行政書士試験の憲法は、「人権」と「統治」に分けて勉強します。人権(第3章・第10条〜第40条)は、判例の結論と理由で点になります。統治(国会・内閣・司法・財政・地方自治など)は、条文の数字と主語で点になります。日本国憲法は前文と103条しかありません。だから最初に全文を一度読み通し、それから分野ごとに深めていくのが近道です。
出題数は公式に発表されていません。当サイトが令和3年度の問題で数えたところ、憲法は5肢択一式5問と多肢選択式1問でした(公式の内訳ではありません)。令和7年度の配点にあてはめると、4点×5問+8点で28点になります。行政法・民法ほど大きくはありません。それでも統治の条文は、覚えた分がそのまま点になりやすい分野です。
憲法は何問・何点で、どこまでやればよいか
行政書士試験研究センター(以下「センター」)は、科目ごとの問題数を表にして発表していません。当サイトが令和3年度の問題冊子の並びを数えた結果は、次のとおりです。法令等は基礎法学2問・憲法5問・行政法19問・民法9問・商法会社法5問でした。多肢選択式は憲法1問・行政法2問でした。年度によって変わることがある数字なので、目安として使います。科目全体の配点の考え方は科目と配点の記事にまとめています。
28点は、法令等244点の1割強です。当サイトのすすめる目標は「択一5問のうち3〜4問、多肢選択式の空欄4つのうち3つ以上」です。そこから先の時間は、行政法・民法に回します。全問正解をねらって判例をどこまでも広げるより、先に統治の条文で落とさない状態を作りましょう。そのほうが、勉強時間あたりの得点は大きくなります。
人権と統治はどう分けて勉強するか
同じ憲法でも、人権と統治では問われ方が違います。人権は、国が人の自由や権利をどこまで制限してよいか、という分野です。統治は、国会・内閣・裁判所などの国の仕組みの分野です。勉強の道具も分けたほうが進めやすくなります。
| 分野 | 条文の範囲 | 点になる勉強 |
|---|---|---|
| 総論・天皇・平和主義 | 前文、第1条〜第9条 | 国事行為(第7条)を条文で |
| 人権 | 第10条〜第40条 | 判例の結論と理由 |
| 統治 | 第41条〜第95条 | 数字・主語・手続を条文で |
| 改正・最高法規 | 第96条〜第99条 | 改正の手続の数字 |
人権の条文は短く、ざっくりした書き方です。たとえば第21条第1項は、表現の自由を「保障する」と書くだけです。どこまでの制限が許されるかは、条文からは決まりません。判例(過去の裁判所の判断)が示した結論と理由で判断することになります。だから人権は判例中心です。表現の自由の考え方は表現の自由の記事で、具体例とともに説明しています。
統治は逆です。任期、議決に必要な数、日数、誰が誰を任命するかが、条文に書かれています。問題は、それを入れ替えて作られます。統治は、条文を正確に覚えた人が勝つ分野です。国会・内閣・裁判所の関係の全体像は三権分立の記事でつかめます。
条文はどこまで読むか
日本国憲法は、前文と、第1章(天皇)から第11章(補則)までの103条です。e-Gov法令検索で章の区切りを確かめると、次のとおりです。
- 第3章「国民の権利及び義務」:第10条〜第40条
- 第4章「国会」:第41条〜第64条
- 第5章「内閣」:第65条〜第75条
- 第6章「司法」:第76条〜第82条
- 第7章「財政」:第83条〜第91条
- 第8章「地方自治」:第92条〜第95条
- 第9章「改正」:第96条
当サイトがすすめる読み方は、次の3段階です。
- 全文を1回、通して読む。意味が分からなくてもかまいません。休日に一度で読み切れる量です。どこに何が書いてあるかの地図を作るのが目的です。
- 第41条〜第96条を、数字と主語に線を引きながら読む。次の見出しの表に出てくる憲法の数字は、すべてこの範囲にあります。
- 人権の条文は、判例を読むたびに戻って確かめる。その判例が「何条の問題か」を、条文の言葉と結びつけて覚えます。
