無効(むこう)は「はじめから効力がない」こと、取消し(とりけし)は「取り消すまでは有効で、取り消すと、はじめにさかのぼって無効だったことになる」ことです(民法121条)。民法では、意思能力がないとき・公序良俗に反するとき・心裡留保(相手方が真意でないと知っていたとき)・虚偽表示が無効、制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫が取消しです。
違いがはっきり出るのは3つです。取消しは、①取り消せる人が条文で決まっていて(120条)、②追認(ついにん=「このままでよい」と認めること)すると以後取り消せなくなり(122条)、③追認できる時から5年、行為の時から20年で取り消せなくなります(126条)。無効は、追認しても有効にはならず(119条)、主張できる期間の定めもありません。
この記事では、無効と取消しの「効果」を比べます。5つの意思表示(心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫)の要件は意思表示の記事、未成年者や成年被後見人の範囲は制限行為能力者の記事、取り消した後に現れた人との関係は宅建の「第三者」の記事で扱います。行政書士試験の民法でも同じ条文です。条文は令和8年4月1日時点のものです。
身近な例で考えると:土地の売買が3つの形で崩れる
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| じゅんさん | 土地の持ち主(売主) | ななさんに土地を売った |
| ななさん | 買主 | じゅんさんから土地を買った |
| そらさん | 17歳の売主 | 相続した土地を、親の同意なしにななさんに売った |
- 無効の場面:じゅんさんは、重い病気で、自分のしていることの意味が分からない状態(意思能力がない状態)で、土地を売る契約書にサインしました。この売買は、はじめから効力がありません(3条の2)。だれかが「取り消す」と言う必要はありません。
- 取消しの場面(詐欺):じゅんさんは、ななさんから「近くにごみ処理場ができる」とうそを言われ、安く土地を売りました。この売買は、取り消すまでは有効です。じゅんさんが「取り消す」とななさんに伝えると、はじめから無効だったことになります(96条1項・121条)。
- 取消しの場面(未成年者):17歳のそらさんが、親の同意なしに土地を売りました。そらさん本人か親が取り消せます(5条2項・120条1項)。成年になって、取り消せると知った後に「このままでよい」と追認すれば、もう取り消せません。
たとえるなら、無効は「最初から試合が成立していない」状態、取消しは「試合は成立したが、抗議があれば結果を白紙に戻せる」状態です。ただし本物のルールでは、抗議(取消し)ができる人と期間が条文で限られ、白紙に戻すと試合の最初にさかのぼります。
条文ではこう決まっている
どれが無効で、どれが取消しか
- 無効:意思能力がない人の法律行為(3条の2)、公序良俗に反する法律行為(90条)、心裡留保で相手方が真意でないことを知り、または知ることができたとき(93条1項ただし書)、相手方と通じてした虚偽の意思表示(94条1項)。
- 取消し:未成年者が法定代理人の同意なしにした行為(5条2項)、成年被後見人の行為(日用品の購入など日常生活に関する行為を除く。9条)、被保佐人・被補助人が必要な同意なしにした行為(13条4項・17条4項)、錯誤(95条1項)、詐欺・強迫(96条1項)。
錯誤は、令和2年4月1日施行の民法改正で、「無効」から「取り消すことができる」に変わりました。古い問題集で「錯誤は無効」と覚えたままだと、取消しの期間(126条)や取り消せる人(120条)の問題で取り違えます。
取消しのルール
- 取り消せる人(120条):制限行為能力による取消しは、本人、その代理人、承継人(相続人など)、同意をすることができる人(保佐人など)。錯誤・詐欺・強迫による取消しは、意思表示をした本人、その代理人、承継人。
- 取消しの効果(121条):取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。
- 追認(122条〜124条):取り消せる人が追認すると、以後取り消せない。追認は、取消しの原因となっていた状況がなくなり(成年になった、だまされたと気づいた等)、かつ、取消権があると知った後でなければ効力を生じない。ただし、法定代理人・保佐人・補助人が追認するときなどは、状況がなくなる前でもよい。
- 法定追認(125条):追認できる時以後に、取り消せる人が、履行をする、履行を請求する、担保を出す、得た権利を人に譲るなどしたときは、追認したものとみなす。異議をとどめたときは別。
- 期間(126条):取消権は、追認をすることができる時から5年行使しないと時効で消える。行為の時から20年たったときも同じ。
無効のルール
