直接請求と住民監査請求・住民訴訟をわかりやすく:署名数・請求先・期間

住民が町や市に「こうしてほしい」と直接求める仕組みは、大きく2つあります。1つは直接請求です。選挙権を持つ住民が署名を集めて、条例づくりや町長のリコールなどを求めます。もう1つは住民監査請求です。町のお金の使い方がおかしいときに、住民が1人でもチェックを求められます。

住民監査請求の結果に納得できないときは、裁判所に住民訴訟を起こせます。ただし、住民訴訟は住民監査請求をした人しか起こせません。この記事では、令和8年4月1日時点の地方自治法で、署名数・請求先・期間を確かめながら説明します。

身近な例で考えるとどうなるか

架空の「さくら町」で考えます。登場するのは、さくら町に住む会社員のはるかさん(選挙権がある)と、同じ町に住む大学生のゆうとさんです。

場面1:図書館の夜間開館の条例をつくってほしい(直接請求)

はるかさんは、仕事帰りに図書館を使いたいと考えました。そこで「図書館を夜9時まで開ける条例をつくってほしい」と町に求めることにしました。流れは次のとおりです。

  1. はるかさんたちが代表者になり、署名を集める。必要なのは、町の選挙権者の50分の1以上の署名。
  2. 代表者が、町長に条例の制定を請求する。条文では、知事や市町村長のことを「長(ちょう)」と呼びます。
  3. 町長は、請求の要旨(ようし=中身のあらまし)をすぐに公表する。
  4. 町長は、請求を受け取った日から20日以内に議会を開き、自分の意見を付けて議会にかける。
  5. 議会が、条例をつくるかどうかを決める。

大事なのは5です。署名が集まっても、条例が自動的にできるわけではありません。決めるのは議会です。直接請求は「議会で話し合うきっかけを住民がつくる」制度だと考えると分かりやすくなります。

場面2:公園の遊具の契約が高すぎる(住民監査請求→住民訴訟)

ゆうとさんは、町が公園の遊具を、相場よりかなり高い値段で買う契約を結んだと知りました。町のお金(公金)がむだに使われているかもしれません。

  1. ゆうとさんは、1人で監査委員(かんさいいん=町のお金の使い方などを調べる役の人)に住民監査請求をする。契約の日から1年以内に行う。
  2. 監査委員は、請求の日から60日以内に調べて、結果を出す。
  3. 結果に納得できなければ、ゆうとさんは結果の通知から30日以内に、地方裁判所に住民訴訟を起こせる。
  4. 裁判では、たとえば「町長は、契約の相手や担当の職員に損害賠償を請求せよ」と求める。

ゆうとさんは署名を集めていません。住民監査請求は、住民1人でもできるからです。この点が、場面1の直接請求との大きな違いです。

条文ではどう決まっているか

直接請求(地方自治法74条〜88条)

直接請求の権利は、地方自治法12条・13条で「日本国民たる普通地方公共団体の住民」に認められています。具体的な手続きは74条以下にあります。請求できるのは「選挙権を有する者」で、選挙人名簿に載っている人のことです(74条5項)。

請求の種類署名数請求先請求のあと
条例の制定・改廃(74条)50分の1以上長20日以内に議会を開いてかける
事務の監査(75条)50分の1以上監査委員監査して結果を公表・報告
議会の解散(76条)3分の1以上選挙管理委員会住民投票。過半数で解散
議員・長の解職(80条・81条)3分の1以上選挙管理委員会住民投票。過半数で失職
副知事・副市町村長などの解職(86条)3分の1以上長議会で決める

条文のポイントを、ふつうの言葉で並べます。

  • 署名は、代表者が「連署(れんしょ=何人もが名前を並べて書くこと)」で集める。
  • 条例の請求からは、地方税の賦課徴収(ふかちょうしゅう=税をかけて集めること)と、分担金・使用料・手数料の徴収に関する条例は除かれている(74条1項)。
  • 議会の解散・議員や長の解職は、住民投票で過半数の同意があれば、議会は解散し(78条)、議員・長は職を失う(83条)。
  • 副知事・副市町村長、選挙管理委員、監査委員、公安委員会の委員などの解職は、長が議会にかける(86条)。議員の3分の2以上が出席し、その4分の3以上が同意すれば職を失う(87条)。
  • 3分の1の署名には、選挙権者が多い自治体向けの特例がある。40万を超える部分は6分の1、80万を超える部分は8分の1で数える(76条1項など)。
  • 議会の解散請求は、一般選挙の日や解散投票の日から1年間はできない(79条)。議員・長の解職請求も、就任の日や解職投票の日から1年間はできない(84条。例外あり)。

