宅建試験で「相続」が出てくるのは、民法の相続分や遺産分割の問だけではありません。農地法・国土利用計画法・都市計画法・不動産登記法・税・宅建業法・借地借家法の問でも、肢の1つとして「相続のときはどうなるか」が問われます。答えは分野ごとに違います。
ひとことで言うと、相続は「契約ではない」「財産が形の上で移るだけ」と扱われることが多く、許可や届出や税がいらない側に入りやすい分野です。ただし、例外が3つあります。農地法は許可はいらないが農業委員会への届出がいる。相続登記は3年以内に申請する義務がある。宅建業の免許と宅建士の登録は相続されず、相続人に届出の義務がある。
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、民法の相続が主な論点の問題は27問で、26回に出ていました。直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月と12月の2回ずつ)では主な論点で8問、ほかの論点の問の中に副の論点として2問です。農地法・国土利用計画法・不動産登記法は、直近10回で毎回1問ずつ出ています(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。これらの法律の問で「相続」が肢に出た数は数えていません)。
民法の相続のしくみ(相続人・相続分・遺産分割・遺言)は相続をわかりやすくで扱っています。この記事は、ほかの分野の中での相続の扱いを並べる地図です。
身近な例で考えると
個人で宅建業を営んでいたこうぞうさんが亡くなりました。相続人は、長男のたくみさんと長女のみなみさんの2人です。
| こうぞうさんが持っていたもの | 相続のときに起きること | 根拠 |
|---|---|---|
| 宅建業の免許 | 引き継がれない。相続人が死亡を知った日から30日以内に届出 | 宅建業法11条1項1号 |
| 売買契約の途中の取引 | 相続人が、取引を結了する範囲で業者とみなされる | 宅建業法76条 |
| 市街化区域の畑 | 3条の許可はいらない。遅滞なく農業委員会に届出 | 農地法3条の3 |
| 都市計画区域外の山林20,000㎡ | 国土法の事後届出はいらない | 国土法14条1項・23条 |
| 開発許可を受けた造成中の土地 | 開発許可にもとづく地位を承継する | 都市計画法44条 |
- たくみさんは、父の死亡を知った日から30日以内に、免許をくれた知事に死亡を届け出た。たくみさん自身が宅建業を続けるなら、自分で免許を受ける必要がある。
- 父が売主として結んでいた土地の売買は、引渡しが残っていた。たくみさんは、その取引を終わらせる目的の範囲で宅建業者とみなされ、引渡しを済ませた。
- 遺産分割で、畑はみなみさん、山林と造成中の土地はたくみさんが取得した。みなみさんは、農地法3条の許可はいらないが、農業委員会に届け出た。
- 2人は、相続で取得した不動産の所有権の移転の登記を、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に申請した。相続による移転の登記は、相続人が1人で申請できる。
- 不動産取得税はかからず、登録免許税は相続の税率(1,000分の4)で納めた。
たとえるなら、相続は「名札の付け替え」です。持ち主の名札は替わりますが、新しく買ったわけではないので、取引の届出や不動産取得税はかからない、という扱いが多くなります。ただし本物のルールでは、名札の付け替えを国や役所に知らせる手続(農地の届出、相続登記、宅建業の届出)は、むしろ義務として求められます。
分野ごとの1行の表
| 分野 | 相続のときの扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 農地法 | 3条の許可はいらない。遅滞なく農業委員会に届出 | 3条1項・3条の3 |
| 国土法 | 契約ではないので事後届出はいらない | 14条1項・23条1項 |
| 都市計画法 | 開発許可にもとづく地位を相続人が承継する | 44条 |
| 不動産登記法 | 知った日から3年以内に相続登記を申請。単独で申請できる | 76条の2・63条2項 |
| 不動産取得税 | 課税されない | 地方税法73条の7第1号 |
| 登録免許税 | 所有権の移転の本則は1,000分の4(売買・贈与などは1,000分の20) | 登録免許税法別表第一 |
| 固定資産税 | 1月1日前に登記名義人が死亡していたら、1月1日に現に所有している人に課す | 地方税法343条2項 |
| 譲渡所得 | 亡くなった人の所有期間を引き継ぐ | 所得税法60条1項 |
| 宅建業法(免許) | 免許は引き継がれない。相続人が知った日から30日以内に届出 | 11条1項1号・76条 |
| 宅建業法(宅建士) | 登録は引き継がれない。相続人が知った日から30日以内に届出 | 21条 |
| 借地借家法 | 相続人がいないときは、同居の事実上の夫婦・養親子が借家を承継 | 36条 |
条文ではこう決まっている
農地法(3条・3条の3)
- 相続は、当事者が権利を設定・移転する行為ではないので、3条1項の許可の対象になりません。遺産分割による取得は3条1項12号、包括遺贈と相続人に対する特定遺贈は3条1項16号と施行規則15条5号で、許可がいらない場合に挙がっています。
