行政書士試験の憲法の判例は、「何条の話か」で10の区分に分けると、覚える範囲が見えてきます。人権の主体(外国人・法人・私人どうし)、13条、14条、20条と89条、21条、22条と29条、31条から39条、25条から28条、選挙権と国民審査、司法権の限界と違憲審査です。最後に、17条(国家賠償請求権)と93条(地方自治)の判例を2件添えます。
この記事は、当サイトの憲法の各記事に出てくる最高裁判所の判例を、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ直したうえで、区分ごとの表にした索引です。判例ごとに「事案の一行・結論・理由の要点」をそろえ、まちがえやすい所を表の下に書きます。判例を1件ずつ覚える方法は判例の覚え方の記事にあります。
この一覧の使い方
- 区分の見出しで「何条の話か」を確かめる。
- 表の「事案の一行」だけを見て、結論(合憲か違憲か、違法か適法か)と理由の一言を口に出す。
- 言えなかった判例に印を付け、区分ごとのくわしい記事で確かめる。
- 結論が逆になる組(同じ型の事件で合憲と違憲、審査できる・できない)を、表の下の「まちがえやすい所」で確かめる。
「最大」は最高裁判所の大法廷、「最一小」などは小法廷を表します。日付は判決(決定は「決定」と書きます)の年月日です。判例名(かっこの中)は、一般に使われている呼び名です。人権と統治のどちらを先にするか、憲法に何時間かけるかは憲法の勉強法で扱っています。
区分とくわしい記事の対応は次のとおりです。
| 区分 | 何条の話か | くわしい記事 |
|---|---|---|
| 人権の主体 | 第3章の権利(外国人・法人・私人) | 人権は誰に及ぶか |
| 幸福追求権 | 13条 | 幸福追求権とプライバシー |
| 法の下の平等 | 14条 | 法の下の平等 |
| 信教の自由・政教分離 | 20条・89条 | 信教の自由と政教分離 |
| 表現の自由 | 21条 | 表現の自由 |
| 経済的自由 | 22条・29条 | 職業選択の自由と財産権 |
| 人身の自由 | 31条〜39条 | 人身の自由と刑事手続 |
| 社会権 | 25条〜28条 | 生存権・教育・労働基本権 |
| 選挙権・国民審査 | 15条・43条・44条・79条 | 選挙権と一票の格差 |
| 司法権・違憲審査 | 76条・81条 | 司法権の限界・違憲審査 |
| 国家賠償請求権・地方自治 | 17条・93条 | 財政と地方自治 |
区分別の判例一覧
人権の主体:外国人・法人・私人どうし(第3章の権利)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和53年10月4日(マクリーン) | 在留中の政治活動を理由に、在留期間の更新を不許可 | 不許可は違法でない | 政治活動の自由は外国人にも及ぶが、人権の保障は在留を認めるかの裁量を拘束しない |
| 最三小 平成7年2月28日(定住外国人の地方選挙権) | 地方選挙の選挙権を日本国民の住民に限る規定 | 15条1項・93条2項に違反しない | 93条2項の「住民」は、区域内に住所をもつ日本国民 |
| 最大 平成17年1月26日(東京都管理職) | 日本国籍のない職員に管理職選考の受験を認めない | 14条1項に違反しない | 公権力の行使にあたる職を含む一体的な管理職の任用制度 |
| 最大 昭和45年6月24日(八幡製鉄) | 会社の政党への献金 | 会社の権利能力の範囲内 | 第3章の権利は、性質上可能なかぎり内国の法人にも及ぶ |
| 最三小 平成8年3月19日(南九州税理士会) | 政治団体へ寄付するための特別会費の決議 | 目的の範囲外。決議は無効 | 政治団体への寄付は、税理士会の目的の範囲外の行為 |
| 最一小 平成14年4月25日(群馬司法書士会) | 被災した他県の司法書士会へ寄付するための負担金の決議 | 権利能力の範囲内。会員に効力が及ぶ | 被災地の司法書士会への復興支援の寄付(反対意見あり) |
| 最大 昭和48年12月12日(三菱樹脂) | 在学中の活動を隠したとして本採用を拒否 | 14条・19条は私人どうしに直接適用されない | 企業が思想・信条を理由に雇い入れを拒んでも、当然に違法とはいえない |
