交互計算:取引のたびに払わず、期間の終わりに差し引きする契約(商法529条〜534条)

ひとことで言うと、交互計算(こうごけいさん)は、取引のたびに代金を払うのをやめて、決めた期間の終わりに、互いの債権と債務の総額を差し引きし、残った分だけを払う約束です(商法529条)。商人どうしだけでなく、商人と商人でない人の間でも結べます。

商法は、交互計算を529条から534条までの6か条で定めています。期間を定めなかったときは6か月になること(531条)、計算書を承認したらその項目に異議を言えないが、錯誤・脱漏(まちがい・書き漏れ)は別であること(532条)、いつでも解除できること(534条)が中心です。この記事では、この6か条を順に読み、民法の相殺との違いを示します。商行為の全体は商法の総則と商行為の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の商法・民法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

人物立場相手に対して持つ債権
ひろしさん青果の卸売店「みどり青果」の店主(商人)野菜の代金
かなさん食品スーパー「あおい屋」の店主(商人)みどり青果の配達を引き受けた運送の代金
  1. 1月:2人は、毎日取引があるので、「3か月ごとにまとめて差し引きし、残りだけを払う」交互計算の契約を結んだ。
  2. 1月〜3月:みどり青果は野菜を合計300万円分納め、あおい屋は配達を合計80万円分引き受けた。そのつどの支払はしない。
  3. 3月末:期間が終わり、計算を閉鎖した。300万円−80万円=220万円が、みどり青果の残額債権になる。
  4. 4月:ひろしさんが項目を並べた計算書を作り、かなさんが承認した。あおい屋は220万円を払う。

たとえるなら、友だちどうしで貸し借りが毎日あるとき、そのつど小銭を渡さず、月末に「差し引き君が500円多い」と精算するやり方です。ただし本物のルールでは、交互計算は当事者の契約で始まり、期間・計算書の承認・利息・解除について商法の決まりがあります。

条文ではこう決まっている

条決まり押さえる語
529条商人間か商人と商人でない者の間で、平常取引をする場合に、一定の期間の取引から生じる債権・債務の総額を相殺し、残額を払うことを約束すると効力を生じる「平常取引」「総額」「残額」
530条手形などの商業証券から生じた債権・債務を組み入れた場合、証券の債務者が払わないときは、その項目を交互計算から除ける「除外することができる」
531条相殺をすべき期間を定めなかったときは、6か月「六箇月」
532条計算書を承認したら、各項目に異議を述べられない。ただし記載に錯誤・脱漏があったときは別「錯誤又は脱漏」
533条残額には、計算の閉鎖の日以後の法定利息を請求できる。各項目を組み入れた日から利息を付けることも妨げない「計算の閉鎖の日以後」
534条各当事者は、いつでも解除できる。解除したら直ちに計算を閉鎖し、残額の支払を請求できる「いつでも」「直ちに」

529条:だれと、どんな取引で結べるか

当事者の一方が商人であれば足ります。条文は「商人間又は商人と商人でない者との間」としています。もう一つの条件は「平常取引をする場合」、つまり続けて取引をする関係であることです。1回きりの取引で、互いに代金を差し引く約束をしても、交互計算の場面ではありません。

531条〜533条:期間・計算書・利息

期間は当事者が決めます。決めなかったときは6か月です(531条)。期間が終わると計算を閉鎖し、計算書を作ります。当事者が計算書を承認すると、各項目について「その代金は払いすぎだった」などの異議を述べられなくなります(532条本文)。承認によって残額が確定する、という扱いです。ただし、計算書の記載に錯誤(まちがい)や脱漏(書き漏れ)があったときは、異議を述べられます(ただし書)。

残額の債権者は、計算の閉鎖の日以後の法定利息を請求できます(533条1項)。2項は、各項目を組み入れた日から利息を付けることも妨げない、としています。

534条:いつでも解除できる

各当事者は、いつでも交互計算を解除できます(534条)。期間を定めていても同じです。解除したときは、直ちに計算を閉鎖して、残額の支払を請求できます。

期間の途中の債権はどう扱われるか(交互計算不可分の原則)

交互計算に組み入れた個々の債権を、期間の途中で取り出して請求したり、譲渡したりできるのでしょうか。条文には直接の定めがありません。この点は「交互計算不可分の原則」と呼ばれ、法律の条文の言葉ではありません。

大阪高等裁判所平成14年1月31日判決(平成13年(ネ)第2883号。最高裁判所の判決ではありません)は、代理店の委託契約で期間を1か月とする交互計算の合意があった事案で、交互計算には決済を簡単にする機能と、期間中に互いに信用を与え合う担保の機能があるとしました。そのうえで、期間中に組み入れられた債権を個別に処分できるとすれば交互計算の意義が失われるとして、交互計算不可分の原則が妥当し、この原則は「第三者にも主張しうる」と述べ、組み入れられた手数料の債権への差押えを認めませんでした。同じ判決は、期間ごとに差し引きした残額が次の期間に組み入れられない場合は、独立して処分できる債権になる余地がある、とも述べています。

