民法でいう第三者(だいさんしゃ)とは、契約の当事者(売った人・買った人)ではない人のことです。宅建の権利関係で第三者が問題になるのは、次の場面です。土地が転売されたあとで、最初の売買が無効になったり、取り消されたり、解除されたりしたとき、転売で買った人(第三者)は土地を守れるか、という問題です。
守られる条件は、条文ごとに違います。心裡留保と虚偽表示の無効は「善意」の第三者に、錯誤と詐欺の取消しは「善意でかつ過失がない」第三者に対抗できません。強迫には第三者を守る規定がありません。解除は「第三者の権利を害することはできない」(545条1項ただし書)、二重に売られた場面は登記(177条)で決めます。この記事は、この違いを1枚の表にし、事例で当てはめる「地図」です。一つずつの中身は、各論点の記事へつないでいます。
身近な例で考えると:転売された土地をめぐる3人
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| ななみさん | 最初の売主 | 自分の土地をこうじさんに売った |
| こうじさん | 最初の買主 | 買った土地を、ひろとさんに転売した |
| ひろとさん | 第三者(転売先) | こうじさんから土地を買った |
ななみさんは、こうじさんに土地を売りました。こうじさんは、すぐにその土地をひろとさんに転売しました。その後、ななみさんが「こうじさんとの売買はなかったことにしたい」と言い出します。理由によって、ひろとさんが土地を守れるかが変わります。
- ななみさんとこうじさんが、相談してうその売買をしていた(虚偽表示)。→ ひろとさんがうそだと知らなかった(善意)なら、ななみさんは無効をひろとさんに主張できません。知らないことに過失があっても同じです。
- ななみさんが、こうじさんにだまされて売っていた(詐欺)。→ ひろとさんが、だまされたことを知らず、知らないことに過失もないなら、ななみさんは取消しをひろとさんに主張できません。
- ななみさんが、こうじさんにおどされて売っていた(強迫)。→ ひろとさんが何も知らず落ち度もなくても、ななみさんは取消しをひろとさんに主張できます。
- こうじさんが代金を払わないので、ななみさんが契約を解除した。→ 解除しても「第三者の権利を害することはできない」とされています(545条1項ただし書)。
この記事でいう「守られる第三者」は、ななみさんが取り消す前・解除する前に買ったひろとさんです。取り消した後・解除した後に買った人との関係は、登記(177条)の問題として別に考えます。解除の後については、最高裁判所第三小法廷の昭和35年11月29日判決が、解除で所有権が戻った売主は、その登記をしなければ、解除の後に買主から不動産を取得した第三者に対抗できないとしています。
条文ではこう決まっている
第三者を守る規定は、次のとおりです。どれも「〜に対抗することができない」という言い方をします。対抗(たいこう)できない=その人に向かって「無効だ」「取り消した」と言い張れない、という意味です。
- 93条2項(心裡留保):「前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」
- 94条2項(虚偽表示):「前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。」
- 95条4項(錯誤):「第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」
- 96条3項(詐欺):「前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」強迫は書かれていません。
- 545条1項ただし書(解除):「ただし、第三者の権利を害することはできない。」善意・悪意の条件は書かれていません。
- 177条(不動産の物権変動):「…その登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」善意・悪意の条件は書かれていません。
見分けの表:守られる第三者の条件
| 場面 | 条文 | 守られる第三者 | ひっかけの目印 |
|---|---|---|---|
| 心裡留保の無効 | 93条2項 | 善意 | 無過失までは求めない |
| 虚偽表示の無効 | 94条2項 | 善意 | 無過失までは求めない |
| 錯誤の取消し | 95条4項 | 善意かつ無過失 | 「善意なら守られる」は誤り |
| 詐欺の取消し | 96条3項 | 善意かつ無過失 | 強迫と入れ替えない |
| 強迫の取消し | 規定なし | 守る規定がない | 善意無過失でも守られない |
| 契約の解除 | 545条1項ただし書 | 権利を害せない | 善意・悪意の条件がない |
| 二重譲渡 | 177条 | 先に登記した人 | 知っていただけなら第三者に入る |
| 解除の後に買った人 | 177条(最判昭和35年11月29日) | 先に登記した人 | 545条1項ただし書の場面ではない |
