契約不適合責任(けいやくふてきごうせきにん)は、ひとことで言うと「売った物が約束と違っていたら、売主が責任を負う」というルールです。買主は、①直してもらう(追完=ついかん)、②代金を減らしてもらう、③損害賠償、④契約の解除、の4つを求められます。ただし、種類や品質が違っていたときは、そのことを知った時から1年以内に売主へ知らせないと、これらを求められなくなります。
この記事では、売買の契約不適合責任を中心に扱い、請負と、宅建業者が売主のときの違いにも触れます。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめています。古い教材では「瑕疵(かし)担保責任」という名前で説明されていることがあります。2020年4月1日に施行された改正(平成29年法律第44号)で今の形になりました。
身近な例で考えると
中古マンションを売るまさとさんと、買うちひろさんの話で考えます。売る人(売主)=まさとさん、買う人(買主)=ちひろさんです。
- 3月1日:ちひろさんは、まさとさんのマンションの一室を2,000万円で買い、引き渡しを受けました。契約書には「給湯器は正常に動く」と書かれていました。
- 6月10日:給湯器が初めから壊れていて、お湯が出ないことが分かりました。
- 6月15日:ちひろさんは、まさとさんに「給湯器が契約と違って壊れています」と知らせ、修理を求めました(追完請求)。
- ちひろさんは「7月15日までに直してください」と求めましたが、まさとさんは直しません。そこで、壊れている分の代金を減らすよう求めました(代金減額請求)。
- お湯が出ない間、ちひろさんは銭湯に通い、お金がかかりました。この損害は、まさとさんに責任がある場合に賠償を求められます。
大事なのは、「欠陥があるかどうか」を契約の中身で決めることです。中古だから多少の古さは当然、という物件もあります。「給湯器は正常」と約束したのに壊れていたから、契約に「適合しない」のです。
「お店で買った服がほつれていたら、交換か値引きか返品」というたとえが近いイメージです。ただし本物のルールでは、どの手段から使えるかに順番があります。代金を減らすには、原則として先に「直して」と催告(さいこく=期間を決めて求めること)しなければなりません。
条文ではこう決まっている
買主が使える4つの手段(562条〜565条)
- 562条1項(追完請求):引き渡された物が「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」とき、買主は、修理・代わりの物・足りない分の引き渡しを求められる。
- 562条1項ただし書:買主に不相当な負担をかけないなら、売主は、買主が求めたのと違う方法で直してもよい(例:買主は交換を求めたが、売主は修理で済ませる)。
- 562条2項:不適合が買主のせいで生じたときは、追完を求められない。
- 563条1項(代金減額請求):相当の期間を定めて追完を催告し、期間内に直されなければ、不適合の程度に応じて代金の減額を求められる。
- 563条2項:直すのが不能、売主がはっきり拒んだ、決まった時期を過ぎると意味がない、催告しても直る見込みがないことが明らか、のときは、催告なしで直ちに減額を求められる。
- 563条3項:不適合が買主のせいで生じたときは、減額を求められない。
- 564条:562条・563条は、415条の損害賠償と、541条・542条の解除を「妨げない」。つまり損害賠償と解除は、債務不履行の一般のルールで考える。
- 565条:移った「権利」が契約と違う場合(権利の一部が他人のもので、それが移らない場合を含む)にも、562条〜564条を当てはめる。
期間の制限と特約(566条・567条・572条)
- 566条:「種類又は品質」が契約と違う物を引き渡した場合、買主が不適合を「知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないとき」は、4つの手段をどれも使えなくなる。ただし、売主が引き渡しの時に不適合を知っていたか、重大な過失(少し注意すれば分かったのに、ひどく不注意だったこと)で知らなかったときは、この制限はない。
- 567条1項:引き渡しの後に、どちらの責任でもない理由で物がなくなったり傷んだりしたときは、買主はそれを理由に4つの手段を使えず、代金の支払いも拒めない。
- 572条:「責任を負わない」という特約をしても、売主が知りながら告げなかった事実などについては、責任を免れない。
4つの手段のうち、売主の落ち度(帰責事由)が必要なのは損害賠償だけです(415条1項ただし書)。追完・減額・解除は、売主に落ち度がなくても求められます。解除と帰責事由の関係は債務不履行と解除の記事で詳しく扱っています。
当てはまる例・当てはまらない例
例1(当てはまる例):売主も知らなかった欠陥
まさとさん自身も、給湯器が壊れていることを知らなかったとします。それでも、契約の内容と違う以上、ちひろさんは修理や減額を求められます。売主が知っていたかどうかは、追完・減額の要件ではありません。損害賠償だけは、まさとさんに責任がないと言えるなら求められません。
例2(当てはまらない例):1年以上、知らせなかった
ちひろさんが6月10日に故障を知ったのに、翌年の7月まで何も知らせなかったとします。給湯器の故障は品質の不適合なので、知った時から1年以内の通知がなければ、4つの手段はどれも使えません(566条)。ただし、まさとさんが引き渡しの時に故障を知っていたなら、この制限はかかりません。
例3(ひっかけやすい例):面積が足りない土地
ちひろさんが、まさとさんから「100平方メートル」と約束された土地を買ったのに、実際は95平方メートルだったとします。これは「数量」の不適合です。566条の1年の通知の制限は「種類又は品質」についてのルールなので、数量には当てはまりません。この場合は、債権の消滅時効の一般のルール(166条1項:知った時から5年、行使できる時から10年)で考えます。時効の基本は時効の記事で確かめてください。
例4(ひっかけやすい例):土地の一部が他人のもの
買った土地の一部が、実は隣のこうへいさんのもので、その部分がちひろさんに移らなかったとします。これは物の品質ではなく「権利」の不適合です。565条で562条〜564条が当てはめられ、ちひろさんは4つの手段を使えます。566条の1年の通知の制限は、権利の不適合にも当てはまりません。
