「基礎知識」は、令和6年度試験から使われている科目名です。正式には「行政書士の業務に関し必要な基礎知識」といいます。出題は14問で、すべて択一式(選択肢から選ぶ形式)です。範囲は「一般知識」「行政書士法等の業務関連法令」「情報通信・個人情報保護」「文章理解」の4分野です。
この科目には足切り(科目ごとの最低点)があり、満点の40%以上が必要です。令和7年度の合否判定基準では、満点56点に対して24点以上でした。つまり、14問中6問の正解が基準です。6問は、次の2つから先に固めるのが、時間の少ない社会人には現実的です。1つは文章理解です。もう1つは、条文を覚えれば答えが決まる法令の問題(行政書士法・戸籍法・住民基本台帳法・個人情報保護法)です。
基礎知識の範囲はどこまでか
行政書士試験研究センター(試験を実施している機関。以下「センター」)の試験概要には、基礎知識について次のように書かれています。「一般知識、行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令、情報通信・個人情報保護及び文章理解の中からそれぞれ出題」。出題数は14題で、「令和6年度試験から適用」(令和6年度の試験から使う)とされています。
この決まりのもとになっているのは、総務省の告示(こくじ。国が決めたことを広く知らせる文書)「行政書士試験の施行に関する定め」です。令和5年9月28日の改正(令和5年総務省告示第335号)で、今の形になりました。改正のとき、総務省は国民から意見を集めました。そこで出た意見に、総務省は次のように答えています(「提出された意見及び意見に対する考え方」より)。
- 4つの分野について、「それぞれの分野から毎年一題以上出題することを規定するもの」である。つまり、どの分野も毎年1問以上出る。
- 内容と出題の範囲は、それまでの「一般知識等」と「異なるものではありません」。
- 「戸籍法、住民基本台帳法は出題範囲に含むもの」である。平成17年の改正のときから、次の法律は、この科目で知識を問う出題がありうるとされていた。行政書士法(施行規則という細かいルールを含む)・戸籍法・住民基本台帳法・労働法・税法である。
- この科目では「法令の解釈等法令に関する思考力を問うことを主眼とした出題はできない」という考え方も続ける。かみくだくと、「法律をどう読むか考えさせる問題を、この科目の中心にはしない」ということ。
最後の点は、勉強のしかたに直接つながります。基礎知識で法令が出るときは、「条文に何が書いてあるか」という知識が問われる、ということです。法令等科目のように、事例にあてはめて考える力はあまり問われません。条文の言葉・数字・主語(だれが)を正確に覚えるほうが、点につながります。
「一般知識等」から何が変わったのか
令和5年度試験までは、「一般知識等」という科目でした。令和6年度試験から、名前が「基礎知識」になり、分野の書き方が変わりました。いちばん大きいのは、「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」が、分野としてはっきり書かれたことです。行政書士の仕事に深く関わる法律、という意味です。
ただし、総務省は「範囲は変えていない」と説明しています。行政書士法や戸籍法などは、もともと出題されうるものでした。それを分野としてはっきり書き、毎年1題以上出すと決めた、という整理です。受験生の側から見ると、実際に変わったのは次の2点です。
- 業務関連法令の問題が、毎年出ることが前提になった。行政書士法は、毎年の勉強範囲に入れてよい。
- 古い教材や記事の「一般知識等」は、今の「基礎知識」と読み替える。令和6年度以降の話なのに「一般知識等」と書いてあれば、情報が古いかもしれない。
なお、意見の中には、建設業法などを「諸法令」に加える案や、行政書士法を試験科目の最初に置く案もありました。これらについて総務省は、「更なる試験の見直し」は今後考える、としています。今の時点で範囲が広がったわけではありません。
足切り24点はどう数えるか
令和7年度の合否判定基準で見ると、基礎知識は5肢択一式(5つから1つを選ぶ形式)が14問でした。1問4点で、満点56点です。合格の条件は、次の3つを全部満たすことです(令和7年度の具体的な点数)。
| 条件 | 一般的な基準 | 令和7年度の点数 |
|---|---|---|
| 法令等 | 満点の50%以上 | 122点以上 |
| 基礎知識 | 満点の40%以上 | 24点以上 |
| 全体 | 満点の60%以上 | 180点以上 |
56点の40%は22.4点です。1問4点なので、22.4点以上になるのは6問正解(24点)からです。5問(20点)では足りません。配点は前もって公表されず、合否発表のときに「合否判定基準」で公表されます。また、問題の難しさによって、合格基準が見直される(補正される)ことがあります。令和8年度も同じ数字になるとは決めつけず、「6問が目安」と考えておきます。仕組みの詳しい説明は、合格点と足切りの記事にまとめています。