| 最三小 昭和56年3月24日(日産自動車) | 定年を男子60歳・女子55歳とする就業規則 | 女子の部分は無効 | 性別だけによる不合理な差別として民法90条により無効 |
- 南九州税理士会と群馬司法書士会は、どちらも資格者の会の寄付で、結論が逆です。分かれ目は寄付の先が政治団体か、被災した同業の会かです。
- 三菱樹脂と日産自動車は、どちらも憲法を私人どうしに直接は当てはめていません。日産自動車は、民法90条(公序良俗)を通して無効としました。
幸福追求権・プライバシー(13条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和44年12月24日(京都府学連) | デモの参加者を警察官が写真撮影 | 撮影は違憲でない | 承諾なしにみだりに容ぼう等を撮影されない自由はあるが、証拠保全の撮影は許される限度内 |
| 最三小 昭和56年4月14日(前科照会) | 区長が弁護士会の照会に前科をすべて報告 | 違法(国家賠償) | 照会の理由は「裁判所に提出するため」とあるだけなのに、前科をすべて報告した |
| 最三小 平成7年12月15日(指紋押なつ) | 外国人登録の指紋押なつ制度 | 13条に違反しない | みだりに指紋の押なつを強制されない自由はある |
| 最三小 平成12年2月29日(輸血拒否) | 輸血の方針を説明しないまま手術で輸血 | 医師の不法行為 | 手術を受けるかどうかを決める機会を奪った |
| 最三小 平成14年9月24日(石に泳ぐ魚) | 実在の人をモデルにした小説の出版 | 差止めを認めた判断に違法なし | 名誉・プライバシー等の侵害 |
| 最二小 平成15年9月12日(講演会名簿) | 大学が参加者の名簿を無断で警察に提出 | 不法行為 | 学籍番号・氏名・住所・電話番号もプライバシーとして保護される |
| 最一小 平成20年3月6日(住基ネット) | 本人確認情報の収集・管理・利用 | 13条に違反しない | 本人の同意がなくても、みだりに開示・公表されない自由を侵さない |
| 最大 平成29年3月15日(GPS捜査) | 車にひそかにGPS端末を付けて位置を把握 | 令状がなければできない強制の処分 | プライバシーを侵害しうる機器をひそかに装着する |
| 最大 令和5年10月25日決定(性別変更の要件) | 生殖腺がないこと等を求める特例法3条1項4号 | 13条に違反する | 身体への侵襲を受けない自由の制約 |
- 「13条で保障される」と言った判例(容ぼう・指紋・住基ネットの情報)と、不法行為や国家賠償で守られる利益として判断した判例(前科・講演会名簿・輸血)を分けて覚えます。
- 京都府学連と指紋押なつは、自由を認めたうえで、結論は「違憲でない」です。「自由がある=違憲」と結びつける肢に注意します。
法の下の平等(14条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和48年4月4日(尊属殺) | 尊属殺を死刑か無期懲役に限る刑法200条 | 14条1項に違反する | 重く罰する目的は不合理でないが、刑を死刑か無期懲役に限る加重が極端 |
| 最大 昭和60年3月27日(サラリーマン税金) | 給与所得者に必要経費の実額控除を認めない | 14条1項に違反しない | 目的が正当で、区別が著しく不合理であることが明らかでない |
| 最大 平成20年6月4日(国籍法) | 父母の婚姻(準正)を国籍取得の要件とする区別 | 遅くとも平成17年当時に違憲 | 婚姻の要件を除いた要件で国籍を取得する |
| 最大 平成25年9月4日決定(非嫡出子の相続分) | 嫡出でない子の相続分を2分の1とする規定 | 遅くとも平成13年7月当時に違憲 | 子が選べない事情で子に不利益を及ぼすことは許されない。確定した遺産分割には影響しない |
| 最大 平成27年12月16日(再婚禁止期間) | 女性だけの6か月の再婚禁止期間 | 100日を超える部分だけ違憲 | 100日までは合憲。法律を直さなかったことは国家賠償法上違法でない |
| 最大 令和6年7月3日(旧優生保護法) | 不妊手術を認めていた規定 | 13条・14条1項に違反する | 国が除斥期間を主張するのは信義則に反し、権利の濫用 |
