不動産の二重譲渡と登記:177条の「対抗できる」をわかりやすく

民法177条は、土地や建物の権利について決めた条文です。権利を手に入れても、登記をしなければ「第三者に対抗することができない」としています。登記(とうき)とは、法務局の記録に権利を書いてもらうことです。対抗(たいこう)できる=ほかの人に「これは自分のものだ」と言い張れる、という意味です。

ひとことで言うと、同じ土地が二人に売られたら、先に登記をした人が勝つというルールです。どちらが先に契約したか、先にお金を払ったかでは決まりません。ただし、相手が「第三者」に当たらない人なら、登記がなくても言い張れます。

この記事では、二重譲渡(にじゅうじょうと=同じ物を二人に売ること)と177条の第三者、相続・取得時効と登記、動産のルールを扱います。契約を取り消した後や解除した後の第三者との関係は扱いません。

身近な例で考えるとどうなるか

登場人物は3人です。土地を売る人=としおさん、先に買った人=みゆきさん、後から買った人=だいきさんです。

時間の流れは次のとおりです。

  1. 4月1日:としおさんが、自分の土地をみゆきさんに1,000万円で売る契約をした。みゆきさんは代金を払ったが、登記はまだ。
  2. 4月10日:としおさんが、同じ土地をだいきさんにも1,100万円で売る契約をした。
  3. 4月15日:だいきさんが先に、所有権が自分に移った登記をした。

この場合、土地の持ち主として認められるのはだいきさんです。みゆきさんは先に契約して代金も払っていますが、登記をしていないので、だいきさんに「私の土地だ」と言い張れません。

なぜこんなルールなのでしょうか。土地を買う人は、法務局の登記を見て「この土地は誰のものか」を確かめます。登記を見ても分からない約束で負けるとしたら、安心して土地を買えません。だから「登記をした人を勝たせる」と決めておき、権利を手に入れた人に早く登記をさせるのです。

なお、みゆきさんは何も言えないわけではありません。土地を渡せなくなったとしおさんに対しては、契約違反(債務不履行)として損害賠償などを求められます。約束が守られないときの手段は債務不履行と解除をわかりやすくで扱っています。

条文ではどう決まっているか

  • 176条:「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」物権(ぶっけん)とは、所有権のように、物を直接支配する権利です。つまり所有権は、契約だけで買った人に移ります。登記は、移ったことを第三者に言い張るための条件です。
  • 177条:不動産に関する物権の得喪(とくそう=手に入れることと失うこと)と変更は、登記をしなければ第三者に対抗できない。
  • 178条:動産(土地・建物以外の物。自転車やスマホなど)の物権の譲渡は、引渡しがなければ第三者に対抗できない。
  • 899条の2第1項:相続で権利を受け継いだときも、法定相続分などをこえる部分は、登記などをしなければ第三者に対抗できない。遺産分割によるかどうかは関係ない。

「第三者」とはだれか

177条の文には「善意の」という限定がありません。そのため、二重に売られたことを知っていただけの人(単なる悪意者)も、第三者に入ると考えられています。だいきさんが、みゆきさんへの売買を知っていたとしても、先に登記をすれば勝てるということです。自由な競争の範囲内と見るわけです。

ただし、例外があります。事情を知っているだけでなく、登記がないことを持ち出すのが著しく信義(しんぎ=人としての誠実さ)に反するような人です。これを背信的悪意者(はいしんてきあくいしゃ)といいます。こういう人には、登記がなくても言い張れます。

裁判所の例として、最高裁判所第三小法廷の昭和45年2月24日判決があります。登記がないことを持ち出すのが著しく信義に反する事情があった事件です。判決は、その人は「登記の欠缺(けんけつ=欠けていること)を主張するについて正当の利益を有する第三者」に当たらない、としました。裁判所の判示事項では「いわゆる背信的悪意者にあたるとされた事例」と書かれています。

身近な例でいえば、みゆきさんを困らせて高く買い取らせる目的で、わざと割りこんだような人です(判決の事件とは別の、説明のための例です)。

取得時効と登記

取得時効(長く使い続けて土地を手に入れること)と登記について、最高裁判所第一小法廷 昭和36年7月20日判決は、次の2点を示しています。

  • 取得時効が完成しても、登記がなければ、その後に所有権の登記をした第三者には、時効による権利の取得を対抗できない。
  • ただし、その第三者が登記した後も、時効に必要な期間さらに占有を続けたときは、その第三者に登記なしで対抗できる。

