代理をわかりやすく:無権代理と表見代理はどう違うか

代理(だいり)とは、本人のかわりに別の人が契約をして、その結果を本人に直接届ける仕組みです。代理人が「本人のためです」と示して、任された範囲で契約すれば、契約は本人と相手の間で成り立ちます(民法99条)。

ひとことで言うと、無権代理(むけんだいり)は「任されていない人が勝手に代理した」場合です。本人が追認(ついにん=あとから認めること)しなければ、本人に効きません。表見代理(ひょうけんだいり)は無権代理の一種です。本人にも原因があり、相手が信じたのも無理がないとき、本人が責任を負います。

この記事では、代理の基本、無権代理、表見代理を扱います。復代理(代理人がさらに代理人を選ぶこと)や、法人の代表は扱いません。

身近な例で考えるとどうなるか

登場人物は3人です。本人=はるかさん(中古車と土地の持ち主)、代理人=はるかさんの弟のそうたさん、相手=買いたい人のたくみさんです。

① ふつうの代理

はるかさんは転勤で忙しく、そうたさんに「私の中古車を50万円以上で売ってきて」と頼みました。そうたさんは、たくみさんに「姉のはるかの代理で来ました」と伝え、60万円で売る契約をしました。この契約は、はるかさんとたくみさんの間で成り立ちます。代金を受け取る権利も、車を渡す義務も、はるかさんのものです。

② 頼まれていないのに売った(無権代理)

そうたさんは、頼まれてもいないのに、はるかさんの土地も「代理です」と言ってたくみさんに売ってしまいました。代理権(だいりけん=本人のかわりに契約してよいという資格)がないので、これは無権代理です。

はるかさんは、この契約を追認して自分の契約にすることも、拒絶することもできます。たくみさんは、はるかさんに「追認するかどうか答えて」と催告(さいこく=返事を求めること)できます。事情を知らなかったなら、契約を取り消すこともできます。はるかさんが拒絶したら、たくみさんは、勝手に契約したそうたさんに責任を問える場合があります。

③ 本人にも原因がある(表見代理)

はるかさんは、そうたさんに中古車を売る代理権だけを与えていました。ところが、自分の実印と土地の権利証(けんりしょう=土地の持ち主であることを示す書類)まで預けていました。そうたさんはそれを見せて、土地もたくみさんに売りました。たくみさんが「土地を売る代理権もある」と信じたことに正当な理由があれば、はるかさんは土地の売買の責任を負います(110条)。まぎらわしい外見を作った本人より、信じた相手を守るためです。

条文ではどう決まっているか

代理が成り立つ要件(99条・100条)

  1. 代理権があること(任された範囲内であること)。
  2. 「本人のためにすることを示して」契約すること。これを顕名(けんめい)といいます。
  3. 代理人が意思表示(「売ります」「買います」と相手に伝えること)をすること。
  • そろえば、契約は本人に対して直接に効力を生じる(99条1項)。
  • 顕名がないと、代理人が自分のためにした契約とみなされる。ただし、相手が「本人のため」と知っていたか、知ることができたときは、本人に効く(100条)。
  • 制限行為能力者(未成年者など)が代理人としてした行為は、行為能力の制限を理由に取り消せない(102条本文)。結果を受けるのは本人で、代理人は損をしないからです。ただし、制限行為能力者が、別の制限行為能力者の法定代理人(親など)としてした行為は取り消せる(102条ただし書)。
  • 代理人が自分自身を契約の相手にする(自己契約)。同じ契約で、売る側と買う側の両方の代理人になる(双方代理)。この2つは、代理権がない人の行為とみなされる。ただし、債務の履行(決まったことを実行するだけの行為)と、本人があらかじめ許した行為は別(108条1項)。

無権代理(113条〜117条)

