言書を預かっていたまゆみさんが、家庭裁判所に検認(けんにん)を請求する。

結果はこうなります。のぶおさんへの200万円は、後の遺言の「預金はすべて、たかしに」とぶつかります。ぶつかる部分は、後の遺言で撤回したものとみなされます(1023条1項)。マンションの部分は、生前に売ったことでぶつかるので、これも撤回とみなされます(1023条2項)。預金はたかしさんが受け取り、のぶおさんへの遺贈はなくなります。

遺言は「ファイルの上書き保存」に似ています。後から書いたものが優先します。ただし本物のルールでは、上書きされるのはぶつかる部分だけで、ぶつからない部分は前の遺言が生きています。

条文ではどう決まっているか

遺言できる人(961条〜963条・973条)

  • 15歳になった人は遺言できる(961条)。
  • 未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の取消しや同意のルール(5条・9条・13条・17条)は、遺言には使わない(962条)。15歳以上の未成年者は、親の同意なしに遺言できる。
  • 遺言する能力は、遺言する時にあればよい(963条)。
  • 成年被後見人は、判断する力を一時回復した時に、医師2人以上の立会いがあれば遺言できる(973条1項)。

制限行為能力者のふつうのルールは、制限行為能力者をわかりやすくで確かめられます。遺言はその例外です。

ふだん使う3つの方式(967条〜971条)

方式作り方証人検認
自筆証書(968条)全文・日付・氏名を自分で書き、印を押すいらないいる(法務局保管なら不要)
公正証書(969条)遺言の内容を公証人に口で伝え、公証人が作る2人以上いらない
秘密証書(970条)署名・押印して封をし、公証人と証人の前に出す2人以上いる
  • 自筆証書に付ける財産目録(ざいさんもくろく=財産の一覧)は、手書きでなくてよい。ただし、目録の各ページに署名し、印を押す(968条2項)。
  • 自筆証書を書き直すときは、場所を示し、変えたことを書き添えて署名し、その場所に印を押す。でないと効力がない(968条3項)。
  • 秘密証書は、本文を手書きしなくてよい。方式に欠けても、自筆証書の方式を満たしていれば、自筆証書遺言として有効(971条)。
  • 死が迫った人は、証人3人以上の立会いで、その一人に口で伝えて遺言できる。遺言の日から20日以内に家庭裁判所の確認を得ないと効力がない(976条1項・4項)。

なお、令和8年6月24日公布の改正法(令和8年法律第45号)で、自筆証書遺言の押印をいらなくすることや、法務局の遺言書保管官のもとで作って保管する新しい方式(保管証書遺言)を設けることが決まりました。ただし、これらはまだ施行されていません(施行は公布から最長3年以内の政令で定める日)。令和8年4月1日より後の施行なので、令和8年度試験の範囲外です。この記事は令和8年4月1日時点の条文で説明しています。

証人になれない人・共同遺言の禁止(974条・975条)

  • 証人になれない人:①未成年者、②推定相続人(相続人になるはずの人)・受遺者(じゅいしゃ=遺贈を受ける人)と、その配偶者・直系血族、③公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人(974条)。
  • 2人以上の人が、同じ一枚の証書で遺言することはできない(975条)。

効力と遺贈(964条・985条・986条・990条・994条)

  • 遺言は、遺言者の死亡の時から効力が生じる(985条1項)。条件付きなら、死亡後に条件がかなった時から(同条2項)。
  • 遺贈には、「財産の3分の1を」のような包括遺贈と、「この土地を」のような特定遺贈がある(964条)。
  • 包括受遺者は、相続人と同じ権利義務を持つ(990条)。借金も割合に応じて引き継ぐ。
  • 受遺者は、遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄できる。放棄は死亡の時にさかのぼる(986条)。
  • 遺言者より先に受遺者が亡くなると、遺贈は効力を生じない(994条1項)。
  • 財産のことだけでなく、子の認知も遺言でできる(781条2項。くわしくは親子をわかりやすく)。

撤回(1022条〜1026条)

  • 遺言者は、いつでも、遺言の方式で、全部または一部を撤回できる(1022条)。前と同じ方式でなくてよい。
  • 前の遺言と後の遺言がぶつかる部分は、撤回とみなす(1023条1項)。遺言の後の生前の売却などとぶつかるときも同じ(同条2項)。
  • 遺言者がわざと遺言書を破ったときは、その部分を撤回とみなす。遺贈する物をわざと壊したときも同じ(1024条)。
  • 撤回した遺言は、その撤回をさらに撤回しても、元に戻らない。ただし、撤回が錯誤・詐欺・強迫によるときは別(1025条)。
  • 「撤回しません」と約束しても無効。撤回する権利は放棄できない(1026条)。

検認と遺言執行者(1004条〜1006条・1009条)

  • 遺言書を預かっている人は、相続の開始を知ったら、遅れずに家庭裁判所に出して検認を請求する(1004条1項)。
  • 公正証書遺言は検認がいらない(1004条2項)。法務局に保管された自筆証書遺言もいらない(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。
  • 封印のある遺言書は、家庭裁判所で、相続人などの立会いがなければ開けられない(1004条3項)。
  • 遺言書を出さない、検認なしに遺言を執行する、家庭裁判所の外で開封する。こうした人は5万円以下の過料(1005条)。
  • 遺言で、遺言執行者(遺言の中身を実現する人)を指定できる(1006条1項)。未成年者と破産者はなれない(1009条)。

裁判所の案内では、検認は遺言書の形や日付・署名などを確かめて、偽造や変造を防ぐ手続です。遺言が有効か無効かを決める手続ではありません。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:はんこの代わりに指で押した

