顕名(けんめい)とは、代理人が「この契約は本人のためにします」と相手に示すことです。民法99条1項は、代理人が権限内で「本人のためにすることを示して」した意思表示は、本人に直接効力を生じると定めています。
ひとことで言うと、顕名がないと、その契約は代理人が自分のためにしたものとみなされます(100条本文)。ただし、相手方が「本人のための契約だ」と知っていたか、知ることができたときは、本人に効力が生じます(100条ただし書)。会社やお店の取引のような商行為の代理では逆で、顕名がなくても本人に効力が生じます(商法504条本文)。
この記事では、顕名のない代理の効果、商法504条との違い、相手方がだれに請求できるかの判例を扱います。代理権がない場合(無権代理・表見代理)は代理をわかりやすくに任せます。条文は令和8年4月1日時点のものです。自分の名で他人のために取引をする問屋や、代理商との違いは代理商・仲立人・問屋の違いにあります。
身近な例で考えると
みさきさんは、実家の近くに家庭菜園用の土地を買いたいと考えています。平日は仕事で動けないので、不動産にくわしい友人のたくやさんに、土地を買う代理権を与えました。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| みさきさん | 本人 | 土地を買う代理権を与えた |
| たくやさん | 代理人 | 土地の持ち主と契約した |
| こうへいさん | 相手方(売主) | 土地を売った |
たくやさんがこうへいさんと契約する場面を、2つに分けて考えます。
- たくやさんが「みさきさんの代理人として買います」と示し、契約書にも「みさき代理人たくや」と書いた。→ 顕名があります。契約はみさきさんとこうへいさんの間で成立し、代金を払う義務も土地を受け取る権利もみさきさんにあります(99条1項)。
- たくやさんが何も言わず、契約書に自分の名前だけを書いた。こうへいさんは、たくやさんが自分で使う土地を買うのだと思っていた。→ 顕名がありません。この契約は、たくやさんが自分のためにしたものとみなされます(100条本文)。代金を払う義務を負うのはたくやさんです。
2の場面で、たくやさんが「本当はみさきさんのために買ったのだから、代金はみさきさんに請求してほしい」と言っても通りません。「みなす」は、反対の事実を示しても結論が変わらない言い方だからです。こうへいさんから見れば、目の前の相手と契約したつもりです。その信頼を守るのが100条本文です。
たとえるなら、顕名は荷物に貼る「届け先」の札です。札がなければ、持ってきた人あての荷物として扱われます。ただし本物のルールでは、受け取る相手方が届け先を知っていたか、知ることができたなら、札がなくても本人あてとして扱われます(100条ただし書)。
条文ではこう決まっている
- 代理の効果(99条1項):代理人が、権限内で、本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接に効力を生じる。
- 受ける側の代理(99条2項):1項は、第三者が代理人に対してした意思表示にも準用する。相手方からの解除の通知などを代理人が受け取る場面です。
- 顕名がないとき(100条本文):代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、「自己のためにしたものとみなす」。
- 例外(100条ただし書):相手方が、代理人が本人のためにすることを「知り、又は知ることができたとき」は、99条1項を準用する。つまり本人に効力が生じる。
- 商行為の代理(商法504条本文):商行為の代理人が本人のためにすることを示さなくても、その行為は本人に対して効力を生じる。
- 商法504条ただし書:相手方が、代理人が本人のためにすることを知らなかったときは、代理人に対して履行の請求をすることを妨げない。
民法100条ただし書は「知り、又は知ることができたとき」です。実際に知っていた場合だけでなく、注意すれば気づけた場合(過失で知らなかった場合)も含みます。相手方が本人のためと気づけたなら、本人の契約として扱っても相手方を不意打ちにしないからです。
商行為では、相手方はだれに請求できるか(大法廷の判例)
商法504条は、本文で本人に効力を生じるとしつつ、ただし書で代理人への請求も認めています。この2つの関係について判断したのが、最高裁判所大法廷の昭和43年4月24日判決です。
- 事案の一行:本人の代理人(ある会社の代表者)が本人のためと示さずに売買をし、本人が相手方に売掛代金を請求したところ、相手方は「取引の相手はその会社で、本人ではない」と主張して争った。