住民監査請求(242条)

  • 請求できる人:「普通地方公共団体の住民」。署名の条件はなく、1人でもよい。条文は選挙権や国籍を条件にしていない。
  • 対象:長や職員などの、違法または不当な公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行、債務の負担など。違法=法律に反すること、不当=法律違反とまでは言えないが、やり方として適切でないこと。
  • 税金などを集めることや財産の管理を、違法・不当にさぼっている状態(条文では「怠る事実」)も対象。まだ行われていなくても、行われることが相当の確実さで見込まれる行為も含む(242条1項)。
  • 求められること:その行為をやめさせる、正す、町が受けた損害を埋めるなど「必要な措置」をとるよう求める。
  • 期間:行為のあった日または終わった日から1年を過ぎるとできない。ただし「正当な理由」があるときは別(242条2項)。
  • 監査委員は、請求の日から60日以内に監査と勧告をしなければならない(242条6項)。

住民訴訟(242条の2)

  • 起こせる人:242条1項の住民監査請求をした住民だけ(監査請求前置〈ぜんち〉=先に監査請求をすませること)。
  • 対象:「違法な行為又は怠る事実」。住民監査請求と違い、「不当」だけでは訴えられない。
  • 求められること(4つの型):①行為の差止め(さしとめ=やめさせること)。②行政処分の取消し・無効確認。③怠る事実が違法であることの確認。④長などに「職員や相手方に損害賠償や不当利得の返還を請求せよ」と求めること。不当利得(ふとうりとく)=法律上の理由なく得たもうけ。④は「4号請求」と呼ばれます(242条の2第1項)。
  • 出訴期間(裁判を起こせる期限):監査結果の通知を受けた日から30日以内など、4つの場合ごとに数え始める日が決まっていて、どれも30日(242条の2第2項)。この期間は裁判所も延ばせない「不変期間」(3項)。
  • 裁判所:その自治体の事務所がある地域の地方裁判所だけが扱う(5項)。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる例:はるかさんたちが、選挙権者の50分の1以上の署名で「子どもの医療費の助成を広げる条例」の制定を町長に請求する。手数料や税の条例ではないので、条例の制定請求として受け付けられます。
  • 当てはまらない例:はるかさんたちが、署名を集めて「ごみ袋の手数料を半額にする条例」を請求する。手数料の徴収に関する条例は、74条1項で請求の対象から外されています。署名がいくら集まってもこの請求はできません。
  • 当てはまらない例:ゆうとさんが、町の保健センターの窓口の対応が悪いことを理由に住民監査請求をする。住民監査請求の対象は、お金や財産に関する行為です。窓口の対応そのものは対象に入りません。
  • ひっかけやすい例:ゆうとさんが、2年前に結ばれた契約について、正当な理由なく住民監査請求をする。1年を過ぎているのでできません。「1年」は契約を知った日からではなく、行為のあった日または終わった日から数えます。
  • ひっかけやすい例:はるかさんが、住民監査請求をしないまま、遊具の契約の差止めを求めて住民訴訟を起こす。住民訴訟は監査請求をした人しか起こせないので、訴えは認められません。署名を集めて事務の監査請求(75条)をした場合も、住民訴訟の前提にはなりません。

似ているルールとどう違うか

いちばんまぎらわしいのは、直接請求の「事務の監査請求」(75条)と、「住民監査請求」(242条)です。どちらも請求先は監査委員なので、名前と相手だけで覚えると混ざります。

比べる点事務の監査請求(75条)住民監査請求(242条)
請求できる人選挙権者の50分の1以上の連署住民1人でも
対象自治体の事務の執行全般お金・財産に関する行為と怠る事実
期間242条2項のような1年の定めはない原則1年以内
その先の裁判住民訴訟にはつながらない住民訴訟に進める

