判例の表示は、「どの裁判所の・どの法廷が・いつ・判決か決定かで判断し・どの判例集のどこに載っているか」を縮めて書いたものです。たとえば「最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁」は、最高裁判所の大法廷が昭和40年9月22日に言い渡した判決で、最高裁判所民事判例集の第19巻第6号の1600頁から載っている、という意味です。「大判」は大審院(だいしんいん)の判決で、「最大判」とは別のものです。
試験の勉強で判例の原文を読むときに使うのは、結論と、その結論を決めた理由の要点です。事案の細かい経過や、個々の裁判官の補足意見・反対意見まで覚える必要はありません。この記事では、表示の読み方、判決と決定の違い、裁判所ウェブサイトでの原文の探し方、判決書のどこを読むかを、裁判所法・民事訴訟法と裁判所の案内で確かめて示します。判例を1件ずつどうまとめて覚えるかは、行政書士の判例の覚え方で扱っています。
判例の表示は、どう分けて読むか
「最大判昭和40年9月22日民集19巻6号1600頁」を、部分ごとに分けます。これは、会社の事業の譲渡の意味を示した判決です(裁判所ウェブサイトで確かめたもの)。
| 部分 | 意味 |
|---|---|
| 最 | 最高裁判所 |
| 大 | 大法廷(だいほうてい) |
| 判 | 判決。決定なら「決」 |
| 昭和40年9月22日 | 裁判をした日 |
| 民集19巻6号1600頁 | 最高裁判所民事判例集の第19巻第6号、1600頁から |
よく見る略し方を並べます。書き方は本やサイトによって少しずつ違います。このサイトでは「最高裁判所大法廷 昭和40年9月22日判決」のように、略さずに書いています。
| 表示 | 意味 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 最大判・最大決 | 最高裁判所の大法廷の判決・決定 | 「大判」と取り違えない |
| 最判・最決 | 最高裁判所の小法廷の判決・決定 | 「最一小判」のように小法廷の番号を書くこともある |
| 大判・大決 | 大審院の判決・決定 | 今の最高裁判所ができる前の裁判所 |
| 高判・地判 | 高等裁判所・地方裁判所の判決 | 東京高判・東京地判のように地名が付く |
| 民集・刑集 | 最高裁判所民事判例集・刑事判例集 | 載っている場所を示す |
大審院は、今の最高裁判所ができる前の、いちばん上の裁判所です。民事訴訟法318条1項も、上告を受け付けるかどうかの基準として、最高裁判所の判例がない場合には「大審院」などの判例を挙げています。民集・刑集の正式な名前は、東京都立中央図書館の案内「法律情報の調べ方」によります。
事件番号は、裁判所ウェブサイトでは「昭和36(オ)1378」のように、元号・年・かっこの中の符号・番号の順で書かれています。符号は事件の種類ごとの記号です。たとえば、あとで出てくる平成25年9月4日の決定は「平成24(ク)984」で、事件名は「遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件」です。事件名は、このように手続の名前で書かれます。
大法廷と小法廷は、何が違うか
最高裁判所には大法廷と小法廷があります。大法廷は裁判官全員でつくる合議体で、小法廷は最高裁判所が定める数(3人以上)の裁判官でつくる合議体です(裁判所法9条2項)。
どちらで裁判するかは最高裁判所が定めますが、次の場合は小法廷では裁判できません(裁判所法10条)。
- 当事者の主張に基づいて、法律・命令・規則・処分が憲法に合うかどうかを判断するとき(前に大法廷が合憲とした裁判と同じ意見のときを除く)。
- 法律などが憲法に合わないと認めるとき。
- 憲法やその他の法令の解釈について、前に最高裁判所がした裁判に反するとき。
つまり、憲法に違反するとした判断や、前の判例を変える判断は、大法廷でしかできません。試験の勉強で「最大判」を見たら、違憲の判断か判例の変更が入っていないかを確かめる、という読み方ができます。ただし、「最大判」のすべてに違憲の判断や判例の変更が入っているわけではありません。冒頭の昭和40年9月22日の判決は、違憲の判断ではなく、商法の「営業の譲渡」の意味を示した判決です。
判例の変更の例として、最高裁判所大法廷の平成20年9月10日判決(土地区画整理事業の事業計画の決定は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる、とした判決)は、理由の中で次のように述べています。
