行政書士試験の民法の勉強法:優先順位の決め方と、令和8年度に入る改正

行政書士試験の民法は、5肢択一式と記述式の両方で出る科目です。範囲が広いので、全部を同じ深さでやろうとすると、時間が足りなくなります。当サイトがすすめる優先順位は、次のとおりです。①総則(意思表示・代理・時効)と債権(債務不履行・債権の保全・契約・不法行為)→②物権(177条の対抗要件を軸に)→③担保物権(抵当権を中心に)→④親族・相続(条文の期間と数字)。

もう一つ、令和8年度に受ける人が気をつけたいのが、法律の改正です。令和6年に公布された家族法の改正(離婚後の共同親権など)は、令和8年4月1日に施行されました。令和8年度試験は「令和8年4月1日現在施行されている法令」から出ます。なので、この改正は範囲に入ります。古い教材のままだと、親族の分野で答えが変わる所があります。

民法は何問出て、どこに点があるか

試験研究センター(以下「センター」)は、科目ごとの問題数を公表していません。当サイトで令和3年度の問題冊子を確かめたところ、民法は、5肢択一式の問題27〜35の9問と、記述式3問のうち2問でした。これは当サイトが問題の中身から数えたもので、公式の内訳ではありません。年度によって変わることもあるので、目安として見てください。

令和7年度の配点では、5肢択一式が1問4点、記述式(40字くらいで書く問題)が1問20点です。記述式2問の40点は、択一式10問分にあたります。つまり民法は、「択一の9問」だけでなく、「記述の2問」まで含めて準備する科目です。記述式は採点基準が公表されていないので、点を読みにくい形です。だからこそ、要件(どんなときに)と効果(どうなる)を、条文の言葉で正確に書けるようにしておくことが大事です。書き方の型は、記述式の書き方にまとめています。

優先順位をどう決めるか

当サイトでは、分野の優先順位を、次の3つの基準で決めています。

  1. ほかの分野の土台になるか。意思表示や代理は、売買・賃貸借・相続など、どの場面にも出てきます。ここがあいまいだと、ほかの分野の理解も崩れます。
  2. 要件と効果が、条文にそろって書かれているか。条文に「〜のときは、〜できる」と、要件と効果がそろっている分野があります。そういう分野は、択一式でも記述式でも、同じ知識で点になります。
  3. 覚える量に見合うか。条文が多くて細かい分野は、出題が少ない年もあります。深追いしすぎないようにします。
分野優先度理由
総則高いどの分野にも出てくる土台
債権総論・各論高い要件・効果がそろった条文が多い
物権中177条を軸に整理できる
担保物権中抵当権にしぼれば量が限られる
親族・相続中期間・数字が条文に書かれ、改正もある

「中」の分野も、捨てるわけではありません。1周目は「高い」の分野に時間を多く使います。2周目からは、「中」の分野の条文もくり返します。そういう時間の配り方です。

総則:意思表示と代理を先に固める

総則で最初に固めるのは、意思表示です。意思表示とは、「これを買います」「売ります」のように、法律上の結果を生む気持ちを相手に伝えることです。ここは「誰が、何を、誰に対して言い張れるか」の形で問われやすい所です。第三者(当事者以外の人)が出てくると、要件が変わります。それぞれのちがいは意思表示の記事で、身近な例を使って説明しています。

  • 錯誤(さくご、95条):錯誤とは、思いちがいのことです。重要な思いちがいによる意思表示は、取り消すことができます(1項)。表意者(意思表示をした本人)に重大な過失(大きな不注意)があるときは、原則として取り消せません。ただし、次のときは取り消せます。相手が思いちがいを知っていたか、大きな不注意で知らなかったとき。相手も同じ思いちがいをしていたとき(3項)。取消しは、善意でかつ過失がない第三者には対抗できません(4項)。善意とは「事情を知らない」こと、対抗できないとは「その人に言い張れない」ことです。
  • 詐欺・強迫(96条):詐欺(だまされること)も強迫(おどされること)も、取り消すことができます(1項)。相手以外の第三者がだましたときは、相手がその事実を知っていたか、知ることができたときに限って、取り消せます(2項)。詐欺による取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗できません(3項)。

ひっかけの型は、96条3項が「詐欺による」取消しだけを対象にしている点です。強迫による取消しには、同じような第三者を守る定めがありません。「錯誤と詐欺は、善意無過失の第三者に対抗できない。強迫には、その定めがない」と、条文の書き方のちがいで覚えます。