- 違憲の判断には「いつの時点で」と「どの部分が」が付きます。再婚禁止期間は100日を超える部分、国籍法は平成17年当時、非嫡出子は平成13年7月当時です。
- 違憲判決のあと条文がどう変わったかは、違憲判決の一覧で年の順に確かめられます。
信教の自由・政教分離(20条・89条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和38年5月15日(加持祈祷) | 宗教行為の加持祈祷で人を死なせた | 処罰は20条1項に反しない | 生命・身体に危害を及ぼす違法な有形力の行使 |
| 最一小 平成8年1月30日決定(宗教法人の解散命令) | サリンを生成した宗教法人の解散命令 | 20条1項に違反しない | 専ら宗教法人の世俗的側面を対象とする |
| 最二小 平成8年3月8日(剣道実技拒否) | 信仰を理由に剣道実技を拒んだ学生の退学 | 処分は違法 | 代わりの方法を何ら検討せず、裁量権の範囲を超えた |
| 最大 昭和52年7月13日(津地鎮祭) | 市が神式で体育館の起工式 | 20条3項の宗教的活動にあたらない | 行為の目的と効果から判断する |
| 最大 平成9年4月2日(愛媛玉串料) | 県が神社の例大祭に玉串料を公金で奉納 | 20条3項・89条に違反する | 社会的儀礼とは言いにくく、特定の宗教団体を特別に支援している印象 |
| 最大 平成22年1月20日(空知太神社) | 市有地を神社施設の敷地に無償で提供 | 89条・20条1項後段に違反する | 一般人から見て、市が特定の宗教に特別の便益を提供し、援助していると評価されてもやむを得ない |
| 最大 令和3年2月24日(孔子廟) | 孔子等を祀る施設の敷地の使用料を全額免除 | 20条3項に違反する | 一般人から見て、特定の宗教を援助していると評価されてもやむを得ない |
- 津地鎮祭は合憲、愛媛玉串料・空知太・孔子廟は違憲です。空知太は、反した条文が89条と20条1項後段で、20条3項ではありません。
- 剣道実技拒否は政教分離の事件ではなく、学校の処分の裁量が争われた事件です。
表現の自由(21条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和44年11月26日決定(博多駅) | 報道機関に取材フィルムの提出を命じる | 提出命令は許される | 報道の自由は21条の保障。取材の自由も十分尊重するが、公正な裁判の必要と比べる |
| 最大 昭和59年12月12日(税関検査) | わいせつな書籍の輸入を税関が止める | 検閲にあたらない | 検閲は例外なく禁止。行政権が主体となって発表前に審査するもの |
| 最大 昭和61年6月11日(北方ジャーナル) | 選挙の候補者を批判する雑誌の事前差止め | 仮処分による差止めは検閲にあたらない | 名誉権にもとづく差止めは、厳しい要件のもとで認められる |
| 最三小 平成7年3月7日(泉佐野市民会館) | 集会のための市民会館の使用を不許可 | 21条に違反しない | 明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要 |
| 最二小 昭和56年6月15日(戸別訪問) | 選挙運動の戸別訪問の禁止 | 21条に違反しない | 意見表明そのものではなく、買収の温床になるなどの弊害を防ぐための禁止 |
- 「検閲」は主体が行政権です。裁判所の仮処分(北方ジャーナル)は検閲にあたりません。検閲にあたらないことと、事前差止めがいつでも許されることは別の話です。
- 博多駅は、報道の自由(21条の保障)と取材の自由(21条の精神に照らし十分尊重)の言い方の違いがそのまま分かれ目になります。
職業選択の自由・財産権(22条・29条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和30年1月26日(公衆浴場) | 銭湯の配置(距離)の規制 | 22条に違反しない | 配置の適正を欠く場所の営業を許可しないことができる |
| 最大 昭和47年11月22日(小売市場) | 小売市場の開設の許可制 | 22条1項に違反しない | 社会経済政策の規制は、著しく不合理であることが明白な場合に限り違憲 |
