表現の自由をわかりやすく:検閲と事前抑制の違い、二重の基準

表現の自由は、言いたいことを話す・書く・配る・集まって訴えるなどの自由です。憲法21条1項が保障し、2項は「検閲」を禁止しています。表現は、発表される前に止められると、誰の目にも触れないまま消えてしまいます。そのため、発表前に止めることは特に厳しく見られます。

試験で大事なのは、次の3つを区別することです。1つ目は、例外なく禁止される「検閲」。2つ目は、原則として許されない「事前抑制(じぜんよくせい=発表の前に止めること)」。3つ目は、学説の考え方である「二重の基準」です。この記事では、判例は最高裁判所の裁判要旨で確かめたものだけを紹介し、学説ははっきり「学説(考え方)」と書いて区別します。

身近な例で考えるとどうなるか

登場するのは、高校2年生のあおいさんです。友人のれんさんと2人で、町の話題をまとめた無料の情報誌「みなと通信」をつくり、駅前で配っています。

場面1:市が「配る前に原稿を見せなさい」と決めた

架空の話として、市が次のような条例をつくったとします。「市内で配る印刷物は、すべて配る前に市役所に原稿を出し、内容が不適当なら配布を禁止する」。

これは、行政(市役所)が、発表前に、すべての印刷物の中身を調べて、不適当なものを禁止する仕組みです。判例のいう「検閲」の特徴にぴったり当てはまります。検閲は憲法21条2項で禁止されていて、判例は「公共の福祉」を理由にした例外も認めない趣旨だとしています。

場面2:市長候補が、記事の差止めを裁判所に求めた

「みなと通信」の次の号に、市長選挙の候補者を強く批判する記事が載る予定でした。候補者は「うそで名誉が傷つく」として、裁判所に配布の差止め(さしとめ=やめさせること)を求めました。

止めようとしているのは行政ではなく、裁判所です。判例は、裁判所の仮処分(かりしょぶん=裁判の結論が出る前の、急ぎの命令)による出版物の事前差止めは「検閲」には当たらないとしています。ただし、公務員や選挙の候補者への批判を発表前に止めることは、原則として許されないとしています。

場面3:市民会館で集会を開きたい

あおいさんたちは、通信の読者と市民会館で意見交換会を開こうとしました。市民会館の使用を断れるのは、どんなときでしょうか。判例は、集会の自由の大切さを重く見て、断れる場合をしぼっています(くわしくは後で説明します)。

条文ではどう決まっているか

憲法21条

  • 1項:集会・結社・言論・出版その他「一切の表現の自由」を保障する。結社(けっしゃ=人が集まって団体をつくること)も含まれる。
  • 2項前段:「検閲は、これをしてはならない。」
  • 2項後段:「通信の秘密は、これを侵してはならない。」手紙やメールなどの中身を、勝手に見られない。

判例が示した「検閲」の意味

最高裁判所大法廷昭和59年12月12日判決(昭和57年(行ツ)第156号。税関長の「輸入禁制品に当たる」という通知が争われた事件。一般に「札幌税関検査事件」と呼ばれます)は、検閲を次のようなものだとしました。

  1. 行政権が主体となって行う。
  2. 思想の内容などの表現物が対象。
  3. 発表前に、網羅的・一般的に(もうらてき・いっぱんてき=個別のものだけでなく、まとめて全部を)内容を調べる。
  4. 不適当と認めたものの発表を禁止する。

同じ判決は、検閲の禁止は公共の福祉を理由にした例外も認めない趣旨だとしました。そのうえで、輸入の手続きで税関が行う検査は「検閲」に当たらないと判断しています。

判例が示した「事前差止め」の条件

最高裁判所大法廷昭和61年6月11日判決(昭和56年(オ)第609号。公職選挙の候補者への批判を含む雑誌の、仮処分による事前差止めが争われた事件。一般に「北方ジャーナル事件」と呼ばれます)の要旨は次のとおりです。公職選挙とは、知事・市長や議員などを選ぶ選挙のことです。

  • 仮処分による出版物の事前差止めは、検閲には当たらない。
  • 名誉を傷つけられた人は、人格権(じんかくけん=人が人として大切にされる権利)としての名誉権にもとづいて、侵害の差止めを求めることができる。
  • 公務員や公職選挙の候補者への評価・批判に関する出版物の事前差止めは、原則として許されない。
  • 例外として許されるのは、次の2つがそろうときに限られる。①表現の内容が真実でないこと、または専ら公益(もっぱらこうえき=みんなの利益)を図る目的でないことが明白であること。②被害者が重大で著しく回復困難な損害を受けるおそれがあること。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 検閲に当たる例:場面1の条例。行政が、発表前に、印刷物をまとめて全部調べ、不適当なものを禁止する。4つの特徴がそろっています。
  • 検閲に当たらない例(裁判所):場面2の差止め。主体が裁判所なので、検閲の「行政権が主体」に当たりません。ただし、検閲でないから自由に止めてよいわけではありません。選挙の候補者への批判なら、上の厳しい例外の条件を満たすときだけ止められます。
  • 検閲に当たらない例(税関):れんさんが海外の写真集を取り寄せたところ、税関で輸入を止められた。判例は、税関検査は検閲に当たらないとしています。
  • ひっかけやすい例(集会):あおいさんの意見交換会について、市が「なんとなく騒ぎになりそうだから」と市民会館の使用を断る。最高裁判所第三小法廷平成7年3月7日判決(平成元年(オ)第762号。泉佐野市民会館の使用不許可が争われた事件。一般に「泉佐野市民会館事件」と呼ばれます)は、条例の「公の秩序をみだすおそれがある場合」を限定して読みました。単に危険が起こるおそれがあるだけでは足りず、「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されることが必要」としています。「なんとなく」では足りません(その事件自体では、具体的な事情から不許可は適法とされました)。
  • ひっかけやすい例(取材):報道機関の取材フィルムを、刑事裁判の証拠として出すよう命じられた。最高裁判所大法廷昭和44年11月26日決定(昭和44年(し)第68号。報道機関に取材フィルムの提出が命じられた事件。一般に「博多駅事件」と呼ばれます)は、報道の自由は21条の保障のもとにあり、取材の自由も21条の精神に照らして「十分尊重に値いする」としました。ただし、提出命令は、犯罪の重さや証拠としての必要性と、報道の自由への影響などを比べて判断するとしています。取材の自由も、どんな場合でも制限できないわけではありません。

