ひとことで言うと、不正競争防止法の営業秘密は、①秘密として管理されている、②事業活動に有用な技術上または営業上の情報で、③公然と知られていないものです(2条6項)。①〜③は、一般に「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3要件と呼ばれます。
営業秘密を盗んで取得したり、示された営業秘密を不正の利益を得る目的で使ったりする行為は「不正競争」に当たり(2条1項4号〜10号)、被害を受けた人は差止め(3条)と損害賠償(4条)を求められます。不正の利益を得る目的または損害を加える目的などがあれば、10年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金、またはその両方という刑事罰もあります(21条1項・2項)。
この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、情報通信・個人情報保護の分野の記事です。足切り(令和7年度の合否判定基準では基礎知識24点=6問)を越えるための6問を、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、という基礎知識の記事の順番は変わりません。個別の事件や企業の事例、社内の管理の実務には入らず、令和8年4月1日時点の条文だけを整理します(2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確認)。
身近な例で考えると
けんたさんは、洋菓子を作る会社「さくら製菓」の社員で、行政書士試験の受験生です。会社には、新しい焼き菓子の配合と焼き方を書いた資料(技術上の情報)と、取引先の店の名簿と仕入れの値段の一覧(営業上の情報)があります。どちらも、決められた社員だけが鍵のかかる保管庫とパスワードのかかったフォルダで見られるようにしてあり、「社外秘」と表示しています。
- さくら製菓は、取引先の「みどり商事」に、共同の商品づくりのために配合の資料を示した。
- みどり商事は、契約の目的とは別に、自社の商品で不正の利益を得る目的でその配合を使った。
- 別の人物が、保管庫から名簿を盗み出した。
2は「示された営業秘密」の不正使用(2条1項7号)、3は「不正の手段による取得」(2条1項4号)です。たとえると、営業秘密は「鍵をかけてしまってある、会社にとって値打ちのある、外の人が知らないメモ」です。ただし本物のルールでは、鍵があるかどうかだけでなく、秘密として管理されていることが社員などに分かる状態かどうかで考えます(後で説明します)。
条文ではこう決まっている
営業秘密の3要件(2条6項)
2条6項は「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」を営業秘密としています。経済産業省の「営業秘密管理指針」(令和7年3月31日最終改訂)は、3つの要件を次のように説明しています。
| 要件 | 条文の言葉 | 指針の説明 |
|---|---|---|
| 秘密管理性 | 秘密として管理されている | 秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に明確に示され、認識可能性が確保される必要がある |
| 有用性 | 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報 | 客観的にみて、事業活動にとって有用であることが必要 |
| 非公知性 | 公然と知られていないもの | 一般的には知られておらず、または容易に知ることができないことが必要 |
指針は、自ら「一つの考え方を示すものであり、法的拘束力を持つものではない」としています。個別の事案は、最終的には裁判所が判断します。
営業秘密についての不正競争(2条1項4号〜10号)
| 号 | 入口 | 何をすると不正競争か |
|---|---|---|
| 4号 | 窃取・詐欺・強迫その他の不正の手段 | 取得する行為と、取得した営業秘密の使用・開示 |
| 5号・6号 | 不正取得が間にあった | それを知って(または重大な過失で知らずに)取得・使用・開示。6号は取得後に知った場合の使用・開示 |
| 7号 | 保有者から示された | 不正の利益を得る目的、または保有者に損害を加える目的での使用・開示 |
| 8号・9号 | 不正開示が間にあった | それを知って(または重大な過失で知らずに)取得・使用・開示。9号は取得後に知った場合の使用・開示 |
| 10号 | 4号〜9号の技術上の秘密の使用 | それで生じた物の譲渡・引渡し・展示・輸出・輸入など |
10号には、物を譲り受けたときに不正使用で生じた物と知らず、知らないことに重大な過失もない人の譲渡などを除く、という限定があります。
民事と刑事で何ができるか
| 手段 | 条文 | 要件・中身の要点 |
|---|---|---|
| 差止め | 3条1項・2項 | 営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある人が、停止・予防を請求。侵害行為を組成した物の廃棄なども請求できる |
| 損害賠償 | 4条・5条 | 故意又は過失により不正競争を行った者が賠償。侵害者が得た利益の額は損害の額と推定する(5条2項) |
| 信用回復 | 14条 | 故意又は過失で営業上の信用を害した者に、裁判所が必要な措置を命ずる |
| 刑事罰 | 21条・22条 | 不正の利益を得る目的などで取得・使用・開示。10年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金、または併科 |
- 差止めの期間(15条1項):営業秘密を使用する行為の差止めを請求する権利は、行為と行為者を知った時から3年間行わないとき、または行為の開始の時から20年を経過したときに、時効によって消滅する。
- 日本の外で使う目的など(21条4項・5項):罰金の上限が3,000万円になる(10年以下の拘禁刑、併科あり)。
- 法人の罰金(22条1項):従業者などが法人の業務に関して21条1項の罪を犯したときは法人にも5億円以下、21条4項の罪では10億円以下の罰金。
刑の名前は、令和7年6月1日施行の刑法等の改正のあとの「拘禁刑」です。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる例:鍵のかかる保管庫から名簿を盗み出す。不正の手段による取得で、2条1項4号の不正競争です。
- 当てはまる例:共同の商品づくりのために示された配合を、不正の利益を得る目的で自社の商品に使う。取得は正当でも、7号の不正競争です。
