行政書士試験は、年齢・学歴・国籍に関係なく、誰でも受験できます。講座を受けることなども、条件になっていません。独学で受けても、制度の上で不利になることはありません。
独学で最初に決めるのは3つです。①教材は「基本書・過去問集・条文・模試」の4種類をそろえる。②科目は、配点の大きい行政法と民法から始める。そのあと憲法、基礎知識、商法・会社法と基礎法学の順に広げる。③試験日(毎年11月の第2日曜日)から逆算して(試験日から引き算して)、1年を4つの時期に分ける。この記事では、この3つを順に具体的に決めていきます。
独学で受けるときに何が難しいのか
独学と講座利用で、合格率を比べた公式の統計はありません。行政書士試験研究センター(以下「センター」)は、試験を実施する機関です。そのため、よくある質問でも「資格講座や教材に関するお問合せにもお答えすることはありません」としています。勉強のしかたについて公式の答えはない、という前提から始めます。
そのうえで言うと、独学の難しさは、中身よりも「段取り」にあります。講座なら決まっている次の3つを、独学では自分で決めなければなりません。
- どこまでやるか(範囲と深さ)
- どの順番でやるか
- いつまでに何を終えるか(ペース)
範囲と深さを決める物差しは、試験の配点と合格基準です。令和7年度の合否判定基準では、満点300点のうち、法令等が244点、基礎知識が56点でした。合格には、法令等122点以上・基礎知識24点以上・全体180点以上の3つを、全部満たす必要がありました(基準は見直される=補正されることがあります)。全体の仕組みは科目と配点の記事にまとめています。
教材は4種類:何を基準に選ぶか
独学の教材は、役割の違う4種類を組み合わせます。商品名ではなく、選ぶときに確かめる点で整理します。基本書とは、試験範囲を説明した教科書のような本です。
| 種類 | 役割 | 選ぶ基準 |
|---|---|---|
| 基本書 | 全体の地図 | 対応する法令の基準日、条番号の記載、通読できる量 |
| 過去問集 | 出方を知る | 分野別か、解説に根拠条文があるか |
| 条文 | 答えの根拠 | 4月1日時点の条文か |
| 模試 | 本番の練習 | 本番と同じ形式・時間か |
基本書(テキスト)
試験の範囲全体を、1冊(または少ない冊数)で通せるものを選びます。確かめる点は3つです。まず、どの時点の法令に対応しているか。令和8年度試験は、令和8年4月1日現在施行の(その日に効いている)法令から出題されます。行政書士法は、令和8年1月1日に改正法が施行されて、条番号が変わっています。そこが直っているかは、分かりやすい目印です(行政書士法の改正の記事)。次に、本文に条番号が書いてあるか。後で条文を調べるときに必要です。最後に、自分が最後まで読み通せる分量か。書店や見本のページで数ページ読んで、説明の言葉が頭に入るものを選びます。
過去問集
過去問集には、分野ごとに並べたものと、年度ごとに並べたものがあります。基本書と並行して使うのは、分野別です。読んだ単元の問題を、すぐ解けるからです。年度別は、試験の数か月前から、時間を計って解く練習に使います。解説に根拠の条文が書いてあるかも確かめます。法改正で答えが変わった問題に、注意書きがあるかも見ます。
センターのサイトでは、令和2年度から令和7年度までの6年分の問題(PDF)と正解が公開されています(過去の試験問題と正解)。解説はありません。著作権の関係で、載っていない問題もあります。年度別の通し練習には、この公式PDFが使えます。
条文
条文は、e-Gov法令検索で無料で読めます。行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法は、条文の数が比較的少なめです。全体を通して読む価値があります。民法は条文が多いので、使い方を変えます。基本書と過去問で出てきた条文を、そのつど原文で確かめます。紙の法令集を使う場合も、基準日に合っているかを確かめます。
模試