試験の準備としては、条文の6か条を正確に押さえることを先にし、不可分の原則は「期間中の個々の債権は、ばらばらに扱えないとされる考え方」と理解しておけば足ります。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:みどり青果とあおい屋が「3か月ごとに差し引き」と約束した。平常取引の当事者が、期間の総額を相殺して残額を払う約束なので、529条の交互計算です。
  2. 当てはまる例:期間を決めずに交互計算を約束した。期間は6か月になります(531条)。
  3. 当てはまらない例:一度だけの取引で、ある代金と別の代金を差し引く約束をした。平常取引の場面ではないので、交互計算ではありません。差し引きは、民法の相殺や当事者の合意の問題です。
  4. ひっかけやすい例:かなさんが計算書を承認したあと、配達代10万円が書き漏れていたと分かった。脱漏なので、かなさんは異議を述べられます(532条ただし書)。
  5. ひっかけやすい例:3か月の期間の途中で、ひろしさんが交互計算を解除した。いつでも解除でき、直ちに計算を閉鎖して残額を請求できます(534条)。

似ているルールとの違い:民法の相殺

比べる点相殺(民法505条・506条)交互計算(商法529条)
どう始まるか一方から相手方への意思表示(506条1項)当事者の契約
何を差し引くか同種の目的の債務どうしを対当額で一定の期間の取引から生じる債権・債務の総額
条件双方の債務が弁済期にあること(505条1項)平常取引をする当事者であること
いつ効力が及ぶか相殺に適するようになった時にさかのぼる(506条2項)期間の終わりに計算を閉鎖し、残額を払う

相殺の要件は弁済と相殺の記事で扱っています。商人どうしの売買の特則(検査・通知など)は商事売買の記事にあります。

試験ではここをまちがえやすい

  • 当事者の範囲:商人どうしに限らない。「商人と商人でない者との間」でもよい(529条)。商人どうしに限るのは、商事売買の特則(524条以下)などの別の規定。
  • 期間:定めなかったときは6か月(531条)。
  • 承認の効果と例外:計算書を承認したら異議を述べられないが、錯誤・脱漏は別(532条)。「承認した以上どんな異議も言えない」とする形に注意。
  • 利息の起算:残額の法定利息は計算の閉鎖の日以後(533条1項)。
  • 解除:期間の途中でも、いつでも解除できる(534条)。
  • 相殺との取り違え:相殺は一方の意思表示、交互計算は契約。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
商人であるひろしさんは、商人でないゆみさんと平常取引をしている。2人が、一定の期間の取引から生じる債権・債務の総額を相殺し、残額を払う約束をした場合、この約束は、商法の交互計算としての効力を生じない。

答え:✕ 分かれ目は、当事者に商人でない人が入ってよいかです。商法529条は、交互計算を「商人間又は商人と商人でない者との間」で平常取引をする場合の契約と定めています。正しくは、一方が商人であれば、交互計算の効力が生じます。双方が商人であることを求める商人間の売買の特則(524条以下)などと取り違えると○にしてしまいます。

問2(このサイトのオリジナル問題)
みどり青果とあおい屋の交互計算で、期間の終わりにひろしさんが計算書を作り、かなさんが承認した。その後、あおい屋の配達代の項目が計算書から書き漏れていたことが分かった場合、かなさんは、その点について異議を述べることができる。

答え:○ 分かれ目は、532条のただし書です。計算書を承認すると、各項目について異議を述べることはできませんが(本文)、「当該計算書の記載に錯誤又は脱漏があったときは、この限りでない」とされています。書き漏れは脱漏に当たるので、異議を述べられます。承認によって残額が確定するという本文だけで考えると✕に見えます。承認しても例外が残るのは、記載のまちがいと書き漏れの場合です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
みどり青果とあおい屋は、交互計算の期間を1年と定めた。期間の途中であっても、ひろしさんは交互計算を解除することができ、解除したときは、直ちに計算を閉鎖して残額の支払を請求することができる。

答え:○ 分かれ目は、期間を定めた場合でも途中で解除できるかです。商法534条は、各当事者は「いつでも」交互計算の解除をすることができ、解除したときは直ちに計算を閉鎖して残額の支払を請求できるとしています。期間を決めたのだから期間が終わるまで抜けられない、と考えると✕に見えます。期間を定めなかったときに6か月とする531条は、期間の長さの決まりで、解除を制限する規定ではありません。

商法の○✕も、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」に入っていて、続けて解けます。

まとめ

  • 交互計算は、平常取引をする当事者が、一定の期間の債権・債務の総額を相殺し、残額を払う契約(529条)。一方が商人であればよい。
  • 期間を定めないときは6か月(531条)。
  • 計算書を承認したら異議を述べられない。錯誤・脱漏は別(532条)。
  • 残額には計算の閉鎖の日以後の法定利息(533条)。いつでも解除でき、直ちに閉鎖して残額を請求できる(534条)。
  • 期間中の個々の債権をばらばらに扱えないとする考え方(交互計算不可分の原則)は条文の言葉ではない。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の商法・民法を確かめました(2026年10月17日確認)。裁判例は、裁判所ウェブサイトで裁判所・裁判年月日・事件番号を確かめ、判決全文で判断の部分を確かめました。

このサイトで次に読むなら、商法の総則と商行為の記事です。交互計算の前提になる「商人」と「平常取引をする者」の扱いを、ほかの商行為の特則と一緒に確かめられます。

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