- 届出(3条の3):3条1項本文の権利を取得した人は、3条の許可を受けて取得した場合と、3条1項の各号(12号と16号を除く)にあたる場合などを除き、遅滞なく、農業委員会に届け出る。12号(遺産分割など)と16号(省令で定める場合)は除外から外されているので、遺産分割や相続人への特定遺贈で取得した人も届出がいります。
- 相続人でない人への特定遺贈は、許可がいらない場合に挙がっていないので、3条の許可がいります。
- 3条・4条・5条の許可の全体は農地法をわかりやすくへ。
国土法(14条1項・23条1項)
- 事後届出の対象は「土地売買等の契約」で、対価を得て行う権利の移転・設定の契約(予約を含む)です。相続は契約ではないので、どれだけ広い土地でも届出はいりません。
都市計画法(44条・45条)
- 44条:「開発許可又は前条第一項の許可を受けた者の相続人その他の一般承継人は、被承継人が有していた当該許可に基づく地位を承継する。」知事の承認はいらない。
- 45条:開発許可を受けた人から、開発区域内の土地の所有権など工事をする権原を取得した人(特定承継人)は、知事の承認を受けて、地位を承継できる。
不動産登記法(63条・76条の2・76条の3・164条)
- 単独申請(63条2項・3項):相続や法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請できる。相続人に対する遺贈による所有権の移転の登記も、受遺者が単独で申請できる。
- 申請の義務(76条の2第1項):相続で所有権を取得した人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請する。相続人に対する遺贈で取得した人も同じ。
- 遺産分割の後(76条の2第2項):法定相続分での登記の後に遺産分割があり、相続分を超えて取得した人は、分割の日から3年以内に登記を申請する。
- 相続人申告登記(76条の3):期間内に、相続が開始したことと自分が相続人であることを登記官に申し出れば、申請の義務を果たしたものとみなされる。
- 過料(164条1項):正当な理由がないのに申請を怠ったときは、10万円以下の過料。
- 単独で申請できる登記の一覧は登記の申請をわかりやすくへ。
税(地方税法73条の7・343条、登録免許税法、所得税法60条)
- 不動産取得税:相続(包括遺贈と相続人に対する遺贈を含む)による取得は課税されない(地方税法73条の7第1号)。相続人でない人への特定遺贈や、贈与は課税される。
- 登録免許税:所有権の移転の登記の本則の税率は、相続・法人の合併が1,000分の4、売買・贈与などが1,000分の20。
- 固定資産税:1月1日の所有者(登記簿に所有者として登記されている人)に課す。登記されている個人が1月1日より前に死亡しているときは、1月1日に現に所有している人を所有者とする(地方税法343条2項後段)。
- 譲渡所得:相続(限定承認を除く)・遺贈・贈与で取得した資産は、取得した人が「引き続きこれを所有していたものとみなす」(所得税法60条1項1号)。長期・短期の判定や取得費は、亡くなった人のものを引き継ぐ。相続した空き家を売ったときの特例は不動産を売ったときの特例の一覧へ。
宅建業法(11条・21条・76条)
- 業者の死亡(11条1項1号):個人の宅建業者が死亡したときは、相続人が、死亡の事実を知った日から30日以内に、免許権者に届け出る。免許は相続人に引き継がれない。
- みなし業者(76条):業者が死亡したときなど、その一般承継人(相続人など)は、業者が結んだ契約にもとづく取引を結了する目的の範囲内で、宅建業者とみなされる。
- 宅建士の死亡(21条):宅建士の登録を受けている人が死亡したときは、相続人が、死亡の事実を知った日から30日以内に、登録をしている知事に届け出る。
- 5つの場面ごとの届出の義務者は廃業等の届出の記事で表にしています。
借地借家法(36条)
- 居住用の建物の借主が相続人なしに死亡したとき、婚姻や縁組の届出をしていないが、借主と事実上夫婦や養親子と同じ関係にあった同居者がいれば、その同居者が借主の権利義務を承継する。
- ただし、相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内に、貸主に反対の意思を表示したときは承継しない。
- 承継した人は、賃貸借から生じた債権・債務も引き継ぐ(36条2項)。相続人がいるときは、借家権は相続人が相続します。
相続・相続人への遺贈・贈与で扱いが分かれる所
| 法律 | 相続 | 相続人への特定遺贈 | 贈与 |
|---|---|---|---|
| 農地法3条の許可 | いらない(届出) | いらない(届出) | いる |
| 国土法の事後届出 | いらない | いらない(契約でない) | いらない(対価なし) |
| 不動産取得税 | 非課税 | 非課税 | 課税 |
| 所有権の移転の登記 | 単独で申請 | 単独で申請 | 共同で申請 |
国土法の届出がいらない理由は、相続と遺贈が「契約でない」、贈与が「対価がない」と違います。農地法では、贈与だけが許可のいる側に入ります。
試験ではここをまちがえやすい
- 農地法の届出を落とす型:相続・遺産分割・相続人への特定遺贈は、3条の許可はいらないが、農業委員会への届出がいります。「許可も届出もいらない」とする形に注意します。
- 農地の特定遺贈の相手:相続人への特定遺贈は許可不要、相続人でない人への特定遺贈は許可が必要。
