株主総会の書面決議(決議の省略)と招集手続の省略:全員の同意がいる場面(会社法300条・319条・320条)

ひとことで言うと、株主総会の書面決議(決議の省略)は、議題について出された提案に、議決権を行使できる株主の全員が書面か電磁的記録(メールやデータ)で同意したとき、総会を開かなくても「可決の決議があった」とみなす仕組みです(会社法319条1項)。一人でも同意しなければ使えません。

株主全員の同意で省けるものは、ほかに2つあります。総会への報告を省く「報告の省略」(320条)と、総会は開くが招集通知などの手続を省く「招集手続の省略」(300条)です。招集手続の省略は、書面や電磁的方法で議決権を行使できると定めた場合には使えません。この記事では、この3つを条文で比べます。議事録の書き方・同意書のひな形・登記の手続は扱いません。条文は、令和8年4月1日時点の会社法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

みなと食品株式会社は、株主が4人の小さな会社です。取締役会を置いていて、株式を自由に売れない会社(公開会社でない会社)です。

人物立場したこと
はるかさん代表取締役・株主商号を変える定款変更を提案した
ゆうきさん株主別の議案を提案した
あきらさん・まいさん株主提案に同意するかを書面で返した
  1. 4月1日:はるかさんは、商号を「みなとフーズ株式会社」に変える定款変更の提案を、株主4人に書面で送った。
  2. 4月10日:4人全員が「同意する」と書いた書面を会社に返した。この時点で、提案を可決する株主総会の決議があったものとみなされる(319条1項)。総会は開いていない。
  3. 5月:ゆうきさんが別の提案を書面で送ったが、まいさんだけが同意しなかった。この提案は、319条では決議があったことにならない。決めたいなら、総会を開いて決議する。
  4. 6月:急いで総会を開く必要が出た。株主全員が同意したので、招集通知を送らずに、4人が集まって総会を開いた(300条)。

たとえるなら、4人の班で「この案でいい?」と紙を回し、全員が「いい」と書いたら会議を開いたのと同じ扱いにする、というルールです。ただし本物のルールでは、同意は書面か電磁的記録でする必要があり、議決権を行使できる株主が一人でも同意しなければ、多数が賛成していても使えません。

条文ではこう決まっている

決議の省略(319条)

319条1項は「取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは」、提案を可決する株主総会の決議があったものとみなす、と定めています。分けると次のとおりです。

  • 提案する人:取締役か株主。株主が出した提案でも使えます。
  • 同意する人:その事項について議決権を行使できる株主の全員。その事項に議決権がない株主の同意はいりません。
  • 同意の方法:書面か電磁的記録。
  • 効果:提案を可決する決議があったものと「みなす」。条文は事項の種類を限っていないので、特別決議がいる事項(定款変更など)でも使えます。
  • 定款の定め:319条1項は、定款の定めを条件にしていません。

会社は、決議があったとみなされた日から10年間、同意の書面や電磁的記録を本店に備え置きます(2項)。株主と債権者は、営業時間内いつでも閲覧・謄写を請求できます(3項)。また、定時株主総会の目的である事項の全部について決議があったとみなされたときは、そのときに定時株主総会が終結したものとみなされます(5項)。

報告の省略(320条)

320条は、取締役が株主の全員に、総会に報告すべき事項を通知し、その事項を総会に報告しなくてよいことに株主の全員が書面か電磁的記録で同意したときは、総会への報告があったものとみなす、と定めています。319条が「決議」を省くのに対し、320条は「報告」を省きます。報告の省略では、通知をするのは取締役です。

招集手続の省略(300条)と、その例外

300条本文は、株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ずに株主総会を開けるとしています。ここでの株主からは、総会で決議できる事項の全部について議決権を行使できない株主が除かれます(298条2項のかっこ書が300条にも及びます)。319条・320条と違い、総会そのものは開きます。省けるのは、招集通知を送るなどの手続です。

