一票の格差(いっぴょうのかくさ)の判例は、3つの段階で読むと結論の言い方の違いが分かります。①投票価値の平等の要求に反する状態か、②その状態を憲法上求められる合理的期間内に直さなかったか、③違憲でも選挙を無効にするか、の3つです。「違憲状態」は①だけに当たる場合、「違憲」は②まで当たる場合です。最高裁判所は、違憲とした判決でも、選挙そのものは無効にしていません。
この記事では、衆議院・参議院の定数や区割りの判例、海外に住む人の選挙権と国民審査、戸別訪問の禁止の判例を扱います。法令を違憲とした判決の全体の一覧は、違憲判決の一覧の記事にまとめています。この記事は、選挙の判例の「結論の分かれ方」に絞ります。
身近な例で考えると:みさきさんとけいたさんの一票
有権者のみさきさんは、人口の多い甲県1区に住んでいます。けいたさんは、人口の少ない乙県1区に住んでいます。どちらの選挙区も、選ぶ議員は1人です。
- 甲県1区の有権者は40万人、乙県1区の有権者は20万人だとします(説明のための数字です)。
- 議員1人を選ぶのに、甲県1区では40万人、乙県1区では20万人が投票します。
- みさきさんの一票は、けいたさんの一票の半分の重さしかないことになります。これが「一票の格差」です(この例では2倍)。
みさきさんが「この選挙は憲法違反だ」と訴えたとします。裁判所は、次の順に考えます。
- この格差は、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態か(違憲状態かどうか)。
- 反する状態なら、国会が合理的期間内に直さなかったといえるか(違憲かどうか)。
- 違憲だとしても、選挙を無効にするか(どう判決するか)。
ただし、何倍なら違憲になるという決まった数字は、判例にも条文にもありません。この例の「2倍」も、結論を決める基準ではありません。
条文ではこう決まっている
- 14条1項:すべて国民は、法の下に平等。
- 15条1項・3項・4項:公務員を選び、やめさせるのは国民固有の権利。成年者による普通選挙を保障する。投票の秘密を守る。
- 43条1項・2項:両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織する。定数は法律で定める。
- 44条:議員と選挙人の資格は法律で定める。ただし、人種・信条・性別・社会的身分・門地・教育・財産・収入で差別してはならない。
- 47条:選挙区・投票の方法など選挙に関する事項は、法律で定める。
- 79条2項・3項:最高裁判所の裁判官は、任命後初めての衆議院議員総選挙の際などに国民の審査に付され、投票者の多数が罷免を可とすれば罷免される。
最高裁判所大法廷昭和51年4月14日判決は、14条1項・15条1項・3項・44条ただし書が、選挙権の内容、つまり各選挙人の投票の価値の平等も求めている、としました。条文に「一票の重さ」という言葉はありませんが、判例はここから投票価値の平等を読み取っています。
判例ではこう判断されている:3段階のどこで止まったか
| 判決 | 選挙 | 結論 | 止まった段階 |
|---|---|---|---|
| — | — | — | — |
| 昭和51年4月14日 | 衆議院(昭和47年) | 違憲。選挙は無効にせず違法を宣言 | ③まで |
| 平成23年3月23日 | 衆議院(平成21年) | 違憲状態だが違憲とはいえない | ① |
| 平成24年10月17日 | 参議院(平成22年) | 違憲状態だが違憲とはいえない | ① |
| 令和5年1月25日 | 衆議院(令和3年) | 違憲状態ともいえない | ①に当たらない |
違憲としたが選挙は無効にしなかった(昭和51年4月14日判決)
- 事案:昭和47年12月の衆議院議員選挙の議員定数の配分が争われた。
- 結論:定数配分の定めは、選挙当時、全体として14条1項などに違反していた。ただし、選挙を無効とする請求は棄却し、選挙が違法であることを判決の主文で宣言した。
- 理由の要点:人口の変動を考えて「合理的期間内における是正が憲法上要求されていると考えられるのにそれが行われない」場合は違憲となる。選挙を無効にすると不都合が大きいので、行政事件訴訟法31条1項の事情判決の考え方(「一般的な法の基本原則」の要素を含む)に従った。公職選挙法219条は選挙の訴訟に行政事件訴訟法31条を準用しないとしているが、その基礎にある原則を使った、という組み立てです。
- まちがえやすい所:「違憲なので選挙は無効」ではありません。事情判決そのものの仕組みは取消訴訟の審理と判決の記事で扱います。
違憲状態だが違憲ではない(平成23年3月23日判決・平成24年10月17日判決)
- 平成23年判決(衆議院):平成21年の総選挙当時、区割りの基準のうち「いわゆる1人別枠方式に係る部分」(各都道府県にまず1議席ずつ配る方式)は、「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至って」いた。しかし、合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、14条1項等に違反するとはいえない、とした。
- 平成24年判決(参議院):平成22年の通常選挙当時、選挙区間の不均衡は「違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていた」。しかし、選挙までに定めを改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるとはいえず、違憲とはいえない、とした。
- まちがえやすい所:「違憲状態」と判断されても、選挙の効力にも、定めの効力にも直接は影響しません。②の段階で止まっているからです。
違憲状態ともいえない(令和5年1月25日判決)
- 令和3年10月の衆議院議員総選挙当時の小選挙区の区割りは、「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず」、14条1項等に違反しない、とした。
- まちがえやすい所:「一票の格差の判例は毎回違憲状態」ではありません。最新の判例ほど結論を確かめる必要があります。
当てはまる例・当てはまらない例:選挙権そのものの判例
格差の問題とは別に、「投票させない」ことが問われた判例があります。
- 当てはまる例(違憲):海外に住む人の選挙権。最高裁判所大法廷平成17年9月14日判決は、平成8年の総選挙当時、海外に住む日本国民に投票を全く認めていなかった公職選挙法を、15条1項・3項、43条1項、44条ただし書に違反するとしました。比例代表に限って認めた後の定めも、次の総選挙の時点で違反するとしました。あわせて、次の総選挙の小選挙区などで投票できる地位にあることの確認を求める訴えは、「公法上の法律関係に関する確認の訴え」として適法だとし、国会が長く立法しなかったことを国家賠償法1条1項で違法として、1人5,000円の慰謝料を認めました。
- 当てはまる例(違憲):海外に住む人の国民審査。最高裁判所大法廷令和4年5月25日判決は、最高裁判所裁判官国民審査法が海外に住む国民に審査権の行使を全く認めていないことは、15条1項、79条2項・3項に違反するとしました。令和8年4月1日時点の国民審査法8条は、審査に在外選挙人名簿も用いると定めています。
- 当てはまらない例(合憲):戸別訪問の禁止。公職選挙法138条1項は、選挙に関して、投票を得る目的などで戸別訪問をすることを禁じています。最高裁判所第二小法廷昭和56年6月15日判決は、この規定は21条(表現の自由)に違反しないとしました。この事件では、原審の判断を破棄して差し戻しています。
ひっかけやすいのは、在外選挙の判例の訴えの形です。「法律が違憲であることの確認」ではなく、「次の選挙で投票できる地位の確認」を求める訴えが適法とされました。行政事件訴訟法の当事者訴訟の形で、当事者訴訟の記事とつながります。
似ているルールとの違い
| 比べるもの | 何が問われたか | 結論 |
|---|---|---|
| — | — | — |
| 一票の格差 | 投票の重さの平等(14条など) | 3段階で判断。違憲でも選挙は無効にしない |
| 在外選挙・在外国民審査 | 投票の機会そのもの(15条など) | 全く認めないのは違憲。立法不作為で国家賠償も |
| 戸別訪問の禁止 | 選挙運動の自由(21条) | 合憲 |
「格差」は投票の重さの問題、「在外」は投票できるかどうかの問題です。前者は国会の裁量を広くみて段階的に判断し、後者は全く認めないことを違憲としました。投票の機会を奪うことと、重さに差があることの違いを意識すると、結論の違いを覚えやすくなります。
試験ではここをまちがえやすい
選挙の判例で取り違えやすいのは、結論の言い方(違憲・違憲状態・合憲)と、判決の効果です。次の形に注意します。
- 効果の取り違え:「定数配分が違憲とされたので、選挙は無効とされた」とする形。昭和51年判決は、請求を棄却し、違法を宣言しました。
- 違憲状態と違憲の取り違え:「違憲状態と判断された以上、区割りの規定は違憲である」とする形。合理的期間内に直さなかったといえなければ、違憲とはされません。
- 数字の基準:「格差が2倍を超えれば違憲」とする形。判例は決まった倍率を基準にしていません。
- 院の取り違え:参議院の判例は「国会の裁量権の限界を超えるか」という言い方で判断しています。衆議院と参議院の判決を入れ替える肢に注意します。
- 在外選挙の訴えの形:「抽象的に法律の違憲確認を求める訴えが適法とされた」とする形。適法とされたのは、投票できる地位の確認の訴えです。
- 戸別訪問:「選挙運動を直接制約するので違憲」とする形。判例は合憲です。
違憲判断の効力(その事件だけか、法律そのものが消えるか)は、違憲審査の記事で確かめてください。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