- 無効な行為の追認(119条):無効な行為は、追認しても効力を生じない。ただし、無効と知って追認したときは、新たな行為をしたものとみなす。
- 期間:無効の主張には、126条のような期間の定めはありません。
返すもの(121条の2)
- 無効な行為(取り消して無効になったものを含む)で物やお金を受け取った人は、相手方を元の状態に戻す義務を負う(1項)。
- 行為の時に意思能力がなかった人、制限行為能力者だった人は、「現に利益を受けている限度」で返せばよい(3項)。
- タダでもらった(無償の行為)人で、受け取った時に無効や取り消せることを知らなかった人も、現に利益を受けている限度で返す(2項)。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- そらさんの親が、そらさんが17歳のうちに、売買を追認した。→ 法定代理人の追認なので、状況(未成年)がなくなる前でも効力があり(124条2項1号)、以後取り消せません(122条)。
- ななさんにだまされたと気づき、取り消せることも知ったじゅんさんが、異議をとどめずに、ななさんに残りの代金を請求した。→ 履行の請求で、法定追認になります(125条2号)。もう取り消せません。
当てはまらない例
- 意思能力がない状態でした売買を、回復したじゅんさんが「これでよい」と追認した。→ 無効な行為は追認しても有効になりません。無効と知って追認したなら、追認の時に新たに売買をしたものとみなされます(119条)。
- じゅんさんとななさんが示し合わせてした、うその売買。→ 虚偽表示で無効です(94条1項)。取消しではないので、126条の5年・20年の期間はかかりません。
ひっかけやすい例
- そらさんが取り消したとき、ななさんから受け取った代金の一部をすでに使っていた。→ 制限行為能力者だったそらさんが返すのは「現に利益を受けている限度」です(121条の2第3項)。ななさんの側は、受け取った土地を全部返すのが原則です(1項)。返す範囲は左右で違います。
- 詐欺をしたななさんが「やっぱり売買をなかったことにしたい」と、詐欺を理由に取り消そうとした。→ 詐欺による取消しができるのは、だまされて意思表示をした人の側です(120条2項)。
似ているルールとの違い
まず、無効と取消しの効果を並べます。
| 比べる点 | 無効 | 取消し |
|---|---|---|
| はじめの効力 | はじめからない | 取り消すまで有効(121条) |
| 主張できる人 | 条文の限定なし | 120条の人だけ |
| 追認 | しても有効にならない(119条) | 以後取り消せない(122条) |
| 期間 | 条文に定めなし | 5年・20年(126条) |
| 返すもの | 原状回復(121条の2) | 同じ(取り消すと無効になるため) |
次に、原因ごとの効果と、第三者を守る条文を並べます。
| 原因 | 効果 | 第三者を守る条文 |
|---|---|---|
| 意思能力がない(3条の2) | 無効 | なし |
| 公序良俗違反(90条) | 無効 | なし |
| 心裡留保(93条) | 相手方が知り・知り得たとき無効 | 善意の第三者(2項) |
| 虚偽表示(94条) | 無効 | 善意の第三者(2項) |
| 錯誤(95条) | 取消し | 善意でかつ過失がない第三者(4項) |
| 詐欺(96条) | 取消し | 善意でかつ過失がない第三者(3項) |
| 強迫(96条) | 取消し | なし |
| 制限行為能力(5条ほか) | 取消し | なし |
「第三者を守る条文」がない原因では、無効や取消しを、事情を知らない第三者にも主張できます。また、錯誤と詐欺の「第三者を守る条文」は、取り消す前に現れた第三者についての定めです。取り消した後に土地を買った人は、これらの条文の「第三者」として扱うのではなく、登記(177条)の問題として別に考えます。この区別は宅建の「第三者」の記事で確かめてください。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、意思表示が主な論点の問題は20問(20回)、制限行為能力者は14問(14回)でした。直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では、それぞれ4問です。無効と取消しそのものを主な論点にした問題は1問(令和6年度)でした(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 錯誤の効果:今は取消し(95条1項)。「錯誤は無効」は改正前の形です。
- 5年の起算点:「行為の時から5年」ではなく、「追認をすることができる時から5年」。追認できるのは、取消しの原因の状況がなくなり、取消権を知った後です(124条1項)。行為の時から数えるのは20年のほうです。
