ひとことで言うと、職業選択の自由(22条1項)は「どんな仕事をするかを自分で決め、その仕事を続けてよい」という権利です。財産権(29条)は「自分の物やお金を持ち、使ってよい」という権利です。どちらも、社会全体のために法律で制限されることがある点が大事です。
試験では、規制が憲法に違反するかを判例がどう判断したかが問われます。この記事では、22条1項と、29条1項・2項を扱います。財産を公共のために使うときの補償(29条3項)は、損失補償の記事で扱っています。
身近な例で考えるとどうなるか
登場人物は3人です。駅前で医薬品の販売店を開きたいあやかさん、小さな商店が集まる市場を新しく作りたいりくさん、父から山林を兄と2人で相続しただいちさんです。
- あやかさん:県に医薬品の一般販売業(薬局ではない、医薬品の販売店)の許可を申請しました。県は「近くに薬局や販売店がある。配置が適正でない」として許可しませんでした。
- りくさん:小売市場(こうりいちば=1つの建物に小さな店がたくさん入る市場)を作るには、許可が必要でした。許可を受けずに作ったため、法律違反に問われました。
- だいちさん:兄と山林を半分ずつ持っています。仲が悪くなり、山林を分けたいと考えました。ところが当時の森林法186条は、持分(もちぶん=共有している割合)が2分の1以下の人は分割を請求できない、としていました。
3つとも実際に最高裁判所の判例があります。結論は、1は違憲、2は合憲、3は違憲です。同じ「お店を開く場所の制限」に見える1と2で結論が分かれたのはなぜか。そこが試験のいちばんの山場です。
条文ではどう決まっているか
22条(職業選択の自由など)
- 1項:「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」公共の福祉(こうきょうのふくし)=社会全体の利益、と考えておきます。
- 2項:だれでも、外国に移り住む自由、国籍を離れる自由を侵されない。2項には、1項と違って「公共の福祉に反しない限り」という言葉がありません。条文を読み比べるときに気づいておきたい点です。
最高裁判所大法廷昭和50年4月30日判決(昭和43年(行ツ)第120号。薬局の配置規制が争われた事件。一般に「薬事法距離制限事件」と呼ばれます)は、22条1項は「狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含」すると述べました。仕事を選ぶ自由だけでなく、選んだ仕事をどう営むかの自由も守られる、ということです。後者は教科書で「営業の自由」と呼ばれることがあります。
同じ判決は、職業は「社会的相互関連性が大きい」ので、精神的自由に比べて公権力による規制の要請が強い、とも述べています。仕事は他人や社会への影響が大きいので、制限される場面が多い、という意味です。精神的自由をより厳しく守るという学説の「二重の基準」は、表現の自由の記事で説明しています。
29条1項・2項(財産権)
- 1項:「財産権は、これを侵してはならない。」
- 2項:「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」
最高裁判所大法廷昭和62年4月22日判決(昭和59年(オ)第805号。一般に「森林法共有林事件」と呼ばれます)は、29条は「私有財産制度を保障しているのみでなく」、一人ひとりの財産権を基本的人権として保障している、としました。財産を持つ仕組み(制度)と、一人ひとりの財産の両方を守る、ということです。
判例の判断のしかた(判決文で確かめた枠組み)
- 許可制(昭和50年・薬局):許可制は職業の自由への強い制限なので、合憲といえるには、原則として「重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置」であることが要る。さらに、社会に生じる害を防ぐ消極的・警察的な措置なら、よりゆるやかな規制(営業の中身や方法の規制)では目的を十分に達成できないと認められることが要る。
- 社会経済政策の規制(昭和47年・小売市場):最高裁判所大法廷昭和47年11月22日判決(昭和45年(あ)第23号)は、社会経済政策の一手段として経済活動を規制することは「憲法が予定し、かつ、許容する」とした。裁判所が違憲とできるのは、立法府が裁量を逸脱し、規制が「著しく不合理であることの明白である場合に限つて」とした。
- 財産権の規制(昭和62年・森林法):規制の目的、必要性、内容、制限される財産権の種類・性質、制限の程度などを「比較考量して決すべき」とした。比較考量(ひかくこうりょう)=てんびんにかけて比べることです。