「これと異なる趣旨をいう最高裁昭和37年(オ)第122号同41年2月23日大法廷判決・民集20巻2号271頁及び最高裁平成3年(行ツ)第208号同4年10月6日第三小法廷判決・裁判集民事166号41頁は,いずれも変更すべきである。」
この一文には、事件番号・日付・法廷・判例集の書き方がそろって出てきます。小法廷の判決の載り先が「裁判集民事」(最高裁判所裁判集民事)になっている点も見ておきます。裁判所の判決は、著作権法で権利の目的とならないものとされています(著作権法13条3号)。この記事では短い一節だけを引いています。著作物・著作者の権利・引用の決まりの全体は著作権法の記事で扱っています。
判決と決定は、どう違うか
判決と決定は、どちらも裁判所の判断(裁判)の形です。民事訴訟では、当事者は訴訟について裁判所で口頭弁論(こうとうべんろん=法廷で主張を述べ合う手続)をしなければなりません。ただし、決定で終わる事件では、口頭弁論をするかどうかを裁判所が決めます(民事訴訟法87条1項)。
試験の勉強では、判決か決定かで扱いを分けず、どちらも最高裁判所の判断として結論と理由を覚えます。たとえば、民法900条4号ただし書前段(嫡出でない子の相続分)を、遅くとも平成13年7月当時に憲法14条1項に違反していたとしたのは、最高裁判所大法廷の平成25年9月4日の「決定」です(平成24(ク)984、民集67巻6号1320頁)。
決定でも大法廷で違憲の判断がされ、判例として扱われます。「決定だから判例ではない」と考えないようにします。
判決書のどこが結論で、どこが理由か
民事訴訟の判決書には、主文・事実・理由・口頭弁論の終結の日・当事者と法定代理人・裁判所を書きます(令和8年4月1日時点の民事訴訟法253条1項)。令和4年の民事訴訟法の改正(令和4年法律第48号)で、令和8年5月21日からは、裁判所は判決の言渡しのときに、同じ6つの事項を記録した電磁的記録(電子判決書)を作ることになり、この定めは252条1項に移りました(253条は言渡しのしかたの条文になりました)。読む場所の分け方は変わりません。読むときは、次の3つを分けます。
| 部分 | 書いてあること | 試験での使い方 |
|---|---|---|
| 主文 | 裁判の結果(上告棄却・破棄差戻しなど) | 争点の結論とは別のものとして読む |
| 理由 | 争点についての判断と、その理由 | 結論と理由の要点はここから取る |
| 事実・事案 | だれが何を求めたか、経過 | 1行の事案にまとめる |
いちばん取り違えやすいのは、主文と争点の結論です。平成25年9月4日の決定の結果は「破棄差戻」ですが、争点の結論は「民法の規定が憲法14条1項に違反していた」です。主文は手続の結果で、試験の肢が問うのは、理由の中の争点の結論と、その理由です。
最高裁判所の裁判書には、各裁判官の意見を表示しなければなりません(裁判所法11条)。そのため、結論を決めた多数の裁判官の意見(多数意見)のほかに、多数意見に加わった裁判官が説明を足す補足意見、結論は同じで理由が違う意見、結論に反対する反対意見が付くことがあります。冒頭の昭和40年9月22日の判決には、補足意見と、6人の裁判官の反対意見が付いています。平成20年9月10日の判決には、補足意見と意見が付いていますが、反対意見はありません。
試験で「判例に照らし」と言うときの判例は、多数意見です。補足意見や反対意見の考えを、多数意見のように書いた肢は誤りになります。個別の意見は、最初は読まなくてかまいません。
裁判所ウェブサイトで原文を探す手順
裁判所ウェブサイトの「裁判例検索」で、最高裁判所の判例の要旨と全文を無料で読めます。働きながらなら、次の順で探すとむだがありません。
- 「最高裁判所」の区分を選ぶ:最高裁判所の民事・刑事の判例集や裁判集に載った判決などが入っています。高等裁判所・下級裁判所・行政事件などの区分もあります。
- 裁判年月日で探す:「期日指定」で1日を入れます。「薬事法距離制限事件」のような呼び名は通称で、サイトの事件名は「行政処分取消請求」のような書き方なので、日付で探すのが確かです。
- 一覧で法廷と事件番号を確かめる:同じ日に別の裁判があります。昭和40年9月22日で探すと、大法廷の判決のほかに、同じ事件番号の第三小法廷の判決と、刑事の決定も出てきます。法廷・事件番号・事件名で目的の1件を選びます。
