国務請求権をわかりやすく:請願権・裁判を受ける権利・国家賠償請求権・刑事補償請求権

ひとことで言うと、国務請求権(こくむせいきゅうけん)は、国や公共団体に「これをしてほしい」と求める権利です。受益権(じゅえきけん)とも呼ばれ、多くの教科書は、憲法16条(請願権)・17条(国家賠償請求権)・32条(裁判を受ける権利)・40条(刑事補償請求権)の4つを挙げます。「国務請求権」は分類のための呼び名で、条文にこの言葉があるわけではありません。

4つとも主語は「何人も」です。そして17条と40条は「法律の定めるところにより」と書き、中身を国家賠償法・刑事補償法にゆだねています。そこで、憲法の条文と、それを受けた法律の細かい決まり(提出先・要件・期間)を組み合わせて覚える必要があります。この記事では、憲法の4つの条文と、請願法・刑事補償法の要点を扱います。国家賠償法の1条・2条の中身は別の記事に任せます。

身近な例で考えると

登場するのは、同じ市に住む3人です。

人物したいこと使う権利
みのりさん通学路の歩道を広げてほしい請願権(16条)
だいすけさん市の違法な営業停止の命令で損害を受けた。市に賠償してほしい国家賠償請求権(17条)
けんじさん勾留されたあと、裁判で無罪になった。国に補償してほしい刑事補償請求権(40条)
  1. みのりさんは、歩道の整備を求める請願書を作ります。氏名と住所を書いた文書にして、その事項を担当する役所に出します(請願法2条・3条)。
  2. 同じ内容を市議会にも届けたいときは、市議会の議員の紹介をもらって請願書を出します(地方自治法124条)。
  3. だいすけさんは、市に賠償を求めます。根拠は憲法17条を受けた国家賠償法です。話し合いで決まらなければ、裁判所に訴えることができます(32条)。
  4. けんじさんは、無罪の裁判が確定した日から3年以内に、国に補償を請求します(刑事補償法1条・7条)。

たとえるなら、4つの権利は「国の窓口に出す4種類の申し出」です。ただし本物のルールでは、窓口の決まりは権利ごとに別の法律にあり、請願は「受け取って誠実に扱ってもらう」ところまで、賠償と補償は「お金を払ってもらう」ところまで、と効き目の強さが違います。

条文ではこう決まっている

条文何を求めるか中身を決める法律
16条 請願権損害の救済、公務員の罷免、法律・命令・規則の制定や改廃などを平穏に願い出る。請願したことで差別されない請願法。国会は国会法、地方議会は地方自治法
17条 国家賠償請求権公務員の不法行為で受けた損害の賠償を、国又は公共団体に求める国家賠償法
32条 裁判を受ける権利裁判所で裁判を受ける権利を奪われない(公開の原則は82条)
40条 刑事補償請求権抑留・拘禁された後に無罪の裁判を受けたとき、国に補償を求める刑事補償法

請願(16条と請願法)

  • 請願法1条:請願は、別に法律の定める場合を除いて、この法律による。
  • 2条:氏名(法人は名称)と住所を書き、文書でする。
  • 3条:請願の事項を所管する官公署に出す。天皇に対する請願書は内閣に出す。所管が分からないときも内閣に出せる。
  • 4条:まちがった官公署に出されたときは、その官公署が正しい官公署を教えるか、請願書を送る。
  • 5条:この法律に合う請願は、官公署が「受理し誠実に処理しなければならない」。
  • 6条:何人も、請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

「別に法律の定める場合」の代表が議会です。各議院に請願するときは議員の紹介が要り(国会法79条)、地方議会に請願するときも議員の紹介が要ります(地方自治法124条)。役所(官公署)に出す請願には、この紹介の決まりはありません。なお、「陳情」という言葉は、請願法にも地方自治法124条にも出てきません。議会への陳情の扱いは議会ごとに違うので、その議会の案内で確かめます。

国家賠償(17条)