- 当てはまらない例:店の看板や公式サイトに載せている商品の値段。公然と知られているので、非公知性を欠きます。
- ひっかけやすい例:社員ならだれでも見られる場所に、何の表示もなく置いてある資料。会社が心の中で秘密にしたいと思っているだけでは「秘密として管理されている」とは言いにくく、指針も、秘密管理意思が措置によって従業員等に明確に示されることを求めています。
- ひっかけやすい例:示された営業秘密を、契約で決めた目的のとおりに使う。7号は「不正の利益を得る目的」か「損害を加える目的」を要件にしているので、目的のとおりの使用はこの号に当たりません。
似ているルールとの違い
| 比べる点 | 営業秘密(不正競争防止法) | 特許権(特許法) |
|---|---|---|
| 守られ方 | 秘密として管理し、公然と知られていないことが要件 | 設定の登録により発生する(66条1項) |
| 期間 | 使用の差止めの請求権は、知った時から3年・行為の開始から20年で時効(15条1項) | 特許出願の日から20年で終了(67条1項) |
個人情報保護法は、生存する個人に関する情報の取扱いを決める法律で、守る対象と義務を負う人の決め方が違います。顧客名簿は、営業秘密に当たることもあり、個人情報にも当たることがあります。個人情報保護法の定義は個人情報保護法の記事にあります。他人のIDを無断で入力して会社のシステムに入る行為そのものは不正アクセス禁止法の問題で、その要件と罰則は情報通信の用語の記事で扱っています。21条1項1号は、不正アクセス行為による営業秘密の取得も、刑事罰の対象となる「管理侵害行為」に入れています。
試験ではここをまちがえやすい
- 3要件を1つ落とす型:秘密管理性・有用性・非公知性の3つがそろって営業秘密。「有用で知られていなければよい」は秘密管理性を落としている。
- 秘密管理性を内心で考える型:条文は「秘密として管理されている」。秘密にしたいという意思だけでは足りない。
- 目的の要件の置き場所:4号の不正取得には目的の要件がない。7号の示された者の使用・開示と、21条の刑事罰には「不正の利益を得る目的」などが要る。
- 差止めと損害賠償:差止め(3条)は故意・過失を要件にしていない。損害賠償(4条)は「故意又は過失により」。
- 数字:刑事罰は10年以下の拘禁刑・2,000万円以下の罰金・併科あり。日本の外で使う目的などは3,000万円。差止めの時効は3年・20年。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
窃取によって営業秘密を取得する行為は、目的を問わず不正競争(2条1項4号)に当たるが、これを21条1項1号の罪として罰するには、不正の利益を得る目的又は営業秘密保有者に損害を加える目的が要る。
答え:○ 分かれ目は、目的の要件が民事と刑事のどちらにあるかです。2条1項4号は、窃取・詐欺・強迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為を、目的を書かずに不正競争としています。一方、21条1項1号は、不正の利益を得る目的または保有者に損害を加える目的で、財物の窃取などの管理侵害行為などにより営業秘密を取得したときに罰するとしています。同じ行為なのに要件が違うと思わないと✕に見えます。目的の要件は、民事でも7号(示された者の使用・開示)には置かれています。
問2(このサイトのオリジナル問題)
さくら製菓は、取引先の名簿を、社員のだれもが見られる共有フォルダに、秘密である旨の表示もアクセスの制限もないまま置いていた。会社が内心で秘密にしておきたいと考えていれば、この名簿は秘密管理性の要件を満たす。
答え:✕ 分かれ目は、秘密管理性が内心の意思で足りるかです。2条6項は「秘密として管理されている」ことを要件にしており、経済産業省の営業秘密管理指針も、秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に明確に示され、認識可能性が確保される必要があるとしています。正しくは、秘密にしたいと考えているだけでは足りず、それが措置によって社員などに分かる状態になっていることが要ります。有用性・非公知性のように情報そのものの性質で決まる要件と、管理のされ方で決まる要件を取り違えた誤りです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
営業秘密を不正に使用されて営業上の利益を侵害された者は、使用した者に故意も過失もない場合でも、その侵害の停止を請求できるのと同じく、損害の賠償も請求することができる。
答え:✕ 分かれ目は、故意・過失が要るかです。3条1項の差止めは、営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある者が請求でき、故意・過失を要件にしていません。正しくは、損害賠償は4条で「故意又は過失により不正競争を行って」他人の営業上の利益を侵害した者が負うので、故意も過失もなければ請求できません。差止めの要件と損害賠償の要件を同じものとして扱った誤りです。
基礎知識の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。
まとめ
- 営業秘密=秘密管理性・有用性・非公知性(2条6項)。秘密管理性は、意思が措置で社員などに示されていること。
- 不正競争の入口は、不正取得(4号)、示された者の図利・加害目的の使用・開示(7号)、不正取得・不正開示が間にあることの悪意・重過失(5号・6号・8号・9号)、生じた物の譲渡など(10号)。
- 差止め(3条)は故意・過失が要らない。損害賠償(4条)は故意又は過失。利益の額は損害の額と推定(5条2項)。
- 刑事罰(21条)は目的が要件。10年以下の拘禁刑もしくは2,000万円以下の罰金、または併科。日本の外で使う目的などは3,000万円。
このサイトで次に読むなら、個人情報保護法の記事です。同じ情報通信・個人情報保護の分野で、条文の定義で答えが決まる部分が多く、この記事と同じ覚え方が使えます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の内容を確かめました(2026年10月17日確認)。
- e-Gov法令検索「不正競争防止法」(2条1項4号〜10号・6項、3条、4条、5条、14条、15条1項、21条、22条1項)
- 経済産業省「営業秘密管理指針」(令和7年3月31日最終改訂)(3要件の説明、指針の性格)
- e-Gov法令検索「特許法」(66条1項、67条1項)
働く人の法律試験ノート