ただし書は「ただし、第二百九十八条第一項第三号又は第四号に掲げる事項を定めた場合は、この限りでない」としています。3号は書面で議決権を行使できるとすること(書面投票)、4号は電磁的方法で行使できるとすること(電子投票)です。これを定めた総会では、株主に議決権行使書面などを届ける必要があるので、招集の手続を省けません。なお、議決権を行使できる株主が1,000人以上の会社は、原則として書面投票を定めなければなりません(298条2項本文)。上場会社のうち法務省令で定めるものは、この義務から除かれます(同項ただし書)。

何を省けるか・だれの同意か・例外を1枚で

条省けるものだれの同意条件・例外
319条総会と決議その事項に議決権を行使できる株主の全員(書面・電磁的記録)提案は取締役か株主。定款の定めは不要
320条総会への報告株主の全員(書面・電磁的記録)取締役が株主全員に通知する
300条招集の手続(総会は開く)株主の全員書面投票・電子投票を定めたときは不可
370条(取締役会)取締役会と決議議決に加われる取締役の全員(書面・電磁的記録)定款の定めが要る。監査役が異議を述べたら不可

取締役会の書面決議(370条)の中身は取締役会の決議の記事で扱っています。ここで押さえるのは、株主総会の319条には定款の定めがいらず、取締役会の370条には要る、という向きの違いです。招集通知の期限や方式そのものは株主総会の招集と株主提案権の記事にあります。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:株主が出した提案に全員が同意した

ゆうきさん(株主)が出した提案に、議決権を行使できる株主の全員が書面で同意したなら、319条1項で決議があったものとみなされます。提案者に株主が入っている点が、取締役しか提案できない370条との違いです。

当てはまる例:定款変更でも全員の同意で足りる

はるかさんの商号変更は、総会を開けば特別決議(出席した株主の議決権の3分の2以上など。309条2項)がいる事項です。319条は事項を限っていないので、全員が同意すれば、3分の2を数えるまでもなく決議があったものとみなされます。

当てはまらない例:4人のうち3人だけが同意した

5月のゆうきさんの提案は、まいさんが同意していません。3人で議決権の4分の3を持っていても、319条は「全員」の同意なので使えません。総会を開けば可決できる数がそろっていても、書面だけでは決まらない、という点がひっかけになります。

当てはまらない例:書面投票を定めた総会で、招集通知を省いた

みなと食品が、ある総会について書面で議決権を行使できると定めたとします。この総会では、株主全員が同意しても、招集の手続を省けません(300条ただし書)。

ひっかけやすい例:その事項に議決権のない株主がいる

会社は、定款で、総会のある事項について議決権を行使できない種類の株式(議決権制限株式。108条1項3号)を発行できます。319条1項のかっこ書は、同意する株主を「当該事項について議決権を行使することができるもの」に限っています。その事項に議決権のない株主が同意していなくても、議決権を行使できる株主の全員が同意していれば、決議があったものとみなされます。

似ているルールとの違い

  • 書面投票(311条)との違い:書面投票は、総会を開いたうえで、出席しない株主が書面で議決権を行使する仕組みです。書面で行使された議決権の数は、出席した株主の議決権の数に算入されます(311条2項)。決議は総会の多数決で決まり、全員の同意はいりません。書面決議(319条)は、総会を開かず、全員の同意で決議があったとみなします。
  • 取締役会の書面決議(370条)との違い:370条は、定款の定めがあること、取締役が提案すること、監査役設置会社では監査役が異議を述べないことが条件です。319条には、この3つのどれもありません。
  • 決議の手続の争い:総会を開いて決議した場合に、招集の手続などに法令違反があったときは、決議取消しの訴えの問題になります。訴えの期間などは株主総会決議取消しの訴えの記事で扱っています。

