ひとことで言うと、事業譲渡(じぎょうじょうと)は、会社が事業をまとめて別の会社などに売る契約です。事業の全部や重要な一部を譲るときは、効力が生じる日の前日までに、株主総会の特別決議で契約の承認を受けます(会社法467条1項・309条2項11号)。反対した株主は、会社に株を買い取らせることができます(469条)。
一方で、譲る資産が総資産の5分の1以下の一部の譲渡や、相手が自社の議決権の9割以上を持つ会社(特別支配会社)のときは、総会の決議はいりません。譲った会社には同じ事業をしない義務がかかり(21条)、譲り受けた会社が商号を続けて使うと、譲った会社の債務も弁済する責任を負います(22条)。この記事は試験の論点として、決議の要否・株主・債権者の守り方を扱います。契約書の書き方・登記の申請・税金・合併や会社分割の細かな手続は扱いません。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめました。合併などと共通する債権者異議手続は、資本金の額の減少と債権者異議手続で扱っています。
身近な例で考えると
舞台は、文房具の卸とカフェの2つの事業をしている「そら物産株式会社」です。取締役会を置いています。
| 人物・会社 | 立場 | この話での役 |
|---|---|---|
| そら物産 | 事業を譲る会社 | カフェ事業を手放す |
| みどりフーズ | 事業を譲り受ける会社 | カフェ事業を引き継ぐ |
| りえさん | そら物産の株主 | 譲渡に反対している |
- そら物産は、カフェ事業(店・設備・仕入先との契約・従業員・店の運営のやり方をひとまとめにしたもの)を、みどりフーズに売る契約を結んだ。
- カフェ事業の資産の帳簿価額は、そら物産の総資産の5分の1を超えていた。そら物産は、効力が生じる日の前日までに、株主総会の特別決議でこの契約の承認を受けた(467条1項2号)。
- りえさんは、総会の前に「反対する」と会社に知らせ、総会でも反対した。りえさんは、そら物産に、自分の株を公正な価格で買い取るよう請求できる(469条1項・2項)。
- 特に約束をしなかったので、そら物産は、同じ市町村と隣の市町村で、譲った日から20年間、カフェ事業をできない(21条1項)。
- みどりフーズが「そらカフェ」の名前(そら物産の商号)を続けて使うと、そら物産のカフェ事業で生じた債務も弁済する責任を負う(22条1項)。
たとえると、事業譲渡は「お店を、看板・道具・常連さんとの関係ごと、まるごと別の人に引き継ぐこと」です。ただし本物のルールでは、借金などの債務は、契約で決めたものが一つずつ移ります。合併のように、すべての権利と義務がまとめて移るわけではありません。ここがたとえと違う点です。
条文ではこう決まっている
事業譲渡とは何か(判例)
最高裁判所大法廷の昭和40年9月22日判決(昭和36年(オ)第1378号)は、会社法ができる前の商法245条1項1号の「営業ノ全部又ハ重要ナル一部ノ譲渡」の意味を示しました。裁判要旨は、これを「一定の営業の目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産」の全部または重要な一部を譲り、譲った会社の営業の活動を譲受人に引き継がせ、譲った会社が譲った限度に応じて法律上当然に競業避止義務(同じ商売をしない義務)を負う結果を伴うもの、としています。
会社法467条では「営業」が「事業」という言葉になっています。試験では、この判例の3つの要素(組織化された財産のまとまり・営業活動の引継ぎ・競業避止義務)で事業譲渡かどうかを見分けます。店の機械や建物を一つずつ売るだけでは、この意味の事業譲渡に当たりません。
株主総会の承認がいる行為(467条1項)
株式会社は、次の行為をするときは、効力が生じる日の前日までに、株主総会の決議で契約の承認を受けなければなりません。
- 事業の全部の譲渡(1号)。
- 事業の重要な一部の譲渡(2号)。ただし、譲る資産の帳簿価額が総資産額の5分の1(定款でこれより低い割合にできる)を超えないものは除く。
- 他の会社の事業の全部の譲受け(3号)。
- 事業の全部の賃貸、経営の委任など(4号)。
この決議は特別決議です。309条2項11号が「第六章から第八章までの規定により株主総会の決議を要する場合」を特別決議としていて、事業の譲渡等は会社法第2編第7章にあります。議決権の過半数を持つ株主が出席し(定款で3分の1まで下げられる)、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成がいります(309条2項)。
決議がいらない場合:簡易と略式(467条1項2号・468条)
- 5分の1以下の一部の譲渡:譲る資産の帳簿価額が総資産額の5分の1以下なら、「重要な一部の譲渡」から外れ、決議はいりません(467条1項2号のかっこ書)。事業の全部の譲渡には、この基準はありません。
- 簡易な譲受け:他の会社の事業の全部を譲り受けるとき、対価として渡す財産の帳簿価額が、自社の純資産額の5分の1(定款でこれより低くできる)以下なら、決議はいりません(468条2項)。ただし、一定の数の株主が通知・公告から2週間以内に反対を知らせたときは、決議がいります(468条3項)。