1と2をまとめて、規制の目的が「害を防ぐ(消極目的)」なら厳しめに、「社会や経済をよくする政策(積極目的)」ならゆるやかに審査する、という整理があります。これは教科書などで「規制目的二分論」と呼ばれます。判決文がこの名前を使っているわけではありません。また、後で見るように、目的だけで結論が決まるとは限りません。
当てはまる例・当てはまらない例
- 違憲(薬局の配置規制):昭和50年の大法廷判決は、配置規制の目的を「主として国民の生命及び健康に対する危険の防止という消極的、警察的目的」と見ました。薬局が増えすぎると競争で不良な薬が出回る、という理由づけは「単なる観念上の想定にすぎず、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたい」としました。そして、薬事法6条2項・4項(一般販売業に準用する26条2項を含む)は22条1項に違反し無効としました。
- 合憲(小売市場の許可規制):昭和47年の大法廷判決は、小売市場の許可規制を「中小企業保護政策の一方策としてとつた措置」と見ました。著しく不合理であることが明白とはいえないとして、22条1項に違反しないとしました。
- 合憲(公衆浴場の配置規制):銭湯の距離の制限は、最高裁判所大法廷昭和30年1月26日判決(昭和28年(あ)第4782号)で22条に違反しないとされました。最高裁判所第三小法廷平成元年3月7日判決(昭和60年(行ツ)第197号)も22条1項に違反しないとしています。
- 違憲(森林法186条):昭和62年の大法廷判決(対象は186条本文)は、森林を細かく分けすぎないようにして森林経営を安定させるという目的は、公共の福祉に合わないことが明らかとはいえない、としました。しかし、持分2分の1以下の共有者に一律に分割請求を認めないのは「必要な限度を超えた不必要な規制」として、29条2項に違反するとしました。目的はよいが、手段が行き過ぎ、という判断です。
- 合憲(会社の役員の短期売買):最高裁判所大法廷平成14年2月13日判決(平成12年(オ)第1965号)は、上場会社の役員や主要株主が自社の株を短い期間で売り買いして得た利益を、会社が提供するよう請求できるとする証券取引法164条1項を、29条に違反しないとしました。判断のしかたは、森林法の判決と同じく比較考量です。
だいちさんの例でいえば、民法256条1項は「各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。」としています。森林法186条は、この原則を山林について狭めていました。共有の基本ルールは共有の記事で確かめられます。
似ているルールとどう違うか
判例の結論と、判決が見た「目的」を並べます。
| 判例 | 判決が見た目的 | 結論 |
|---|---|---|
| 小売市場(昭和47年) | 中小企業の保護(政策) | 合憲 |
| 薬局(昭和50年) | 生命・健康への危険の防止 | 違憲 |
| 公衆浴場(平成元年3月7日) | 衛生の確保と、銭湯そのものの確保 | 合憲 |
| 森林法(昭和62年) | 森林経営の安定 | 違憲(手段が過剰) |
注意したいのは公衆浴場です。平成元年3月7日の判決は、目的を「国民保健及び環境衛生の確保にあるとともに」、既存の業者の経営を安定させて、自家風呂のない人に必要な銭湯そのものを確保することも目的にしている、としました。1つの規制に両方の目的があるとされた例です。「消極か積極か」の2つにきれいに分けられない場面もある、と覚えておきます。
また、森林法の判決は、財産権を規制する目的は積極的なものから消極的なものまで「多岐にわたる」と述べたうえで、比較考量で判断しました。職業の自由の判例の整理を、財産権の判例にそのまま当てはめないようにします。
22条と29条の違いは、ざっくり言えば「何をして稼ぐか」と「持っている物をどうするか」です。ただし本物の事件では両方が問題になることもあります。損失補償(29条3項)は「適法な行為で特別の損をしたときの埋め合わせ」で、規制そのものが憲法に違反するかという話とは別です。
試験ではここをまちがえやすい
- 22条1項の範囲を狭める型:「22条1項は職業を選ぶ自由だけで、職業を営む自由は含まない」は誤り。判例は職業活動の自由も含むとしています。
- 結論を入れかえる型:薬局は違憲、小売市場は合憲。森林法は違憲、証券取引法164条1項は合憲。
- 理由を入れかえる型:「著しく不合理であることの明白な場合に限って違憲」は小売市場の判決。「重要な公共の利益のために必要かつ合理的」は薬局の判決。逆にして出されても気づけるようにします。
- 違憲の範囲を広げる型:薬局の判決で違憲とされたのは、配置の適正を求めた薬事法6条2項・4項(26条2項で準用する部分を含む)です。「薬局の許可制そのものが違憲」とは判示していません。
- 森林法の理由をずらす型:「立法目的が公共の福祉に合わないので違憲」は誤り。目的は合わないことが明らかとはいえないとされ、手段が必要な限度を超えるとされました。
- 29条1項だけで答える型:「財産権は侵してはならないので、法律で制限できない」は誤り。2項で、財産権の内容は公共の福祉に合うように法律で定めるとされています。
- 学説名を判例の言葉とする型:「規制目的二分論」は教科書などでの呼び名です。判決文の言葉と区別して覚えます。
行政書士試験では、5肢択一式で判例の結論と理由を組み合わせて入れかえる形が考えられます。人権の判例の覚え方は憲法の勉強法の記事で、「何条の問題か」「結論」「理由の言葉」「裁判所と年月日」の4点で整理する方法を紹介しています。この記事の5つの判例も、この4点で書き出してみてください。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
憲法22条1項は、職業を選ぶ自由を保障しているが、選んだ職業をどのように営むかという職業活動の自由までは保障していない、とするのが判例である。
答え:✕ 最高裁判所大法廷昭和50年4月30日判決は、22条1項は職業選択の自由だけでなく、職業活動の自由の保障も含むとしました。
問2(このサイトのオリジナル問題)
小売市場の開設を許可制とした法律の規制について、最高裁判所は、規制の目的が国民の生命・健康への危険を防ぐことにあるとして、厳しく審査し、憲法22条1項に違反するとした。
答え:✕ 最高裁判所大法廷昭和47年11月22日判決は、小売市場の許可規制を中小企業保護政策の一方策と見て、著しく不合理であることが明白とはいえないとして、合憲としました。違憲とされたのは薬局の配置規制(昭和50年)です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
共有林について、持分が2分の1以下の共有者に分割請求を認めない森林法の規定は、森林経営の安定という立法目的が公共の福祉に合わないことが明らかなので、憲法29条2項に違反するとされた。
答え:✕ 違憲という結論は正しいですが、理由が違います。最高裁判所大法廷昭和62年4月22日判決は、目的は公共の福祉に合わないことが明らかとはいえないとし、一律に分割請求を否定する手段が必要な限度を超えた不必要な規制だとしました。
まとめ
- 22条1項は、職業選択の自由と職業活動の自由を含む。精神的自由より規制の要請が強いとされる。
- 薬局の配置規制は違憲(消極目的、必要性の根拠が足りない)。小売市場の許可規制は合憲(政策目的、明白に不合理ではない)。
- 「規制目的二分論」は教科書などでの呼び名。公衆浴場のように両方の目的があるとされた例もある。
- 29条は私有財産制度と個人の財産権の両方を保障する。財産権の規制は比較考量で判断する。
- 森林法186条は違憲(目的はよいが手段が過剰)。証券取引法164条1項は合憲。
次に読むなら、生存権・教育を受ける権利・労働基本権の記事がおすすめです。経済的自由が「国に邪魔されない権利」なのに対し、社会権は「国に何かをしてもらう権利」で、判例が国会の判断をどこまで尊重するかを比べると理解が深まります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。判例は、裁判所ウェブサイトの裁判要旨と判決文で確かめています。
- e-Gov法令検索「日本国憲法」(22条、29条)
- e-Gov法令検索「民法」(256条)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和50年4月30日判決(昭和43年(行ツ)第120号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和47年11月22日判決(昭和45年(あ)第23号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和30年1月26日判決(昭和28年(あ)第4782号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所第三小法廷 平成元年3月7日判決(昭和60年(行ツ)第197号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 昭和62年4月22日判決(昭和59年(オ)第805号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 平成14年2月13日判決(平成12年(オ)第1965号)
働く人の法律試験ノート