取締役会の決議と代表取締役:特別利害関係取締役・書面決議と、表見代表取締役(会社法369条・370条・354条)

ひとことで言うと、取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、出席した取締役の過半数の賛成で決まります(369条1項)。その決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加われません(同条2項)。だから、その人は出席の数の基準(定足数)の分母からも外れます。

代表取締役の解職の決議では、解職される代表取締役本人が「特別の利害関係を有する」取締役に当たる、とした最高裁判所の判決があります。また、代表権のない取締役に「社長」「副社長」などの名称を付けた会社は、その取締役の行為について善意の第三者に責任を負います(354条、表見代表取締役)。この記事では、取締役会の決議の数え方と、代表取締役まわりの決まりを扱います。取締役会・代表取締役を置く会社の範囲は株式会社の機関の記事で説明しています。条文は、令和8年度の行政書士試験の基準日(令和8年4月1日)時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると

舞台は、監査役を置く取締役会設置会社「ひので物産株式会社」です(架空の話です)。取締役は6人です。

人物立場この話での役
まさるさん代表取締役(取締役)解職の議案の対象になる
りょうこさん取締役(代表権なし)「副社長」の名刺で取引をした
ほか4人取締役解職の議案を審議する
さやかさん取引先の担当者りょうこさんと契約した

場面1:代表取締役の解職

  1. ひので物産の取締役会に、まさるさんを代表取締役から解職する議案が出された。代表取締役の選定と解職は、取締役会の仕事です(362条2項3号)。
  2. まさるさんは、この決議について特別の利害関係を有する取締役に当たるので、議決に加われない(369条2項。昭和44年3月28日判決)。
  3. 議決に加わることができる取締役は、まさるさんを除いた5人。定足数は、その過半数の3人。
  4. 当日は、5人のうち4人が出席し、3人が賛成した。定足数の3人を満たし、出席4人の過半数の3人が賛成したので、決議は成立する。
  5. まさるさんは代表取締役ではなくなるが、取締役の地位は残る。取締役そのものをやめさせるのは株主総会の仕事です(339条1項)。

場面2:「副社長」の名称

  1. ひので物産は、代表権のないりょうこさんに「副社長」の名称を使わせていた。
  2. りょうこさんは、ひので物産の名前で、さやかさんの会社と仕入れの契約をした。
  3. さやかさんは、りょうこさんに代表権がないことを知らなかった。
  4. ひので物産は、この契約について、善意のさやかさんの会社に責任を負う(354条)。

たとえるなら、取締役会の決議は「議決権のある人だけで数える多数決」です。自分のことが決められる人は、その回の投票から外れ、出席の数の基準からも外れます。ただし本物のルールでは、外れるのは「その決議」だけです。ほかの議案では、まさるさんも議決に加われます。

条文ではこう決まっている

取締役会の招集と決議(366条・368条・369条・370条)

  • 招集(366条):取締役会は各取締役が招集する。定款や取締役会で招集する取締役を決めたときは、その人が招集する(1項)。ほかの取締役は、その人に目的である事項を示して招集を請求でき、請求の日から5日以内に、2週間以内の日を会日とする通知が出ないときは、自ら招集できる(2項・3項)。
  • 招集の通知(368条):会日の1週間前(定款で短くできる)までに、各取締役(監査役設置会社では各監査役にも)に通知する(1項)。全員(監査役設置会社では監査役も)の同意があれば、招集の手続を省ける(2項)。
  • 決議(369条1項):「議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(同じ)をもって行う」。定款で上げることはできるが、下げることはできない。
  • 特別利害関係取締役(369条2項):「前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。」
  • 議事録(369条3項・5項):議事録を作り、出席した取締役と監査役が署名または記名押印する。決議に参加した取締役で、議事録に異議をとどめない人は、その決議に賛成したものと推定する。
  • 書面決議(370条):取締役が提案し、議決に加わることができる取締役の全員が書面や電磁的記録で同意したとき(監査役設置会社では、監査役が異議を述べたときを除く)は、可決の決議があったものとみなす旨を、定款で定めることができる。株主総会の決議の省略(319条)との違いは株主総会の書面決議と招集手続の省略で比べています。
  • 議事録の閲覧(371条):議事録は10年間本店に備え置く(1項)。監査役設置会社などの株主が閲覧を請求するには、裁判所の許可がいる(3項)。