- 略式:相手方が「特別支配会社」のときは、決議はいりません(468条1項)。特別支配会社は、総株主の議決権の10分の9(定款でこれより高くできる)以上を持つ会社などです。
反対する株主の株式買取請求(469条)
- 事業譲渡等をするとき、反対株主は、会社に自分の株を公正な価格で買い取るよう請求できる(469条1項)。
- 決議がいる場合の反対株主は、総会の前に反対する旨を会社に知らせ、かつ総会で反対した株主(議決権を使える人)と、その総会で議決権を使えない株主(469条2項1号)。決議がいらない場合は、特別支配会社を除くすべての株主(469条2項2号)。
- 例外として、事業の全部の譲渡と同時に会社の解散の決議をしたとき(469条1項1号)と、反対が一定数に届かなかった簡易な譲受け(同項2号)では、請求できない。
- 会社は効力が生じる日の20日前までに株主に知らせる(469条3項。公開会社などは公告で代えられる:4項)。請求は、効力が生じる日の20日前の日から前日までにする(469条5項)。
- 請求を取り下げるには、会社の承諾がいる(469条7項)。
譲った会社の競業の禁止(21条)
- 特に別の約束(当事者の別段の意思表示)がなければ、同じ市町村と隣接する市町村の区域内で、譲った日から20年間、同じ事業をしてはならない(21条1項)。
- 同じ事業をしない特約をしたときは、譲った日から30年の期間内に限り効力がある(21条2項)。
- 不正の競争の目的で同じ事業をすることは、場所や期間にかかわらず許されない(21条3項)。
商号を続けて使う譲受会社の責任(22条〜23条の2)
- 譲受会社が譲渡会社の商号を続けて使うときは、譲受会社も、譲渡会社の事業で生じた債務を弁済する責任を負う(22条1項)。
- 譲り受けた後、遅滞なく、本店の所在地で「責任を負わない」旨を登記したときは、責任を負わない。遅滞なく、譲受会社と譲渡会社の両方から第三者に責任を負わない旨を通知したときは、その通知を受けた第三者に対して責任を負わない(22条2項)。
- 譲受会社が責任を負う場合、譲渡会社の責任は、事業を譲った日から2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては、2年が過ぎた時に消える(22条3項)。
- 商号を続けて使わなくても、譲渡会社の債務を引き受ける旨を広告したときは、債権者は譲受会社に弁済を請求できる(23条1項)。この場合の譲渡会社の責任は、広告の日から2年で同じように消える(23条2項)。
- 引き継がれない債務の債権者(残存債権者)を害すると知って事業を譲ったときは、残存債権者は、譲受会社に、引き継いだ財産の価額を限度として履行を請求できる。譲受会社が、譲渡の効力が生じた時に害することを知らなかったときは除く(23条の2第1項)。
相手が会社でない商人のときは、24条で読み替えます。会社が商人に事業を譲ったときは、会社を譲渡人とみなして商法17条〜18条の2を使い、会社が商人から営業を譲り受けたときは、その商人を譲渡会社とみなして会社法22条〜23条の2を使います(24条1項・2項)。商法の商号を続けて使う場合の責任(商法17条)は、商法の総則と商行為の記事で扱っています。
合併とはどう違うか
事業譲渡と合併は、どちらも事業が別の会社に移る点は同じです。違いは、移り方と債権者の守り方です。
| 比べる点 | 事業譲渡 | 吸収合併 |
|---|---|---|
| 何が移るか | 契約で決めた財産・債務 | 消える会社の権利義務のすべて(750条1項) |
| 債務を移すには | 債権者との間で債務引受などの手続(民法472条など) | まとめて引き継がれる |
| 債権者が異議を述べる手続 | 合併のような手続は置かれていない | 公告と催告をし、1か月以上の期間を置く(789条・799条) |
| 譲った・消えた会社 | 会社として残る | 解散して消える |
権利義務がまとめて移ることを、包括承継(ほうかつしょうけい)といいます。合併は包括承継なので、消える会社の債権者は、債務者が自動的に存続する会社に代わります。そのかわり、消える会社の債権者にも、存続する会社の債権者にも、異議を述べる手続があります(789条・799条)。事業譲渡は、財産や債務を一つずつ移す契約です。債務を新しい会社だけに負わせるには、民法の免責的債務引受(472条。債権者と引受人の契約、または債権者の承諾)などが要ります。債務引受のしくみは債務引受の記事で説明しています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:そら物産が、カフェ事業の店・設備・従業員・仕入先との契約をひとまとめにして、みどりフーズに譲った。帳簿価額は総資産の5分の1を超える。株主総会の特別決議による承認がいります。
- 当てはまらない例:そら物産が、古くなったコーヒーマシン10台だけを売った。組織化された財産のまとまりでも、営業活動の引継ぎでもないので、事業譲渡に当たりません。このときは467条の株主総会の承認はいりません(取締役会設置会社では、重要な財産の処分に当たるかは別に問題になります)。
- 当てはまらない(決議がいらない)例:そら物産が、カフェ事業のうち1店だけを譲った。その資産の帳簿価額は総資産の5分の1以下だった。467条1項2号のかっこ書で除かれ、決議はいりません。
