違憲審査(いけんしんさ)は、裁判所が「この法律や処分は憲法に合っているか」を判断する仕組みです。憲法81条は、最高裁判所をこの判断の「終審裁判所(しゅうしんさいばんしょ=最後に判断する裁判所)」と定めています。対象は、一切の法律・命令・規則・処分です。
ただし、日本の裁判所は、具体的な事件の裁判の中でしか違憲かどうかを判断しません。また、最高裁判所だけでなく、地方裁判所などの下級裁判所も判断できます。この記事では、条文と、最高裁判所の裁判要旨で確かめた判例をもとに説明します。学説(法律学者の考え方)は、そのつど「学説」と書いて区別します。
身近な例で考えるとどうなるか
登場するのは、コンビニの店長のそうまさんと、会社員のれいなさんです。どちらも、ある架空の法律「深夜営業規制法」が憲法に違反していると考えています。
場面1:れいなさんは「この法律は違憲か」だけを聞きたい
れいなさんは、この法律で自分が何か不利益を受けたわけではありません。それでも、最高裁判所に「この法律が憲法に違反するかどうかを判断してほしい」と訴えを出しました。
この形の訴えについては、最高裁判所大法廷昭和27年10月8日判決(昭和27年(マ)第23号。事件名「日本国憲法に違反する行政処分取消請求」)があります。判決は、最高裁判所は「具体的事件を離れて抽象的に」法律や命令が憲法に合うかを決める権限を持たない、としました。つまり、自分の争いがないまま「違憲かどうか」だけを聞くことはできません。れいなさんの訴えは、このままでは認められません。
場面2:そうまさんは、自分の事件の中で違憲を主張する
そうまさんは、深夜に営業したとして、この法律で処罰されることになりました。そうまさんは、刑事裁判の中で「この法律は営業の自由を侵していて違憲だから、無罪だ」と主張しました。
これは、そうまさん自身の具体的な事件です。裁判所は、この事件を裁くために必要な範囲で、法律が憲法に合うかを判断できます。最初に裁判をする地方裁判所でも、違憲かどうかを判断できます。
- そうまさんが起訴される(具体的な事件が生まれる)。
- 地方裁判所が、事件を裁く前提として、法律が憲法に合うかを判断する。
- 判断に不服なら控訴・上告し、最後は最高裁判所が判断する(81条の「終審」)。
条文ではどう決まっているか
憲法の条文
- 81条:最高裁判所は、一切の法律・命令・規則・処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
- 98条1項:憲法は国の最高法規で、その条規に反する法律・命令などの全部または一部は、効力を有しない。
- 76条3項:すべて裁判官は、良心に従い独立して職権を行い、憲法と法律にだけ拘束される。
裁判所法の決まり
最高裁判所には、長官と14人の判事の全員(15人)でつくる大法廷(だいほうてい)と、3人以上でつくる小法廷があります(裁判所法5条・9条)。裁判所法10条は、次の場合は小法廷では裁判できないとしています。
- 当事者の主張にもとづいて、法律・命令・規則・処分が憲法に合うかを判断するとき(前に大法廷が「合憲」とした判断と同じになるときを除く)。
- 法律・命令・規則・処分が憲法に合わないと認めるとき。
- 憲法などの解釈適用で、前に最高裁判所がした裁判と意見が違うとき。
つまり、最高裁判所が法律などを「違憲」とするのは、大法廷です。
判例が示した基本のルール
- 具体的な事件が必要:上の昭和27年10月8日の大法廷判決。
- 下級裁判所も審査できる:最高裁判所大法廷昭和25年2月1日判決(昭和23年(れ)第141号。事件名「食糧管理法違反」)は、下級裁判所の裁判官も、事件に法律を適用するときに、その法律が憲法に合うかを判断できるとしました。81条は最高裁判所を終審と定めたもので、下級裁判所の判断する力を否定するものではない、という理由です。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例(具体的な事件の中で法律を違憲とした):最高裁判所大法廷平成17年9月14日判決(平成13年(行ツ)第82号。事件名「在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件」)です。外国に住む日本国民が起こした裁判でした。当時の公職選挙法は、この人たちの国政選挙での投票を全く認めていませんでした。判決は、これを憲法15条1項・3項などに違反するとしました。さらに判決は、国会が10年以上にわたり必要な法律をつくらなかったことを取り上げました。このような立法不作為(りっぽうふさくい=必要な法律をつくらないこと)は国家賠償法1条1項の上で違法だとして、国に慰謝料の支払いを命じました。