| 最大 昭和50年4月30日(薬事法距離制限) | 薬局の配置(距離)の規制 | 22条1項に違反する | 生命・健康への危険の防止が目的なのに、必要かつ合理的といえない |
| 最三小 平成元年3月7日(公衆浴場) | 大阪府の銭湯の距離の規制 | 22条1項に違反しない | 衛生の確保に加え、業者の経営を安定させて銭湯そのものを確保する目的 |
| 最大 昭和62年4月22日(森林法) | 共有林の分割請求を制限する森林法186条 | 29条2項に違反する | 森林経営の安定という目的との関係で、制限の手段が合理的でない |
| 最大 平成14年2月13日(証券取引法) | 役員の短期売買の利益を会社に返させる規定 | 29条に違反しない | 証券市場の公平性・公正性と、一般投資家の信頼を確保する目的の規制 |
- 距離の規制は、薬局が違憲、銭湯と小売市場が合憲です。「距離制限は違憲」と一般化する肢に注意します。
- 森林法が反したのは29条2項(財産権の内容は法律で定める)で、損失補償の29条3項ではありません。
人身の自由・刑事手続(31条〜39条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和37年5月2日(交通事故の報告義務) | 事故を起こした運転者に警察への報告を義務づける | 38条1項に違反しない | 報告する「事故の内容」は日時・場所・死傷者・損壊など事故の態様 |
| 最大 昭和37年11月28日(第三者所有物没収) | 持ち主に弁解の機会を与えずに他人の物を没収 | 31条・29条に違反する | 持ち主に告知・弁解・防御の機会を与えずに所有権を奪うのは許されない。被告人も争える |
| 最大 昭和47年11月22日(川崎民商) | 令状なしの税務調査(質問・検査) | 35条・38条に違反しない | 刑事手続でないという理由だけで、35条の保障の外になるわけではない |
| 最大 昭和47年12月20日(高田事件) | 審理が長い間止まったままの刑事事件 | 免訴で打ち切る | 37条1項の迅速な裁判の保障に明らかに反する事態 |
| 最大 平成4年7月1日(成田新法) | 事前の弁解の機会なしに工作物の使用禁止命令 | 21条・22条・31条・35条に反しない | 31条は行政手続にも及びうるが、告知・弁解の機会が常に必要ではない |
- 第三者所有物没収(違憲)と成田新法(合憲)は、どちらも「告知・弁解の機会」が話題です。刑罰の没収か、行政の命令かで結論が分かれます。
- GPS捜査(13条の区分の表)は、35条の令状の話でもあります。
社会権(25条〜28条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和42年5月24日(朝日訴訟) | 生活保護の基準を争った原告が亡くなった | 訴訟は本人の死亡で終了 | 「なお、念のために」として、25条1項は直接の具体的権利を与えたものではないと述べた |
| 最大 昭和57年7月7日(堀木訴訟) | 障害福祉年金と児童扶養手当の併給の禁止 | 25条・14条・13条に違反しない | どんな立法をするかは国会の広い裁量 |
| 最大 昭和39年2月26日(教科書代) | 公立小学校の教科書代を親が負担 | 26条2項後段に違反しない | 義務教育の無償は授業料を取らないという意味 |
| 最大 昭和51年5月21日(旭川学テ) | 全国一斉学力テストの実施 | 国は必要かつ相当な範囲で教育内容を決められる | 子どもの学習権。教師の教授の自由は一定の範囲 |
| 最大 昭和43年12月4日(三井美唄) | 選挙に出た組合員と組合の統制 | 立候補をやめない組合員を処分するのは統制権の限界を超える | 立候補の自由は15条1項の重要な基本的人権。思いとどまるよう勧告・説得するまでは許される |
| 最大 昭和48年4月25日(全農林警職法) | 国家公務員の争議行為のあおりの処罰 | 28条に違反しない | 公務員の地位の特殊性と職務の公共性、代償措置 |
- 朝日訴訟の裁判要旨は「訴訟の終了」です。25条についての判断は、判決の中で「なお、念のために」として述べた部分です。