似ているルールとどう違うか

検閲と事前抑制と事後の処罰

比べる点検閲裁判所の事前差止め発表後の責任
誰が行政裁判所裁判所など
いつ発表前発表前発表後
許されるか例外なく禁止原則だめ、厳しい例外あり名誉毀損などで責任を問える

検閲は「事前抑制」の中でも特に強いものです。事前抑制がきらわれるのは、発表前に止めると、読み手が中身を見て判断する機会そのものがなくなるからです。発表後なら、うそは反論や裁判で正せます。

二重の基準(学説(考え方))

「二重の基準」は、条文や判例の言葉ではなく、学説(考え方)です。内容は次のとおりです。

  • 表現の自由のような「精神的自由」を制限する法律は、裁判所が厳しく審査する。
  • 営業の自由のような「経済的自由」を制限する法律は、国会の判断を尊重して、ゆるやかに審査する。

この考え方の理由として、学説は主に2つを挙げます。1つは、表現の自由が制限されると、選挙や議論でまちがいを正す道そのものがふさがれること。もう1つは、経済の政策は国会のほうが判断に向いていることです。

試験では、この説明が「判例はこう判示した」という形で出ても、うのみにしないことが大切です。判例の要旨で確かめた結論と、学説の説明を混ぜないようにしてください。判例と学説の分け方は、憲法の勉強法の記事でも説明しています。

試験ではここをまちがえやすい

行政書士試験の憲法では、判例の結論と理由の組み合わせを入れかえる形が問われやすいです。

  • 主体の入れかえ:「裁判所による出版物の事前差止めは検閲に当たり、許されない」とする形。判例は検閲に当たらないとしたうえで、原則として許されないとしています。「検閲ではない」と「原則禁止」は両立します。
  • 例外の有無:「検閲も公共の福祉のためなら許される」とする形。昭和59年12月12日の判例は、例外を認めない趣旨としています。
  • 税関検査:「税関検査は検閲に当たる」とする形。判例は当たらないとしています。
  • 事前差止めの条件の一部だけ:「内容が真実でなければ、それだけで差止めできる」とする形。真実でないことなどが「明白」で、かつ「重大で著しく回復困難な損害」のおそれが必要です。
  • 集会の制限の基準:「危険が起こるおそれがあれば不許可にできる」とする形。平成7年3月7日の判例は、明らかな差し迫った危険が具体的に予見されることを求めました。
  • 学説と判例の混同:「二重の基準は憲法の条文に書かれている」「判例が二重の基準を定めた」とする形。二重の基準は学説(考え方)として覚えます。

多肢選択式では、判例の文章の中の言葉(「検閲」「事前抑制」「公共の福祉」など)を空欄から選ぶ形もあります。語群の読み方は多肢選択式の解き方の記事を参考にしてください。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
市長選挙の候補者が、自分を批判する情報誌の配布を止めるよう裁判所に求めた。裁判所が仮処分で配布を事前に差し止めることは、憲法21条2項の「検閲」に当たるので、どんな場合も許されない。

答え:✕ 判例は、仮処分による事前差止めは検閲に当たらないとしています(最高裁判所大法廷昭和61年6月11日判決)。ただし、候補者への批判の差止めは原則として許されず、内容が真実でないことなどが明白で、重大で著しく回復困難な損害のおそれがあるときに限って認められます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
行政が主体となり、発表前に表現物の内容をまとめて調べ、不適当なものの発表を禁止する仕組みは、公共の福祉のために必要であれば許される。

答え:✕ これは判例のいう「検閲」の特徴です。判例は、検閲の禁止は公共の福祉を理由とする例外も認めない趣旨としています(最高裁判所大法廷昭和59年12月12日判決)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
「精神的自由を制限する法律は、経済的自由を制限する法律より厳しく審査すべきだ」という二重の基準は、憲法21条に書かれているルールである。

答え:✕ 21条には、表現の自由の保障と、検閲の禁止・通信の秘密が書かれているだけです。二重の基準は学説(考え方)です。

まとめ

  • 憲法21条1項は一切の表現の自由を保障し、2項は検閲を禁止し、通信の秘密を守る。
  • 検閲は「行政が・発表前に・まとめて全部調べて・不適当なものを禁止する」もの。例外なく禁止(昭和59年12月12日の大法廷判決)。税関検査は検閲に当たらない。
  • 裁判所の仮処分による出版の事前差止めは検閲ではないが、公務員や候補者への批判なら原則として許されない(昭和61年6月11日の大法廷判決)。
  • 集会のための施設の使用は、明らかな差し迫った危険が具体的に予見されるときに限って断れる(平成7年3月7日の判決)。
  • 二重の基準は学説(考え方)。判例の結論と混ぜない。

次に読むなら、違憲審査の記事がおすすめです。裁判所が法律や処分を憲法に照らしてチェックする仕組みが分かると、ここで見た判例が「どういう裁判の中で出た判断か」がつかみやすくなります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)