ひとことで言うと、商人どうしの売買(この記事では「商事売買」と呼びます)には、取引を早く片づけるための特別のルールが商法524条〜528条にあります。売主は、買主が受け取らない物を供託でき、催告すれば裁判所の許可なしに競売できます(524条)。期日が大事な売買で期日を過ぎたら、相手がすぐに履行を求めない限り、解除したものとみなされます(525条)。買主は受け取ったら遅滞なく検査し、契約に合わない点は直ちに売主に知らせなければなりません(526条)。
どれも、民法の売買の決まりより、取引を早く終わらせる向きの内容です。この記事では、4つの特則を民法の売買(契約不適合責任・供託・解除)と表で比べます。商人・商号・支配人など商法総則の基本は商法の総則と商行為の記事で扱っています。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。商人どうしの続く取引で使う交互計算は交互計算で扱っています。
身近な例で考えると
登場するのは、2つの会社です。どちらも商売をしている商人です。
| 会社 | 立場 | この話での役 |
|---|---|---|
| やまと青果 | 売主(野菜の卸) | 野菜や果物をスーパーに売る |
| みなみマート | 買主(スーパー) | 店で売るために仕入れる |
- やまと青果は、みなみマートに玉ねぎ500kgを売った。みなみマートは、倉庫がいっぱいだと言って受け取りを拒んだ。
- やまと青果は、玉ねぎを供託できる。また、相当の期間を定めて「受け取ってください」と催告し、それでも受け取らなければ、裁判所の許可なしに競売できる(524条1項)。
- 同じ日に届けたイチゴは、すぐに傷む。価格が下がるおそれがある物なので、催告をしないで競売できる(524条2項)。競売した代金は供託するが、玉ねぎやイチゴの代金の支払いに充ててもよい(524条3項)。
- 別の取引で、みなみマートは届いたりんごの箱を遅滞なく検査した。箱の数が注文より足りないことが分かったので、直ちにやまと青果に知らせた。知らせないままだと、不足分の追加・代金の減額・損害の賠償・解除を求められなくなる(526条2項)。
たとえると、商事売買の特則は「お店どうしの取引は、待たずにその場で片づける」という決まりです。ただし本物のルールでは、売主が不適合を知っていたときは、買主が直ちに知らせなくても守られます(526条3項)。早く片づける決まりにも、こうした例外があります。
条文ではこう決まっている
売主による供託と競売(524条)
- 商人間の売買で、買主が目的物の受け取りを拒み、または受け取れないときは、売主はその物を供託できる。相当の期間を定めて催告した後に、競売に付すこともできる。どちらをしたときも、遅滞なく買主に知らせる(524条1項)。
- 損傷その他の事由で価格が下がるおそれがある物は、催告をしないで競売に付せる(524条2項)。
- 競売したときは、代金を供託する。ただし、代金の全部または一部を、売買の代金に充てることもできる(524条3項)。
確定期売買(525条)
- 商人間の売買で、売買の性質や当事者の意思表示によって、特定の日時または一定の期間内に履行しなければ契約の目的を果たせないもの(確定期売買)がある。
- 当事者の一方が履行しないままその時期を過ぎたときは、相手方が直ちに履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなす(525条)。
- 解除の意思表示はいらない。履行を続けてほしい側は、直ちに履行を請求する。
買主の検査と通知(526条)
- 商人間の売買で、買主は、目的物を受け取ったら、遅滞なく検査しなければならない(526条1項)。
- 検査で、種類・品質・数量が契約の内容に合わないと分かったら、直ちに売主に知らせなければならない。知らせないと、その不適合を理由に、履行の追完の請求・代金の減額の請求・損害賠償の請求・契約の解除ができない(526条2項前段)。
- 種類・品質の不適合で、すぐには見つけられないものは、買主が6か月以内に見つけたときに、直ちに知らせれば同じく請求できる(526条2項後段)。
- 売主が不適合を知っていた(悪意だった)ときは、2項は使わない(526条3項)。
解除した買主の保管と供託(527条・528条)