見落としやすいのは、基礎知識の点が全体の180点にも入ることです。たとえば、さくらさんが基礎知識を24点ぎりぎりで通過したとします。全体180点に届くには、法令等で156点(244点の約64%)が要ります。基礎知識で8問(32点)取れれば、法令等は148点で届きます。10問(40点)なら140点です。基礎知識は「足切りを越えればよい科目」ではありません。法令等の負担を軽くする科目でもあります。
6問をどの分野で取るか
4分野のうち、勉強した分だけ点が見込みやすいのは、2種類です。範囲が条文で決まっている分野と、知識がいらない分野です。当サイトでは、次の順番で固めることをすすめます。
| 順 | 分野 | 理由 |
|---|---|---|
| 1 | 文章理解 | 知識不要。練習で安定する |
| 2 | 業務関連法令 | 毎年1題以上。条文で答えが決まる |
| 3 | 個人情報保護 | 定義と原則の条文が中心 |
| 4 | 情報通信 | 用語の意味を押さえる |
| 5 | 一般知識 | 範囲が広く読みにくい |
考え方は単純です。各分野の問題数は、センターから公式の内訳が出ていません。だから「どの分野が何問」と当てにはしません。毎年1題以上出ると分かっている分野のうち、準備で正答率を上げやすいものから順に固めます。一般知識は最後に回します。ここで点が取れたら上乗せ、と考えます。
行政書士法・戸籍法・住民基本台帳法は条文のどこを覚えるか
業務関連法令は、知識を問う出題とされています。だから、条文の主語・数字・「できる/しなければならない」の区別が勝負です。令和8年度試験は、令和8年4月1日現在施行の(その日に効いている)法令が対象です。行政書士法は、令和8年1月1日に改正法が施行されていて、条番号が変わっています。古い教材の条番号のまま覚えないでください。改正の中身は、行政書士法の改正の記事で新旧を並べています。
行政書士法で最初に押さえる条文
- 第1条(行政書士の使命)。改正前は「目的」でした。
- 第1条の2(職責=仕事をするうえでの責任)。品位を保つこと、法令と実務にくわしくなること、公正で誠実に仕事をすること(第1項)。そして、情報通信技術を使うなどして、利用者の便利さを高める努力(第2項)。
- 第1条の3(業務)。官公署(かんこうしょ。役所のこと)に出す書類や、権利義務・事実証明に関する書類を作ること。ほかの法律で制限されている業務はできない(第2項)。
- 第2条(資格)の6つの号と、第2条の2(欠格事由)の8つの号。欠格事由(けっかくじゆう)とは、行政書士になれない理由のことです。その多くは「三年を経過しない者」です。第1号は「未成年者」、第2号は「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」(破産して、まだ元の立場に戻れていない人)です。
- 第11条(依頼に応ずる義務)「正当な事由がある場合でなければ、依頼を拒むことができない」。ちゃんとした理由がなければ、依頼を断れないという意味です。
- 第12条(秘密を守る義務)。「行政書士でなくなつた後も、また同様とする」まで覚える。
- 第14条(懲戒=ちょうかい。ルール違反への罰)。処分するのは都道府県知事です。種類は、戒告(かいこく。注意を与えること)・2年以内の業務の停止・業務の禁止の3つ。
- 第19条(業務の制限)と第19条の2(名称の使用制限)、それぞれの罰則。
戸籍法と住民基本台帳法は「行政書士が出てくる条文」から
2つとも条文の量が多いので、まずは行政書士の業務とつながる条文から読みます。戸籍法第10条の2第3項は、8つの資格者が戸籍謄本(こせきとうほん)等の交付を請求できると定めています。弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士です(海事代理士以外は、それぞれの法人を含む)。条件は、「受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合」です。引き受けた仕事をやりとげるのに必要なとき、という意味です。これを、いわゆる職務上請求といいます。
住民基本台帳法第12条の3は、本人など以外の人が申し出たときの、住民票の写し等の交付を定めています。同じ条の第3項で「特定事務受任者」として挙げられるのも、同じ8つの資格者(法人を含む)です。「どの資格が入っていて、どれが入っていないか」は、選択肢で入れ替えやすいところです。一覧で覚えておくと、両方の法律に使えます。
ここで、条文の確認用に自作の問題を置きます(このサイトのオリジナル問題)。
- 行政書士は、廃業して行政書士でなくなった後であれば、在職中に業務上知り得た秘密を話しても、行政書士法の秘密を守る義務には反しない。→ 誤り。第12条は「行政書士でなくなつた後も、また同様とする」と定めています。
- 行政書士に対する懲戒処分は、日本行政書士会連合会が行う。→ 誤り。第14条で処分をするのは都道府県知事です。
個人情報保護・情報通信は何を覚えるか
個人情報保護は、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)の定義(言葉の意味の決まり)と、基本ルールから入ります。この法律も、まず条文の言葉を正確に覚えるのが先です。
- 第2条第1項:「個人情報」は「生存する個人に関する情報」で、次のどちらかに当たるもの。①特定の個人を識別できる(だれのことか分かる)もの。ほかの情報と簡単に照らし合わせて分かるものを含む。②個人識別符号が含まれるもの。
- 第2条第2項:「個人識別符号」は、文字・番号・記号その他の符号のうち「政令で定めるもの」。
- 第2条第3項:「要配慮個人情報」は、特に気をつけて扱う情報。これには、人種・信条・社会的身分・病歴・犯罪の経歴・犯罪により害を被った事実などが含まれる。
- 第16条第2項:「個人情報取扱事業者」は、個人情報データベース等を事業に使っている者。ただし、国の機関・地方公共団体・独立行政法人等・地方独立行政法人は除かれる。
- 第27条第1項:個人データを第三者(ほかの人や会社)に渡すには、「あらかじめ本人の同意」が要る。例外は「法令に基づく場合」など。
- 第130条:個人情報保護委員会は、内閣府設置法第49条第3項に基づいて置かれる(第1項)。そして、内閣総理大臣の所轄に属する(第2項)。所轄(しょかつ)とは、受け持ちの範囲に入るという意味です。
ひっかけの型は、定義の要件(当てはまる条件)を一つ外すことです。たとえば「亡くなった人の情報も個人情報に当たる」という選択肢は、第2条第1項の「生存する」を外しています(このサイトのオリジナル問題としての例)。ほかに、「同意」を「通知」に替える型や、除外される者を入れ替える型があります。条文を読むときに、要件の言葉に線を引いておくと、見抜きやすくなります。
情報通信は、公式に細かい範囲が示されていません。法律の用語と、ニュースでよく見るITの用語の意味を、短く説明できるようにしておきます。それ以上の深追いはしません。
文章理解で落とさないための解き方
文章理解は、知識がなくても解ける分野です。そのぶん、練習量がそのまま安定につながります。当サイトがすすめる手順は次のとおりです。
- 設問を先に読み、「要旨を選ぶ」「空欄に入る語を選ぶ」「並べ替える」のどれかを確かめる。
- 本文の「しかし」「つまり」「したがって」など、話の向きが変わる言葉に印をつける。文章の言いたいことは、向きが変わった後に来ることが多いからです。
- 選択肢は「本文に書いてあるか」で判断する。次のものは外す。正しそうでも本文にない内容。言い過ぎ(「すべて」「常に」)。原因と結果が逆になっているもの。
- 並べ替えは、指示語(これ・その)と接続語(だから・しかし)が何を受けているかを見る。そこから、先頭の文とつながりを決める。
練習には、センターのサイトで公開されている過去の問題PDFを使えます(過去の試験問題と正解)。ただし、著作権の関係で、毎年いくつかの問題が載っていません。足りない分は、評論文の要旨(言いたいこと)を自分で1〜2行にまとめる練習で補えます。当サイトでは、週に2〜3問のペースで、試験まで切らさずに続けることをすすめています。
一般知識はどこまでやるか、いつ始めるか
一般知識は範囲が広く、公式にも細かい範囲が示されていません。勉強にかけた時間が点に結びつくか、見込みにくい分野です。ここに時間を多くかけるより、上の表の1〜4で6問以上を取れる状態を先に作りましょう。そのほうが、足切りを越える見込みは高くなります。
始める時期の目安です。文章理解は、勉強の初めから週に少しずつ進めます。業務関連法令と個人情報保護法は、法令等の科目(行政法・民法)の1周目が終わったあとに入れます。そのころには条文を読むことに慣れていて、進みやすくなります。科目全体の順番は独学の進め方の記事、1週間の中での時間の割り振りは勉強時間の考え方の記事で具体的に書いています。基礎知識が全体の中でどれくらいの重さかは、科目と配点の記事で確かめられます。
次に読むなら、行政書士法の改正(2026年1月施行)の記事がおすすめです。基礎知識で毎年出る業務関連法令の中心は、行政書士法です。そして令和8年度は、改正後の条文が試験の範囲になるからです。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 行政書士試験研究センター「試験概要」
- 同「令和7年度 合否判定基準」(PDF)
- 同「よくある質問(試験について)」
- 同「過去の試験問題と正解」
- 総務省「行政書士試験の施行に関する定め」(平成11年自治省告示第250号)
- 総務省「『行政書士試験の施行に関する定め』の改正に関する意見募集の結果」、別紙「提出された意見及び意見に対する考え方」(PDF)
- e-Gov法令検索「行政書士法」(第1条〜第1条の3、第2条、第2条の2、第11条、第12条、第14条、第19条、第19条の2)
- e-Gov法令検索「戸籍法」(第10条の2)
- e-Gov法令検索「住民基本台帳法」(第12条の3)
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」(第2条、第16条、第27条、第130条)
働く人の法律試験ノート