  • 本人:追認しなければ、本人に効力を生じない(113条1項)。追認すると、別の意思表示がない限り、契約の時にさかのぼって効く。ただし第三者の権利は害せない(116条)。
  • 相手の催告:相当の期間を定めて、追認するか答えるよう本人に催告できる。期間内に答えがなければ、追認を拒絶したものとみなす(114条)。相手が事情を知っていても催告できます。
  • 相手の取消し:本人が追認しない間は、相手は契約を取り消せる。ただし、契約の時に代理権がないと知っていたときは取り消せない(115条)。
  • 無権代理人の責任:代理権を証明できず、本人の追認も得られないとき、相手の選択で「履行又は損害賠償の責任を負う」(117条1項)。履行は、契約どおりのことを無権代理人が自分で行うことです。
  • 117条の責任がない場合(117条2項):①相手が代理権がないと知っていた。②相手が過失で知らなかった。ただし、無権代理人が自分で代理権がないと知っていたときは責任あり。③無権代理人が制限行為能力者だった。

表見代理(109条・110条・112条)

  • 109条(代理権を与えたと表示した):本人が「この人に代理権を与えた」と相手に示したら、示した範囲で責任を負う。ただし、相手が代理権がないと知っていたか、過失で知らなかったときは責任なし。
  • 110条(任された範囲をこえた):代理人が権限外の行為をした場合、相手に「権限があると信ずべき正当な理由」があれば本人が責任を負う。
  • 112条(代理権がなくなった後):代理権が消えたことを知らなかった相手には、本人が責任を負う。ただし、知らなかったことに過失があれば責任なし。
  • 組み合わせもある。示された範囲をこえた(109条2項)、代理権が消えた後に元の範囲をこえた(112条2項)場合も、相手に正当な理由があれば本人が責任を負う。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(112条):はるかさんは、そうたさんへの代理の依頼を取りやめた。それを知らないたくみさんに、そうたさんが元の約束どおり中古車を売った。たくみさんが知らなかったことに過失がなければ、はるかさんが責任を負います。
  2. 当てはまらない(110条):そうたさんは中古車の代理権しかなく、実印も権利証も持っていない。口で「土地も任されている」と言っただけで、たくみさんは何も確かめなかった。信じたことに正当な理由がないので、表見代理は成り立ちません。
  3. 当てはまらない(115条の取消し):たくみさんは、そうたさんに土地の代理権がないと知りながら契約した。この場合、たくみさんは115条の取消しはできません。ただし、114条の催告はできます。
  4. ひっかけやすい(催告に答えない):たくみさんが催告したのに、はるかさんが期間内に返事をしなかった。結果は「追認した」ではなく、「追認を拒絶した」とみなされます。
  5. ひっかけやすい(未成年の代理人):はるかさんが、17歳のめいに中古車の売却を任せた。めいが売った契約を、はるかさんは「代理人が未成年だった」ことを理由に取り消せません(102条)。

似ているルールとどう違うか

無権代理で相手がとれる手段は4つあります。それぞれ、相手に求められる条件がちがいます。

相手の手段条文相手の条件
本人への催告114条知っていてもできる
契約の取消し115条知らなかったこと(過失があってもよい)
無権代理人の責任追及117条知らず、過失もないこと(例外あり)
表見代理の主張109条・110条・112条知らず過失がない/正当な理由

覚え方は、「相手が本人や代理人に求めることが大きいほど、相手の条件もきびしい」です。返事を求めるだけの催告は誰でもでき、契約から抜けるだけの取消しは「知らなかった」でよい。一方、無権代理人に履行や損害賠償をさせる117条や、本人に責任を負わせる表見代理は、相手に落ち度がないことまで求めます。117条には、無権代理人が自分で代理権がないと知っていたら、相手に過失があっても責任を負うという例外がある点に注意します。

もう一つ、代理人がだまされた・勘ちがいした場合は、意思表示のルール(93条〜96条)の問題になります。5つの意思表示のちがいは意思表示をわかりやすくで整理しています。

