行政書士は働きながら受かるか:「無理」と言われる理由と、1年で足りる人・2年に分ける人

働きながらでも、行政書士試験に受かることはできます。受験資格に制限はなく、仕事をしているかどうかで試験の扱いが変わることもありません。ただし、範囲が広く、3つの基準を全部満たす必要があり、試験は年に1回です。「働きながらは無理」と言われる理由は、この3つにあります。

受かるかどうか、何年かかるかは、人の体験談では決まりません。自分が1単元にかかる時間を測り、試験日までに使える時間と比べると判断できます。この記事では、その比べ方と、1年で足りる人・2年に分ける人の見分け方、2年に分けるときに1年目で固める科目を示します。1日の中で時間を作る方法は勉強時間の考え方で扱っているので、ここでは「受かるか・何年か」の判断に絞ります。

「働きながらは無理」と言われるのは、何が理由か

理由は、試験の仕組みの側にあります。公式に確かめられる事実で並べます。

試験の仕組み公式の事実働く人にとっての重さ
範囲法令等は憲法・行政法・民法・商法・基礎法学。基礎知識は4分野科目が多く、1周に時間がかかる
合格基準法令等50%以上・基礎知識40%以上・全体60%以上を全部(補正あり)得意な科目だけでは届かない
形式5肢択一式・多肢選択式・記述式(40字程度)択一だけでなく書く練習も要る
実施年1回、11月の第2日曜日の午後1時〜4時一度逃すと次は1年後
結果合格率は直近5年で11.18%〜14.54%準備が足りないまま受けると届きにくい

令和7年度の合否判定基準では、法令等122点以上・基礎知識24点以上・全体180点以上でした。合格率は令和3年度の11.18%から令和7年度の14.54%までの幅です(行政書士試験研究センターの公表値)。合格基準は、満点に対する割合(50%・40%・60%)で示されています(補正されることがあります)。働いているかどうかではなく、3つの基準を越える点を取る準備ができるかが分かれ目です。

受かるかどうかは、何で判断するか

勉強時間の公式の目安はありません。人の合格までの時間は、法律の経験や1日の使える時間で大きく違うので、自分の数字を使います。手順は次のとおりです。

  1. 2週間、測る:基本書の1単元を読み、その単元の問題を解き終えるまでの時間を、行政法と民法で1単元ずつ測る。
  2. 1周目の時間を出す:「1単元の時間×単元の数」を科目ごとに足す。
  3. 必要な時間を出す:1周目に、2周目(1周目より短い。2周目の最初の単元で測り直す)と、最後の3か月の通し練習(1回3時間+見直し)を足す。
  4. 使える時間を出す:試験日までの週の数×1週間に実際に取れた時間。測った2週間の実績を使い、予定の数字は使わない。
  5. 比べる:使える時間が、必要な時間をどれだけ上回るかを見る(次の表)。

見積もりには、余裕を持たせます。卒業論文に取り組む大学生に、書き終える日を予想してもらった研究(Buehler ら、1994年)では、実際には予想より長くかかりました。人は作業にかかる時間を短く見積もりがちです。働く人は、残業や家の用事で予定どおり進まない週もあります。

1年で足りる人・2年に分ける人の見分け方

「使える時間」と「必要な時間」を比べて、次のように決めます。1.2倍という余裕の幅は、見積もりの甘さと崩れる週に備えた当サイトの目安です。

比べた結果当サイトのすすめやること
使える時間が必要な時間の1.2倍以上今年度の試験で受ける予定どおり進め、毎週の実績で見積もりを直す
1.0倍以上、1.2倍未満今年度に受けるが、範囲を絞る記述に頼らない目標点の型にし、深追いしない所を先に決める
1.0倍未満2年に分けるか、週の時間を増やす1年目に固める科目を決める(次の節)

計算の例

会社員のみさきさんの例です。数字は計算のしかたを見せるための仮のもので、目安ではありません。みさきさんが2週間測った結果から、1周目に240時間、2周目に120時間、最後の通し練習6回に24時間(1回3時間+見直し1時間)かかると見積もりました。必要な時間は384時間で、その1.2倍は約461時間です。試験日まで40週あります。

実際に取れた週の時間使える時間必要な時間との比表での判断
8時間320時間約0.83倍2年に分けるか、時間を増やす
10時間400時間約1.04倍今年度に受け、範囲を絞る
12時間480時間1.25倍今年度に受ける