- 結論(裁判要旨):504条本文は、商行為の代理について「いわゆる顕名主義に対する例外」を認めたもの。相手方が本人のためと知らなかったときは、相手方と代理人の間にも、本人と相手方の間と同じ法律関係が生じる。相手方が、その選択に従い、代理人との法律関係を主張したときは、本人は、もはや相手方に本人との法律関係を主張できない。
- 理由の要点:ただし書は善意の相手方を守る趣旨で、判決の理由は、相手方が知らなかった場合から「過失により知らなかつたときを除く」としています。自分の過失で気づかなかった相手方まで守る必要はない、という考え方です。
- まちがえやすい所:相手方は、本人と代理人のどちらとの契約として扱うかを選べます。両方から二重に代金を受け取れるわけではありません。
商法の総則(商人・支配人・商号)の全体は商法の総則と商行為で扱っています。宅建試験の権利関係では、民法100条の場面を中心に押さえ、商行為の代理は「民法と結論が逆になる場面」として比べられれば足ります。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(本人に効く):たくやさんは契約書に自分の名前だけを書いたが、交渉の最初に「みさきさんから頼まれて探している」と話していた。こうへいさんは本人のための契約だと知っていたので、契約はみさきさんに効力を生じます(100条ただし書)。
- 当てはまる(気づけた):こうへいさんは話を聞き流していたが、たくやさんが見せた書類に「土地の買主 みさき」と書いてあった。実際に知らなくても、知ることができたなら本人に効力が生じます。
- 当てはまらない(代理人の契約):顕名がなく、こうへいさんが気づく手がかりもなかった。契約はたくやさんのものとみなされます。たくやさんがみさきさんに土地を渡すには、たくやさんとみさきさんの間で別の取引(売買など)が必要になります。
- ひっかけやすい(商行為):酒店を営むふじたさん(商人)の仕入れ担当のおかださんが、ふじたさんの名前を出さずに、問屋のまるやま商店から酒を仕入れた。民法なら代理人の契約とみなされる形ですが、商行為の代理なので、契約はふじたさんに効力を生じます(商法504条本文)。まるやま商店が本人のためと知らず、知らないことに過失もなければ、おかださんに代金を求めることもできます(同条ただし書・昭和43年判決)。
もう一つ、代理人が契約書に本人の名前だけを書く形があります(署名代理と呼ばれます)。民法に署名代理を直接定めた条文はありません。ただ、この形では相手から見て「本人の契約」として示されているので、顕名がなくて代理人の契約とみなされる100条の場面とは違います。代理権の範囲内なら本人の契約として扱われ、代理権がなければ無権代理として本人の追認の問題になる、と説明されるのが一般的です。100条の場面と混ぜないことを押さえておけば足ります。代理人が本人の代わりにさらに別の人を選ぶ場面は復代理と代理権の消滅で扱っています。
似ているルールとの違い
顕名の有無と代理権の有無で、結論は次のように分かれます(民法の場合)。
| 代理権 | 顕名 | だれの契約か |
|---|---|---|
| あり | あり | 本人(99条1項) |
| あり | なし | 代理人とみなす。相手方が知り・知り得たなら本人(100条) |
| なし | あり | 無権代理。本人が追認しなければ本人に効かない(113条) |
民法と商法を並べると、原則が逆になっています。
| 比べる点 | 民法100条 | 商法504条 |
|---|---|---|
| 顕名がないときの原則 | 代理人の契約とみなす | 本人に効力が生じる |
| 例外 | 相手方が知り・知り得たら本人 | 相手方が知らなければ代理人にも請求できる |
| 守る相手 | 代理人を相手と信じ、気づくこともできなかった人 | 代理人を相手と信じた人(過失で知らなかった人は除く・判例) |
宅建業法の「代理」は、業者が売主や買主の代わりに契約まで結ぶ取引の形のことで、報酬の上限や書面の交付先が媒介と違います。民法の代理との関係は宅建業法の「代理」と「媒介」の違いにまとめています。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している宅建試験の問題(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、代理が主な論点の問題は28問で、直近10回(平成30年度〜令和7年度)では4問でした。顕名だけの数は、分けて数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- みなすと推定:100条本文は「みなす」。代理人が「本当は本人のためだった」と証明しても、代理人の契約という結論は変わりません。
- 知り、又は知ることができた:ただし書は「知っていた」だけではありません。気づくことができた(過失で知らなかった)場合も本人に効力が生じます。