- 開発許可の承継の入れ替え:相続などの一般承継人は当然に承継(44条)。土地を買った人は知事の承認で承継(45条)。
- 相続登記の期限:知った日から3年以内。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料。
- 起算点:宅建業者・宅建士の死亡の届出は、相続人が「死亡を知った日」から30日以内。「死亡の日から」とする形に注意します。
- 免許・登録の相続:どちらも相続されません。相続人が業を続けるなら、自分の免許がいります。
- 借家の承継:内縁の配偶者などが承継するのは、相続人がいないときだけ。貸主の承諾はいりません。
宅建試験では、民法の相続が主な論点の問は直近10回で8問でした。この記事の各分野の「相続」は、それぞれの法律の問の中の1つの肢として出てくることがあるので、分野をまたいで同じ「相続」という言葉が出たら、この表のどの行かを思い出すと、答えの向きを取り違えにくくなります。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
農地を遺産分割によって取得した相続人は、農地法3条1項の許可を受ける必要がないので、農業委員会への届出もする必要がない。
答え:✕ 分かれ目は、許可がいらない場合でも届出がいるかどうかです。遺産分割による取得は農地法3条1項12号で許可がいらない場合にあたりますが、3条の3は、届出がいらない場合から12号を除いています。正しくは、遺産分割で農地を取得した人は、遅滞なく農業委員会に届け出なければなりません。届出がいらないのは、3条の許可を受けて取得した場合などで、その場合と取り違えた文です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
開発許可を受けたAが、開発行為に関する工事の途中で死亡し、Bが相続した。この場合、Bは、都道府県知事の承認を受けなくても、Aが有していた開発許可にもとづく地位を承継する。
答え:○ 分かれ目は、相続人と、土地を買った人とで、承継の手続が違う点です。都市計画法44条は、開発許可を受けた者の相続人その他の一般承継人は、被承継人が有していた許可にもとづく地位を承継するとしていて、知事の承認を求めていません。許可を引き継ぐには役所の承認がいる、と考えると✕にしてしまいます。知事の承認がいるのは、開発区域内の土地の所有権などを買い受けた特定承継人の場合(45条)です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
居住用の建物の借主Aが相続人なしに死亡した。Aと婚姻の届出をしていないが事実上夫婦と同様の関係にあった同居者Bは、建物の貸主の承諾を得た場合に限り、Aの借主としての権利義務を承継する。
答え:✕ 分かれ目は、承継に貸主の承諾がいるかどうかです。借地借家法36条1項は、このような同居者は、借主の権利義務を承継するとしていて、貸主の承諾を条件にしていません。正しくは、Bは当然に承継し、承継したくなければ、Aが相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内に、貸主に反対の意思を表示します。借家権を第三者に譲るときに貸主の承諾がいる民法612条の場面と取り違えた文です。
この記事に出てきた分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルで分野を選んで続けて解けます。
まとめ
- 農地法:相続・遺産分割・相続人への特定遺贈は3条の許可不要。ただし遅滞なく農業委員会に届出。相続人でない人への特定遺贈は許可が必要。
- 国土法:相続は契約ではないので、事後届出はいらない。
- 都市計画法:開発許可の地位は、相続人などの一般承継人が当然に承継。土地を買った人は知事の承認。
- 登記:相続登記は知った日から3年以内、相続人が単独で申請。怠ると10万円以下の過料。
- 税:不動産取得税は非課税、登録免許税は1,000分の4、譲渡所得は所有期間を引き継ぐ。宅建業の免許と宅建士の登録は相続されず、相続人が知った日から30日以内に届け出る。
次に読むなら、相続をわかりやすくがおすすめです。この表の前提になる「だれが相続人になるか」「遺産分割はいつまでにするか」を確かめると、各分野の肢の事例が読みやすくなります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(API。基準日2026-04-01)で確かめています。
- e-Gov法令検索「農地法」(3条、3条の3)、「農地法施行規則」(15条)
- e-Gov法令検索「国土利用計画法」(14条、23条)
- e-Gov法令検索「都市計画法」(44条、45条)
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(63条、76条の2、76条の3、164条)
- e-Gov法令検索「地方税法」(73条の7、343条)
- e-Gov法令検索「登録免許税法」(別表第一)
- e-Gov法令検索「所得税法」(60条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(11条、21条、76条)
- e-Gov法令検索「借地借家法」(36条)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えるのに使った過去の試験問題)
働く人の法律試験ノート