特別取締役による議決(373条)

取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く)で、取締役が6人以上いて、そのうち1人以上が社外取締役であるときは、重要な財産の処分・譲受け(362条4項1号)と多額の借財(同項2号)の決議を、あらかじめ選んだ3人以上の取締役(特別取締役)で行える旨を、取締役会で定められます(373条1項)。決議は、議決に加われる特別取締役の過半数が出席し、その過半数で行い、決議の内容は特別取締役以外の取締役に遅滞なく報告します(同条1項・3項)。社外取締役の要件は社外取締役の記事にあります。

代表取締役と、名称・登記を信じた人の保護(349条・354条・908条2項)

  • 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない(362条3項)。代表取締役は、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を持ち(349条4項)、その権限に加えた制限は善意の第三者に対抗できない(同条5項)。
  • 表見代表取締役(354条):会社は、代表取締役以外の取締役に、社長・副社長その他会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付けた場合、その取締役がした行為について、善意の第三者に責任を負う。
  • 不実の登記(908条2項):故意または過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることを善意の第三者に対抗できない。

判例:代表取締役の解職と特別の利害関係(昭和44年3月28日判決)

最高裁判所第二小法廷の昭和44年3月28日判決(昭和43年(オ)第728号、民集23巻3号645頁)は、代表取締役の解任(今の会社法の言葉では解職)に関する取締役会の決議について、その代表取締役は特別利害関係人にあたる、としました。会社法の前の商法の規定についての判決です。理由として、代表取締役は会社の経営・支配に大きな権限と影響力を持つので、本人の意思に反して地位から外されるかが論じられる場面では、会社への忠実義務に従って公正に議決権を行使することを期待しにくく、自分個人の利益を図って行動することさえありうるので、忠実義務違反を予防し決議の公正を担保するため、その議決権の行使を禁止するのが相当だ、と述べています。なお、同じ日付の最高裁判決はほかにもあるので、事件番号で区別します。

取締役会の決議と株主総会の決議を比べる

比べる点取締役会(369条・370条)株主総会の普通決議(309条1項)
定足数の基準議決に加わることができる取締役の過半数議決権を行使できる株主の議決権の過半数
定款で変えられるか上げることだけできる定款で別段の定めができる
数え方取締役1人につき1票議決権の数
決議の省略定款の定めが要る(370条)提案に全員が書面などで同意(319条)

取締役会では、取締役が一人ずつ自分の判断で議決します。株主総会のように、持っている株の数で票の重さが変わることはありません。定足数を定款で「下げられない」のは、取締役会のほうです。株主総会の特別決議の定足数は、定款で3分の1まで下げられます(309条2項)。

似ているルールとの違い:名称や登記を信じた人の保護

規定どんな人の行為か守られる相手
表見代表取締役(会社法354条)社長・副社長などの名称を付けた、代表権のない取締役善意の第三者
表見支配人(会社法13条・商法24条)本店・支店の事業の主任者を示す名称を付けた使用人相手方(悪意なら守られない)
不実の登記(908条2項)故意・過失で不実の事項を登記した者善意の第三者

表見支配人は、本店・支店の事業に関し「一切の裁判外の行為」をする権限があるものとみなされます(会社法13条)。表見代表取締役の354条は、会社が名称を付けたことを理由に、取締役の行為について会社が責任を負うという形です。商人の支配人と表見支配人は商法総則の記事で扱っています。取締役が会社や第三者に負う責任は取締役の義務と責任の記事にあります。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまらない例:場面1で、まさるさんを除く5人のうち2人だけが出席した。定足数は5人の過半数の3人なので、2人では決議できません(369条1項)。まさるさんが出席していても、議決に加われない人は出席の数に入りません。
  • 当てはまらない例:定款に「取締役会の決議は、取締役の3分の1以上が出席すれば足りる」と書いた。369条1項は上回る割合だけを定款で定められるとしているので、この定めでは定足数を下げられません。
  • 当てはまらない例:定款に書面決議の定めがないのに、取締役全員が書面で同意したので、決議があったものとして扱った。370条の「みなす」効果は、定款で定めた場合だけです。
  • ひっかけやすい例:取締役会で反対の意見を述べた取締役が、議事録に異議を書き残さなかった。この取締役は、決議に賛成したものと推定されます(369条5項)。推定なので、反対したことを証明すれば覆せます。
  • ひっかけやすい例:場面2で、さやかさんが、りょうこさんに代表権がないと知っていた。354条で守られるのは善意の第三者なので、ひので物産はこの規定による責任を負いません。