例5(当てはまらない例):引き渡し後の台風
引き渡しを受けた後、台風で窓ガラスが割れたとします。引き渡しの時には契約どおりの物で、その後にどちらの責任でもない理由で傷んだのなら、ちひろさんは修理や減額を求められず、代金の支払いも拒めません(567条1項)。
似ているルールとの違い
同じ「約束と違う物を渡した」場面でも、契約の種類や売主によってルールが変わります。
| 比べる点 | 民法の売買 | 業者が売主 | 請負 |
|---|---|---|---|
| 根拠 | 562条〜566条 | 宅建業法40条 | 559条・637条 |
| 品質などの通知期間 | 知った時から1年 | 引き渡しから2年以上とする特約は可 | 知った時から1年 |
| 買主に不利な特約 | 原則有効(572条の例外あり) | 無効(40条2項) | 原則有効 |
宅地建物取引業法40条は、宅建業者が自ら売主になる宅地・建物の売買で、民法の規定より買主に不利な特約を禁じています。買主も宅建業者のとき(業者どうしの取引)は当てはまりません(78条2項)。例外は、566条の通知期間を「引渡しの日から二年以上」とする特約だけです。これに反する特約は無効になり、民法のルールに戻ります(40条2項)。
たとえば宅建業者のつばめ不動産が「通知は引き渡しから1年以内」と決めても無効で、ちひろさんは知った時から1年以内に通知すればよいことになります。業者が売主のときの他の制限は8種制限の記事で扱っています。
請負(うけおい=家を建てる・リフォームするなど、仕事の完成を約束する契約)にも、売買のルールが準用(じゅんよう=似た場面に当てはめて使うこと)されます(559条)。通知期間は637条で、注文者が知った時から1年以内です。請負人が引き渡しの時に知っていたか重大な過失で知らなかったときは、この制限はかかりません。
試験ではここをまちがえやすい
- 「1年以内に裁判で請求しなければならない」→誤り。条文が求めているのは1年以内の「通知」です。
- 「引き渡しから1年」→誤り。民法では買主が「知った時から」1年です。
- 「数量が足りないときも1年以内の通知が必要」→誤り。566条は種類・品質だけです。
- 「売主に落ち度がなければ、代金減額も求められない」→誤り。帰責事由が必要なのは損害賠償だけです。
- 「代金減額は、いつでも催告なしで求められる」→誤り。原則は催告が先です(563条1項)。
- 「競売(けいばい=裁判所の手続で、差し押さえた物を売ること)で買った物の品質が悪ければ、売主の責任と同じように減額を求められる」→誤り。競売では種類・品質の不適合に568条1項〜3項は当てはまりません(568条4項)。
行政書士試験では、4つの手段の要件(催告がいるか、帰責事由がいるか、買主のせいならどうなるか)を細かく比べさせるのが、問われやすい形の一つです。記述式なら「代金減額を求めるための要件」を40字でまとめる形が考えられます。
宅建試験では、民法のルールと宅建業法40条を組み合わせるのが、問われやすい形の一つです。「業者が売主か、業者でない人が売主か」「特約の期間は何年か」をまず確かめるくせをつけると、取り違えを防げます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題):りょうさんは、みさきさんから中古のノートパソコンを買った。契約では「バッテリーは新品に交換済み」とされていたのに、古いままだった。みさきさんがそのことを知らなかった場合、りょうさんは代金の減額を求めることができない。
答え:✕。代金減額請求(563条)に売主の帰責事由は必要ありません。相当の期間を定めて交換を催告し、期間内に交換されなければ減額を求められます。
問2(このサイトのオリジナル問題):問1で、りょうさんはバッテリーが古いと知ってから1年以上、みさきさんに知らせなかった。みさきさんは、引き渡しの時にバッテリーが古いことを知っていた。この場合でも、りょうさんは減額を求めることができない。
答え:✕。売主が引き渡しの時に不適合を知っていたか、重大な過失で知らなかったときは、1年の通知の制限はかかりません(566条ただし書)。
問3(このサイトのオリジナル問題):宅建業者が自ら売主となり、業者でない人に建物を売る契約で、「売主の責任についての通知は、引き渡しの日から2年以内に限る」と決めた。この特約は有効である。
答え:○。宅建業法40条1項は、566条の期間を「引渡しの日から二年以上」とする特約を例外として認めています。2年ちょうどは「二年以上」に入ります。
まとめ
- 種類・品質・数量・権利が契約と違えば、追完・代金減額・損害賠償・解除を求められる(562条〜565条)。
- 代金減額は原則「催告→期間内に直らない」が先。売主の帰責事由が必要なのは損害賠償だけ。買主のせいなら追完・減額はできない。
- 種類・品質の不適合は「知った時から1年以内に通知」。売主が知っていた・重過失なら制限なし。数量・権利には当てはまらない(566条)。
- 宅建業者が売主なら、買主に不利な特約は無効。例外は通知期間を「引渡しから2年以上」とする特約(宅建業法40条)。
宅建試験を受ける人は、続けて8種制限の記事を読むと、業者が売主のときの特約の制限をまとめて整理できます。行政書士試験の人は、損害賠償と解除の土台になる債務不履行と解除の記事に戻ると、要件の比べ方が固まります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点(行政書士試験・宅建試験の出題の基準日)の内容を e-Gov 法令検索で確かめています。
- e-Gov法令検索「民法」(166条・415条・541条・542条・559条・562条〜568条・572条・637条):https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(40条・78条):https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176
- e-Gov法令API「民法の改正履歴」(平成29年法律第44号の施行日2020年4月1日を含む):https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_revisions/129AC0000000089
働く人の法律試験ノート