模試は、本番と同じ3時間・同じ出題形式(5肢択一式・多肢選択式・記述式)で解けるものを選びます。目的は、点数を知ることより、時間配分と、3つの合格条件のどれが危ないかを知ることです。受けるなら、試験の2〜3か月前からです。結果は、総得点より次の2つを見ます。法令等・基礎知識それぞれの基準との差と、形式ごとにどこで点を落としたかです。
科目はどの順番で進めるか
順番は、配点の大きい科目を先にします。そうすれば、復習の回数を多く取れます。法令等の科目ごとの問題数は、センターが表で公表しているものではありません。参考に、令和3年度の問題PDFの並びを、当サイトで数えました。5肢択一式40問のうち、行政法の範囲がおよそ19問、民法が9問でした。憲法と商法・会社法はそれぞれ5問前後、基礎法学は2問前後です。同じ年度の多肢選択式3問は憲法1・行政法2、記述式3問は行政法1・民法2でした。これは当サイトが数えたもので、公式の内訳ではありません。年度によって変わることがあるので、目安として見てください。
- 行政法:配点がいちばん大きい科目です。条文の要件(当てはまる条件)で答えが決まる問題が中心です。行政法の中では、行政手続法から入るのがおすすめです。条文は第1条から第46条まで(「第◯条の2」のように枝分かれした番号の条を含む)です。章は「申請に対する処分」「不利益処分」「行政指導」「処分等の求め」「届出」「意見公募手続等」と、手続きの種類ごとに分かれています。法律の組み立てをつかむ練習になります。
- 民法:択一と記述の両方で配点が大きい科目です。範囲が広く、理解が固まるまで時間がかかります。行政法と並行して、早めに1周目を始めます。範囲の絞り方は民法の勉強法の記事。
- 憲法:人権と統治(国会・内閣・裁判所などの国の仕組み)の2つに分かれます。人権は、判例(過去の裁判の判断)の結論と理由を読みます。統治は、条文を中心に読みます。
- 基礎知識:足切りがあるので、行政法・民法の1周目のあとに入れます。文章理解だけは、最初から週に少しずつ進めます。範囲と6問の取り方は基礎知識の記事。
- 商法・会社法、基礎法学:範囲が広いわりに、問題数が少ないので最後に回します。ただし、ゼロにはしません。基本書のその部分は、一度通して読みます。
1年の計画は試験日から逆算する
試験は毎年1回、11月の第2日曜日の午後1時から4時までです。令和8年度は11月8日(日)でした。インターネット申込は7月21日(火)午前9時から8月24日(月)午後5時まで。郵送申込は8月17日(月)の消印まで有効でした。翌年度の日程は、その年の試験案内で確かめてください(試験日程の記事)。
1年(約12か月)ある場合の分け方の例です。残りが短い場合は、それぞれの時期を同じ割合で縮めます。
| 時期 | 主にやること | 終わりの目安 |
|---|---|---|
| 12〜9か月前 | 行政法・民法の1周目、分野別過去問 | 2科目を一通り読んだ |
| 9〜6か月前 | 行政法・民法の2周目、憲法 | 分野別過去問の2周目 |
| 6〜3か月前 | 基礎知識、商法・会社法、記述の練習、申込 | 全科目に一度手が付いた |
| 3か月前〜当日 | 年度別の通し練習、模試、弱点の復習 | 3時間で解き切れる |
この表の要点は、「3か月前の時点で、全科目に一度は手が付いている」ことです。たとえば、さくらさんが11月に始めるとします。1周目は2月ごろまで、2周目は5月ごろまでです。全科目に手を付けるのは8月ごろまでです。そこから当日までは、通し練習と見直しの時期です。最後の3か月は、新しい範囲を増やすより、まちがえた問題と条文の見直しに使います。
過去問はどう使うか
過去問は「解けたかどうか」より、「選択肢一つひとつが正しいか誤りか、理由を言えるか」を確かめるために使います。当サイトがすすめる手順は次のとおりです。
- 基本書で1単元を読んだら、その単元の分野別過去問を解く。
- 正解の選択肢だけでなく、誤りの選択肢について「どこが違うか」を一言で書く。
- 理由になる条文を、e-Govで原文のまま確かめる。解説の条番号が、改正前のものでないかも見る。
- まちがえた問題には日付を書く。1週間後と1か月後に、もう一度解く。
どこまで深くやるかは過去問で決める
独学でいちばん迷うのは、「この説明はどこまで覚えるのか」です。当サイトでは、分野別過去問を物差しにすることをすすめます。基本書のうち、過去問の選択肢で問われた所に印をつけます。そこと、その周りの条文を先に固めます。印のない所は、2周目以降に回します。こうすると、限られた時間を、試験で問われた形に近い知識から順に使えます。
ただし、過去に問われた所だけが範囲ではありません。印のついた条文を読むときは、同じ条のほかの項や、すぐ前後の条にも目を通しておきます。過去に問われていない条文が、出ないとは限らないからです。
古い年度の問題は、今の法令では答えが変わっていることがあります。とくに行政書士法は、令和8年1月施行の改正で、条番号と言葉が変わっています。解説を、今の条文で読み替えてください。
記述式と多肢選択式はいつ始めるか
令和7年度の配点では、記述式は1問20点で3問、合わせて60点でした。多肢選択式(文章の空欄に入る語句を選ぶ形式)は1問8点(空欄1つ2点)で3問、24点です。どちらも、択一の知識があってこそ解ける形式です。だから、始めるのは行政法・民法の1周目が終わってからで足ります。
記述式は、40字程度で答えを書く形式です。知識があっても、40字に収める練習をしていないと、本番で書き切れません。6か月前ごろから、週に1〜2問、条文の要件を40字にまとめる練習を入れます。書き方の型と部分点の考え方は記述式の書き方の記事にあります。
独学で止まりやすい場面と、その対処
- 分からない所で止まる:1周目は、印をつけて先へ進みます。民法の初めのほうで分からなかったことが、後ろの単元を読んで分かることがあります。2周目で戻ります。
- 教材を増やしたくなる:4種類がそろったら、増やす前に、今の過去問集の2周目を終えます。教材を替えると、また最初の1周からになります。
- 法改正が気になる:基準日は4月1日です。教材が古くても、改正があった条文だけをe-Govで確かめれば大丈夫です。教材全体を買い替えなくても対応できます。
- 模試の点で落ち込む:総得点より、3つの合格条件それぞれとの差を見ます。足りない条件が分かれば、次の1か月にやることが決まります。たとえば、基礎知識だけが20点で足りないなら、次の1か月は基礎知識の勉強を増やします。
- 忙しい週が続いて途切れる:まったく勉強しない日を作らないことを優先します。10分で条文を1つ読むだけでも、翌日の再開が楽になります。
最初の1週間でやること
- 試験日までの残り日数を出し、4つの時期の区切りを決める。
- 基本書と分野別過去問集を1つずつ選ぶ(基準日と条番号の記載を確かめる)。
- e-Gov法令検索で行政手続法を開き、第1条から読んでみる。
- 平日と週末で、毎週同じ時間に取れる勉強の枠を書き出す。
- センターの公式PDFで1年分の問題をながめる。出題形式と、3時間で解く分量を見ておく(解かなくてよい)。
次に読むなら、勉強時間の考え方の記事がおすすめです。この記事で決めた順番と時期を、平日と週末の具体的な時間割にする方法を書いています。行政法から始めると決めたら、行政法の勉強法の記事で法律ごとの進め方を確かめてください。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 行政書士試験研究センター「試験概要」(受験資格、試験日、出題の範囲)
- 同「試験案内」(令和8年度の日程・申込期間・基準日)
- 同「令和7年度 合否判定基準」(PDF)
- 同「よくある質問(試験について)」
- 同「過去の試験問題と正解」(令和3年度の問題PDFで科目の並びを確認)
- 同「令和8年度 行政書士試験案内」(PDF)(試験の方法、記述式は40字程度)
- e-Gov法令検索、行政書士法の改正履歴
働く人の法律試験ノート