商法・会社法を「捨てる」かどうかは、行政法・民法の仕上がりと、試験までの残り時間で決めるのが現実的です。5肢択一式(5つから1つ選ぶ問題)は1問4点です(令和7年度の合否判定基準の配点)。科目ごとの問題数は、公式には公表されていません。公開されている令和3年度の問題冊子を当サイトが数えたところ、商法・会社法にあたる問題は5問でした(公式の内訳ではありません)。全問正解でも20点です。全部を勘で選ぶと、期待値(平均して取れると見込める点)は4点ほどです。
このページでは、まず「捨てるか・後回しにするか・最低限だけやるか」を決める基準を示します。次に、捨てない場合に押さえる範囲(設立・株式・機関と、商法の入口)を示します。条文は、e-Gov法令検索で確かめたものです。
商法・会社法は何点分あるのか
令和7年度の合否判定基準では、5肢択一式は1問4点です。配点は、試験の前には公表されません。合否発表のときに、「合否判定基準」で公表されます。令和8年度の配点はまだ出ていないので、ここでは令和7年度の配点を前提にします。
科目ごとの問題数(憲法◯問・商法◯問など)を示した公式の表はありません。当サイトが、公開されている令和3年度の問題冊子を中身から数えました。商法・会社法にあたるのは問題36〜40の5問で、うち1問が商法(商行為)、4問が会社法でした。これは公式の区分ではなく、年度によって変わることもあります。以下は「5問・20点」を目安に考えます。
20点は、満点300点の約7%、法令等(法律の科目)の満点244点の約8%です。小さく見えますが、商法・会社法は法令等の科目です。そのため、全体の180点だけでなく、法令等の基準点(令和7年度は122点)にも関わります。合格点と足切りの仕組みは合格点と足切りの記事に、科目全体の配点は科目と配点の記事にまとめています。
捨てると、ほかの科目で何点取り返すことになるか
5肢択一式を勘で選ぶと、1問あたり正解する見込みは5分の1です。5問なら、平均して当たるのは1問、つまり4点です。ただし、これは平均の話なので、0点のこともあります(5問とも外れる確率は、計算上約33%)。
商法・会社法で取れた点が少ないほど、全体の180点に届くために、残りの科目で必要な点は増えます。
| 商法・会社法の正解数 | 得点 | 180点まで残り |
|---|---|---|
| 0問 | 0点 | 180点 |
| 1問 | 4点 | 176点 |
| 3問 | 12点 | 168点 |
| 5問 | 20点 | 160点 |
勘で1問当たった場合と、最低限の範囲をやって3問取れた場合の差は8点です。5肢択一式の2問分にあたります。考えるべきことは一つです。「会社法で2問増やすのと、行政法や民法で2問増やすのと、今の自分にはどちらが近いか」です。
捨てるかどうかを決める4つの基準
次の4つを、自分の状況に当てはめてみてください。
- 行政法・民法の仕上がり:公開されている過去問を解いて、まだ正解したりしなかったりと安定しないなら、そちらで2問増やすほうが近道になりやすいです。行政法・民法の優先順位は、行政法の勉強法と民法の勉強法で扱っています。
- 基礎知識の足切り:基礎知識は、令和7年度の基準で24点(6問)に届かないと、ほかが満点でも不合格です。ここに不安があるなら、商法・会社法より先に手を打ちます(基礎知識の記事)。
- 試験までの残り時間:令和8年度の試験は11月8日(日)です。新しい科目に手を広げる余裕があるかは、残りの週の数と、1週間に使える時間で決まります。
- 会社法との相性:仕事で株主総会や役員の任期にふれたことがある人は、条文の言葉が頭に入りやすいかもしれません。反対に、言葉がまったくなじまないなら、範囲をさらにしぼります。
組み合わせると、たとえば次のような選び方が考えられます。どれが正しいということではありません。今の自分に近い行を選ぶための目安です。
| 今の状況 | 選び方の例 |
|---|---|
| 行政法・民法がまだ不安定 | 商法・会社法は後回し。最後に最低限だけ |
| 行政法・民法・基礎知識が安定し、時間もある | 下の「最低限の範囲」を条文で固める |
| 残りが少なく、全体に不安がある | 新しく手を広げず、本番は勘で選ぶ |
なお、「捨てる」と「後回し」は別のものです。捨てるなら、本番は勘で選ぶことになり、期待値は4点です。後回しなら、行政法・民法が固まった時点で、次に示す最低限の範囲に戻ってきます。
最低限やる範囲①:設立は「定款」と「成立の時点」
ここからは、捨てない場合に押さえる範囲です。条文は、令和8年度試験の基準である「令和8年4月1日現在施行の法令」に合わせて、e-Gov法令検索で確かめました。会社の作り方は、次の流れで条文を追うと、頭に入りやすくなります。
- 設立の方法は2つ(会社法25条1項):1つは、発起人(ほっきにん=会社を作る人)が、設立のときに出す株式を全部引き受ける方法です(発起設立)。もう1つは、発起人が引き受けるほかに、引き受ける人を募集する方法です(募集設立)。
- 発起人は1株以上引き受ける(25条2項):「各発起人は…一株以上引き受けなければならない」とされています。
- 定款の作成(26条1項):発起人が定款(ていかん=会社のいちばん大もとのルール)を作り、全員が署名または記名押印します。電磁的記録(パソコンなどのデータ)で作ることもできます(26条2項)。
- 定款に書かなければならないこと(27条):①目的、②商号(会社の名前)、③本店の所在地、④設立のときに出資される財産の価額、またはその最低額、⑤発起人の氏名または名称および住所。
- 公証人の認証(30条1項):定款は、公証人(こうしょうにん)の認証(正しく作られたことの証明)を受けないと、効力が生じません。認証のあと、会社ができる前に定款を変えられるのは、条文が決めた場合に限られます(30条2項)。
- 会社が成立する時点(49条):「株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する。」登記(とうき)とは、国の帳簿に記録することです。
ひっかけの型は「時点のすりかえ」です。「定款を作った時」「認証を受けた時」「出資をした時」のどれかで会社ができる、と書かれていたら、49条に戻ります。会社ができるのは、設立の登記をした時です。たとえば、ゆうとさんが定款を作り、認証も受け、出資もすませたとします。それでも、設立の登記をするまでは、ゆうとさんの会社はまだできていません。
最低限やる範囲②:株式は「有限責任」と「公開会社の意味」
- 株主の責任(104条):「株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする。」株主が会社の借金を代わりに払うことはない、という株式会社の土台です。たとえば、さくらさんが株を引き受けて10万円を払ったとします。会社が大きな借金をかかえてつぶれても、さくらさんが失うのは、最大でその10万円です。
- 株式の譲渡(127条):「株主は、その有する株式を譲渡することができる。」譲渡(じょうと=ゆずりわたすこと)は自由が原則です。制限は、その例外として定款で設けます。
- 公開会社の定義(2条5号):次のような株式会社のことです。発行する株式の全部または一部について、「ゆずり受けるには会社の承認がいる」という定款の定めを置いていない会社です。
「公開会社」は、ふだん使う「上場している会社」という意味とはちがいます。株式の一部でも譲渡に制限が付いていなければ、公開会社です。全部の株式に制限が付いていれば、公開会社でない会社です。この区別は、次の「機関」の所で、取締役会を置く義務や、取締役の任期に直接つながります。
(このサイトのオリジナル問題)次の文は正しいか。「公開会社とは、その株式を証券取引所に上場している株式会社をいう。」
答え:誤りです。2条5号の定義は、上場しているかどうかでは決まりません。譲渡を制限する定款の定めがあるかどうかで決まります。
最低限やる範囲③:機関は「株主総会」「取締役」「取締役会」
機関(きかん)とは、会社のことを決めたり、実行したりする人や会議のことです。条文が多い分野なので、最低限は、次の条文の「原則」と「例外」の組み合わせにしぼります。
株主総会
- 決められること(295条):1項では、株主総会は、会社法に書かれた事項と、会社の組織・運営・管理その他株式会社に関する一切の事項を決議できます。2項では、取締役会設置会社(取締役会を置いている会社)の株主総会は、決議できることが限られます。会社法に書かれた事項と、定款で定めた事項だけです。
- 普通決議(309条1項):定款に別の定めがなければ、次のように決めます。まず、議決権を使える株主の議決権の過半数を持つ株主が出席します。そして、出席した株主の議決権の過半数で決めます。
- 特別決議(309条2項):出席の条件は、同じく議決権の過半数を持つ株主の出席です(定款で3分の1以上の割合にできます)。そのうえで、出席した株主の議決権の3分の2以上で決めます。どんなことを特別決議で決めるかは、同じ項の各号に並んでいます。
(このサイトのオリジナル問題)次の文は正しいか。「取締役会設置会社の株主総会は、株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。」
答え:誤りです。「一切の事項」は、295条1項(取締役会を置かない会社)の書き方です。取締役会設置会社は、2項により、法律に書かれた事項と、定款で定めた事項に限られます。
取締役と取締役会
- 取締役は1人以上(326条1項):「株式会社には、一人又は二人以上の取締役を置かなければならない。」取締役会・監査役・会計監査人などは、定款に定めれば置くことができます(326条2項)。