試験ではどこをまちがえやすいか

  • 催告の結果を逆にする型:無権代理の催告に答えがなければ「拒絶」。制限行為能力者の相手方の催告(20条)では、相手が誰かによって「追認」とみなす場合があり、混ざりやすいところです。くわしくは制限行為能力者をわかりやすくで比べています。
  • 取消しと催告の条件を入れかえる型:「悪意の相手方は催告もできない」は誤り。できないのは115条の取消しです。
  • 117条の責任の中身をずらす型:責任は「履行又は損害賠償」で、選ぶのは相手です。無権代理人が選ぶのではありません。
  • 117条2項2号のただし書を落とす型:相手に過失があっても、無権代理人が代理権がないと知っていたなら責任を負います。
  • 追認の効果の時期をずらす型:追認は「追認の時から」ではなく、原則として「契約の時にさかのぼって」効きます(116条)。
  • 自己契約・双方代理の効果を「無効」とする型:条文は「代理権を有しない者がした行為とみなす」です。つまり無権代理として扱われ、本人が追認する余地があります。

無権代理人が亡くなり本人が相続した場面も、よく話題になります。この場面について、最高裁判所第三小法廷の昭和48年7月3日判決があります。無権代理人が117条の債務を負っていたときは、相続した本人はその債務を免れられない、とした判決です。本人が「自分は追認を拒絶できる立場だった」と言っても、それを理由に免れることはできません。相続との組み合わせは相続をわかりやすくの知識もあわせて整理すると混乱しにくくなります。

行政書士試験では、5肢択一式で114条・115条・117条の条件を入れかえる形が考えられます。記述式(40字程度)では、「相手は無権代理人に何を請求できるか」に対して「履行又は損害賠償」と条文の言葉で書けるかが問われやすい形です。書き方は記述式の書き方にまとめています。

宅建試験では、土地や建物の売買を代理人に任せた場面で、「本人は売買の責任を負うか」「買主は契約を取り消せるか」を4肢択一で問う形が考えられます。実印や登記の書類を預けた、という事情は110条の「正当な理由」を考えるときの手がかりになります。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
こうじさんの友人は、代理権がないのに、こうじさんの代理人だと言ってこうじさんのマンションの一室をまいさんに売った。まいさんが、相当の期間を定めて追認するかどうかをこうじさんに催告したところ、こうじさんは期間内に返事をしなかった。この場合、こうじさんは追認したものとみなされる。

答え:✕ 無権代理の相手方の催告に、本人が期間内に確答しないときは、追認を拒絶したものとみなされます(114条)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
問1の場面で、まいさんは契約の時に、友人に代理権がないことを知っていた。こうじさんがまだ追認していない場合でも、まいさんは契約を取り消すことができる。

答え:✕ 相手方が取り消せるのは本人が追認しない間ですが、契約の時に代理権がないと知っていたときは取り消せません(115条ただし書)。なお、催告(114条)は知っていてもできます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
問1の場面で、まいさんは代理権がないことを知らなかったが、知らなかったことに過失があった。友人は自分に代理権がないことを知っていた。この場合、まいさんは友人に対して、履行または損害賠償を請求できる。

答え:○ 相手方に過失があると、原則として無権代理人は責任を負いません。ただし、無権代理人が自分に代理権がないことを知っていたときは、この限りではありません(117条2項2号ただし書)。なお、友人が制限行為能力者だった場合は、責任を負いません(同項3号)。

まとめ

  • 代理は「代理権」「顕名」「代理人の意思表示」で、本人に直接効く。
  • 無権代理は、本人が追認しなければ本人に効かない。追認は契約の時にさかのぼる。
  • 相手方の催告は悪意でもできる。返事がなければ「拒絶」。取消しは善意の相手方だけ。
  • 無権代理人の責任は、相手の選択で「履行又は損害賠償」。相手の悪意・過失、制限行為能力なら責任なし(過失は例外あり)。
  • 表見代理は109条(表示)・110条(権限外)・112条(消滅後)の3つと、その組み合わせ。

次に読むなら、制限行為能力者をわかりやすくがおすすめです。催告の結果や取消しのルールが代理とよく似ていて、並べて覚えると両方の取りこぼしが減ります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。