17条は「法律の定めるところにより」と書いています。最高裁判所大法廷平成14年9月11日判決(郵便法の免責規定の事件)は、17条は、国又は公共団体が公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則としたうえで、どんな行為でどんな要件で責任を負うかを「立法府の政策判断にゆだねたもの」であり、立法府に無制限の裁量を与える「白紙委任を認めているものではない」としました。そのうえで、郵便法の規定の一部を17条に反するとしました。違憲とされた範囲は違憲判決の一覧で確かめられます。

17条は「何人も」と書きますが、国家賠償法6条は、外国人が被害者のときは「相互の保証があるときに限り」この法律を使う、としています。相互の保証とは、その人の国でも日本人が同じように賠償を受けられることです。国家賠償法1条(公務員の行為)と2条(道路などの不具合)の中身は国家賠償法の記事で扱っています。

裁判を受ける権利(32条)

32条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と定めます。82条1項は、裁判の対審(たいしん=当事者が言い分をぶつけ合う審理)と判決を公開の法廷で行うとしています。最高裁判所大法廷昭和35年7月6日決定は、純然たる訴訟事件(権利があるかないかを決める本来の裁判)について、公開の法廷によらない「調停に代わる裁判」をしたことは、82条・32条に照らして違憲だとしました。32条は82条と組みで覚えます。

刑事補償(40条と刑事補償法)

  • 刑事補償法1条1項:刑事訴訟法の手続で無罪の裁判を受けた人が、未決の抑留・拘禁(判決の前の身柄の拘束)を受けていたときは、国に補償を請求できる。
  • 7条:請求は、無罪の裁判が確定した日から3年以内。
  • 3条:本人が捜査や審判を誤らせる目的でうその自白をした場合などは、裁判所の健全な裁量で、補償の一部または全部をしないことができる。
  • 25条1項:免訴(めんそ)や公訴棄却(こうそききゃく)の裁判を受けた人でも、その事由がなければ無罪の裁判を受けるべきものと認められる充分な事由があるときは、補償を請求できる。

1条の要件は「無罪の裁判」と「抑留・拘禁」で、捜査をした公務員の故意や過失は要件に入っていません。身柄の拘束についての憲法の決まりは、人身の自由の記事で確かめられます。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(市長への請願):みのりさんが、氏名と住所を書いた請願書を、歩道を担当する市長に出した。請願法2条・3条に合うので、役所は受理し、誠実に処理します。議員の紹介は要りません。
  • 当てはまらない(口頭の請願):みのりさんが窓口で口頭で頼んだだけ。請願法2条は文書を求めているので、請願法上の請願にはなりません。窓口での相談として扱われるだけです。
  • 当てはまらない(不起訴で釈放):勾留されたが起訴されずに釈放された。刑事補償法1条は「無罪の裁判を受けた者」が対象なので、この法律の補償の対象にはなりません。
  • ひっかけやすい(少年の不処分):最高裁判所第三小法廷平成3年3月29日決定は、少年法による不処分の決定は、非行事実が認められないことを理由とするものでも、刑事補償法1条1項の「無罪の裁判」に当たらないとしました。その後、少年の保護事件に係る補償に関する法律(平成4年法律第84号)ができ、この場面は刑事補償法ではなく、その法律で補償の対象になります(同法2条)。
  • ひっかけやすい(天皇への請願):天皇あての請願書の提出先は宮内庁ではなく、内閣です(請願法3条1項)。天皇の国事行為に内閣の助言と承認が要ること(憲法3条)とつなげると覚えやすくなります。

似ているルールとの違い

いちばん取り違えやすいのは、17条(国家賠償)と40条(刑事補償)です。どちらも「国にお金を求める」権利ですが、要件がまったく違います。

比べる点国家賠償(17条)刑事補償(40条)
きっかけ公務員の不法行為抑留・拘禁の後の無罪の裁判
公務員の過失公務員の行為の責任(国家賠償法1条1項)は故意又は過失が要る要件にない
求める相手国又は公共団体国
法律国家賠償法刑事補償法(請求は確定から3年以内)

請願と、15条1項の選定罷免権(公務員を選び、やめさせる国民固有の権利)も分けます。16条は「公務員の罷免」を請願できる事項に挙げていますが、請願は願い出るだけで、罷免させる効果はありません。

