商法の総則と商行為をわかりやすく:商人・商号・支配人の最低限

ひとことで言うと、商法は「商売をする人(商人)と、商売の取引(商行為)」についての特別ルールです。商売の取引は数が多く、スピードが大事です。そこで商法は、民法より取引を早く・確かに進められるルールを置いています。商法に定めがなければ商慣習、商慣習もなければ民法の順に使います(商法1条2項)。

この記事では、商人、商行為の種類、商号(しょうごう=商売で使う名前)、支配人、民法と違う商行為の特則を扱います。商業帳簿、代理商、仲立・運送などは扱いません。商法・会社法は、令和3年度の問題で当サイトが数えると合わせて5問でした(公式の内訳ではありません)。深追いせず、民法との違いで点になる所にしぼります。

身近な例で考えるとどうなるか

舞台は、会社にしないで個人で営む八百屋「たなか青果」です。

登場人物立場したこと
たなかさん店主(商人)2号店を開いた
おのさん2号店の支配人仕入れの契約をした
けんたさんたなかさんのいとこ「たなか青果」の名前で商売した
ふじいさんレストランの店主(商人)たなか青果と取引した
  1. たなかさんは、おのさんを支配人に選び、2号店の営業を任せました(商法20条)。おのさんは、2号店の営業について、仕入れや売り上げの回収など一切のことを、たなかさんに代わってできます(21条1項)。
  2. たなかさんは、おのさんに「1回100万円を超える仕入れはだめ」と言っていました。でも、それを知らない農家からおのさんが150万円分を仕入れた場合、たなかさんはこの制限を農家に言い張れません(21条3項)。
  3. おのさんは、近くで自分の八百屋を開きたくなりました。支配人は、たなかさんの許可がなければ自分で営業できません(23条1項1号)。
  4. たなかさんは、いとこのけんたさんに「たなか青果」の名前で商売することを許しました。ふじいさんは、たなかさんの店だと思ってけんたさんと取引しました。けんたさんが代金を払わないと、たなかさんもけんたさんと連帯して払う責任を負います(14条)。
  5. いつも取引しているふじいさんから、たなか青果に野菜の注文(契約の申込み)が届きました。たなかさんは遅滞なく、受けるか断るかを知らせなければなりません。知らせなかったら、注文を受けた(承諾した)とみなされます(509条)。

たとえるなら、支配人は「店ごとまるごと任された店長」です。ふつうの代理人より任された範囲が広く、一つひとつ店主に確かめなくても取引できます。ただし本物のルールでは、支配人として登記する決まりがあり(22条)、店主の許可なく別の商売もできません。名前だけの「店長」とは違います。

条文ではどう決まっているか

商法の使い方(1条・3条)

  • 1条:商人の営業、商行為その他商事には、ほかの法律に特別の定めがある場合を除き、商法を使う(1項)。商法に定めがなければ商慣習、商慣習がなければ民法(2項)。
  • 3条1項:当事者の一方にとって商行為となる行為には、双方に商法を使う。八百屋(商人)と、野菜を買う会社員の取引でも、商法のルールが両方にかかります。

商人と商行為(4条・7条・501条〜503条)

  • 4条1項:商人とは、「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」。業とする=くり返し仕事として行うことです。
  • 4条2項:店舗などの設備で物品を販売することを業とする者と、鉱業を営む者は、商行為を業としなくても商人とみなす。
  • 7条:営業に使う財産の価額が法務省令で定める金額を超えない商人(小商人=こしょうにん)には、商業登記、商号の登記、商業帳簿、支配人の登記などの規定を使わない。
  • 501条:だれがしても、1回だけでも商行為になるもの。①利益を得て売るつもりで物や有価証券を買うこと、またはそれを売ること、②他人から仕入れる物を届ける契約、③取引所での取引、④手形その他の商業証券に関する行為。
  • 502条:「営業としてするときは」商行為になるもの(13の号)。物を貸す目的で買う・借りる、運送、作業の請負、出版・印刷・撮影、両替などの銀行取引などです。ただし、もっぱら賃金を得る目的で物を作ったり労務に従事したりする人の行為は除く。
  • 503条:商人がその営業のためにする行為は商行為(1項)。商人の行為は、営業のためにするものと推定する(2項)。八百屋がお店のトラックを買うのがこれに当たります。
  • 会社法5条:会社が事業としてする行為と、事業のためにする行為は、商行為とする。

商業登記の効力(9条)

  • 1項:登記すべき事項は、登記の後でなければ善意の第三者(知らなかった人)に対抗できない。登記の後でも、第三者が正当な事由で知らなかったときは同じ。
  • 2項:故意または過失で事実と違うことを登記した者は、それが事実と違うことを善意の第三者に対抗できない。

商号と名板貸し(11条〜17条)