- 取締役会を置かなければならない会社(327条1項):公開会社、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の4つです。
- 選任(329条1項):役員(取締役・会計参与・監査役)と会計監査人は、株主総会の決議で選びます。
- 任期(332条):原則は、選ばれてから2年以内に終わる事業年度のうち最後のものについての、定時株主総会が終わる時までです。定款や株主総会の決議で、短くすることもできます(1項)。公開会社でない会社(監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社を除く)は、定款で、選ばれてから10年以内まで延ばせます(2項)。
- 取締役会の仕事(362条):取締役会は、すべての取締役でつくる会議です(1項)。業務の執行の決定、取締役の仕事ぶりの監督、代表取締役を選ぶこと・やめさせることを行います(2項)。重要な決定は、取締役に任せることができず、取締役会で決めなければなりません。たとえば、大事な財産を手放す・ゆずり受けること、多額のお金を借りることなどです(4項)。
ここのひっかけは、「公開会社かどうか」と組み合わせて、数字を入れかえる型です。任期を10年に延ばせるのは、公開会社でない会社だけです。取締役会を置く義務があるのは、公開会社など、327条1項の4つの会社です。②の公開会社の定義と、この2か所をセットで覚えましょう。一つの知識で、いくつもの選択肢を見分けられるようになります。
商法の入口:「商人」と「商行為」
先に数えた令和3年度の5問のうち1問は、会社法ではなく、商法(商行為)からでした。商法まで手を広げる余裕がない場合でも、定義の条文だけは読んでおきましょう。選択肢の言葉にふり回されにくくなります。
- 商人(商法4条):1項は、「自己の名をもって商行為をすることを業とする者」です。業とするとは、くり返し仕事として行うことです。2項は、店などの設備で物を売ることを仕事にする人や、鉱業を営む人を、商人とみなします。商行為を仕事にしていない人でも、商人として扱うということです。
- 絶対的商行為(商法501条):だれがしても商行為になる行為として、次の4つが挙がっています。①利益を得て売る(ゆずりわたす)つもりで、動産・不動産・有価証券をお金を払って手に入れること、またはそれを売ること。②他人から手に入れる動産・有価証券を届ける契約と、そのためにお金を払って手に入れること。③取引所でする取引。④手形その他の商業証券に関する行為。
4条1項は、「商行為」をしているかどうかから「商人」を決めています。一方、4条2項は、商行為をしていなくても「商人とみなす」場面を作っています。この向きのちがいが、定義を問う選択肢で判断するときの軸になります。
最低限の範囲をどう回すか
範囲を決めたら、回し方はシンプルにします。
- 上に挙げた条文を、e-Gov法令検索で一度通して読みます。テキストの説明より先に条文の言葉にふれておくと、選択肢の言いかえに気づきやすくなります。
- 条文ごとに、「原則」と「例外・数字」を1行で書き出します(例:取締役の任期は2年、非公開会社は定款で10年まで)。
- その1行を、主語や数字を入れかえた○×の文に、自分で作りかえます。上のオリジナル問題のように、条文の項を入れかえるのが作りやすい型です。
- 公開されている過去問(センターの「過去の試験問題と正解」)のうち、商法・会社法の問題を解きます。最低限の範囲で、どれくらいの選択肢を見分けられるかを確かめます。
4で「最低限の範囲では、ほとんど見分けられない」と感じたら、それ以上深追いせず、行政法・民法に戻るのも一つの判断です。反対に手ごたえがあれば、同じ条文のまわりを少しだけ広げます。どちらにしても、独学全体の時間の配り方の中で決めることです。迷ったら、独学の進め方の記事の科目の順番に照らしてみてください。
このサイトで次に読むなら、行政法の勉強法がおすすめです。商法・会社法に回す時間をどこから作るかを決められます。足切りの不安が残る人は、基礎知識の記事を先に読むと、優先順位を決めやすくなります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
- 行政書士試験研究センター「合否判定基準」(令和7年度)
- 行政書士試験研究センター「試験・申込手続きについてのFAQ」(配点の公表時期)
- 行政書士試験研究センター「令和8年度 試験案内」(出題の基準日)
- 行政書士試験研究センター「過去の試験問題と正解」(令和3年度の問題冊子を含む)
- e-Gov法令検索「会社法」(2条5号、25条、26条、27条、30条、49条、104条、127条、295条、309条、326条、327条、329条、332条、362条)
- e-Gov法令検索「商法」(4条、501条)
働く人の法律試験ノート