週の時間が2時間違うだけで、判断が変わります。週8時間のみさきさんが今年度に受けたいなら、週の時間をどこから増やせるかを先に考え、増やせないなら2年に分けます。

たとえば、測った結果から必要な時間が出て、使える時間が足りないと分かった場合です。この場合、「とにかく今年受けて何とかする」と全部の科目を薄く回すより、範囲と目標点を決め直すほうが、点の取りこぼしを減らせます。範囲の絞り方と目標点の型は得点戦略の記事で計算しています。

1年で足りやすい条件、2年に分けたほうがよい条件

  • 1年で足りやすい:民法を宅建などで勉強したことがある。平日の時間が週ごとに大きく変わらない。試験日までに、全科目に一度手を付ける月が取れる(当サイトのすすめでは試験の3か月前まで)。
  • 2年に分けたほうがよい:法律の勉強が初めてで、測った1単元の時間が長い。繁忙期があって、数か月ほとんど勉強できない時期が決まっている。試験まで半年を切ってから始める。

2年に分けるとき、1年目に固める科目

2年に分けると決めたら、1年目は「全科目を薄く」ではなく、「点が大きく、長く残る科目を固める」年にします。

時期固める科目理由
1年目行政法(行政手続法・行政不服審査法・行政事件訴訟法・国家賠償法)点が最大。条文の手続は改正が少なければ2年目にも使える
1年目民法の総則と債権範囲が広く、戻る回数がいちばん要る
1年目文章理解(週に数問)知識が古くならず、続けた分だけ慣れる
2年目民法の物権・親族・相続、憲法、地方自治法1年目の土台の上に足す
2年目基礎知識(業務関連法令・個人情報保護・一般知識)、商法・会社法その年の基準日の法令で覚える
2年目記述式・多肢選択式、通し練習択一の知識ができてから

1年目の後半に、本番と同じ3時間で過去問を1回解くと、2年目にどの科目で時間が足りないかが見えます。センターのサイトで、令和2年度から令和7年度までの問題と正解が公開されています。残り期間ごとの組み方は勉強スケジュールの記事で示しています。

1年目にも、試験を受けたほうがよいか

2年に分ける場合でも、1年目に受けるかどうかは選べます。受けると、本番と同じ時間・会場で3時間を通す経験ができます。一方、受験手数料は10,400円で、申込みはインターネットなら7月21日から8月24日(令和8年度の場合)までです。当サイトの考え方は次のとおりです。

  • 1年目に受ける:行政法と民法の1周目が終わっていて、本番の時間配分を確かめたい人。結果は、科目ごとの点より、3つの基準それぞれとの差を見ます。
  • 1年目は受けない:1周目の途中で、本番の日のために勉強の予定を崩したくない人。そのかわり、自宅で公式の問題を3時間で解く日を作ります。

2年目に気をつけること:基準日と教材の版

試験は、その年度の4月1日現在施行されている法令から出ます。令和9年度なら令和9年4月1日です。1年目に覚えたことのうち、改正された所は覚え直しになります。

  • 例:行政書士法には、令和8年5月21日に施行された改正(令和5年法律第63号)があります。令和8年度試験の範囲の外ですが、令和9年度試験では範囲に入ります。
  • メインの基本書と問題集は、2年目の試験の年度に合わせた版にします。全部を買い替えなくても、改正のあった条文をe-Gov法令検索で確かめれば対応できる所もあります。科目ごとに、テキストを減らして問題集と条文で進められる所はテキストなしで受かるかの記事で分けています。
  • 1年目に作った間違いノートや表は、条番号と数字を2年目の4月1日時点の条文で見直してから使います。

2年に分けた場合、1年目の終わりから2年目の始まりに、勉強が途切れやすくなります。「平日の朝、通勤の電車で、前の週にまちがえた肢を解く」のように、いつ・どこで・何をするかを先に決めておくと続けやすくなります。こうした決め方の効果は、多くの研究をまとめた分析(Gollwitzer と Sheeran、2006年)で示されています。平日・すき間・休日の分け方は働きながら受かる時間の使い方で説明しています。

今日からやること

  • 今日から2週間、行政法と民法の1単元ずつにかかった時間と、毎日実際に取れた時間を記録する。
  • 基本書の目次で、科目ごとの単元の数を数える。
  • 2週間後に、必要な時間と使える時間を出し、表で「1年」「範囲を絞って1年」「2年」のどれかを決める。
  • 2年に分ける場合は、1年目の科目(行政法の手続の法律・民法の総則と債権・文章理解)だけで、月ごとの予定を作る。

このサイトで次に読むなら、勉強時間の考え方です。この記事で使った「測って見積もる」手順を、科目ごとの時間の配り方と1日の時間の取り方まで、くわしく説明しています。

参考にした研究・資料(2026年10月確認)