代理では、表見代理(ひょうけんだいり)を条文ごとに分けて覚えます。表見代理とは、代理の権限がないのに、あるように見える場合に、本人が責任を負う制度です。たとえば110条は、代理人が、任された範囲をこえる行為をした場合のルールです。相手が「代理人にその権限がある」と信じ、そう信じたことに正当な理由があるときは、109条1項本文を準用(じゅんよう=同じルールを当てはめること)します。例で考えます。さくらさんが、ゆうとさんに「わたしの自転車を売ってきて」と頼みました。ところが、ゆうとさんは、さくらさんのバイクまで売ってしまいました。買った人が、ゆうとさんにバイクを売る権限もあると信じ、そう信じたことに正当な理由があれば、さくらさんが責任を負う、という形です。要件を「任された範囲をこえる行為」「権限があると信じた」「信じたことに正当な理由がある」の3つに分けて言えれば、記述式でもそのまま使えます。くわしくは代理の記事で説明しています。

時効は、数字を条文で確かめます。債権(さいけん=人に「お金を払って」などと求められる権利)の消滅時効の期間は、2つあります。権利を使えることを知った時から5年と、使える時から10年です(166条1項)。債権や所有権以外の財産権は、使える時から20年です(同条2項)。取得時効や、時効の完成猶予・更新は、時効の記事でまとめています。

債権:総論と各論を「場面」でつなぐ

債権は、債権総論(債権全体に共通するルール)と、債権各論(契約・不法行為など、一つひとつの制度)に分かれます。別々に覚えるより、場面ごとに、使う条文をつなげて覚えましょう。たとえば「売買の代金が払われない」「事故でけがをさせた」といった場面です。そのほうが、択一式でも記述式でも、知識を引き出しやすくなります。

  • 債務不履行(415条1項):約束(債務)を守らないときのルールです。債務の本旨(ほんし=本来の約束の内容)どおりに果たさないとき、または果たすことができないときは、損害賠償を請求できます。ただし、債務者(約束を守る側)のせいとは言えない理由によるときは、除かれます。そのせいかどうかは、契約などの中身と、取引上の社会の常識に照らして決めます。解除などの手段は債務不履行と解除の記事で説明しています。
  • 詐害行為取消請求(さがいこうい、424条1項):お金を借りている人(債務者)が、貸している人(債権者)を困らせると知りながら、財産を手放すなどの行為をしたときのルールです。債権者は、その行為の取消しを、裁判所に請求できます。ただし、その行為で利益を受けた人(受益者)が、行為の時に、債権者を困らせることを知らなかったときは、できません。
  • 不法行為(709条):わざと(故意)または不注意(過失)で、他人の権利や、法律で守られる利益をきずつけた人は、生じた損害を賠償する責任を負います。
  • 使用者責任(715条):被用者(ひようしゃ=雇われて働く人)が、事業の執行について(仕事をする中で)第三者に与えた損害を、使用者(雇っている会社など)が賠償します。人を選ぶときや監督するときに十分注意していた場合などは、除かれます(1項ただし書)。使用者から被用者への求償(きゅうしょう=払ったお金を返すよう求めること)は、妨げられません(3項)。不法行為と使用者責任は、不法行為の記事で、事故の例を使って説明しています。

これらの条文は、本文が「原則」、ただし書(「ただし、〜」で始まる部分)が「例外」という形になっています。本文とただし書を分けて覚えておけば、原則と例外のどちらを問われても答えられます。715条は、国家賠償法1条と比べると、ちがいが覚えやすい条文です(行政法の勉強法の国家賠償法の章を見てください)。

物権・担保物権:177条と抵当権を軸にする

物権(ぶっけん=物を直接に持ったり使ったりできる権利。所有権など)は、177条を軸に整理します。177条は、不動産についての物権を得たり、失ったり、変えたりしたことは、登記(とうき=国の帳簿に記録すること)をしなければ、第三者に対抗できないと決めています。たとえば、さくらさんが土地をゆうとさんに売ったあと、同じ土地をけんたさんにも売ったとします。これを二重譲渡(にじゅうじょうと)といいます。ゆうとさんとけんたさんのどちらが優先するかを決めるのが、この条文です。物権の問題では、まず「177条の第三者の話か」を確かめると、考える道筋が決まります。くわしくは二重譲渡と登記の記事で説明しています。

担保物権(お金を返してもらえないときに備える権利)は、抵当権(ていとうけん)を中心にします。369条1項は、抵当権をこう決めています。抵当権者は、債務者または第三者が、占有を移さないまま借金の担保にした不動産について、ほかの債権者より先に、自分の債権の弁済(べんさい=返してもらうこと)を受けられる。「占有を移さない」とは、抵当権を付けたあとも、持ち主がその不動産を使い続けられるということです。これが、ほかの担保物権とのちがいを考える出発点です。留置権(りゅうちけん)や先取特権(さきどりとっけん)などは、抵当権をひと通り固めてから、ちがいを比べる形で進めましょう。そうすると、覚える量をおさえられます。抵当権の仕組みは抵当権の記事で説明しています。