ある衆議院議員総選挙の当時、選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた。判例の考え方によれば、この場合でも、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえないときは、区割りの規定が14条1項等に違反するとはいえない。
答え:○ 分かれ目は、「違憲状態」と「違憲」の間にある合理的期間の判断です。最高裁判所大法廷平成23年3月23日判決は、1人別枠方式に係る部分が投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたとしつつ、合理的期間内における是正がされなかったとはいえないとして、14条1項等違反を否定しました。違憲状態なら違憲だ、と考えると✕に見えます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
衆議院議員選挙の定数配分の規定が選挙当時全体として違憲だったと判断された場合、判例によれば、選挙の効力を争う訴訟では、その選挙を無効とする判決をしなければならない。
答え:✕ 分かれ目は、違憲と判断したときの判決の形です。最高裁判所大法廷昭和51年4月14日判決は、選挙を無効とする請求を棄却するとともに、選挙が違法である旨を主文で宣言すべきだとしました。正しくは、選挙は無効にしません。これは行政事件訴訟法31条1項の事情判決の考え方を、一般的な法の基本原則として使ったものです。違憲=無効と考える取り違えです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
海外に住む日本国民のみさきさんが、次回の衆議院議員総選挙の小選挙区選挙で、在外選挙人名簿に登録されていることにもとづいて投票できる地位にあることの確認を求めた。判例によれば、この訴えは適法である。
答え:○ 分かれ目は、訴えの形です。最高裁判所大法廷平成17年9月14日判決は、このような地位の確認を求める訴えを、公法上の法律関係に関する確認の訴えとして適法とし、請求を認めました。法律が違憲かどうかを裁判所に抽象的に判断させる訴えはできない、という知識から✕にしてしまいがちです。この訴えは、具体的な選挙での自分の地位を確かめる当事者訴訟の形をとっています。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。
まとめ
- 一票の格差の判例は、①投票価値の平等に反する状態か、②合理的期間内に直さなかったか、③選挙を無効にするか、の3段階で読む。
- 違憲とした判決(昭和51年4月14日)も、選挙は無効にせず、請求を棄却して違法を宣言した。
- 平成23年(衆議院)・平成24年(参議院)は違憲状態だが違憲ではない。令和5年1月25日(衆議院)は違憲状態ともいえない、とした。
- 海外に住む人に投票や国民審査を全く認めないのは違憲(平成17年9月14日、令和4年5月25日)。投票できる地位の確認の訴えは適法。
- 戸別訪問の禁止は21条に違反しない(昭和56年6月15日)。
次に読むなら、違憲判決の一覧の記事がおすすめです。この記事の在外選挙・在外国民審査・定数の判例が、ほかの違憲判決とどう並ぶかを確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「日本国憲法」(第14条、第15条、第43条、第44条、第47条、第79条を確認)
- e-Gov法令検索「公職選挙法」(第49条の2、第138条を確認。令和8年4月1日時点の条文)
- e-Gov法令検索「最高裁判所裁判官国民審査法」(第4条、第8条を確認。令和8年4月1日時点の条文)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和51年4月14日判決(昭和49年(行ツ)第75号)」(衆議院議員定数配分規定)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 平成23年3月23日判決(平成22年(行ツ)第207号)」(衆議院小選挙区の区割りと1人別枠方式)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 平成24年10月17日判決(平成23年(行ツ)第51号)」(参議院選挙区選出議員の定数配分規定)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 令和5年1月25日判決(令和4年(行ツ)第103号)」(令和3年衆議院議員総選挙の区割り)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 平成17年9月14日判決(平成13年(行ツ)第82号)」(在外日本人の選挙権)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 令和4年5月25日判決(令和2年(行ツ)第255号)」(在外日本人の国民審査権)
- 裁判所「最高裁判所第二小法廷 昭和56年6月15日判決(昭和55年(あ)第874号)」(公職選挙法138条1項と憲法21条)
働く人の法律試験ノート