  • 11条:商人(会社と外国会社を除く)は、氏、氏名その他の名称を商号にできる(1項)。商号を登記することができる(2項)。
  • 12条:だれも、不正の目的で、他の商人とまちがえられるおそれのある名称や商号を使ってはならない(1項)。営業上の利益を侵害される商人は、侵害の停止や予防を請求できる(2項)。
  • 14条(名板貸し=ないたがし):自分の商号を使って営業することを他人に許した商人は、自分が営業していると誤認して取引した相手に対し、その他人と連帯して、取引で生じた債務を弁済する責任を負う。
  • 15条:商号は、営業とともにする場合か、営業を廃止する場合に限り、譲渡できる(1項)。譲渡は登記しなければ第三者に対抗できない(2項)。
  • 17条:営業をゆずり受けた商人が、ゆずった人の商号を引き続き使う場合、ゆずり受けた人も、ゆずった人の営業で生じた債務を弁済する責任を負う(1項)。遅滞なく「責任を負わない」と登記したときなどは除く(2項)。

支配人と表見支配人(20条〜24条)

  • 20条:商人は、支配人を選任し、その営業所で営業を行わせることができる。
  • 21条:支配人は、商人に代わって、その営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を持つ(1項)。他の使用人を選んだり、やめさせたりできる(2項)。代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗できない(3項)。
  • 22条:商人が支配人を選任したときは、登記しなければならない。代理権が消えたときも同じ。
  • 23条1項:支配人は、商人の許可がなければ、①自分で営業すること、②自分や第三者のために商人の営業の部類に属する取引をすること、③他の商人や会社などの使用人になること、④会社の取締役・執行役・業務を執行する社員になること、ができない。②に違反して得た利益の額は、商人の損害の額と推定する(2項)。
  • 24条(表見支配人=ひょうけんしはいにん):営業所の営業の主任者であることを示す名称(「支店長」など)を付けた使用人は、その営業所の営業に関し、一切の裁判外の行為をする権限があるものとみなす。ただし、相手方が悪意(本当は支配人でないと知っていた)のときは別。

会社の支配人は、会社法10条〜13条に同じ形のルールがあります(会社法11条が代理権、13条が表見支配人)。商法の商号・支配人の条文は、会社を除いた個人の商人のためのものです。会社の名前のルールは会社法6条以下にあり、商号の中に「株式会社」などの文字を使わなければなりません(会社法6条2項)。

商行為の特則(504条〜526条から最低限)

  • 504条:商行為の代理人が本人のためにすることを示さなくても(顕名=けんめいがなくても)、行為は本人に効力を生じる。ただし、相手方が本人のためだと知らなかったときは、代理人に履行を請求することもできる。
  • 509条:商人が、平常取引をする者から、営業の部類に属する契約の申込みを受けたときは、遅滞なく諾否(だくひ=受けるか断るか)の通知を発しなければならない(1項)。怠ると承諾したものとみなす(2項)。
  • 511条:数人が、その一人または全員のために商行為となる行為で債務を負ったときは、各自が連帯して負担する(1項)。主たる債務が商行為で生じたとき、または保証が商行為であるときは、保証人も連帯して負担する(2項)。
  • 512条:商人が営業の範囲内で他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求できる。
  • 513条:商人間でお金の貸し借りをしたときは、貸主は法定利息を請求できる(1項)。なお、商人どうしの特別な利率を決めていた514条は「削除」されていて、利率は民法の法定利率(404条)によります。
  • 526条:商人間の売買で、買主は目的物を受け取ったら遅滞なく検査しなければならない(1項)。種類・品質・数量が契約に合わないと分かったら、直ちに売主に通知しなければ、追完請求・代金減額・損害賠償・解除ができない。種類・品質の不適合ですぐには分からないものでも、6か月以内に見つけたときは同じ(2項)。売主が不適合を知っていたときは、この制限はない(3項)。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(21条3項):おのさんへの「100万円まで」という制限を知らない農家との150万円の仕入れ。たなかさんは制限を理由に断れません。農家が制限を知っていたら、話は別です。
  2. 当てはまらない(24条):2号店のパート従業員に、たなかさんが「支店長」と名乗らせていた。この人が2号店の取引で農家と契約したとき、農家が「本当は支配人ではない」と知っていたなら、たなかさんは責任を負いません(24条ただし書)。
  3. ひっかけやすい(24条の範囲):「支店長」の名称の使用人は、裁判外の行為の権限があるとみなされます。お店のために裁判を起こす権限までは、24条ではみなされません。本物の支配人(21条1項)は「裁判上又は裁判外」の両方です。
  4. 当てはまらない(509条):初めて取引する相手から、たなか青果に注文が届いた。509条は「平常取引をする者」からの申込みのルールです。返事をしなくても、承諾したとはみなされません。
  5. 当てはまる(504条):おのさんが、たなかさんの名前を出さずに2号店のための仕入れ契約をした。商行為の代理なので、契約はたなかさんに効力を生じます。仕入れ先が事情を知らなかったときは、おのさんに履行を求めることもできます。
  6. ひっかけやすい(15条):たなかさんが、八百屋を続けたまま「たなか青果」の名前だけを他の人に売った。商号は営業とともにするか、営業を廃止する場合に限って譲渡できます。