人権の条文では、主語の違いも見ておきます。第13条・第14条・第25条は「すべて国民は」で始まります。第18条・第22条・第31条などは「何人(なんぴと)も」で始まります。「何人も」は「だれでも」という意味です。主語を入れ替えた選択肢は作りやすい形です。読むときに主語にも印をつけておくと、見抜けます。条文を引く道具については六法は必要かの記事で考えています。
統治の数字は条文で一覧にして覚える
統治で問われる数字を、e-Gov法令検索の条文で確かめて並べました。会期(国会が開かれている期間)の日数と延長の回数は、憲法ではなく国会法(昭和22年法律第79号)の定めです。そのため、分けて書いています。
国会・議院の数字
表の言葉を少し補います。常会は毎年開かれるふだんの国会、臨時会は必要なときに開く国会です。定足数(ていそくすう)は、会議を開くのに最低限必要な出席者の数です。除名は、議員をやめさせることです。資格争訟(しかくそうしょう)は、議員にその資格があるかどうかを議院が決める手続きです。
| 項目 | 数字 | 条文 |
|---|---|---|
| 衆議院議員の任期 | 4年(解散で満了前に終了) | 第45条 |
| 参議院議員の任期 | 6年、3年ごとに半数改選 | 第46条 |
| 常会の召集 | 毎年1回 | 第52条 |
| 臨時会の召集要求 | いずれかの議院の総議員の4分の1以上 | 第53条 |
| 解散後の総選挙 | 解散の日から40日以内 | 第54条1項 |
| 総選挙後の国会召集 | 選挙の日から30日以内 | 第54条1項 |
| 緊急集会の措置の効力 | 次の国会開会後10日以内に衆議院の同意がなければ失効 | 第54条3項 |
| 議事を開く定足数 | 総議員の3分の1以上の出席 | 第56条1項 |
| 秘密会 | 出席議員の3分の2以上の議決 | 第57条1項 |
| 表決の会議録記載 | 出席議員の5分の1以上の要求 | 第57条3項 |
| 議員の除名 | 出席議員の3分の2以上 | 第58条2項 |
| 資格争訟で議席を失わせる | 出席議員の3分の2以上 | 第55条 |
衆議院の優越・内閣・裁判所・改正の数字
衆議院の優越とは、衆議院と参議院の意見が分かれたとき、衆議院の判断を優先するルールです。表の「みなし否決」は、参議院が期限までに決めないとき、衆議院が「参議院は反対した」と扱えることです。
| 項目 | 数字 | 条文 |
|---|---|---|
| 法律案の再可決 | 衆議院の出席議員の3分の2以上 | 第59条2項 |
| 法律案のみなし否決 | 休会中を除いて60日以内に参議院が議決しない | 第59条4項 |
| 予算の衆議院の議決 | 休会中を除いて30日以内に参議院が議決しない | 第60条2項 |
| 首相指名の衆議院の議決 | 休会中を除いて10日以内に参議院が指名しない | 第67条2項 |
| 不信任のあとの総辞職 | 10日以内に衆議院が解散されない限り | 第69条 |
| 国務大臣のうち国会議員 | 過半数 | 第68条1項 |
| 最高裁裁判官の国民審査 | 任命後初の衆院総選挙。以後は10年経過後初の衆院総選挙 | 第79条2項 |
| 下級裁判所の裁判官の任期 | 10年(再任可) | 第80条1項 |
| 憲法改正の発議 | 各議院の総議員の3分の2以上 | 第96条1項 |
| 国民の承認 | 投票の過半数の賛成 | 第96条1項 |
国会法で決まっている会期の数字
- 常会の会期は150日間(国会法第10条)。
- 臨時会・特別会の会期は、両議院一致の議決で定める(同第11条)。
- 会期の延長は、両議院一致の議決でできる。ただし常会は1回、特別会・臨時会は2回を超えてはならない(同第12条)。
- 会期の決定や延長で両議院の議決が一致しないとき、または参議院が議決しないときは、衆議院の議決による(同第13条)。
数字より先に見る「総議員か、出席議員か」
表を見比べると、同じ「3分の2」でも基準が違います。憲法改正の発議は「総議員」です。秘密会・除名・法律案の再可決は「出席議員」です。定足数の3分の1と、臨時会の4分の1も「総議員」が基準です。数字はそのままで基準だけを入れ替えた選択肢は、作りやすいひっかけの形です。覚えるときは「数字+誰を分母にするか」をひとまとまりにしてください。