- 無効の追認:無効な行為は追認しても有効にならず、無効と知って追認すると「新たな行為」になります(119条)。取り消せる行為の追認(122条)と効果が違います。
- 法定追認:追認できる時以後に履行の請求などをすると、追認したものとみなされます(125条)。異議をとどめれば別です。
- 返す範囲:意思能力がなかった人・制限行為能力者は「現に利益を受けている限度」。相手方は原状回復です(121条の2)。
- 第三者:強迫と制限行為能力には第三者を守る条文がありません。詐欺と錯誤は「善意でかつ過失がない」、心裡留保と虚偽表示は「善意」です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
17歳のそらさんは、親の同意を得ずに土地をななさんに売り、親が売買を知らないまま18歳になり、その1年後に取り消せることを初めて知った(追認にあたる行為はない)。売買から6年たっていても、取り消せると知った時から5年たっていなければ、そらさんは売買を取り消すことができる。
答え:○ 分かれ目は、5年の起算点です。取消権は「追認をすることができる時から5年」で消えます(民法126条)。追認は、取消しの原因となっていた状況がなくなり(成年になり)、かつ、取消権があると知った後でなければできません(124条1項)。そらさんが追認できるようになったのは19歳の時なので、売買から6年でもまだ5年はたっていません。「契約から5年」と数えると✕にしやすい肢で、行為の時から数えるのは20年の期間のほうです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
じゅんさんは、意思能力がない状態で土地をななさんに売った。その後に回復したじゅんさんが、売買が無効であることを知りながら追認した場合、この売買は、売った時にさかのぼって有効になる。
答え:✕ 分かれ目は、無効な行為の追認の効果です。無効な行為は追認によっても効力を生じず、無効と知って追認したときは「新たな行為をしたものとみなす」とされます(民法119条)。正しくは、さかのぼって有効になるのではなく、追認の時に新しく売買をしたものと扱われます。取り消すことができる行為の追認(122条)は、最初からの行為を確定させるもので、これと取り違えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
じゅんさんは、ななさんと示し合わせて、売るつもりのない土地をななさんに売ったことにした。この売買が無効であることは、契約の時から5年たつと主張できなくなる。
答え:✕ 分かれ目は、無効に期間の制限があるかです。相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効で(民法94条1項)、無効の主張には期間を区切る条文がありません。正しくは、5年たっても無効であることに変わりはありません。5年と20年で消えるのは取消権(126条)で、虚偽表示の無効を取消しと取り違えた形です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 無効は、はじめから効力がない。取消しは、取り消すまで有効で、取り消すとはじめから無効になる(121条)。
- 無効:意思能力がない・公序良俗・心裡留保(相手方が知り得たとき)・虚偽表示。取消し:制限行為能力・錯誤・詐欺・強迫。
- 取り消せる人は120条で決まっている。追認すると以後取り消せない。無効は追認しても有効にならない。
- 取消権は追認できる時から5年、行為の時から20年で消える。無効には期間の定めがない。
- 意思能力がなかった人・制限行為能力者が返すのは、現に利益を受けている限度。
次に読むなら、宅建の「第三者」の記事がおすすめです。無効や取消しを、事情を知らない第三者に主張できるかを、原因ごとに見分けられるようになります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
宅建試験の出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです(不動産適正取引推進機構)。条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を e-Gov 法令検索(法令API)で確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(3条の2、5条、9条、13条、17条、90条、93条〜96条、119条〜126条、121条の2)
- e-Gov法令API「民法」の改正履歴(平成29年法律第44号の施行日)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の概要」(法令の基準日)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えた元の問題)
働く人の法律試験ノート