- 当てはまらない例(抽象的な訴え):場面1のれいなさん。自分の具体的な争いがないので、法律の違憲だけを最高裁判所に問うことはできません。
- ひっかけやすい例(条約):81条の文言には「条約」がありません。では、条約は裁判所のチェックをまったく受けないのでしょうか。最高裁判所大法廷昭和34年12月16日判決(昭和34年(あ)第710号。日米安全保障条約が憲法9条に違反するかが前提として争われた事件)は、そうは言っていません。判決の考え方は次のとおりです。国の存立の基礎に重大な関係があり、高度の政治性を持つ条約は、原則として裁判所の判断(司法審査)になじまない。ただし、「一見極めて明白に違憲無効」なら別で、そうでない限り裁判所の審査の外になる。
- ひっかけやすい例(衆議院の解散):最高裁判所大法廷昭和35年6月8日判決(昭和30年(オ)第96号。事件名「衆議院議員資格並びに歳費請求」)があります。解散でやめさせられた議員が、解散は無効だとして給料(歳費)を求めた裁判です。判決は、衆議院の解散の効力は、訴訟の前提問題(ぜんていもんだい=結論を出す途中で判断が必要になる問題)としても、裁判所の審査権限の外にあるとしました。こうした「高度に政治的な国の行為は裁判所が判断しない」という考え方を、学説では「統治行為論(とうちこういろん)」と呼びます。判決が「統治行為論を採る」と書いたわけではないので、学説の名前として覚えます。
似ているルールとどう違うか
付随的審査制と抽象的審査制(学説の分け方)
違憲審査のやり方には、大きく2つの型があると説明されます。この分け方と名前は、条文や判例ではなく学説のものです。
| 型 | どんなときに判断するか | 日本は |
|---|---|---|
| 付随的審査制 | 具体的な事件を裁く中で、必要なときだけ | こちら(昭和27年の判例) |
| 抽象的審査制 | 事件がなくても、法律そのものを審査 | 採っていない |
違憲判決の効力(学説の考え方)
最高裁判所が法律を違憲と判断したら、その法律は国会が直さなくても消えるのでしょうか。これについても学説が分かれます。
- 個別的効力説:違憲の判断は、その事件についてだけ効力を持つ。法律そのものを消すには、国会の改正や廃止が必要。
- 一般的効力説:違憲とされた法律は、一般的に効力を失う。
個別的効力説は、付随的審査制の「その事件を裁くために判断する」という性格と結びつけて説明される学説です。実際にも、違憲とされた規定は、そのあと国会の法改正で改められてきました。たとえば、尊属殺人(親などを殺した場合)の重い刑を定めていた刑法200条は、令和8年4月1日時点では「削除」となっています。また、民法900条4号ただし書のうち、嫡出でない子(ちゃくしゅつでないこ=結婚していない父母の子)の相続分を嫡出子の2分の1とする部分も、今の条文にはありません。
違憲判断が過去の事件に与える影響
最高裁判所大法廷平成25年9月4日決定(平成24年(ク)第984号)は、嫡出でない子の相続分の規定が「遅くとも平成13年7月当時において」憲法14条1項に違反していたとしました。そのうえで、この判断は、平成13年7月から決定の日までに始まったほかの相続のうち、遺産分割の審判や話し合いなどですでに確定したものには影響しないとしています。違憲の判断が、過去の解決を全部ひっくり返すわけではない、という例です。くわしい中身は法の下の平等の記事で説明しています。
試験ではここをまちがえやすい
行政書士試験の憲法では、81条の文言と判例の結論を組み合わせて、言いすぎにする形が問われやすいです。
- 最高裁判所だけ:「違憲審査権は最高裁判所だけが持つ」とする形。判例は下級裁判所も判断できるとしています。81条は最高裁判所を「終審」と定めたものです。
- 抽象的な審査:「最高裁判所は、事件がなくても法律の違憲を判断できる」とする形。判例は否定しています。
- 条約:「条約は81条に書かれていないので、およそ違憲審査の対象にならない」とする形。昭和34年の判例は、一見極めて明白に違憲無効なら審査が及ぶ余地を残しています。