覚え方は、本人の落ち度の大きさと結びつけます。心裡留保と虚偽表示は、本人がわざと本心と違うことを言っているので、第三者は「知らない」だけで守られます。錯誤と詐欺は、本人も知らずにずれているので、第三者には「落ち度もない」ことまで求めます。強迫は本人の自由が奪われているので、第三者より本人を守ります。それぞれの要件(取り消せる条件)は意思表示の記事にまとめています。
177条の第三者には、善意という限定がありません。知っていただけの人も、先に登記をすれば勝ちます。ただし、最高裁判所第二小法廷の昭和43年8月2日判決は、相手が山林を買って長く占有していると知りながら、登記がないのに乗じて高値で売りつける目的で買い、先に登記をした人について、「いわゆる背信的悪意者として」、登記の欠缺(登記がないこと)を主張する正当な利益を有する第三者にあたらない、としました。くわしくは不動産の二重譲渡と登記の記事で扱っています。
「第三者にあたらない人」と、別の意味の「第三者」
「第三者」という言葉は、場面によって指す人が違います。まちがえやすいものを並べます。
| 言葉 | だれのことか | この記事の第三者か |
|---|---|---|
| 契約の当事者(ななみさん・こうじさん) | 売った人・買った人 | あたらない |
| 背信的悪意者 | 登記がないことを持ち出すのが信義に反する人 | 177条の第三者として扱われない |
| 第三者の詐欺(96条2項) | 相手方以外の人がだました場面のだました人 | 別の話(取り消せる条件の話) |
| 第三者弁済 | 借金などを、債務者以外の人が返すこと | 別の話(弁済の話) |
96条2項は、こうじさんではない別の人がななみさんをだました場面です。このとき、ななみさんが取り消せるのは、こうじさんがその事実を知っていたか、知ることができたときに限られます。ここでの「第三者」はだました人のことで、転売先を守る話ではありません。第三者弁済は弁済と相殺の記事の論点です。
当てはまる例・当てはまらない例
ななみさん→こうじさん→ひろとさんの転売で、ひろとさんは、ななみさんが取り消す前・解除する前に買ったものとします。
当てはまる例(ひろとさんが守られる)
- 虚偽表示で、ひろとさんは知らなかったが、少し調べれば分かった。→ 94条2項は善意だけを求めるので、ひろとさんは守られます。
- 詐欺で、ひろとさんは知らず、落ち度もなかった。→ 96条3項で守られます。
当てはまらない例(ひろとさんが守られない)
- 錯誤で、ひろとさんは知らなかったが、知らないことに過失があった。→ 95条4項は善意かつ無過失を求めるので、守られません。
- 強迫で、ひろとさんは何も知らず落ち度もなかった。→ 強迫には第三者を守る規定がないので、ななみさんは取消しをひろとさんに主張できます。
- 虚偽表示で、ひろとさんはうその売買だと知って買った。→ 善意ではないので守られません。
ひっかけやすい例
- 解除の場面で、ひろとさんがこうじさんの代金不払いを知っていた。→ 545条1項ただし書には善意の条件がないので、知っていたことだけでは守られなくなりません。ただし、登記を備えているかどうかは結論を分けます。最高裁判所第一小法廷の昭和33年6月14日判決は、売買が合意解除された事案で、解除の前に買主から買っていても、まだ登記を得ていなかった人は、特段の事情がない限り、売主に登記を求めることはできないとしました。
- 取り消した後に、こうじさんがひろとさんに売った。→ この記事の表の場面(取消し前の第三者)ではありません。登記(177条)の問題として、上で紹介した二重譲渡と登記の記事の考え方につなげます。
- 解除した後に、こうじさんがひろとさんに売った。→ 545条1項ただし書の場面ではありません。ななみさんとひろとさんのうち、先に登記をしたほうが優先します(最高裁判所第三小法廷昭和35年11月29日判決)。
- 二重譲渡で、ひろとさんが先の売買を知りながら先に登記した。→ 知っていただけなら177条の第三者に入るので、ひろとさんが優先します。背信的悪意者にあたる事情があれば話が変わります。
似ているルールとの違い:無効・取消し・解除の効き方
第三者の条件が違うのは、もとの契約に起きたことが違うからです。
| もとの契約に起きたこと | いつから効き目がないか | 第三者を守る規定 |
|---|---|---|
| 無効(心裡留保・虚偽表示) | はじめから | 93条2項・94条2項 |
| 取消し(錯誤・詐欺・強迫) | 取り消すと、初めから無効だったとみなされる(121条) | 95条4項・96条3項(強迫はなし) |
| 解除(代金不払いなど) | 解除で元に戻す義務が生まれる | 545条1項ただし書 |
解除の中身(どんなときに解除できるか、解除するとお互いに何を返すか)は債務不履行と解除の記事で扱っています。
試験ではここをまちがえやすい
第三者の論点は、宅建試験の権利関係でも、行政書士試験の民法でも出てくる共通の論点です。宅建試験では、不動産の転売の事例で「売主は第三者に対抗できるか」を、4肢択一の問題で判断できるようにしておきます。行政書士試験では、5肢択一の中で第三者の条件を入れ替えた選択肢に引っかからないよう確かめ、記述式では「善意でかつ過失がない第三者」と正確に書けるようにしておきます。
- 条件の入れ替え:虚偽表示に「善意無過失」、詐欺に「善意」と書く形。93条・94条は善意、95条・96条は善意無過失。
- 詐欺と強迫の入れ替え:強迫に「善意無過失の第三者には対抗できない」と書く形。強迫には規定がありません。
- 解除に善意を足す:545条1項ただし書には善意・悪意の条件がありません。
- 177条に善意を足す:知っていただけの人も第三者に入ります。外れるのは背信的悪意者です。
- 時点の読み落とし:第三者が取消し・解除の前に現れたのか後に現れたのかで、使う条文が変わります。問題文の時間の順番に線を引きます。
- 別の意味の第三者:「第三者の詐欺」「第三者弁済」は、転売先を守る話ではありません。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの権利関係(意思表示、物権変動と登記)で続けて解けます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
Aが錯誤によりBに甲土地を売り、Aが取り消す前に、BはCに甲土地を転売した。Cが錯誤の事実を知らなかったが、知らないことに過失があった場合、Aは錯誤による取消しをCに対抗することができる。
答え:○ 分かれ目は、錯誤で守られる第三者の条件です。95条4項は「善意でかつ過失がない第三者」に対抗できないとしているので、過失のあるCは守られず、Aは取消しをCに主張できます。Cが知らなかったので✕に見えますが、錯誤は善意だけでは足りません。善意だけで守られるのは、心裡留保と虚偽表示の無効(93条2項・94条2項)です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
AがBに甲土地を売り、Bは代金を払う前に甲土地をCに転売して、Cが所有権移転の登記をした。その後、Bの代金不払いを理由にAが売買契約を解除した場合、CがBの不払いを知っていたときは、Aは解除をCに主張して甲土地を取り戻せる。
答え:✕ 分かれ目は、解除の第三者に善意の条件があるかです。545条1項ただし書は「第三者の権利を害することはできない」とだけ定め、善意・悪意を条件にしていません。正しくは、登記をしたCの権利は、Cが不払いを知っていても解除で害されず、Aは取り戻せません。93条〜96条の第三者のように「善意」を求める規定と取り違えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
AがBに甲土地を売った後、Bが登記をする前に、CがAB間の売買を知りながらAから甲土地を買い、先に登記をした。Cに背信的悪意者にあたる事情がない場合、BはCに甲土地の所有権を主張することができない。
答え:○ 分かれ目は、177条の第三者に善意が要るかです。177条は「登記をしなければ、第三者に対抗することができない」とし、善意という限定がないので、知っていただけのCも第三者に入り、先に登記したCが優先します。Cが知っていたので✕に見えますが、外れるのは背信的悪意者だけです(最高裁判所第二小法廷昭和43年8月2日判決)。94条2項の「善意の第三者」と取り違えないようにします。
まとめ
- 第三者=契約の当事者ではない人。宅建では、転売先が守られるかの形で考える。
- 心裡留保・虚偽表示の無効は善意の第三者に、錯誤・詐欺の取消しは善意かつ無過失の第三者に対抗できない。強迫には守る規定がない。
- 解除は「第三者の権利を害することはできない」(545条1項ただし書)。善意・悪意の条件はない。
- 二重譲渡は177条。知っていただけの人も第三者に入り、先に登記した人が優先。背信的悪意者は外れる。
- 取消し・解除の後に現れた人は、表の場面とは別に、登記(177条)の問題として考える。
次に読むなら、意思表示の記事がおすすめです。表の上の4行(心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺)が、どんなときに無効・取消しになるのかを押さえると、第三者の条件の違いの理由がつながります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「民法」(第93条、第94条、第95条第4項、第96条、第121条、第177条、第545条を確認。令和8年4月1日時点の条文)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和43年8月2日判決(昭和42年(オ)第564号)」(登記の欠缺を主張することができないいわゆる背信的悪意者にあたるとされた事例)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和35年11月29日判決(昭和33年(オ)第846号)」(契約の解除で所有権が売主に戻った場合、売主は登記がなければ解除後に買主から取得した第三者に対抗できない)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和33年6月14日判決(昭和31年(オ)第32号)」(不動産の売買の合意解除の場合と、未登記の転得者の債権者代位による登記請求の許否)
- 不動産適正取引推進機構「試験概要」(出題の根拠となる法令は、試験を行う年度の4月1日現在施行のもの)
働く人の法律試験ノート