試験ではここをまちがえやすい

  • 議員の紹介をどこまで広げるか:要るのは国会の各議院(国会法79条)と地方議会(地方自治法124条)。役所への請願にまで広げる形は誤りです。
  • 請願を受けた側の義務:請願法5条は「受理し誠実に処理」です。請願のとおりに措置する義務や、結果を請願者に知らせる義務は、請願法には書かれていません。地方議会が採択した請願を長などに送り、処理の結果の報告を求められる(地方自治法125条)のは、議会と長などの間の決まりです。
  • 提出先の主体:天皇あて・所管が分からないときは内閣。まちがった官公署は、指示するか送付する(4条)。
  • 刑事補償の要件:「無罪の裁判」が入口です。不起訴は対象外、免訴・公訴棄却は25条の条件つきで対象、少年の不処分は判例で対象外(別の法律で補償)。
  • 17条の「法律の定めるところにより」:立法府の判断にゆだねるが、白紙委任ではない(平成14年判決)。「法律で自由に責任を免除できる」とする形は判例と違います。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
B市の住民Aが、市道の歩道の整備を求める請願を、B市議会に出すときは議員の紹介により請願書を提出しなければならないが、同じ内容の請願書をB市長に出すときは、議員の紹介は要らない。

答え:○ 分かれ目は、議員の紹介が要る相手です。地方議会への請願は議員の紹介により請願書を出します(地方自治法124条)。市長などの官公署への請願は請願法により、氏名・住所を書いた文書を所管の官公署に出せば足ります(請願法2条・3条)。紹介の決まりを請願一般に広げると✕に見えます。議員の紹介は、国会の各議院(国会法79条)と地方議会に限った、請願法1条の「別に法律の定める場合」です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
Aが、請願法に合う請願書をB市長に出した。B市長は、これを受理したうえで、請願の内容のとおりに措置するかどうかを決め、その結果をAに通知しなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、請願を受けた官公署の義務の範囲です。請願法5条は、請願を「受理し誠実に処理しなければならない」とするだけです。正しくは、受理と誠実な処理が義務で、内容のとおりに措置する義務や、結果を請願者に通知する義務は請願法に定められていません。結果の報告を求める決まりは、地方議会が採択した請願を長などに送り、処理の経過と結果の報告を請求できるという地方自治法125条のもので、議会と長などの間の話です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
Cは、勾留されたまま起訴されたが、刑事裁判で無罪の裁判を受け、それが確定した。捜査をした警察官や検察官に故意や過失がなかった場合でも、Cは、刑事補償法により国に補償を請求できる。

答え:○ 分かれ目は、公務員の過失が要件に入るかです。刑事補償法1条1項は、無罪の裁判を受けた人が未決の抑留・拘禁を受けていたときに補償を請求できるとし、捜査した人の故意・過失を要件にしていません(請求は確定から3年以内。7条)。捜査に落ち度がなければ補償されない、と考えると✕にしてしまいます。故意又は過失を要件にするのは、17条を受けた国家賠償法1条1項の損害賠償です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「憲法」で続けて解けます。

まとめ

  • 国務請求権は、16条(請願)・17条(国家賠償)・32条(裁判を受ける権利)・40条(刑事補償)。主語はどれも「何人も」。
  • 請願は文書で所管の官公署へ。天皇あては内閣。国会・地方議会は議員の紹介が要る。官公署の義務は「受理し誠実に処理」。
  • 17条は法律にゆだねるが白紙委任ではない(平成14年判決)。外国人は相互の保証が要る(国家賠償法6条)。
  • 32条は82条の公開と組み。純然たる訴訟事件を非公開の調停に代わる裁判で決めるのは違憲(昭和35年決定)。
  • 刑事補償は無罪の裁判と抑留・拘禁が要件で、過失は問わない。確定から3年以内。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、平成14年判決の理由の言葉は判決全文で確かめました。

このサイトで次に読むなら、憲法の判例まとめです。この記事の判例が、人権・統治の判例全体の中でどこに位置するかを一覧で確かめられます。

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