時効(じこう)とは、ある状態が長い間続いたとき、その状態に合わせて権利を認めたり消したりする仕組みです。他人の物でも長く持ち続けると自分の物になるのが「取得時効」、権利を長く使わないと消えるのが「消滅時効」です。
ひとことで言うと、試験で問われるのは「何年で時効になるか」と「時効を止める・数え直す方法」の2つです。2020年4月1日施行の改正で、時効を止める仕組みは2つに整理されました。完成猶予(かんせいゆうよ=しばらく時効を完成させないこと)と、更新(こうしん=ゼロから数え直すこと)です。古い教材の「時効の中断」「時効の停止」は、この2つに置きかわりました。ただし、占有をやめたときの取得時効の「中断」(164条)という言葉は、今も条文に残っています。
この記事では、時効の基本、取得時効、債権などの消滅時効、完成猶予と更新を扱います。不法行為の損害賠償の期間(724条)などは期間・数字の一覧にまとめています。
身近な例で考えるとどうなるか
登場人物は4人です。お金を貸した人=まことさん、借りた人=あやかさん、土地を使い続けた人=ゆきおさん、その土地の本当の持ち主=ちえこさんです。
① 貸したお金を返してと言わないまま(消滅時効)
まことさんは、あやかさんに10万円を貸し、「来年の3月末に返す」と約束しました。3月末が来ても、まことさんは何も言わずに放っておきました。返してもらえる日を知っているので、その時から5年使わないと、貸したお金を返してもらう権利(債権)は時効で消えます。
ただし、5年たてば自動的に消えるわけではありません。あやかさんが「時効なので払いません」と援用(えんよう=時効の利益を受けると言うこと)して、はじめて裁判所は時効を前提に判断できます。
② 時効が近づいたらどうするか(完成猶予と更新)
まことさんが4年11か月目に気づき、あやかさんに「返して」と手紙を送りました(催告)。すると、そこから6か月は時効が完成しません。これが完成猶予です。その間に裁判を起こし、判決で権利が確定すれば、時効はゼロから数え直しになります。これが更新です。
また、あやかさんが「ちゃんと返すから少し待って」と借金を認めたら、その時点で時効は更新されます。これを承認(しょうにん)といいます。
③ 他人の土地を使い続けた(取得時効)
ゆきおさんは、親から相続した土地だと信じて、となりの細長い土地を家庭菜園としてずっと使ってきました。本当はちえこさんの土地でした。ゆきおさんが、自分の物として、おだやかに、かくさずに使い続けた場合、20年で所有権を手に入れられます。使い始めた時に、他人の物だと知らず、知らないことに落ち度もなかったなら10年です。
条文ではどう決まっているか
時効の共通ルール(144条〜146条)
- 時効の効力は、起算日(数え始めた日)にさかのぼる(144条)。
- 当事者が援用しなければ、裁判所は時効によって裁判できない(145条)。
- 消滅時効を援用できる「当事者」には、次の人も含まれる(145条かっこ書)。保証人。物上保証人(ぶつじょうほしょうにん=自分の土地などを担保に出した人)。第三取得者(担保の付いた物を買った人)。その他、権利が消えることに正当な利益を持つ人。
- 時効の利益は、あらかじめ放棄できない(146条)。完成する前に「時効は使いません」と約束させても効かない、ということです。
取得時効(162条)
- 対象は、他人の物を占有(せんゆう=自分のもとに置いて支配すること)した人。
- 占有のしかたは、「所有の意思をもって」(自分の物として)、「平穏に」(力ずくでなく)、「公然と」(かくさずに)。
- 20年で所有権を取得する(1項)。
- 占有の開始の時に、善意(他人の物だと知らない)で、かつ過失がなければ10年(2項)。
消滅時効(166条・167条・169条)
- 債権は、権利を行使できることを知った時から5年、または行使できる時から10年で消える。早く来た方で消えます(166条1項)。
- 債権または所有権以外の財産権は、行使できる時から20年(166条2項)。所有権はここに入らないので、消滅時効にかかりません。
- 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は、166条1項2号の10年が20年になる(167条)。
