財政と地方自治をわかりやすく:租税法律主義と予算・予備費・地方特別法

ひとことで言うと、憲法の財政のルールは「国のお金の集め方と使い方は、国民の代表である国会が決める」という考え方です(83条)。とくに税は、法律で決めなければ新しく課したり変えたりできません。これを租税法律主義(そぜいほうりつしゅぎ)といいます(84条)。

地方自治のルールは、「地方のことは、その地域の住民と地方公共団体が決める」という考え方です。憲法には92条から95条の4か条しかありません。試験では、条文の主語(誰が)、「事前か事後か」、「議決か承諾か提出か」の言葉が入れかえられやすい分野です。

この記事では、憲法の条文と、それにかかわる主な判例を扱います。議会と長の関係、条例と規則、直接請求など地方自治法のくわしいルールは、それぞれの記事に任せます。条文は令和8年4月1日時点で施行されているものを前提にしています。

身近な例で考えるとどうなるか

登場人物は2人です。姉=みさきさん(市役所の財政課で働いている)と、弟=りくさん(大学生。行政書士試験の勉強を始めたばかり)です。夕食のときに、ニュースを見ながら話しています。

場面1:「来年度の予算案が国会に出されました」

りくさん「予算って、国会議員が作るんじゃないの?」。みさきさん「憲法では、予算を作って国会に出すのは内閣だよ。国会はそれを審議して議決するの」。予算(よさん=1年間に国が何にいくら使うかの計画)は、内閣が毎会計年度に作り、国会の審議と議決を受けます(86条)。しかも、予算は先に衆議院に出すと決まっています(60条1項)。

場面2:「新しい税を、役所の通知だけで始めてもいい?」

りくさん「スマホの充電器に新しい税をかける、って役所が決めたら、それで払わなきゃいけないの?」。みさきさん「だめだよ。新しく税を課すときも、今ある税を変えるときも、法律か、法律の定める条件によらないといけない」。国民からお金を強制的に集めるのだから、国民の代表が作る法律で決める、というのが84条です。

場面3:「大雨の復旧に予備費を使いました」

予算を作るときには、何が起きるか全部は分かりません。そこで、国会の議決にもとづいて予備費(よびひ=前もって使い道を決めない予算の枠)を設けておけます。使うのは内閣の責任で、使ったあとに国会の承諾を得ます(87条)。りくさん「使う前に国会に聞くんじゃないんだ」。みさきさん「急ぎで使うためのお金だからね。事後に承諾、がポイント」。

場面4:「うちの市も独自の税を作れるの?」

みさきさんの市では、観光客が泊まるホテルに独自の税をかける案が出ています。地方の税は、その地方公共団体の条例で決めます(地方税法3条1項)。ただし、条例は「法律の範囲内で」作るものです(憲法94条)。国の法律(地方税法)が決めた仕組みとぶつかる条例の税は、無効になることがあります(判例は後で説明します)。

たとえるなら、国の財政は「家族みんなのお財布」です。お財布の中身はみんなのお金なので、使い道はみんなの代表(国会)が決めます。ただし本物のルールでは、計画(予算)を作れるのは内閣だけで、国会は作られた案を審議して議決する役です。家族会議のように誰でも案を出せるわけではない点が違います。

条文ではどう決まっているか

財政の大原則(83条・84条・85条・30条)

  • 83条:国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使しなければならない。これを財政民主主義(ざいせいみんしゅしゅぎ)と呼びます。
  • 84条:「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」新しい税だけでなく、今ある税を変えるときも対象です。
  • 85条:国費を支出するとき、国が債務を負担する(借金などの義務を負う)ときは、国会の議決に基づくことが必要。
  • 30条:国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。84条とセットで「税は法律で決める」を表しています。

予算・予備費・皇室の費用(86条〜88条など)

  • 86条:内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。73条5号でも、内閣の仕事として「予算を作成して国会に提出すること」が挙がっています。
  • 60条:予算は、さきに衆議院に提出する(1項)。参議院と意見が分かれたときなどは衆議院の議決が国会の議決になる(2項)。くわしい日数は国会・内閣・裁判所の関係で整理しています。
  • 87条:予見しがたい予算の不足にあてるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任で支出できる(1項)。予備費の支出は、すべて、内閣が事後に国会の承諾を得なければならない(2項)。
  • 88条:すべて皇室財産は国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。

お金の使い道の制限・決算・報告(89条〜91条)