親族・相続:期間と数字、そして令和8年4月施行の改正

親族・相続は、期間や数字が条文にそのまま書かれている決まりが多い分野です。条文を覚えれば、そのまま点にしやすくなります。たとえば相続の承認・放棄は、自分のために相続が始まったことを知った時から、3か月以内にしなければなりません(915条1項)。父が亡くなり、自分が相続人になったと知った時から3か月以内、ということです。この期間は、家庭裁判所が延ばすことができます(同項ただし書)。相続分や遺留分は、相続の記事でまとめています。

令和8年度に受ける人にとって大事なのが、「民法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第33号)です。e-Gov法令検索の改正の記録で、主な部分の施行日が令和8年(2026年)4月1日であることを確かめました。令和8年度試験の基準日と同じ日なので、範囲に入ります。施行後の条文で確かめた、主な変更点は次のとおりです。

  • 離婚後の親権者(819条1項):親権(しんけん)とは、子どもを育て、子どもの財産を管理する親の権利と義務です。話し合いで離婚(協議上の離婚)をするときは、話し合いで「その双方又は一方を親権者と定める」形になりました。改正前は、「その一方を親権者と定めなければならない」でした。裁判で離婚するときは、裁判所が、父母の両方または一方を親権者に決めます(2項)。裁判所が両方か一方かを決めるときは、子の利益を考えます。父または母が子の心や体に害をあたえるおそれがあるときなどは、一方を親権者に決めなければなりません(7項)。
  • 財産分与の請求期間(768条2項):財産分与とは、離婚のときに、夫婦の財産を分けることです。家庭裁判所に決めてもらうよう求められる期間が、離婚の時から2年から5年に延びました。
  • 養育費の定めがない場合の特例(766条の3):新しくできた規定です。父母が、子の監護(かんご=そばで世話をすること)にかかる費用の分担を決めずに、話し合いで離婚した場合のルールです。離婚の時から引き続き主に子の世話をしている親が、もう一方の親に、一定の額の支払いを求められます。

市販の教材が改正前の内容のままになっていないか、版と発行時期を確かめてください。特に、819条1項の「一方を親権者と定めなければならない」は、改正前の条文です。

教材の版と改正の時期を、どう確かめるか

民法は、ここ数年、大きな改正が続いています。中古の教材や数年前の問題集を使うと、改正前の知識を覚えてしまうおそれがあります。e-Gov法令検索の改正の記録で確かめた、主な改正は次のとおりです。

改正(法令番号)主な内容主な施行日令和8年度
平成29年法律第44号債権関係(錯誤の取消し化、消滅時効など)2020年4月1日範囲内
平成30年法律第59号成年年齢を18歳に2022年4月1日範囲内
平成30年法律第72号相続関係2019年〜2020年に段階施行範囲内
令和3年法律第24号物権(共有・相隣関係など)2023年4月1日範囲内
令和4年法律第102号親子関係(嫡出推定の見直しなど)2024年4月1日範囲内
令和6年法律第33号家族法(共同親権など)2026年4月1日範囲内
令和8年法律第45号(施行が基準日より後)2026年6月24日から段階施行(一部は未施行)範囲外

表の言葉を少し説明します。相隣関係(そうりんかんけい)は、となり合う土地の持ち主どうしのルールです。嫡出推定(ちゃくしゅつすいてい)は、結婚している夫婦から生まれた子の父を、法律で推定する仕組みです。

令和8年4月1日より後に施行された改正や、これから施行される改正(令和8年法律第45号など)は、令和8年度試験の範囲外です。いま e-Gov法令検索で民法を開くと、こうした範囲外の改正を反映した、最新の条文が表示されます。条文を確かめるときは、表示されている条文がどの改正を反映した版か(施行日)を見てください。令和8年4月1日より後の改正が入っていないかを、確かめます。教材も、令和8年4月1日時点の法令に合わせているかを確かめておくと安心です。範囲外の改正の中身を、いま覚える必要はありません。

毎日の勉強に落とすと、どうなるか

働きながら民法をくり返すなら、1日の中で「条文を読む」「要件・効果を書く」「問題で確かめる」を、小さくくり返す形が続けやすいです。

  1. 条文を読む:その日の範囲の条文を、本文とただし書に分けて読む。
  2. 要件・効果を書く:大事な条文1つについて、要件と効果を何も見ずに書き出す。週に何回かは、40字程度の文にしてみる。
  3. 問題で確かめる:択一式の問題で、どの条文のどの要件が問われているかを先に決める。それから選択肢を読む。

総則と債権を1周するまでは、物権・親族相続に手を広げない、というのも一つの判断です。全体の計画の中で、民法にいつ時間を使うかは、独学の進め方や勉強時間の考え方で確かめられます。

民法の要件・効果を覚えたら、次はそれを40字で書く練習です。記述式の書き方では、この記事でふれた715条(使用者責任)を使った自作の例題で、書き方の型を確かめられます。民法と並んで点の大きい行政法の進め方は、行政法の勉強法にまとめています。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年度試験の出題の基準日である令和8年4月1日の時点の内容を、e-Gov法令検索で確かめています。