- 526条1項の場面で、買主が契約を解除したときでも、買主は売主の費用で目的物を保管するか供託しなければならない(527条1項本文)。
- その物が滅失・損傷するおそれがあるときは、裁判所の許可を得て競売し、代金を保管するか供託する(527条1項ただし書)。許可は、物のある場所の地方裁判所が出す(527条2項)。競売したら遅滞なく売主に知らせる(527条3項)。
- 売主と買主の営業所(営業所がなければ住所)が同じ市町村の区域内にあるときは、527条1項〜3項は使わない(527条4項)。
- 注文と違う物が届いたときのその物、注文より多く届いたときの多い分にも、527条を準用する(528条)。
民法の売買と比べる
民法の売買の決まりは、商人かどうかにかかわらず、だれにでも使います。商事売買の特則は、売主も買主も商人のときだけです。
| 場面 | 民法(だれでも) | 商法(商人間の売買) |
|---|---|---|
| 受け取ってもらえない | 供託できる(494条1項)。競売は裁判所の許可がいる(497条) | 供託できる。催告すれば許可なく競売できる(524条) |
| 期日が大事な売買の遅れ | 催告なしで解除できる。解除の意思表示がいる(542条1項4号・540条1項) | 直ちに履行を請求しない限り、解除したものとみなす(525条) |
| 不適合を知らせる期間 | 種類・品質は、知った時から1年以内(566条) | 検査で見つけたら直ちに。すぐ見つけられない種類・品質は6か月以内に見つけて直ちに(526条) |
| 数量の不適合 | 566条の1年の対象外 | 526条の対象(直ちに知らせる) |
| 期間の決まりが外れるとき | 売主が引渡しの時に知っていた、または重大な過失で知らなかった | 売主が知っていた(悪意) |
民法の契約不適合責任の中身(追完・減額・損害賠償・解除と、1年の通知)は、契約不適合責任の記事で説明しています。受け取りを拒まれたときの民法の決まり(弁済の提供と受領遅滞)は、弁済の提供と受領遅滞の記事にあります。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:やまと青果が、受け取りを拒んだみなみマートに相当の期間を定めて催告し、その後、玉ねぎを競売した。裁判所の許可はいりません(524条1項)。
- 当てはまらない例:やまと青果が、商人でない個人のひろとさんに、家庭菜園の苗を売った。ひろとさんが受け取らなくても、524条は使えません。524条は「商人間の売買」の決まりだからです。民法では、競売に裁判所の許可がいります(497条)。
- 当てはまる例:みなみマートは、年末の売出しに使うため、12月25日に届かなければ買う目的を果たせないと約束して黒豆を買った。やまと青果が届けず、みなみマートが直ちに履行を求めなかったので、契約は解除したものとみなされます(525条)。
- ひっかけやすい例:3の場面で、みなみマートが期日を過ぎてすぐに「遅れてもいいから届けて」と求めた。このときは解除したものとはみなされず、契約は続きます(525条の「直ちにその履行の請求をした場合を除き」)。
- ひっかけやすい例:届いた箱の数が注文より少ないことに、検査ですぐ気づいたのに、5か月後に知らせた。6か月の決まりは、すぐには見つけられない種類・品質の不適合のものです。数量の不足は直ちに知らせないと、請求できません(526条2項)。
- ひっかけやすい例:同じ市内にあるやまと青果とみなみマートの取引で、みなみマートが契約を解除した。営業所が同じ市町村の区域内にあるので、527条の保管・供託の義務はかかりません(527条4項)。
試験ではここをまちがえやすい
- 「商人間」の要件:524条〜526条は、売主も買主も商人の売買の決まりです。片方だけが商人なら使いません。
- 競売に裁判所の許可がいるか:売主の競売(524条)はいらない。解除した買主の競売(527条1項ただし書)と、民法の弁済者の競売(497条)はいる。
- 催告がいるか:売主の供託は催告なし、競売は相当の期間を定めた催告の後。価格が下がるおそれがある物は催告なしで競売できます。
- 解除の意思表示:確定期売買は、解除したものと「みなす」。民法542条1項4号は、催告がいらないだけで、解除の意思表示はいります。