数字で比べると、違いがよく分かります。たとえば、議員が100人いる議院で、60人が出席したとします。「出席議員の3分の2以上」なら、40人の賛成で足ります。「総議員の3分の2以上」なら、67人以上の賛成が必要です。出席が60人では、全員が賛成しても足りません。(人数は説明のための例です。)
もう一つは「国会休会中の期間を除いて」の一言です。第59条4項・第60条2項・第67条2項の60日・30日・10日には、どれもこの限定がついています。第69条の10日にはついていません。期間の数字は、こうした限定まで含めて、条文の形のまま覚えます。そうすると、ひっかけに強くなります。
人権は判例の何を覚えればよいか
人権の判例は、1件ごとに次の4つを短く書き出せる状態を目標にします。
- 何条の問題か(どの権利が争われたか)。
- 結論は合憲か違憲か。違憲なら、法令そのものか、その当てはめ方か。
- 結論を決めた理由の言葉(判決の中のキーワード)。
- 裁判所と年月日。とくに大法廷か小法廷か。
4つ目の「大法廷かどうか」には理由があります。大法廷は最高裁の裁判官全員で、小法廷は一部の裁判官で裁判をする場です。裁判所法第10条は、法律などが憲法に合わないと認めるときは、小法廷では裁判ができないと定めています。だから最高裁が法令を違憲と判断した例は、大法廷の裁判として出てきます。裁判所が法律をチェックする仕組みは違憲審査の記事で説明しています。
判例は、裁判所ウェブサイトの裁判例検索で、判示事項と裁判要旨(判決のポイントをまとめた部分)を最初に読みます。たとえば次の2件は、裁判所ウェブサイトで内容を確かめられます。
- 最高裁判所大法廷 平成17年9月14日判決(平成13年(行ツ)第82号、在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件)。平成10年改正前の公職選挙法は、国外に住む日本国民に、国政選挙での投票を全く認めていませんでした。判決は、これを憲法に違反するとしました。改正後も、投票できる選挙を当分の間は比例代表に限っていました。この部分も、遅くともこの判決後に初めて行われる衆議院議員の総選挙または参議院議員の通常選挙の時点で、違憲になるとしています。そして、次回の選挙で投票できる地位にあることを確認しました。対象は、衆議院小選挙区選出議員の選挙と、参議院選挙区選出議員の選挙です。在外選挙人名簿に登録されていることに基づく地位です。参照法条には、憲法第15条第1項・第3項、第41条、第43条第1項、第44条などが挙げられています。さらにこの判決は、国会が長く法律を作らなかったことを国家賠償法上違法とし、国に慰謝料の支払いを命じた部分も含みます。
- 最高裁判所大法廷 平成25年9月4日決定(平成24年(ク)第984号)。民法第900条第4号ただし書前段は、嫡出(ちゃくしゅつ)でない子(結婚していない父母の子)の相続分を、嫡出子の2分の1としていました。決定は、この規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法第14条第1項に違反していた、としました。あわせて、その時点から決定までの間に開始した他の相続にも触れています。遺産分割の審判や協議などで確定した法律関係には、影響しないと述べています。
2件目のように、「いつの時点で違憲だったか」「過去の事件にどう影響するか」まで判断する判例もあります。結論の一語(違憲)だけでなく、その範囲まで読みましょう。そうすると、選択肢の言い過ぎを見抜けるようになります。法の下の平等(第14条)の考え方は法の下の平等の記事にまとめています。どの判例まで手を広げるかは、教材の判例集と、センターが公開している過去の問題で決めます。公開されている年度と使い方は過去問の記事にまとめています。
自作の問題で、ひっかけの型を確かめる
統治の条文が身についたかを確かめる問題です(このサイトのオリジナル問題)。正しいか誤りかを判断してください。