- 社会権の判例は、国会や大臣の裁量を広く認める結論が並びます。違憲とした最高裁判所の判例はこの表にありません。
選挙権・国民審査(15条・43条・44条・79条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和51年4月14日(衆議院の定数) | 選挙区ごとの一票の重さの差 | 定数配分は違憲。選挙は無効にしない | 違法を判決の主文で宣言(事情判決の考え方) |
| 最大 平成17年9月14日(在外選挙) | 外国に住む日本国民に国政選挙の投票を認めない | 15条1項・3項、43条1項、44条ただし書に違反する | 比例代表に限る規定も次の選挙の時点で違憲。立法しなかったことは国家賠償法上違法 |
| 最大 平成23年3月23日(1人別枠方式) | 衆議院小選挙区の区割りの基準 | 違憲状態(違憲とはしない) | 1人別枠方式が投票価値の平等の要求に反する状態。是正の合理的期間は過ぎていない |
| 最大 平成24年10月17日(参議院の定数) | 参議院選挙区の一票の重さの差 | 違憲状態(違憲とはしない) | 選挙までに直さなかったことが国会の裁量の限界を超えたとはいえない |
| 最大 令和4年5月25日(在外国民審査) | 在外国民に最高裁判所裁判官の国民審査を認めない | 15条1項・79条2項・3項に違反する | 確認の訴えは適法。立法しなかったことは国家賠償法上違法 |
- 一票の格差の判例は「違憲状態」「違憲(選挙は有効)」「合憲」の三つの言い方を区別します。違憲でも選挙を無効にした最高裁判所の判例はありません。
司法権の限界・違憲審査(76条・81条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和25年2月1日(下級裁判所の違憲審査) | 地方裁判所などが違憲かどうかを判断できるか | できる | 81条は下級裁判所の違憲審査権を否定していない |
| 最大 昭和27年10月8日(警察予備隊) | 具体的な争いなしに法律の違憲を求めた | 審査できない | 具体的事件を離れて抽象的に判断する権限はない |
| 最大 昭和34年12月16日(砂川) | 日米安全保障条約の合憲性 | 原則として審査の外 | 一見極めて明白に違憲無効と認められない限り、司法審査権の範囲外 |
| 最大 昭和35年6月8日(苫米地) | 衆議院の解散の効力 | 審査の外 | 訴訟の前提問題としても、裁判所の審査権限の外 |
| 最大 昭和37年3月7日(警察法改正) | 国会の議事手続が適法だったか | 審査しない | 法令審査権は両院の議事手続の適否に及ばない |
| 最三小 昭和41年2月8日(技術士試験) | 国家試験の合否の判定 | 審査の対象外 | 合否の判定は司法審査の対象にならない |
| 最三小 昭和52年3月15日(富山大学・単位) | 大学の単位の不認定 | 原則として審査の対象外 | 一般市民法秩序と直接の関係をもつ特段の事情がない限り |
| 最三小 昭和56年4月7日(板まんだら) | 本尊が偽物だとして寄付金の返還を請求 | 法律上の争訟にあたらない | 教義の判断が訴訟の結論を左右する必要不可欠のもの |
| 最三小 昭和63年12月20日(共産党袴田) | 政党が党員にした処分 | 原則として審判権が及ばない | 一般市民法秩序と直接の関係をもたない内部の問題にとどまる限り |
| 最大 令和2年11月25日(地方議会の出席停止) | 市議会議員への出席停止の懲罰 | 司法審査の対象になる | 昭和35年10月19日の大法廷判決(裁判権の外)を変更 |
- 砂川は「一見極めて明白に違憲無効」なら審査する余地を残し、苫米地は前提問題としても審査の外としました。言葉の留保の有無で結論の書き方が違います。
- 地方議会の出席停止は、令和2年の大法廷判決で「審査できる」に変わりました。昭和35年の判決の結論で答えると誤りになります。
- 富山大学の事件には、専攻科の修了の認定は審査の対象になるとした同じ日の別の判決があります。
国家賠償請求権・地方自治(17条・93条)
| 判例 | 事案の一行 | 結論 | 理由の要点 |
|---|---|---|---|