  • 89条:公金その他の公の財産は、①宗教上の組織・団体の使用・便益・維持のため、②公の支配に属しない慈善・教育・博愛の事業に対して、支出したり利用させたりしてはならない。①は政教分離とつながります(信教の自由と政教分離で扱います)。
  • 90条:国の収入支出の決算(けっさん=1年間に実際にいくら入っていくら使ったかのまとめ)は、すべて毎年会計検査院が検査する。内閣は、次の年度に、その検査報告とともに決算を国会に提出する(1項)。会計検査院の組織と権限は法律で定める(2項)。
  • 91条:内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。

地方自治(92条〜95条)

  • 92条:地方公共団体の組織と運営に関する事項は、「地方自治の本旨(ほんし=本来のねらい)」に基づいて、法律で定める。
  • 93条:地方公共団体には、法律の定めるところにより、議事機関として議会を置く(1項)。長、議会の議員、法律の定めるその他の吏員(りいん=職員)は、その地方公共団体の住民が直接選挙する(2項)。
  • 94条:地方公共団体は、財産を管理し、事務を処理し、行政を執行する権能(けんのう=力)を持ち、法律の範囲内で条例を制定できる。
  • 95条:一つの地方公共団体だけに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票で過半数の同意を得なければ、国会は制定できない。

「地方自治の本旨」の中身は、条文には書かれていません。学説(考え方)では、住民が自分たちで地域のことを決める「住民自治」と、国から独立した団体が地域の仕事をする「団体自治」の2つを含む、と説明されます。93条2項の直接選挙は住民自治、94条の条例制定は団体自治の表れ、と結びつけると覚えやすくなります。

判例が示したこと

  • 東京都の特別区(最高裁判所大法廷 昭和38年3月27日判決):区長を住民の直接選挙で選ばない仕組みにしていた当時の地方自治法の規定は、憲法93条2項に違反しないとしました。理由として、憲法上の地方公共団体といえるには、法律でそう扱われているだけでは足りないとしました。住民が密接な共同生活を営み、共同体意識をもつという社会的な基盤があること。そして、相当程度の自主立法権・自主行政権・自主財政権などを与えられた地域団体であることが必要だとしました。そのうえで、当時の特別区は93条2項の地方公共団体とは認められないと判断しました。
  • 神奈川県の臨時特例企業税(最高裁判所第一小法廷 平成25年3月21日判決):普通地方公共団体は、国とは別に課税権の主体となることが憲法上予定されている、としました。一方で、税の決まりの大枠は法律で定めることが予定されており、条例は法律の範囲内で作るものだとしました。この県の条例の税は、法人事業税で認められている欠損金の繰越控除(くりこしこうじょ=過去の赤字を後の年の所得から差し引く仕組み)を、実質的に一部排除するものでした。そのため、繰越控除の適用を求める地方税法の規定と矛盾抵触し、違法・無効とされました。
  • 給与所得と税(最高裁判所大法廷 昭和60年3月27日判決):租税法の分野で所得の性質の違いなどを理由に扱いを区別することは、立法目的が正当で、区別の態様が目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、憲法14条1項に違反しないとしました。税の決め方には国会の広い判断の幅がある、という読み方につながります。平等の考え方は法の下の平等で整理しています。

通達(役所の中の指示)がきっかけで課税された場合の判例(最高裁判所第二小法廷 昭和33年3月28日判決)は、行政立法をわかりやすくで説明しています。課税が通達をきっかけにしていても、通達の内容が法の正しい解釈に合っていれば、法律に基づく処分だとした判例です。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(84条):国が、今ある税の税率を上げたい。「新しい税ではないから法律はいらない」とはなりません。84条は「現行の租税を変更する」ときも法律か法律の定める条件によるとしています。
  2. 当てはまる(85条):国が、将来の何年にもわたってお金を払う契約を結び、債務を負う。お金をまだ払っていなくても、債務を負担するには国会の議決が必要です。
  3. 当てはまらない(87条):内閣が、大雨の復旧のために予備費を使う前に、国会の承諾を得ようとした。憲法が求めているのは事後の承諾です。前もって承諾を得なければ使えない、というルールではありません。
  4. 当てはまらない(95条):全国のすべての市町村に適用される法律を作る。95条の住民投票がいるのは「一の地方公共団体のみに適用される特別法」です。全国に共通する法律には住民投票はいりません。
  5. ひっかけやすい(90条):「決算は、国会の議決を経なければならない」。条文の言葉は、会計検査院が検査し、内閣が検査報告とともに国会に提出する、です。「議決」「承諾」と書きかえられていたら疑います。
  6. ひっかけやすい(93条2項と特別区):「法律で地方公共団体とされていれば、憲法上の地方公共団体である」。昭和38年3月27日判決は、法律で扱われているだけでは足りず、社会的な基盤と自主的な権能が必要だとしました。