- 6か月と1年:商法は受け取ってから6か月以内に見つけること(すぐに見つけられない種類・品質だけ)、民法は知った時から1年以内に知らせること。数量は商法の「直ちに」の対象です。
- 例外の範囲:商法526条3項は売主が「悪意」のときだけ。民法566条ただし書は、悪意に加えて「重大な過失によって知らなかった」ときも含みます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
青果の卸のやまと青果は、スーパーのみなみマート(どちらも商人)に玉ねぎ500kgを売ったが、みなみマートは受け取りを拒んだ。やまと青果は、相当の期間を定めて催告した後、裁判所の許可を得ないで玉ねぎを競売に付すことができる。
答え:○ 分かれ目は、競売に裁判所の許可がいるかどうかです。商人間の売買で買主が受け取りを拒んだときは、売主は相当の期間を定めて催告した後に競売に付せます(商法524条1項)。条文に裁判所の許可の要件はありません。民法では、弁済の目的物を競売するのに裁判所の許可がいるので(民法497条)、それと同じに考えると✕に見えます。買主が解除して競売する527条1項ただし書でも、許可がいります。
問2(このサイトのオリジナル問題)
商人であるみなみマートは、12月25日に届かなければ買う目的を果たせないと約束して、商人であるやまと青果から黒豆を買った。やまと青果は届けず、みなみマートは直ちに履行を求めなかった。契約は、みなみマートが解除の意思表示をした時に解除される。
答え:✕ 分かれ目は、解除の意思表示がいるかどうかです。商人間の確定期売買で、一方が履行しないまま時期を過ぎたときは、相手方が直ちに履行の請求をした場合を除き、契約の解除をしたものとみなします(商法525条)。正しくは、みなみマートが解除の意思表示をしなくても、解除したものとみなされます。民法542条1項4号は、催告をしないで解除できるとするだけで、解除は相手方への意思表示でします(540条1項)。その決まりと取り違えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
商人どうしの売買で、みなみマートがやまと青果から買ったりんごには、受け取った時にはすぐ見つけられない品質の不適合があった。やまと青果が重大な過失によってこの不適合を知らなかったときは、みなみマートは526条2項の通知をしなくても、代金の減額を請求できる。
答え:✕ 分かれ目は、通知の決まりが外れる売主の主観です。商法526条3項は、売主が不適合を知っていた(悪意だった)場合に限って、2項を使わないとしています。正しくは、重大な過失で知らなかっただけなら2項が使われ、みなみマートは6か月以内に見つけて直ちに知らせなければ、減額を請求できません。悪意に加えて重大な過失のときも期間の決まりを外すのは、民法566条ただし書の決まりで、その範囲と取り違えた形です。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」(商法を含む)で続けて解けます。
まとめ
- 商事売買の特則(524条〜528条)は、売主も買主も商人の売買の決まり。
- 受け取りを拒まれた売主は、供託できる。相当の期間を定めて催告すれば、裁判所の許可なしに競売できる(傷みやすい物は催告なし)。
- 確定期売買は、期日を過ぎたら、相手が直ちに履行を求めない限り解除したものとみなす。
- 買主は遅滞なく検査し、種類・品質・数量の不適合を直ちに知らせる。すぐに見つけられない種類・品質の不適合は6か月以内。売主が悪意なら、この決まりは使わない。
- 解除した買主も、売主の費用で保管・供託する。営業所が同じ市町村の区域内なら、この義務はない。
商法・会社法にどこまで時間をかけるかは、商法・会社法は捨てていいかの記事で配点と合わせて決められます。このサイトで次に読むなら、その記事がおすすめです。商法の1問の中で、商行為の特則がどの位置にあるかが分かります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。
- e-Gov法令検索「商法」(524条〜528条)
- e-Gov法令検索「民法」(494条1項、497条、540条1項、542条1項4号、566条)
働く人の法律試験ノート