工作物責任をわかりやすく:まず占有者、所有者は過失がなくても負う

工作物責任(こうさくぶつせきにん)は、建物・塀など「土地の工作物」の欠陥で他人に損害が出たときの賠償のルールです(民法717条)。欠陥のことを条文では「設置又は保存に瑕疵(かし)がある」といいます。まず責任を負うのは占有者(せんゆうしゃ)で、その工作物を実際に使っている人です(建物を借りて店をしている人など)。占有者が、損害を防ぐのに必要な注意をしていたときは、所有者が責任を負います。

所有者には、「自分も注意していた」と言って免れる道が条文にありません。被害者が加害者の過失を示さなければならない一般の不法行為(709条)より、被害者を厚く守る形です。賠償した占有者や所有者は、欠陥の原因を作った人(工事をした業者など)に求償(きゅうしょう=払った分を返すよう求めること)できます(717条3項)。

この記事では、工作物責任の順番と当てはめを確かめ、似た責任と比べます。不法行為の全体(過失相殺・時効など)は不法行為の記事、会社が働く人の事故に責任を負う形は使用者責任の記事、国や自治体の道路・河川での事故は国家賠償法2条の判例の記事で扱います。条文は令和8年4月1日時点のものです。

身近な例で考えると:カフェのブロック塀が倒れた

登場人物を紹介します。

人物立場したこと
みやもとさん所有者(大家)庭とブロック塀のある家をあやかさんに貸した
あやかさん占有者(借主)その家を借りてカフェを開いている
けいたさん被害者塀の横の歩道を歩いていた
やまびこ工務店塀を造った業者塀の中の鉄筋を、決まりより少なくしていた
  1. ある日、地震も強風もないのに、カフェのブロック塀が歩道側に倒れました。けいたさんが巻き込まれてけがをしました。
  2. 調べると、やまびこ工務店が塀を造るとき、中の鉄筋を少なくしていたことが分かりました。外からは見えない欠陥です。
  3. けいたさんは、まず占有者のあやかさんに賠償を求めます(717条1項本文)。
  4. あやかさんは、月に一度は塀のひびや傾きを見回り、異常がなかったことを示しました。外から見えない欠陥なので、必要な注意をしていたと認められれば、あやかさんは責任を負いません(1項ただし書)。
  5. そこで所有者のみやもとさんが賠償します。みやもとさんが「私も注意していた」と言っても、所有者が免れる定めはありません。
  6. 賠償したみやもとさんは、鉄筋を少なくしたやまびこ工務店に求償できます(3項)。

たとえるなら、責任はリレーのバトンです。最初に占有者が持ち、占有者が「必要な注意」をしていれば所有者に渡ります。所有者はもう次の走者に渡せません。ただし本物のルールでは、所有者は賠償した後で、欠陥の原因を作った人に求償できます。そこはリレーと違います。

条文ではこう決まっている

717条は3つの項でできています。

  • 1項本文:「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。」
  • 1項ただし書:「ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」
  • 2項:「前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。」庭木などの竹や木を植える・支えることに欠陥がある場合にも、同じ順番で責任を負います。
  • 3項:損害の原因について、ほかに責任を負う人がいるときは、占有者や所有者は、その人に求償できる。

要件をかみくだくと、次の4つです。

  1. 土地の工作物(または竹木)であること。条文に定義はありませんが、建物・塀・看板のように、土地に作り付けた人工の物が典型です。
  2. その設置(作り方)か保存(管理のしかた)に瑕疵(欠陥)があること。
  3. 他人に損害が出たこと。
  4. 瑕疵「によって」損害が出たこと(つながりがあること)。

判例:踏切の保安設備

最高裁判所第二小法廷昭和46年4月23日判決(昭和40年(オ)第536号)は、踏切道の軌道施設は保安設備と一体として考えるべきで、本来備えるべき保安設備を欠く場合は、土地の工作物である軌道施設の設置に瑕疵があるものとして717条の責任の原因になる、としました。この事件では、見通しが悪く、通行や列車の回数が多く、以前にも事故があった踏切に警報機がなかったことが、設置の瑕疵に当たるとされました。「工作物」は建物や塀に限られず、「瑕疵」は物そのものの壊れだけでなく、本来備えるべき設備がないことも含みうる、という例です。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例

  • カフェのブロック塀の例。→ 占有者のあやかさんが必要な注意をしていれば、所有者のみやもとさんが賠償します(1項)。
  • みやもとさんが自分で住む家の庭木が、根元が腐ったまま放置されて倒れ、通行人がけがをした。→ 竹木の支持の瑕疵で、717条が準用されます(2項)。みやもとさんは占有者であり所有者でもあるので、所有者として責任を免れることはできません。

当てはまらない例

  • 欠陥のない塀に、運転を誤った車がぶつかって塀が倒れた。→ 塀に瑕疵がないので717条は使えません。運転した人の709条の責任の問題です。
  • 市道の穴に自転車の車輪がはまって転んだ。→ 国や自治体の道路は「公の営造物」で、国家賠償法2条1項(設置又は管理の瑕疵による国・公共団体の責任)の問題です。