覚え方は、条文の要件に結びつけると崩れにくくなります。

  • 署名を集めるもの=直接請求:選挙権者の集団としての声なので、50分の1や3分の1の署名がいる。
  • 1人でできるもの=住民監査請求:町の財布を守るための仕組みなので、住民なら1人でよい。そのかわり対象はお金・財産に限られ、期間も1年に区切られる。
  • 50分の1と3分の1:何かを「してもらう」請求(条例・監査)は50分の1。人の地位や議会を「失わせる」請求(解散・解職)は3分の1。失わせるほうが重いので、ハードルも高くなっています。
  • 請求先:住民投票をするもの(議会の解散、議員・長の解職)は選挙管理委員会。議会にかけるもの(条例、副知事などの解職)は長。監査は監査委員。

ほかの期間・数字とまとめて覚えたい人は、行政法と民法の期間・数字の一覧も使えます。取消訴訟の出訴期間(6か月)など、行政事件訴訟法の仕組みとの違いは取消訴訟の要件の記事で確かめてください。

試験ではここをまちがえやすい

行政書士試験の地方自治法では、数字・請求先・主語の入れかえが問われやすい形です。

  • 署名数の入れかえ:「議会の解散請求は50分の1以上」「条例の制定請求は3分の1以上」のように、50分の1と3分の1を入れかえる形。
  • 請求先の入れかえ:「条例の制定請求は議会に対して行う」「長の解職請求は長に対して行う」のような形。条例は長へ、長の解職は選挙管理委員会へ。
  • 結果の言いすぎ:「条例の制定請求があると、長は条例を公布しなければならない」のような形。長は議会にかけるだけで、決めるのは議会です。
  • 除外される条例:「地方税の条例も請求できる」とする形。税・分担金・使用料・手数料は除かれます。
  • 人数の条件:「住民監査請求には選挙権者の50分の1以上の連署が必要」とする形。1人でもできます。
  • 違法と不当:「住民訴訟では不当な支出も争える」とする形。住民監査請求は違法・不当、住民訴訟は違法だけです。
  • 期間の起点:住民監査請求は「行為のあった日又は終わった日から1年」、監査委員の監査は「請求の日から60日以内」、住民訴訟は「通知を受けた日から30日以内」など。数字だけでなく、どこから数えるかまで覚えます。

地方自治法は、ほかの行政法の分野とあわせてどの順番で勉強するかも大切です。全体の進め方は行政法の勉強法の記事にまとめています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
はるかさんたちは、さくら町の選挙権者の50分の1以上の署名を集めれば、「施設の使用料を引き下げる条例」の制定を町長に請求できる。

答え:✕ 使用料の徴収に関する条例は、条例の制定・改廃の請求の対象から除かれています(74条1項)。地方税・分担金・手数料も同じです。

問2(このサイトのオリジナル問題)
ゆうとさんは、町の公金の支出が不当だと考えた。ほかの住民の署名がなくても、ゆうとさん1人で監査委員に住民監査請求ができる。

答え:○ 住民監査請求は「普通地方公共団体の住民」ができ、署名の数の条件はありません(242条1項)。違法だけでなく不当な支出も対象です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
さくら町の議員の解職請求が選挙管理委員会に出された。この場合、住民投票ではなく、町議会の議決で解職するかどうかが決まる。

答え:✕ 議員や長の解職請求は、選挙人の投票(住民投票)にかけられ、過半数の同意があれば職を失います(80条3項・83条)。議会で決めるのは、副知事・副市町村長などの主要な公務員の解職です(86条・87条)。

まとめ

  • 直接請求は、選挙権者の署名で行う。条例・監査は50分の1以上、解散・解職は3分の1以上。
  • 請求先は、条例と副知事などの解職は長、事務の監査は監査委員、議会の解散と議員・長の解職は選挙管理委員会。
  • 条例の制定請求は、税・分担金・使用料・手数料の条例はできない。長は20日以内に議会を開いてかけるが、決めるのは議会。
  • 住民監査請求は住民1人でもでき、お金・財産の違法・不当な行為が対象。原則1年以内。監査委員は60日以内に監査する。
  • 住民訴訟は住民監査請求をした住民だけが起こせ、違法だけが対象。出訴期間は30日。

次に読むなら、国家賠償法の記事がおすすめです。住民訴訟の4号請求と同じく「損害を誰が払うか」に関わる制度なので、あわせて読むと違いがはっきりします。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)