取得時効の年数(20年・10年)は時効をわかりやすくで説明しています。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(相続):としおさんが亡くなり、子の2人が相続した。遺産分割で兄が土地を全部もらったが、登記をしないうちに、弟が自分の法定相続分を他人に売って登記した。兄は、自分の法定相続分をこえる部分については、登記がないとその他人に対抗できません(899条の2第1項)。
  2. 当てはまらない(売主本人):みゆきさんが登記をしていなくても、売ったとしおさん本人に対しては「私の土地だ」と言えます。としおさんは契約の当事者で、177条の「第三者」ではないからです。
  3. 当てはまらない(背信的悪意者):だいきさんが、みゆきさんに高く売りつける目的で、事情を知りながらとしおさんから安く買い、先に登記した。背信的悪意者に当たれば、みゆきさんは登記がなくても所有権を主張できます。
  4. ひっかけやすい(知っていただけ):だいきさんは、みゆきさんへの売買を知っていたが、ふつうに買って先に登記した。知っていただけなら第三者に入るので、だいきさんが勝ちます。「悪意なら負ける」と覚えていると落とします。
  5. ひっかけやすい(時効完成後の第三者):みゆきさんが、としおさんの別の土地(となりの空き地)を自分の物として使い続け、取得時効を完成させた。その後、としおさんがその空き地をだいきさんに売り、だいきさんが登記した。みゆきさんは、登記がなければだいきさんに対抗できません。時効で手に入れたのだから登記はいらない、とはならない点に注意します。

似ているルールとどう違うか

「対抗するための条件」は、物の種類で変わります。

物対抗するための条件条文
土地・建物(不動産)登記177条
自転車・スマホなど(動産)引渡し178条
相続で受け継いだ権利法定相続分などをこえる部分は登記など899条の2

もう一つまぎらわしいのが、94条2項の「善意の第三者」です。うその売買(虚偽表示)の場面では、事情を知らない第三者だけが守られます。177条の第三者は、事情を知っていても(背信的悪意者でない限り)入ります。94条2項は「うそを作った人より、信じた人を守る」ルール、177条は「登記で早い者勝ちを決める」ルールなので、求めるものがちがうのです。94条のくわしい中身は意思表示をわかりやすくで扱っています。

試験ではどこをまちがえやすいか

  • 契約の順番で決める型:「先に契約した買主が所有権を取得する」は誤り。二重譲渡は登記の先後で決まります。
  • 悪意の第三者を外す型:知っていただけの人は177条の第三者に入ります。外れるのは背信的悪意者です。
  • 当事者にも登記がいるとする型:売主本人に対しては、登記がなくても所有権を主張できます。
  • 相続なら登記はいらないとする型:今の899条の2では、法定相続分などをこえる部分は登記がないと第三者に対抗できません。
  • 時効の前後を入れかえる型:昭和36年の判決は、時効が完成した後に登記をした第三者についての判断です。場面の時期をずらした選択肢に注意します。
  • 動産にも登記を求める型:動産は引渡しです。

行政書士試験では、5肢択一式で、二重譲渡・相続・取得時効を組み合わせ、「登記がなくても対抗できるか」を一つずつ判断させる形が考えられます。記述式(40字程度)では、「誰に対して、なぜ所有権を主張できないか」を、登記と第三者の言葉で書けるかが問われやすい形です。書き方は記述式の書き方を参考にしてください。

宅建試験では、土地・建物の売買を舞台に、二重譲渡、相続、取得時効と登記の関係を4肢択一で問う形が考えられます。宅建試験は不動産の取引を扱う試験なので、177条の考え方は民法以外の分野を読むときの土台にもなります。科目全体の中での位置は宅建試験の科目と出題範囲で確かめられます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
はやとさんは、自分の家をのぞみさんに売ったが、のぞみさんは登記をしていなかった。その後、はやとさんは同じ家をかおるさんにも売り、かおるさんが先に登記をした。かおるさんは、のぞみさんへの売買を知っていたが、のぞみさんを困らせる目的などはなかった。この場合、のぞみさんは、かおるさんに家の所有権を主張できる。

答え:✕ 177条には「善意の」という限定がなく、知っていただけの人も第三者に入ります。背信的悪意者に当たる事情もないので、先に登記をしたかおるさんが優先し、のぞみさんは所有権を主張できません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
問1の場面で、のぞみさんは、売主のはやとさんに対しても、登記がなければ家の所有権を主張できない。

答え:✕ 登記がないと対抗できないのは「第三者」です(177条)。売主のはやとさんは契約の当事者なので、のぞみさんは登記がなくても所有権を主張できます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
はやとさんは、自分のロードバイクをのぞみさんに売る契約をしたが、まだ渡していなかった。その後、同じロードバイクをかおるさんにも売り、かおるさんに渡した。この場合、のぞみさんは、先に契約したことを理由に、かおるさんに所有権を主張できる。

答え:✕ 動産の譲渡は、引渡しがなければ第三者に対抗できません(178条)。先に引渡しを受けたのはかおるさんなので、のぞみさんは契約が先でも所有権を主張できません。

まとめ

  • 所有権は契約だけで移る(176条)。でも第三者に言い張るには、不動産は登記、動産は引渡しが必要(177条・178条)。
  • 二重譲渡は、契約の順番ではなく登記の先後で決まる。
  • 知っていただけの人は第三者に入る。背信的悪意者と、売主などの当事者は第三者ではない。
  • 相続で法定相続分などをこえる部分も、登記がないと第三者に対抗できない(899条の2)。
  • 取得時効が完成した後に登記をした第三者には、登記がないと対抗できない(昭和36年7月20日判決)。

次に読むなら、抵当権をわかりやすくがおすすめです。抵当権も登記で順番が決まる権利で、177条の考え方がそのまま土台になります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。判例は、裁判所ウェブサイトの判示事項・裁判要旨で確かめたものだけを書いています。