ひっかけやすい例

  • 占有者のあやかさんが、見回りをしていなかった。→ 必要な注意をしたとは言えないので、あやかさんが責任を負います。この場合、所有者のみやもとさんは、717条1項ただし書の場面ではないので、717条による責任は負いません。順番に責任が回る形で、「いつも両方が負う」わけではありません。
  • 賠償した所有者が、欠陥の原因を作った人に求償する。→ 求償の相手は「損害の原因について他にその責任を負う者」(3項)です。カフェの例なら、鉄筋を少なくしたやまびこ工務店です。

似ているルールとの違い

賠償の責任を負う人と、免れる道を並べます。

比べる点不法行為(709条)使用者責任(715条)工作物責任(717条)
負う人加害者本人使用者(会社など)まず占有者、次に所有者
責任の入口故意・過失による侵害被用者の事業の執行についての加害工作物の設置・保存の瑕疵
免れる道故意・過失がなければ負わない選任・監督に相当の注意など(1項ただし書)占有者は必要な注意で免れる。所有者は免れない
求償―被用者へ(3項)原因を作った人へ(3項)

国家賠償法2条1項は、道路・河川など「公の営造物」の「設置又は管理」に瑕疵があったときに、国や公共団体が賠償する定めです。原因を作った人への求償も定めています(同条2項)。民法717条が「占有者→所有者」の順番なのに対し、国家賠償法2条は国・公共団体が責任を負う、という違いがあります。

使用者責任には、選任と監督に相当の注意をしたなどの免れる道が条文にあります(715条1項ただし書)。工作物責任の所有者にはそれがない、という点が、二つを並べたときの一番の違いです。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、不法行為が主な論点の問題は18問(18回)、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では3問でした。全40回では、ほかの論点が主な問題の中に、不法行為を副の論点として含むものも5問あります。工作物責任だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • 順番の入れかえ:「まず所有者、所有者が注意していたら占有者」は誤り。最初は占有者です。
  • 所有者の免責:所有者が「損害の発生を防止するのに必要な注意をした」ことで免れる定めはありません。必要な注意で免れるのは占有者だけです。
  • 竹木:庭木などにも準用されます(2項)。「木は工作物ではないので717条は関係ない」は誤りです。
  • 求償:所有者が過失なしに賠償しても、原因を作った人に求償できます(3項)。
  • 国・自治体の道路:公の営造物は国家賠償法2条。民法717条と混ぜないようにします。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
あやかさんが借りているカフェのブロック塀が、造ったやまびこ工務店の工事の不備で倒れ、通行人のけいたさんがけがをした。あやかさんが必要な注意をしていたため所有者のみやもとさんが賠償した場合、みやもとさんは、やまびこ工務店に求償することができる。

答え:○ 分かれ目は、所有者の責任と求償の関係です。所有者は、占有者が必要な注意をしていたときは、自分に過失がなくても賠償しなければなりません(民法717条1項ただし書)。それでも、損害の原因について他に責任を負う者がいるときは、その者に求償できます(同条3項)。「所有者は過失がなくても負う=最後まで自分で負担する」と考えると✕にしやすい肢です。被害者に対して免れられないこと(1項)と、払った後に取り戻せること(3項)を取り違えないようにします。

問2(このサイトのオリジナル問題)
みやもとさんが自分で住む家の庭の大きな木が、根元の腐れを放置されたまま倒れ、通行人がけがをした。通行人は、みやもとさんの過失を示して709条で請求するほかない。

答え:✕ 分かれ目は、717条の対象が竹木に広がるかです。717条1項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合に準用されます(民法717条2項)。正しくは、庭木の支持の瑕疵として717条で請求でき、占有者で所有者でもあるみやもとさんは、必要な注意をしたと言っても所有者として責任を免れません。対象を「土地の工作物」だけに限り、一般の不法行為(709条)と取り違えた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
見通しが悪く列車の回数も多く、以前にも事故が起きていた踏切に警報機がなく、通行人が列車と接触してけがをした。判例の立場では、踏切道の軌道施設は保安設備と一体として考えるので、本来備えるべき警報機を欠くことは、土地の工作物の設置の瑕疵に当たりうる。

答え:○ 分かれ目は、「設置の瑕疵」に、必要な設備がないことが含まれるかです。最高裁判所第二小法廷昭和46年4月23日判決は、踏切道の軌道施設は保安設備と一体として考察すべきで、本来備えるべき保安設備を欠く場合は軌道施設の設置に瑕疵があるものとして717条の責任の原因になるとしました。「線路やレールが壊れていなければ瑕疵はない」と考えると✕にしやすい肢です。判例は「本来備えるべき」保安設備を欠く場合としているので、「設備が一つでも足りなければ瑕疵」と広げないようにします。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 工作物責任は、土地の工作物の設置・保存の瑕疵で他人に損害が出たときの責任(民法717条)。
  • まず占有者が負う。占有者が必要な注意をしていたときは所有者が負い、所有者は注意していても免れない。
  • 竹木の栽植・支持の瑕疵にも準用される。
  • 賠償した占有者・所有者は、原因を作った人に求償できる。
  • 国・自治体の道路などは国家賠償法2条。使用者責任には、所有者の責任と違って免れる道(715条1項ただし書)がある。

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参考にした公式の情報(2026年10月確認)

宅建試験の出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです(不動産適正取引推進機構)。条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を e-Gov 法令検索(法令API)で確かめました。判例は裁判所ウェブサイトで確かめました。