| 最大 昭和38年3月27日(特別区) | 東京都の特別区の区長を選挙で選ばない仕組み | 93条2項に違反しない | 特別区は憲法上の地方公共団体にあたらない |
| 最大 平成14年9月11日(郵便法) | 郵便物の事故で国の賠償責任を免除・制限する規定 | 一部が17条に違反する | 書留は故意・重大な過失、特別送達は故意・過失の場合 |
試験ではここをまちがえやすい
- 結論の入れ替え:同じ型で結論が分かれる組(南九州税理士会と群馬司法書士会、津地鎮祭と愛媛玉串料、薬局の距離制限と銭湯の距離制限、第三者所有物没収と成田新法)。
- 判断の範囲のずらし:「違憲」の時点(平成13年7月当時、平成17年当時)と部分(100日を超える部分、書留は重大な過失まで)。
- 理由のすり替え:尊属殺は目的ではなく刑の重さ、森林法は29条3項ではなく2項、空知太は20条3項ではなく89条と20条1項後段。
- 言い方の留保:砂川の「一見極めて明白に」、富山大学と共産党袴田の「一般市民法秩序と直接の関係」、泉佐野の「明らかな差し迫った危険」。留保を外して言い切る肢は誤りになります。
- 判例変更:地方議会の出席停止(昭和35年→令和2年)。古い判例の結論のままの肢に注意します。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
Aは、大阪府内で公衆浴場を開こうとしたが、既存の公衆浴場との距離が府の条例の基準に足りないとして、営業の許可を受けられなかった。判例によれば、この距離の規制の目的は国民保健と環境衛生の確保に限られ、既存の業者の経営の安定は目的に含まれない。
答え:✕ 分かれ目は、規制の目的に業者の経営の安定が入るかです。最高裁判所第三小法廷平成元年3月7日判決は、公衆浴場法2条2項と大阪府の条例による配置の規制は、国民保健と環境衛生の確保に加えて、既存の業者の経営の安定を図ることで、自家風呂を持たない人に欠かせない公衆浴場そのものを確保することも目的としているとし、22条1項に違反しないとしました。正しくは、経営の安定も目的に含まれます。偏在や濫立による衛生上の弊害を理由に銭湯の距離の規制を合憲としたのは最高裁判所大法廷昭和30年1月26日判決で、生命・健康への危険の防止が目的なのに必要かつ合理的といえないとして違憲になったのは、薬局の距離の規制(最高裁判所大法廷昭和50年4月30日判決)です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
司法書士会Aは、大震災で被災した他県の司法書士会に復興支援の寄付をするため、会員から登記申請1件あたり50円の特別負担金を集める総会決議をした。判例によれば、この決議の効力は、負担金の支払を拒む会員Bにも及ぶ。
答え:○ 分かれ目は、寄付の先と目的です。最高裁判所第一小法廷平成14年4月25日判決は、被災した兵庫県司法書士会への復興支援の寄付は群馬司法書士会の権利能力の範囲内の行為であり、負担金を集める決議の効力は会員に及ぶとしました(反対意見があります)。資格者の会の寄付の決議を無効とした南九州税理士会事件(最高裁判所第三小法廷平成8年3月19日判決)を思い出すと✕にしてしまいます。南九州税理士会事件は、寄付の先が政治団体だった事件です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
市立高等専門学校の学生Aは、信仰上の理由で必修の剣道実技だけを拒み、レポートなどの代わりの方法を申し出た。学校は代わりの方法を検討せずに断り、Aを原級留置としたうえ退学処分にした。判例によれば、この処分は裁量権の範囲を超え違法である。
答え:○ 分かれ目は、学校が代わりの方法を検討したかです。最高裁判所第二小法廷平成8年3月8日判決は、学生が信仰の核心部分と密接に関連する真しな理由から履修を拒み、他の科目では成績優秀だったこと、学校が代替措置を何ら検討せずに申入れを拒否したことなどの事情のもとで、処分は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超える違法なものとしました。「学校が信仰に配慮すると政教分離に反する」と考えると✕にしてしまいます。この事件で争われたのは、政教分離(20条3項)ではなく、学校の処分の裁量です。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。人権の判例と統治の数字をまとめて20問で確かめたい人は、憲法の一問一答も使えます。