しげるさんが、手書きの遺言に印鑑ではなく指に朱肉をつけて押したとします。最高裁判所第一小法廷の平成元年2月16日判決は、自筆証書遺言の押印は指印(しいん)で足りるとしました。968条1項の「印を押す」に当たります。

当てはまらない例:夫婦で一枚に書いた

しげるさん夫婦が、一枚の紙に2人の遺言を並べて書いたとします。これは共同遺言で、禁止されています(975条)。最高裁判所第二小法廷の昭和56年9月11日判決は、一方が氏名を自書していないという方式の違反があっても、禁止された共同遺言に当たるとしました。遺言は一人一枚が基本です。

ひっかけやすい例:撤回の撤回

1025条では、撤回の撤回で元の遺言は戻らないのが原則です。ただし、最高裁判所第一小法廷の平成9年11月13日判決は、遺言書の記載から、遺言者が最初の遺言の復活を望んでいることが明らかなときは、最初の遺言の効力が復活するとしました。乙の遺言で甲を撤回し、さらに丙の遺言で「乙は無効、甲を有効とする」とした事案です。

ひっかけやすい例:「相続させる」と書いた遺言

しげるさんの「マンションはまゆみに相続させる」は、遺贈でしょうか。最高裁判所第二小法廷の平成3年4月19日判決は、遺贈であることが明らかなどの事情がなければ、遺産分割の方法の指定と考えるとしました。そして特段の事情がなければ、亡くなった時にすぐ、その相続人に引き継がれるとしています。今の民法は、これを「特定財産承継遺言」と呼んでいます(1014条2項)。

ただし、法定相続分を超える部分は、登記などがなければ第三者に主張できません(899条の2第1項)。登記と第三者の関係は、不動産の二重譲渡と登記で整理しています。

似ているルールとどう違うか

しくみ何で決まるかポイント
遺贈遺言(一人で決める)相手はだれでもよい。死亡後いつでも放棄できる(986条)
死因贈与生きているうちの契約死亡で効力。性質に反しない限り遺贈の規定を準用(554条)
特定財産承継遺言遺言(相続人に「相続させる」)遺産分割の方法の指定と考える(平成3年4月19日判決)

遺贈は、遺言する人が一人で決めます。死因贈与(しいんぞうよ)は、「私が死んだらこの車をあげる」「もらいます」という2人の約束です。死亡で効力が生じる点が似ているので、遺贈の規定を借りて使います(554条)。

もう一つまぎらわしいのが、遺贈の失効と代襲相続(だいしゅうそうぞく)です。相続人の子が先に亡くなっていれば、孫が代わりに相続します。しかし受遺者が先に亡くなると、遺贈そのものが効力を失います(994条1項)。受遺者の子が代わりに受け取るわけではありません。

試験ではここをまちがえやすい

  • 年齢の入れかえ:遺言は15歳から(961条)。成年年齢や20歳と入れかえてきます。
  • 「未成年者の遺言は親の同意がいる」とする型:遺言には5条などを使いません(962条)。
  • 財産目録の型:目録は手書きでなくてよいが、各ページの署名・押印はいる(968条2項)。
  • 検認の型:公正証書遺言は検認不要。検認を受けても、それで有効になるわけではない。
  • 数字の入れかえ:公正証書・秘密証書の証人は2人以上、死が迫った人の遺言は3人以上と20日(969条・970条・976条)。
  • 撤回の型:同じ方式でなくてもよい。撤回の撤回は原則として戻らない(1022条・1025条)。

行政書士試験では、5肢択一式で方式や撤回の条文の数字・言葉を入れかえる形が考えられます。記述式(40字程度)なら、撤回とみなされる場面を書かせる形もありえます。宅建試験の権利関係では、相続の問題と組み合わせて、遺言の方式や遺留分を問う形が考えられます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
16歳のりくさんは、親権者である母の同意を得ずに、自筆証書遺言をした。この遺言は、母が取り消すことができる。

答え:✕ 15歳になれば遺言できます(961条)。未成年者の取消しのルール(5条)は遺言には使いません(962条)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
えみこさんは「自宅の土地を姪に遺贈する」と遺言した。その後、えみこさんは生きているうちにその土地を売った。この場合、遺言のその部分は撤回したものとみなされる。

答え:○ 遺言が、遺言後の生前の処分とぶつかるときは、ぶつかる部分を撤回したものとみなします(1023条2項・1項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
ひでおさんは公正証書で遺言をした。立ち会った証人は2人で、そのうち1人は、遺言で預金を受け取ることになっている友人だった。証人が2人立ち会っているので、方式に問題はない。

答え:✕ 受遺者は証人になれません(974条2号)。証人になれる人は1人しか立ち会っていないので、公正証書遺言に必要な「証人2人以上の立会い」(969条1項1号)を満たしません。

まとめ

  • 遺言は方式どおりでないと効力なし。15歳から。制限行為能力の取消しのルールは使わない。
  • 自筆証書は全文・日付・氏名を自書して押印(目録は自書不要・各ページ署名押印)。公正証書と秘密証書は証人2人以上。
  • 撤回はいつでも、遺言の方式で。ぶつかる後の遺言・生前処分・わざとの破棄は撤回とみなす。撤回の撤回は原則戻らない。
  • 受遺者が先に亡くなれば遺贈は失効。包括受遺者は相続人と同じ権利義務。
  • 検認は公正証書と法務局保管の自筆証書では不要。有効・無効を決める手続ではない。

次に読むなら、相続をわかりやすくがおすすめです。遺言があっても配偶者や子に残る遺留分の計算は、遺言の問題とセットで問われやすいところです。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、行政書士試験・宅建試験の基準日である令和8年4月1日時点の内容を、e-Gov法令検索で確かめています。