似ているルールとどう違うか

財政の条文は、国会のかかわり方の言葉が少しずつ違います。ここが選択肢で入れかえられます。

場面条文国会のかかわり方
税を課す・変える84条法律で定める
国費の支出・債務負担85条議決に基づく
予算86条内閣が出し、審議・議決
予備費を設ける87条1項議決に基づく
予備費を使った87条2項事後に承諾
決算90条1項検査報告とともに提出を受ける
財政状況91条報告を受ける(国民にも)

「事前か事後か」で混ざりやすいのが、予備費と条約です。予備費の支出は「事後に」承諾(87条2項)。条約の締結は「事前に、時宜によつては事後に」国会の承認(73条3号)。条約は事前が原則、予備費は事後だけ、と分けて覚えます。

地方自治では、条例についての言い方の違いにも注意します。憲法94条は「法律の範囲内で」、地方自治法14条1項は「法令に違反しない限りにおいて」です。条例で決められることと罰則の上限は条例と規則をわかりやすく、議会と長の関係は議会と長の関係で整理しています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 主語のすりかえ:予算を作成して国会に提出するのは内閣(86条・73条5号)。決算を検査するのは会計検査院(90条1項)。財政状況を報告するのは内閣(91条)。「国会が予算を作成する」「内閣が決算を検査する」は誤りです。
  • 時期のすりかえ:予備費は「事後に」承諾。決算は「次の年度に」提出。財政状況は「少くとも毎年一回」報告。
  • 報告の相手を減らす型:91条の報告の相手は「国会及び国民」です。「国会に対し」だけにした文は、条文と違います。
  • 84条の範囲を狭める型:「新たに課すときだけ法律が必要」は誤り。変更も含みます。また、条文は「法律又は法律の定める条件」です。「法律だけ」と言い切る文は、条文の言葉と違います。
  • 95条の数字と対象:住民投票の同意は「過半数」。3分の2ではありません。対象は「一の地方公共団体のみに適用される特別法」です。
  • 93条2項の対象を減らす型:直接選挙するのは、長と議員だけでなく「法律の定めるその他の吏員」も含みます。

行政書士試験では、統治の分野として、財政や地方自治の条文の言葉を正しく言えるかを5肢択一式で問う形が考えられます。数字と主語を一覧で覚えるやり方は憲法の勉強法にまとめています。判例は、多肢選択式で判決の言葉を空欄にする形も考えられるので、結論と理由のキーワード(社会的基盤、課税権の主体、法律の範囲内)をセットで覚えます。この論点は宅建試験の範囲ではありません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
大雨の被害の復旧のため、内閣は予備費を支出しようとしている。憲法上、内閣は、予備費を支出する前に国会の承諾を得なければならない。

答え:✕ 予備費は国会の議決に基づいて設け、内閣の責任で支出できます。支出については、内閣が事後に国会の承諾を得なければなりません(87条)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
国会が、ある一つの市だけに適用される特別法を作ろうとしている。この法律は、その市の住民の投票で3分の2以上の同意を得なければ、国会は制定することができない。

答え:✕ 住民の投票で必要なのは過半数の同意です(95条)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院が検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。

答え:○ 90条1項のとおりです。検査するのは会計検査院、提出するのは内閣、時期は次の年度です。

まとめ

  • 国の財政は国会の議決に基づく(83条)。税を新しく課す・変えるには法律か法律の定める条件(84条)。
  • 予算は内閣が作って衆議院に先に出す(86条・60条1項)。予備費は議決で設け、支出は事後に承諾(87条)。
  • 決算は会計検査院が検査し、内閣が次の年度に提出(90条)。財政状況は国会と国民に毎年1回以上報告(91条)。
  • 地方自治は92条〜95条。長・議員・法律の定める吏員は住民が直接選挙。地方特別法は住民投票の過半数。
  • 特別区は当時、憲法上の地方公共団体ではないとされた(昭和38年)。地方公共団体は課税権の主体だが、条例の税は法律の範囲内(平成25年)。

次に読むなら、国会・内閣・裁判所の関係をわかりやすくがおすすめです。予算の衆議院の優越の日数や、内閣の仕事(73条)が、この記事の主語の問題とそのままつながります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。判例は裁判所ウェブサイトで確かめています。