- 詳細ページを読む:判示事項(何が問題か)・裁判要旨(どう判断したか)・参照法条・判例集の巻号頁が並んでいます。ここで争点と結論を取ります。
- 理由の言葉が要るときだけ全文のPDFを開く:結論を決めた段落を探し、決め手の言葉だけを写します。
事件番号は、左から元号・年・符号・番号の順に入れます。元号だけ、元号と符号だけ、年と番号だけのような入れ方はエラーになります。和暦と西暦の換算のしかたも、サイトに案内があります(たとえば、昭和は西暦の下2けたから25を引く、令和は18を引く)。「該当する裁判例がありませんでした。」と出たら、その裁判がサイトに載っていないという意味です。すべての判決が載っているわけではありません。
大審院の判決は、サイトの区分の説明(最高裁判所・高等裁判所など)には入っていません。試験の勉強では、基本書に書かれた結論と理由で足ります。
試験で使うのは「結論と理由の要点」:どこまで読むか
判例の原文を全部読む必要はありません。当サイトがすすめる線引きです。
| 読む部分 | 試験での使い道 | 時間をかけるか |
|---|---|---|
| 判示事項・裁判要旨 | 争点と結論の一語 | 毎回読む |
| 理由の決め手の段落 | 理由の要点、多肢選択式の言葉 | 憲法・行政法の主な判例で |
| 事実・経過 | 事案を1行に | 1行にできたら止める |
| 補足意見・反対意見 | 多数意見と混ぜない | 最初は読まない |
判例の誤りの肢は、結論を逆にする、理由を取り替える、言い過ぎにする、といった形で作ることができます(当サイトの整理)。結論と理由の要点を押さえておけば、どの形にも対応できます。憲法・行政法の多肢選択式には、判決文の一節に空欄を作る形の問題があるので、主な判例では理由の決め手の言葉も読んでおきます。主な判例の結論と理由は、憲法の判例まとめと行政法の判例まとめに並べています。
宅建試験には、問題の初めに判決文の一部が載り、それを手がかりに解く問題があります。その読み方(結論の一文と条件の言葉に印を付ける)は、宅建の判決文問題の解き方で練習できます。
今日からやること
- 今週の単元の判例を1件選び、表示を「裁判所・法廷・判決か決定か・日付・判例集」に分けて読む。
- 裁判所ウェブサイトで、その判例を裁判年月日で探し、法廷と事件番号で1件に絞る。
- 詳細ページの裁判要旨から、争点と結論を1行ずつ書く。主文の結果(棄却・破棄差戻しなど)と混ぜない。
- 「最大判」「最大決」の判例は、違憲の判断か判例の変更が入っていないかを確かめる。
- 補足意見・反対意見は読まずに閉じる。理由の言葉が要るときだけ全文のPDFを開く。
このサイトで次に読むなら、行政書士の判例の覚え方です。この記事で読み取った結論と理由を、事案・争点・結論・理由の一言・何条の話かの5行にまとめ、○✕で回すやり方を書いています。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 裁判所「裁判例検索」(区分の説明、事件番号・裁判年月日の入れ方、西暦換算の案内)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和40年9月22日判決(昭和36(オ)1378)」(判示事項・裁判要旨、民集19巻6号1600頁)、同 判決全文(PDF)(補足意見・反対意見)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 平成25年9月4日決定(平成24(ク)984)」(判示事項・裁判要旨、結果、民集67巻6号1320頁)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 平成20年9月10日判決(平成17(行ヒ)397)」(判示事項・裁判要旨、民集62巻8号2029頁)、同 判決全文(PDF)(引用した一節)
- e-Gov法令検索:裁判所法(9条・10条・11条)、民事訴訟法(87条・253条・318条)、著作権法(13条)。令和8年4月1日時点(asof=2026-04-01)の版で確かめました。民事訴訟法252条・253条は、令和8年5月21日施行の版(2026年10月16日時点の版)でも確かめました。
- 東京都立中央図書館「法律情報の調べ方」(2025年8月改訂)(民集・刑集の正式名、判例の出典の書き方)
働く人の法律試験ノート