株主総会・取締役会・監査役の役割の全体は、株式会社の機関の記事で確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 定款の要否の入れ替え:株主総会の決議の省略(319条)は定款の定めがいらない。定款の定めがいるのは取締役会(370条)。
  • 提案者の範囲:319条は「取締役又は株主」。370条は取締役だけ。
  • 同意する株主の範囲:319条は、その事項について議決権を行使できる株主の全員。議決権のない株主まで入れない。
  • 「全員」と多数決の取り違え:書面決議に、特別決議の3分の2のような割合はない。一人でも欠けたら使えない。
  • 300条の例外:書面投票・電子投票(298条1項3号・4号)を定めた総会では、招集の手続を省けない。
  • 書面投票と書面決議:書面投票は総会を開く。書面決議は総会を開かない。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
みなと食品の株主ゆうきさんが、総会の目的である事項として定款変更の提案をし、株主全員に書面で送った。議決権を行使できる株主の全員が書面で同意した場合、この提案を可決する株主総会の決議があったものとみなされる。

答え:○ 分かれ目は、提案できる人に株主が入るかです。319条1項は「取締役又は株主」が提案した場合と定めているので、株主が出した提案でも、議決権を行使できる株主の全員が書面か電磁的記録で同意すれば、決議があったものとみなされます。取締役会の書面決議(370条)は取締役が提案する仕組みなので、それと同じだと考えると✕に見えます。370条と違い、319条には定款の定めも条件になっていません。

問2(このサイトのオリジナル問題)
みなと食品は、次の株主総会について、株主が書面で議決権を行使できることを定めた。この総会の前に株主の全員が同意したときは、招集の手続を経ずにこの総会を開くことができる。

答え:✕ 分かれ目は、300条ただし書の例外です。株主の全員の同意があれば招集の手続を省けるのが原則ですが(300条本文)、書面や電磁的方法で議決権を行使できると定めた場合(298条1項3号・4号)は、ただし書で省略できません。正しくは、この総会は招集の手続を経て開きます。全員の同意があれば総会そのものを開かずに済ませられる319条の決議の省略には、このような例外がないので、二つを同じに考えると○にしてしまいます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
ある会社は、定款で、役員の選任について議決権を行使できない種類の株式を発行し、その株式をさとるさんが持っている。取締役が出した取締役選任の提案に、この事項について議決権を行使できる株主の全員が書面で同意すれば、さとるさんが同意していなくても、この提案を可決する決議があったことになる。

答え:○ 分かれ目は、同意がいる株主の範囲です。319条1項のかっこ書は、同意する株主を「当該事項について議決権を行使することができるもの」に限っています。さとるさんは役員の選任について議決権がないので、同意する株主に入りません。「株主全員の同意」と覚えていると、さとるさんの同意も要ると考えて✕にしてしまいます。取り違えの相手は300条の「株主の全員」で、こちらから除かれるのは、総会で決議できる事項の全部について議決権がない株主です(298条2項のかっこ書)。319条は、提案された事項ごとに議決権があるかで数えます。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「会社法」で続けて解けます。

まとめ

  • 書面決議(319条):取締役か株主の提案に、その事項について議決権を行使できる株主の全員が書面・電磁的記録で同意すれば、決議があったものとみなす。定款の定めはいらない。
  • 同意の書面は10年間本店に備え置く。定時総会の目的事項の全部について決議があったとみなされたら、定時総会は終結したものとみなす。
  • 報告の省略(320条):取締役が株主全員に通知し、全員が書面・電磁的記録で同意すれば、報告があったものとみなす。
  • 招集手続の省略(300条):株主の全員の同意で、総会は開くが招集の手続を省ける。書面投票・電子投票を定めたときは不可。
  • 取締役会の書面決議(370条)は、定款の定め・取締役の提案・監査役が異議を述べないことが条件。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の会社法を確かめました(2026年10月17日確認)。

このサイトで次に読むなら、株主総会の招集と株主提案権の記事です。総会を開くときの招集通知の期限と方式を確かめると、300条で何を省いているのかがはっきりします。

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