試験ではここをまちがえやすい

  • 定足数の分母:分母は「議決に加わることができる取締役」。特別利害関係取締役を入れて数えない。
  • 定款での変更の向き:取締役会の定足数・賛成の割合は、定款で上げられるが下げられない。株主総会の決議の定足数(309条)と入れ替える形に注意します。
  • 解職の議案の当人:代表取締役の解職の決議では、その代表取締役は特別利害関係人(昭和44年3月28日判決)。解職されても取締役の地位は残る。
  • 書面決議の要件:定款の定め・議決に加わることができる取締役全員の同意・(監査役設置会社では)監査役が異議を述べないこと(370条)。
  • 推定とみなす:議事録に異議をとどめない取締役は「賛成したものと推定する」(369条5項)。書面決議は「決議があったものとみなす」(370条)。
  • 表見代表取締役と表見支配人:354条は代表権のない取締役の名称、会社法13条は使用人の名称の話です。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
取締役が6人の取締役会設置会社で、代表取締役まさるさんの解職の議案を審議した。定款に別段の定めはない。まさるさん以外の5人のうち3人が出席し、2人が賛成したときは、この解職の決議は成立する。

答え:○ 分かれ目は、定足数の分母です。代表取締役の解職の決議では、その代表取締役は特別利害関係人にあたり(最高裁判所第二小法廷昭和44年3月28日判決)、議決に加われません(369条2項)。369条1項の定足数は「議決に加わることができる取締役」の過半数なので、5人の過半数の3人の出席で足り、その過半数の2人の賛成で成立します。取締役6人を分母にすると出席は4人必要になり、✕に見えます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
取締役会設置会社のひので物産は、定款で、取締役会の決議の定足数を「議決に加わることができる取締役の3分の1以上」に下げることができる。

答え:✕ 分かれ目は、定款で定足数を下げられるかです。取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数で行い、定款で変えられるのは「これを上回る割合」だけです(369条1項)。正しくは、過半数より下げることはできません。定款で3分の1まで下げられるのは、株主総会の特別決議の定足数(309条2項)で、それと取り違えた形です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
ひので物産の取締役会で、取締役Cは議案に反対の意見を述べたが、決議に参加したうえで、議事録に異議をとどめなかった。この場合、Cは、その決議に賛成したものと推定される。

答え:○ 分かれ目は、議事録に異議を残したかどうかです。取締役会の決議に参加した取締役で、議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定されます(369条5項)。会議で反対を述べているので✕に見えますが、議事録に残していなければ推定がはたらきます。推定なので、反対したことを証明すれば覆せます。「みなす」とされているのは、370条の書面決議で決議があったとする扱いのほうです。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。

まとめ

  • 取締役会の決議:議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数で決める。定款で上げられるが下げられない(369条1項)。
  • 特別の利害関係を有する取締役は議決に加われず、定足数の分母からも外れる(369条2項)。代表取締役の解職では本人がこれに当たる(昭和44年3月28日判決)。
  • 書面決議は定款の定めと全員の同意が要る(370条)。議事録に異議をとどめない取締役は賛成と推定(369条5項)。
  • 社長・副社長などの名称を付けた取締役の行為は、善意の第三者に会社が責任を負う(354条)。不実の登記は善意の第三者に対抗できない(908条2項)。

このサイトで次に読むなら、取締役の義務と責任の記事です。取締役会の承認がいる取引と、決議に賛成した取締役の責任の推定がつながります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

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