- 解散:「衆議院の解散の効力も、前提問題としてなら裁判所が判断できる」とする形。判例は前提問題としても審査権限の外としています。
- 学説と判例の混同:「判例は統治行為論を採用したと明言した」「憲法に個別的効力説が書かれている」とする形。統治行為論・個別的効力説は学説の名前です。
- 小法廷と大法廷:「最高裁判所の小法廷でも法律を違憲とできる」とする形。裁判所法10条により、違憲と認めるときは小法廷では裁判できません。
- 立法不作為:「国会が法律をつくらなかったことは、国家賠償の対象になりえない」とする形。平成17年の判例は、例外的に違法となる場合があるとし、実際に慰謝料を認めました。
国家賠償法の仕組み自体は国家賠償法の記事で、多肢選択式で判例の文章が出たときの読み方は多肢選択式の解き方の記事で説明しています。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
そうまさんは、地方裁判所の刑事裁判で、自分を処罰する法律は憲法違反だと主張した。違憲審査権は最高裁判所だけにあるので、地方裁判所はこの点を判断できない。
答え:✕ 判例は、下級裁判所の裁判官も、事件に法律を適用するときに、その法律が憲法に合うかを判断できるとしています(最高裁判所大法廷昭和25年2月1日判決)。
問2(このサイトのオリジナル問題)
れいなさんは、自分の権利が何も侵されていないが、ある法律が憲法に違反するかどうかの判断だけを求めて、最高裁判所に直接訴えを出した。最高裁判所は81条にもとづき、この訴えで法律の違憲を判断できる。
答え:✕ 判例は、最高裁判所は具体的な事件を離れて抽象的に法律の違憲を判断する権限を持たないとしています(最高裁判所大法廷昭和27年10月8日判決)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
最高裁判所が、ある法律の規定を、当事者の主張にもとづき憲法に適合しないと判断するときは、大法廷で裁判しなければならない。
答え:○ 裁判所法10条は、法律などが憲法に適合しないと認めるときは、小法廷では裁判できないとしています。
まとめ
- 81条:最高裁判所は、一切の法律・命令・規則・処分が憲法に合うかを決める終審裁判所。
- 具体的な事件がなければ違憲審査はしない(付随的審査制。昭和27年の判例)。下級裁判所も審査できる(昭和25年の判例)。
- 高度の政治性を持つ条約は「一見極めて明白に違憲無効」でない限り審査の外(昭和34年の判例)。衆議院の解散の効力は審査権限の外(昭和35年の判例)。
- 最高裁判所が違憲とするときは大法廷(裁判所法10条)。
- 統治行為論・付随的審査制・個別的効力説は学説の名前。判例の結論と区別して覚える。
次に読むなら、国会・内閣・裁判所の関係の記事がおすすめです。違憲審査が、三権のチェックの中でどこに位置づくかが分かります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「日本国憲法」(第76条、第81条、第98条)
- e-Gov法令検索「裁判所法」(第5条、第9条、第10条)
- e-Gov法令検索「刑法」(令和8年4月1日時点の第200条〔削除〕)
- e-Gov法令検索「民法」(第900条)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和25年2月1日判決(昭和23年(れ)第141号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和27年10月8日判決(昭和27年(マ)第23号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和34年12月16日判決(昭和34年(あ)第710号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和35年6月8日判決(昭和30年(オ)第96号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 平成17年9月14日判決(平成13年(行ツ)第82号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 平成25年9月4日決定(平成24年(ク)第984号)
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