- 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決したときは、30日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。→ 誤り。第69条は「十日以内」です。
- 憲法改正の発議には、各議院の出席議員の3分の2以上の賛成が必要である。→ 誤り。第96条1項は「総議員の三分の二以上」です。
- 常会の会期は150日間で、両議院一致の議決により2回まで延長できる。→ 誤り。150日間は正しいです(国会法第10条)。でも、常会の延長は1回までです(同第12条2項)。
- 参議院議員の任期は6年で、3年ごとに議員の半数を改選する。→ 正しい(第46条)。
どれも、数字・分母・回数のどれか一つだけを入れ替えた形です。誤りの選択肢を見たら、「どの一語を変えたか」を自分で言えるようにしておきます。そうすると、本番で迷う時間が減ります。
多肢選択式の憲法1問にどう備えるか
多肢選択式は、文章の空欄4つに、語群(選ぶ言葉の一覧)から言葉を入れる形式です。令和7年度の配点では1問8点(空欄1つ2点)です。空欄の前後の流れと言葉づかいから選ぶ問題なので、備え方は択一式の延長です。中心になるのは、判例を読むときに「結論を支える言葉」を判決の言い回しのまま覚えておくことです。
統治の条文も、空欄の候補になります。たとえば第81条は、最高裁判所を「一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所」としています。条文の言葉をそのまま読んでおけば、語群に似た言葉が並んでも選べます。空欄の埋め方そのものは、多肢選択式の解き方の記事で手順を説明しています。
いつ始めて、どこで止めるか
科目の順番は、配点の大きい行政法と民法の1周目のあとに憲法を入れるのが、当サイトのすすめです(順番の全体は独学の進め方の記事)。ただし、全文の通し読みだけは早めにやっておく価値があります。行政法の勉強では「法律による行政」「適正手続」などの考え方が出てきます。そのとき憲法の条文の位置が分かっていると、理解が速くなるからです。
止めどころの基準は次のとおりです。
- 統治:上の表の数字を、分母と限定(休会中を除く、など)まで含めて言える。ここまでは削らない。
- 人権:教材の判例集に載っている判例について、4つの項目(条文・結論・理由・裁判所と年月日)が言える。学者の説の対立を細かく追うのは後回し。
- 過去の問題で、正解の選択肢だけでなく、誤りの選択肢の「どこが誤りか」を説明できる。
試験までの期間に憲法をどこへ入れるかは、ほかの科目と並べて決めると無理がありません。勉強スケジュールの記事が使えます。令和8年度試験は、令和8年4月1日現在施行の法令が対象です。ただ、日本国憲法は制定以来改正されていません。だから、条文の版を気にする必要はありません(国会法などの関連する法律は、その時点の条文を確かめます)。
次に読むなら、基礎法学の記事がおすすめです。同じカテゴリーの科目で、憲法の司法の章とつながる内容を扱っています。たとえば裁判所の種類や審級(何回まで裁判を受けられるか)、大法廷と小法廷の決まりです。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「日本国憲法」(第7条、第13条〜第15条、第21条、第22条、第25条、第45条、第46条、第52条〜第60条、第67条〜第69条、第79条〜第81条、第96条)
- e-Gov法令検索「国会法」(第10条〜第13条)
- e-Gov法令検索「裁判所法」(第10条)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 平成17年9月14日判決(平成13年(行ツ)第82号)
- 裁判所ウェブサイト 最高裁判所大法廷 平成25年9月4日決定(平成24年(ク)第984号)
- 行政書士試験研究センター「令和7年度 合否判定基準」(PDF)
- 同「過去の試験問題と正解」
- 同「試験案内」
働く人の法律試験ノート