- ひっかけやすい例:そら物産が事業の全部を譲る。資産の額がいくらでも、5分の1の基準は使えません。相手が特別支配会社でない限り、特別決議がいります。
- ひっかけやすい例:事業を譲ったそら物産が、特に約束をしないまま、隣の市でカフェを開いた。隣接する市町村なので、20年間はできません(21条1項)。
試験ではここをまちがえやすい
- 決議の種類:事業譲渡の承認は特別決議(309条2項11号)。普通決議とする形は誤りです。
- 5分の1の基準の使いどころ:譲る側は「総資産額」の5分の1(467条1項2号)、譲り受ける側の簡易は「純資産額」の5分の1(468条2項)。事業の全部の譲渡には5分の1の除外はありません。
- 競業の禁止の年数:約束がなければ20年、特約は30年まで(21条1項・2項)。区域は同じ市町村と隣接する市町村です。
- 商号の責任を免れる方法:遅滞なくする「責任を負わない」旨の登記、または譲受会社と譲渡会社の両方からの通知(22条2項)。通知は、受けた第三者にだけ効きます。
- 2年の起算点:商号を続けて使う場合は事業を譲った日から(22条3項)、債務を引き受ける広告の場合は広告の日から(23条2項)。
- 反対株主の要件:決議がいる場合は、総会前の反対の通知と、総会での反対の両方が必要です(469条2項1号イ)。
会社法の数字の組(3分の2・10分の9・20日前など)は会社法で覚える数字の一覧でも確かめられます。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
卸とカフェの事業をするそら物産(総資産額10億円。割合を下げる定款の定めはない)が、帳簿価額1億5,000万円の資産でできたカフェ事業をみどりフーズに譲る。この譲渡に株主総会の承認はいらない。
答え:○ 分かれ目は、5分の1の基準です。1億5,000万円÷10億円=15%で、5分の1(20%)を超えません。この場合は467条1項2号のかっこ書で「重要な一部の譲渡」から外れ、株主総会の承認はいりません。事業をまとめて譲る以上は総会がいる、と考えると✕に見えます。事業の全部の譲渡(1号)には、この基準はありません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
事業の全部をみどりフーズに譲ったそら物産は、同じ事業をするかどうかについて特に約束をしなかった。そら物産は、譲った日から30年間、同じ市町村と隣接する市町村では同じ事業をすることができない。
答え:✕ 分かれ目は、競業の禁止の期間です。別段の意思表示がないときは、譲った日から20年間です(21条1項)。正しくは、30年間ではなく20年間です。30年は、同じ事業をしない特約をしたときに、その特約が効力を持つ期間の上限(21条2項)で、その数字と入れ替えた形です。
問3(このサイトのオリジナル問題)
みどりフーズは、そら物産から譲り受けた事業で、そら物産の商号を続けて使い、責任を負わない旨の登記も通知もしていない。そら物産の責任は、譲った日から2年以内に請求も請求の予告もしない債権者に対しては、2年が過ぎた時に消える。
答え:○ 分かれ目は、譲受会社が責任を負う場合の、譲渡会社の責任の行方です。登記も通知もないので、みどりフーズは、そら物産の事業で生じた債務を弁済する責任を負います(22条1項・2項)。この場合、そら物産の責任は、譲った日から2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては、2年で消えます(22条3項)。譲った会社の債務は時効まで残る、と考えると✕に見えます。債務を引き受ける広告をした場合の2年(23条2項)は、広告の日から数えます。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。
まとめ
- 事業譲渡は、組織化された財産のまとまりを譲り、営業活動を引き継がせるもの(最大判昭和40年9月22日)。
- 事業の全部・重要な一部の譲渡などは、効力が生じる日の前日までに株主総会の特別決議で承認(467条1項・309条2項11号)。
- 決議がいらないのは、総資産の5分の1以下の一部の譲渡、純資産の5分の1以下の簡易な譲受け、特別支配会社が相手の略式。
- 反対株主は公正な価格での買取りを請求できる(469条)。
- 譲った会社は約束がなければ20年の競業の禁止(特約は30年まで)。商号を続けて使う譲受会社は譲渡会社の債務も弁済する責任を負い、譲渡会社の責任は2年で消える。
このサイトで次に読むなら、株式会社の機関の記事です。事業譲渡の承認をする株主総会と、そこでの決議の種類が、機関全体の中でどう位置づけられているかが分かります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトの判示事項・裁判要旨と判決全文で確かめました。
- e-Gov法令検索「会社法」(21条〜24条、309条2項、467条〜469条、750条1項、789条、799条)
- e-Gov法令検索「民法」(472条)
- 裁判所「最高裁判所大法廷 昭和40年9月22日判決(昭和36年(オ)第1378号)」(判示事項・裁判要旨、民集19巻6号1600頁)、同 判決全文(PDF)
働く人の法律試験ノート