まとめ
- 憲法の判例は、何条の話かで10の区分に分け、判例ごとに「事案の一行・結論・理由の要点」を言えるようにする。
- 結論が逆になる組(寄付の決議、政教分離、距離の規制、告知・弁解の機会)を並べて覚える。
- 違憲の判断は「いつの時点で」「どの部分が」まで覚える。
- 司法権の限界は、留保の言葉(一見極めて明白に、一般市民法秩序と直接の関係)と、地方議会の出席停止の判例変更を押さえる。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめました。理由の要点のうち裁判要旨にない部分(尊属殺・非嫡出子の相続分・戸別訪問・公衆浴場・証券取引法・第三者所有物没収・全農林警職法・定住外国人の地方選挙権・朝日訴訟など)は、判決全文で確かめています。条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の日本国憲法を確かめました。表の判例の出典は、区分ごとのくわしい記事にも載せています。
- e-Gov法令検索「日本国憲法」
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 平成元年3月7日判決(昭和60年(行ツ)第197号)」(公衆浴場の配置の規制)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和30年1月26日判決(昭和28年(あ)第4782号)」(公衆浴場の距離の規制)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和35年6月8日判決(昭和30年(オ)第96号)」(衆議院の解散の効力)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和34年12月16日判決(昭和34年(あ)第710号)」(日米安全保障条約と司法審査)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成14年4月25日判決(平成11年(受)第743号)」(司法書士会の寄付と負担金)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 平成8年3月19日判決(平成4年(オ)第1796号)」(税理士会の政治団体への寄付)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 平成8年3月8日判決(平成7年(行ツ)第74号)」(剣道実技の履修拒否)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和42年5月24日判決(昭和39年(行ツ)第14号)」(朝日訴訟)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 令和2年11月25日判決(平成30年(行ヒ)第417号)」(地方議会の出席停止)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和35年10月19日判決(昭和34年(オ)第10号)」(変更前の判例)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和25年2月1日判決(昭和23年(れ)第141号)」(下級裁判所の違憲審査権)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和59年12月12日判決(昭和57年(行ツ)第156号)」(税関検査と検閲)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 令和4年5月25日判決(令和2年(行ツ)第255号)」(在外国民の国民審査)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和38年3月27日判決(昭和37年(あ)第900号)」(特別区)
働く人の法律試験ノート