- 確定判決などで確定した権利は、もっと短い時効期間の定めがあっても10年(169条1項)。
完成猶予と更新(147条〜152条)
- 裁判上の請求・支払督促・和解・調停・破産手続参加など(147条。どれも裁判所を使う手続):手続が終わるまで完成猶予。権利が確定しないまま終わったら、終わった時から6箇月まで猶予。確定判決(もう争えなくなった判決)などで権利が確定したら、終わった時から更新。
- 強制執行・担保権の実行など(148条):終わるまで完成猶予。終わった時から更新。ただし申立ての取下げなどで終わったら更新はなく、終わった時から6箇月まで猶予。
- 催告(150条):催告の時から6箇月は完成しない。猶予の間にもう一度催告しても、猶予はのびない。
- 協議を行う旨の合意(151条):話し合うという合意を書面(メールなどの電磁的記録も可)でしたとき、次のうち早い時まで完成しない。①合意から1年、②合意で決めた1年未満の協議期間、③一方が協議をやめると書面で通知した時から6箇月。くり返し合意できるが、本来の完成時から通算5年が上限。
- 承認(152条):権利の承認があった時から更新。承認するのに、行為能力の制限を受けていないことや権限があることは要らない。
当てはまる例・当てはまらない例
- 当てはまる(10年の取得時効):ゆきおさんは、使い始めた時には自分の土地だと信じ、そう信じたことに落ち度もなかった。3年目に「実はちえこさんの土地かも」と知った。善意・無過失を判断するのは「占有の開始の時」なので、10年の取得時効の対象からは外れません。
- 当てはまらない(取得時効):ゆきおさんが、ちえこさんから土地を借りて、駐車場代を払って使っていた。借りている人は「自分の物として」使っているとはいえないので、借りている人として使い続ける限り、何年たっても取得時効は成り立ちません。ちえこさんに「これからは自分の物として使う」とはっきり示すなど、占有の性質が変わる特別な場合は別です(185条)。
- 当てはまらない(消滅時効):ちえこさんが、自分の土地を20年以上ほったらかしにした。所有権は消滅時効にかからないので、それだけで所有権がなくなることはありません。ただし、ほかの人が取得時効で手に入れると、結果としてちえこさんは所有権を失います。
- ひっかけやすい(催告のくり返し):まことさんは、5年目の直前に手紙で催告し、6か月がたつ直前にもう一度催告した。2回目の催告では猶予はのびません。6か月の間に裁判上の請求などをする必要があります。
- ひっかけやすい(訴えの取下げ):まことさんが裁判を起こしたが、途中で訴えを取り下げた。権利が確定しないまま終わったので、更新は起きません。取り下げた時から6箇月の完成猶予が残るだけです。
似ているルールとどう違うか
完成猶予と更新は、「時計を一時止める」と「時計をゼロに戻す」のちがいとたとえられます。ただし本物のルールでは、完成猶予は時計を止めるのではなく、時効が完成するのを一定の時まで待ってもらう仕組みです。進んでいた期間は消えません。
| できごと | 完成猶予 | 更新 |
|---|---|---|
| 裁判上の請求(147条) | 終わるまで(確定せず終われば+6箇月) | 判決などで確定したとき |
| 強制執行(148条) | 終わるまで(取下げなら+6箇月) | 終わったとき |
| 催告(150条) | 6箇月 | なし |
| 協議の合意(151条) | 原則1年(通算5年まで) | なし |
| 承認(152条) | なし | 承認したとき |
覚え方は、「権利がはっきりしたら更新」です。判決で確定した、強制執行が進んだ、相手が自分で借金を認めた。どれも、権利があることがはっきりした場面です。催告や協議の合意は「返して」「話し合おう」と言っただけなので、権利はまだはっきりしません。だから完成猶予だけです。
もう一つ、取消権の期間(126条)も「5年・20年」で、消滅時効と数字がにています。取消権は「追認できる時から5年・行為の時から20年」です。くわしくは意思表示をわかりやすくで扱っています。
試験ではどこをまちがえやすいか