- 民法と商法の向き:顕名がないとき、民法は代理人、商法は本人が原則。商法504条の場面に民法100条の結論を持ち込むと誤ります。
- 商法504条ただし書の相手方:判例は、相手方が本人と代理人のどちらとの関係を主張するか選べるとし、過失で知らなかった相手方は除くとしています。
- 顕名と代理権の区別:顕名があっても代理権がなければ無権代理です。「顕名がある=本人に効く」とは限りません。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
みさきさんから土地を買う代理権を得たたくやさんが、本人のためと示さずに自分の名前でこうへいさんと売買契約を結び、こうへいさんは事情を知らず、知らないことに過失もなかった。たくやさんは、本人のための契約だったと証明すれば、代金を払う責任を免れる。
答え:✕ 分かれ目は、100条本文が「みなす」か「推定する」かです。顕名のない意思表示は、代理人が「自己のためにしたものとみなす」とされています(民法100条本文)。みなすは反対の事実を証明しても覆らないので、正しくは、たくやさんは代金を払う責任を負います。証明すれば覆る「推定」と取り違えた文です。本人に効力が生じるのは、こうへいさんが本人のためと知り、又は知ることができた場合(同条ただし書)です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
酒店を営むふじたさん(商人)から仕入れの代理権を与えられた従業員おかださんが、ふじたさんのためと示さずに問屋のまるやま商店と仕入れの契約をし、まるやま商店は事情を知らず、知らないことに過失もなかった。まるやま商店は、ふじたさんとおかださんのどちらとの契約として代金を求めるかを選べる。
答え:○ 商行為の代理は、顕名がなくても本人のふじたさんに効力を生じます(商法504条本文)。そのうえで、相手方が本人のためと知らなかったときは代理人への請求も妨げられず(同条ただし書)、最高裁判所大法廷昭和43年4月24日判決は、相手方は選択に従って代理人との法律関係を主張できるとしています。民法100条の「代理人の契約とみなす」を当てはめると✕にしてしまいます。過失で知らなかった相手方は除かれる(判決の理由)ので、「過失もない」という前提が効いています。
問3(このサイトのオリジナル問題)
みさきさんの代理人たくやさんは、本人のためと示さずに自分の名前で土地を買ったが、みさきさんの名前の入った書類を見せていたので、売主のこうへいさんは、実際には気づかなかったものの、注意すれば分かった。この場合でも、契約の効力はたくやさんに生じ、こうへいさんはみさきさんに代金を請求できない。
答え:✕ 分かれ目は、ただし書の「知ることができた」です。相手方が、代理人が本人のためにすることを「知り、又は知ることができたとき」は、99条1項が準用され、本人に効力が生じます(民法100条ただし書)。正しくは、契約の効力はみさきさんに生じ、こうへいさんはみさきさんに代金を請求できます。「実際に知っていたときだけ本人に効く」と、要件を狭めて読んだ文です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 顕名=代理人が「本人のためにする」と示すこと。顕名と代理権があれば本人に直接効力が生じる(99条1項)。
- 顕名がなければ、代理人が自己のためにしたものとみなす(100条本文)。証明しても覆らない。
- 相手方が本人のためと知り、又は知ることができたときは、本人に効力が生じる(100条ただし書)。
- 商行為の代理は顕名がなくても本人に効く(商法504条本文)。相手方が知らなければ代理人にも請求でき、どちらとの関係を主張するか選べる(大法廷昭和43年4月24日判決。過失で知らなかった相手方は除く)。
次に読むなら、代理をわかりやすくがおすすめです。顕名はあるのに代理権がない場面(無権代理)と、相手方を守る表見代理の要件を、この記事の表とつなげて確かめられます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。判例は裁判所ウェブサイトで確かめ、理由の言葉は判決全文で確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(99条〜102条、113条)
- e-Gov法令検索「商法」(504条)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和43年4月24日判決(昭和41(オ)10)」(商法504条本文の法意と、ただし書の「履行ノ請求」に伴う法律関係)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数は当サイトが数えたもので、公式の内訳ではありません)
働く人の法律試験ノート