似ているルールとどう違うか

商法の特則は、民法の原則と並べると覚えやすくなります。

場面民法の原則商法の特則
顕名のない代理代理人が自分のためにしたとみなす(100条)本人に効力を生じる(504条)
数人で債務を負う等しい割合で分けて負う(427条)連帯して負う(511条1項)
頼まれた仕事の報酬委任は特約がなければ請求できない(648条1項)商人は相当な報酬を請求できる(512条)
申込みに返事をしない承諾があって契約が成立(522条1項)平常取引の相手なら承諾とみなす(509条)
契約に合わない物種類・品質は知った時から1年以内に通知(566条)受け取って検査し直ちに通知。見つけにくい種類・品質の不適合は6か月以内(526条)

民法の側のルールは、代理が代理をわかりやすく、連帯して負う債務の効果が連帯債務をわかりやすく、契約に合わない物の責任が契約不適合責任の記事で整理しています。

支配人と表見支配人の違いも表にします。民法の表見代理(110条など)は相手に「正当な理由」を求めますが、24条は相手が悪意でなければ足りる、という形です。

比べる点支配人(21条)表見支配人(24条)
権限の範囲裁判上・裁判外の一切裁判外の一切(みなす)
守られない相手制限を知っていた相手悪意の相手
権限がある理由商人が選任した(20条)主任者らしい名称を付けた

試験ではここをまちがえやすい

  • 適用の順番の入れかえ:商法→商慣習→民法の順です(1条2項)。「民法→商慣習」とすると誤り。
  • 4条2項の「みなす」を落とす型:店舗で物を売る人や鉱業を営む人は、商行為を業としなくても商人とみなされます。
  • 501条と502条の入れかえ:501条は1回だけでも商行為。502条は「営業として」するときだけ商行為です。
  • 名板貸しの責任の形:名前を貸した商人の責任は、借りた人と「連帯して」です。相手が誤認して取引したことが前提です。
  • 支配人と表見支配人の権限の入れかえ:支配人は裁判上も裁判外も。表見支配人は裁判外だけ。
  • 競業の禁止の主語:支配人の競業は「商人の許可」がなければできない。許可を出すのは商人(店主)です。
  • 526条の期間と例外:すぐに分からない種類・品質の不適合は6か月以内に発見したとき。売主が悪意なら526条2項は使わない。民法の「知った時から1年」と混ぜない。

行政書士試験では、商法の分野から、民法との違いを入れかえた選択肢や、支配人・表見支配人・名板貸しの条文の要件を問う形が考えられます。条文の数は多くないので、この記事の条文を一度e-Govで通して読むところまでが最低限の目安です。この論点は宅建試験の範囲ではありません。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
たなかさんは、八百屋の2号店の支配人におのさんを選んだ。おのさんは、たなかさんに代わって、2号店の営業に関する一切の裁判外の行為をする権限を持つが、裁判上の行為をする権限は持たない。

答え:✕ 支配人は、商人に代わって、その営業に関する一切の「裁判上又は裁判外の行為」をする権限を持ちます(21条1項)。「裁判外の行為」だけなのは、表見支配人の24条の形です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
たなかさんは、自分の商号を使って営業することをいとこのけんたさんに許した。ふじいさんは、たなかさんの店だと誤認してけんたさんと取引した。この場合、たなかさんは、けんたさんと連帯して、その取引で生じた債務を弁済する責任を負う。

答え:○ 名板貸しの責任です(14条)。名前を貸した商人は、誤認して取引した相手に対し、借りた人と連帯して責任を負います。

問3(このサイトのオリジナル問題)
商人であるたなかさんが、初めて取引する人から、営業の部類に属する契約の申込みを受けた。たなかさんが遅滞なく諾否の通知を発しなかったときは、申込みを承諾したものとみなされる。

答え:✕ 509条は、「平常取引をする者」からの申込みについてのルールです。初めての相手からの申込みには当たりません。

まとめ

  • 商法→商慣習→民法の順。一方にとって商行為なら双方に商法(1条・3条)。
  • 商人は「自己の名で商行為を業とする者」。店舗販売・鉱業は商人とみなす(4条)。501条は1回でも、502条は営業として、503条は営業のため。
  • 名板貸しは連帯責任(14条)。商号の譲渡は営業とともにか営業廃止のときだけ(15条)。
  • 支配人は裁判上・裁判外の一切。制限は善意の第三者に対抗できない。表見支配人は裁判外だけで、相手が悪意なら別(21条・24条)。
  • 商行為の特則:顕名なしでも本人に効く、連帯、報酬、平常取引の相手の申込みへの沈黙は承諾、商人間売買の検査と通知。

次に読むなら、商法・会社法は捨てていいかがおすすめです。商法と会社法に、全体の中でどれだけ時間をかけるかを決めてから、株式と株主の権利など会社法の最低限に進むと、深追いしすぎずにすみます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています。