宅建業法のクーリング・オフをわかりやすく:できる場所・できない場所と8日

宅建業法のクーリング・オフは、宅建業者が売主になる売買で使えるルールです。買う人が事務所など落ち着いて考えられる場所以外で申込みや契約をしたとき、書面で申込みを取り消したり、契約をやめたりできます。宅建業法37条の2に決まっています。

答えを先にまとめます。使えるのは、売主が宅建業者・買主が宅建業者でない取引だけ。申込みをした場所が事務所等(事務所や、土地に定着した建物の中の案内所など)ならできません。喫茶店や、テントの案内所ならできます。買主が自分から「自宅で」「勤め先で」と申し出た場合もできません。できなくなるのは、①クーリング・オフができることを書面で告げられた日から数えて8日が過ぎたとき、②引渡しを受け、かつ代金を全部払ったとき。効力は書面を出した時に生じ、業者は受け取ったお金を全部返します。

身近な例で考えると:新築マンションを申し込んださくらさん

人物立場したこと
さくらさん買う人(業者ではない)新築マンションの購入を申し込んだ
あおぞらハウス売主の宅建業者自分で建てたマンションを売っている
佐藤さんあおぞらハウスの営業担当さくらさんに声をかけた

さくらさんはある日、駅前で佐藤さんに声をかけられました。近くの喫茶店で話を聞くうちに、その場で購入の申込書を書き、申込金10万円を払ってしまいます。家に帰って冷静になると、ローンの返済が不安になりました。

  1. 10月1日:喫茶店で申込み。佐藤さんは、クーリング・オフができることとそのやり方を書いた書面を渡して説明した。
  2. 10月8日:さくらさんが「申込みを撤回します」と書いたはがきをポストに出した。
  3. 10月10日:はがきがあおぞらハウスに届いた。

この撤回は間に合っています。8日は「告げられた日から起算して」数えるので、10月1日が1日目、10月8日が8日目です。そして、効力は書面を出した時に生じます。届いたのが10月10日でも、出したのは8日目なので有効です。あおぞらハウスは、違約金を請求できず、申込金10万円を速やかにさくらさんに返さなければなりません。

なぜこんなルールがあるのでしょうか。喫茶店や路上のように、業者に誘われるままの場所では、じっくり考えずに決めてしまいがちです。そこで、落ち着いて考えられない場所で決めた買主に「頭を冷やしてやめる」機会を与えています。反対に、自分から業者の事務所へ出向いて申し込んだのなら、考える時間はあったと扱われます。

条文ではこう決まっている(宅建業法37条の2)

37条の2は4項あります。かみくだいて並べます。

  • どんな取引か(1項):宅建業者が自ら売主となる宅地・建物の売買契約。宅建業者どうしの取引には使われません(78条2項)。
  • 誰ができるか(1項):事務所等以外の場所で買受けの申込みをした人、または売買契約を結んだ買主。ただし、事務所等で申し込み、事務所等以外で契約した買主は除かれます。
  • どうやって(1項):書面で、申込みの撤回または契約の解除をします(まとめて「申込みの撤回等」)。
  • 業者は請求できない(1項後段):業者は、申込みの撤回等に伴う損害賠償や違約金を請求できません。
  • できなくなるとき(1項1号・2号):①申込みの撤回等ができることとその方法を、決まったやり方で告げられ、「その告げられた日から起算して八日を経過したとき」。②「当該宅地又は建物の引渡しを受け、かつ、その代金の全部を支払つたとき」。
  • 効力の時期(2項):「申込者等が前項前段の書面を発した時に、その効力を生ずる。」
  • お金の返還(3項):業者は速やかに、手付金その他受け取ったお金を返さなければなりません。
  • 不利な特約(4項):1項〜3項に反する特約で、申込者等に不利なものは無効です。

告げ方(施行規則16条の6)

8日を数え始めるための「告げる」は、口で言うだけでは足りません。施行規則16条の6は、決まった事項を書いた書面を交付して告げるよう求めています。書く事項は、買主の氏名・住所、売主業者の名称・住所・免許証番号、8日を過ぎるまでは書面で撤回・解除できること(引渡しと代金全額の支払いが済んだ場合を除く)、損害賠償や違約金を請求できないこと、書面を出した時に効力が生じること、受け取ったお金は遅滞なく全額返すことです。告げられていなければ8日は数え始まらず、引渡しと代金の全額支払いが済むまでクーリング・オフができます。

「事務所等」とはどこか(施行規則16条の5)

クーリング・オフができない場所(事務所等)は、業者の事務所のほか、次の場所です。

  1. 契約や申込みを受けるため専任の宅建士を置かなければならない場所(宅建業法31条の3第1項、施行規則15条の5の2)のうち、次のもの(施行規則16条の5第1号イ〜ホ)。
    ・事務所以外で、続けて業務ができる施設がある場所
    ・まとまった数の宅地や建物を分譲するための案内所(土地に定着する建物の中にあるものに限る)
    ・売主業者から代理・媒介を頼まれた他の業者の事務所や施設、その業者の案内所(案内所は同じく建物の中のものに限る)
    ・土地に定着する建物の中で開く展示会などの会場(宅建士を置くべき場所で説明をした後に開く場合など、細かい条件があります)
  2. 買主が、自分の自宅または勤務する場所で説明を受けたいと申し出た場合の、その自宅または勤務場所。

カギは二つです。案内所や展示会は「土地に定着する建物内」(地面にしっかり建てられた建物の中)でなければ事務所等になりません。自宅・勤務場所は「買主が申し出た」ときだけ事務所等になります。