- 改正前の言葉で書く型:「請求により時効は中断する」は今の条文の言葉ではありません。今は「完成猶予」と「更新」です。
- 善意・無過失の時点をずらす型:10年の取得時効の善意・無過失は「占有の開始の時」だけで判断します。「占有の期間中ずっと」ではありません。
- 起算点を入れかえる型:5年は「行使できることを知った時から」、10年は「行使できる時から」。逆にした選択肢に注意します。
- 催告で更新するとする型:催告は6箇月の完成猶予だけで、更新は起きません。再度の催告にも猶予の効果はありません。
- 協議の合意を口約束でよいとする型:151条は「書面」(または電磁的記録)が必要です。催告で猶予されている間にした合意には、猶予の効果がありません(151条3項)。
- 援用できる人をせまくする型:保証人・物上保証人・第三取得者も、消滅時効を援用できます(145条)。
行政書士試験では、5肢択一式で完成猶予と更新の区別、援用できる人の範囲を問う形が考えられます。記述式(40字程度)では、「時効の完成を防ぐには何をすればよいか」に対して、手段と効果(完成猶予か更新か)を条文の言葉で書けるかが問われやすい形です。書き方は記述式の書き方にまとめています。
宅建試験では、土地の取得時効(20年・10年)や、抵当権が付いた土地を買った人(第三取得者)が被担保債権の時効を援用できるか、という形が考えられます。抵当権の仕組みは抵当権をわかりやすく、取得時効で手に入れた土地と登記の関係は不動産の二重譲渡と登記もあわせて読むと整理しやすくなります。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
しおりさんは友人に30万円を貸していた。返してもらえる日が来たことを知ってから5年がたつ直前に、しおりさんは友人に返済を求める手紙を送った。この手紙によって、時効はその時から新たに進行を始める。
答え:✕ 手紙で返済を求めるのは催告です。催告の効果は、その時から6箇月を経過するまで時効が完成しないという完成猶予だけです(150条1項)。新たに進行を始める(更新)わけではありません。
問2(このサイトのオリジナル問題)
問1の場面で、友人がしおりさんに「借りているのはまちがいない。来月まで待ってほしい」と伝えた。この場合、時効はその時から新たに進行を始める。
答え:○ 借りていることを認めるのは、権利の承認です。承認があったときは、その時から時効は新たに進行を始めます(152条1項)。
問3(このサイトのオリジナル問題)
たけしさんは、他人の空き地を、自分の土地だと信じ、信じたことに過失もない状態で使い始めた。使い始めて4年目に他人の土地だと知ったが、そのまま自分の物として、おだやかに、かくさずに使い続けた。この場合、たけしさんは使い始めてから20年たたないと所有権を取得できない。
答え:✕ 10年の取得時効の善意・無過失は「占有の開始の時」で判断します(162条2項)。途中で知っても、使い始めた時に善意・無過失なら、10年で所有権を取得できます。
まとめ
- 取得時効は20年。占有の開始の時に善意・無過失なら10年。
- 債権の消滅時効は、知った時から5年・行使できる時から10年。所有権は消滅時効にかからない。
- 時効は援用しないと裁判で使えない。あらかじめの放棄はできない。
- 権利がはっきりしたら更新(確定判決・強制執行・承認)。催告と協議の合意は完成猶予だけ。
- 催告は6箇月、再度の催告は効果なし。協議の合意は書面で、通算5年まで。
次に読むなら、不動産の二重譲渡と登記がおすすめです。取得時効で土地を手に入れた人も、登記をしないうちに元の持ち主が別の人に土地を売ると、困ることがあります。その仕組みは177条を知るとはっきりします。期間の数字だけを見直したいときは期間・数字の一覧が使えます。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索で確かめています(2020年4月1日施行の債権法改正後の条文です)。
- e-Gov法令検索「民法」(126条、144条、145条、146条、147条、148条、150条、151条、152条、162条、164条、166条、167条、169条、185条)
働く人の法律試験ノート