当てはまる例・当てはまらない例

クーリング・オフできる例

  • 分譲地に建てたテント張りの案内所で申し込んだ。→ 土地に定着する建物ではないので、事務所等に当たりません。
  • 佐藤さんが「ご自宅に伺います」と言い出し、さくらさんの自宅で申し込んだ。→ 自宅が事務所等になるのは買主が申し出たときだけです。業者から言い出したならクーリング・オフできます。
  • さくらさんが「駅前の喫茶店で話を聞きたい」と自分から言い、そこで申し込んだ。→ 規則が挙げる買主側の場所は自宅と勤務場所だけです。喫茶店は、買主が指定してもクーリング・オフできます。

クーリング・オフできない例

  • あおぞらハウスの事務所で申し込み、後日、喫茶店で契約した。→ 事務所等で申し込み、事務所等以外で契約した買主は除かれます(1項かっこ書き)。
  • さくらさんが「勤め先で説明を聞きたい」と申し出て、勤め先で申し込んだ。→ 買主の申出による勤務場所は事務所等です。
  • 喫茶店で申し込んだが、引渡しを受けて代金も全部払った。→ 1項2号でできなくなります。告げられていなくても同じです。
  • 売主が宅建業者でない個人で、業者が仲介しただけ。→ 37条の2は「宅建業者が自ら売主」の取引だけです。

ひっかけやすい例

  • 喫茶店で申し込み、後日、あおぞらハウスの事務所で契約した。→ 判断は申込みの場所で行います。申込みが事務所等以外なので、クーリング・オフできます。
  • 引渡しは受けたが、代金はまだ一部しか払っていない。→ 2号は「引渡し」と「代金の全部の支払い」の両方がそろったときです。片方だけならまだできます。
  • 「クーリング・オフの期間は5日」とする特約にさくらさんが同意した。→ 買主に不利な特約なので無効です(4項)。反対に「10日」に延ばす特約は買主に有利なので有効です。

手付による解除とは何が違うか

契約をやめる方法として、手付による解除(宅建業法39条2項)とよく比べられます。

比べる点クーリング・オフ手付による解除
使える人買主だけ買主も売主業者も
場所の条件事務所等以外で申込みなし
お金払ったお金は全額戻る買主は手付を放棄・業者は倍額を現実に提供
いつまで告げられて8日、または引渡し+代金全額まで相手方が契約の履行に着手するまで
方法書面(条文に書面の定めなし)

クーリング・オフは「買主が損をせずにやめられる」点が手付解除との大きな違いです。手付解除のくわしい要件は8種制限の記事で扱っています。クーリング・オフも8種制限の一つで、業者が売主・買主が業者でない取引だけのルールという点は共通です。

試験ではここをまちがえやすい

クーリング・オフは宅建試験の宅建業法の論点です。宅建試験では、次のような形で問われやすい論点です。

  • 場所の判断:申込みと契約の場所が違うときは、申込みの場所で判断。「事務所で申込み→喫茶店で契約」はできない、「喫茶店で申込み→事務所で契約」はできる。
  • 誰が言い出したか:自宅・勤務場所は、買主が申し出たときだけ事務所等。業者が申し出たならできる。喫茶店は誰が言い出してもできる。
  • 建物かテントか:案内所は土地に定着する建物内かどうか。テント張りのような、土地に定着しないものは事務所等ではない。
  • 8日の数え方:契約の日からではなく、書面で告げられた日から起算(その日を1日目に数える)。告げられていなければ数え始めない。
  • 到達か発信か:効力は書面を発した時。業者に届いた時ではない。
  • 口頭・電話:条文は「書面により」としていて、37条の2にも施行規則16条の6にも電磁的方法で代える定めはありません。電話で伝えただけでは足りません。
  • 業者の請求:違約金や損害賠償は請求できない。手付も含めて全額返す。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
宅建業者が売主となる新築マンションの売買で、宅建業者でない買主が、業者の求めに応じて自宅で買受けの申込みをした場合、買主はクーリング・オフをすることができない。

答え:✕ 自宅が事務所等になるのは、買主が自宅で説明を受けると申し出た場合だけです(施行規則16条の5第2号)。業者が言い出して自宅で申し込んだなら、クーリング・オフができます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
クーリング・オフについて書面で告げられた買主が、その日から数えて8日目に撤回の書面を発送し、書面が業者に届いたのが10日目だった場合、撤回の効力は生じない。

答え:✕ 8日は告げられた日から起算し(37条の2第1項1号)、効力は書面を発した時に生じます(2項)。8日目に発送していれば、届いたのが後でも有効です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
喫茶店で買受けの申込みをし、クーリング・オフについて告げられていない買主でも、物件の引渡しを受け、かつ代金の全部を支払った後は、クーリング・オフをすることができない。

答え:○ 引渡しを受け、かつ代金の全部を支払ったときは、告げられたかどうかに関係なく、クーリング・オフはできなくなります(37条の2第1項2号)。

まとめ

  • 使えるのは、業者が自ら売主・買主が業者でない売買だけ。
  • 申込みの場所で判断。事務所・土地に定着した建物内の案内所など・買主が申し出た自宅や勤務場所ではできない。
  • 書面で告げられた日から起算して8日、または引渡し+代金全額の支払いで、できなくなる。
  • 書面で行い、発した時に効力。業者は違約金を請求できず、受け取ったお金を全額返す。
  • 買主に不利な特約は無効、有利な特約は有効。

次に読むなら、8種制限の記事がおすすめです。クーリング・オフを含む「業者が売主のときだけのルール」をまとめて見られ、手付や違約金の上限と一緒に整理できるからです。宅建業法の全体の勉強の順番は宅建試験の科目と出題範囲の記事にあります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)