寄託をわかりやすく:物を預ける契約の成立・注意の程度・返す時期(令和2年4月施行の改正後)

ひとことで言うと、寄託(きたく)は、「この物を保管してください」と頼み、相手が引き受けることで成り立つ契約です(民法657条)。預ける人を寄託者(きたくしゃ)、預かる人を受寄者(じゅきしゃ)といいます。令和2年4月施行の改正で、物を渡す前でも、約束だけで成立するようになりました。

この記事では、改正後の条文で、成立・受け取る前の解除・保管のしかた・返す時期・特別な寄託(混合寄託と消費寄託)を扱います。ほかの契約との全体の地図は典型契約13種類の一覧にまとめています。

身近な例で考えると

はるかさんは、1年間の海外勤務の間、家財を預けることにしました。

人物立場預かるもの
はるかさん寄託者(預ける人)—
そうたさん友人。無報酬の受寄者絵1枚
みなと倉庫倉庫会社。保管料をもらう受寄者ピアノ(書面で契約)
  1. はるかさんとそうたさんは、口頭で「1年後に返す」と約束した。絵を渡す前でも、寄託は成立している(657条)。
  2. そうたさんは、絵を受け取る前なら、この約束をやめられる。書面にしていないからです(657条の2第2項)。
  3. そうたさんは無報酬なので、自分の物と同じ程度の注意で保管すれば足りる(659条)。みなと倉庫は、保管料をもらう以上、善良な管理者の注意(ぜんかんちゅうい=その立場の人に通常求められる注意)で保管する(400条)。
  4. 予定より早く帰国したはるかさんは、1年たつ前でも、返還を求めることができる(662条1項)。

たとえるなら、寄託は「預かり所との約束」です。ただし本物のルールでは、預かる側は原則として預かった物を使えず(658条1項)、ほかの人に保管させることにも制限があります。

条文ではこう決まっている

成立と、受け取る前の解除(657条・657条の2)

  • 657条:当事者の一方がある物の保管を相手に委託し、相手が承諾することで効力を生じる(諾成契約=合意だけで成り立つ契約)。改正前の657条は、物を「受け取ることによって」効力を生じるとしていました(要物契約)。
  • 657条の2第1項:寄託者は、受寄者が物を受け取るまで、契約を解除できる。受寄者が損害を受けたときは、その賠償を求められる。
  • 同条2項:無報酬の受寄者は、物を受け取るまで、契約を解除できる。ただし、書面による寄託はこの限りでない。
  • 同条3項:報酬をもらう受寄者(無報酬なら書面による寄託の受寄者)は、受け取るべき時期を過ぎても寄託者が物を渡さないとき、相当の期間を定めて催告し、それでも渡されなければ解除できる。

保管のしかた(658条〜661条・400条)

  • 658条:受寄者は、寄託者の承諾がなければ物を使えない。第三者に保管させられるのは、寄託者の承諾があるときか、やむを得ない事由があるときだけ。
  • 659条:無報酬の受寄者は、自己の財産に対するのと同一の注意で保管する。
  • 400条:特定物を引き渡す債務を負う人は、引き渡すまで善良な管理者の注意で保存する。報酬をもらう受寄者には659条のように注意を軽くする定めがないので、この善管注意によると説明されます。特定物と種類物の区別は種類債権の特定の記事にあります。
  • 商法595条:商人が営業の範囲内で寄託を受けたときは、報酬を受けないときでも、善良な管理者の注意で保管する。ホテルや飲食店が客から預かった物の責任は場屋営業者の責任の記事にあります。
  • 660条:物について権利を主張する第三者が訴えを起こしたり差し押さえたりしたときは、受寄者は遅滞なく寄託者に知らせる(寄託者が知っているときは不要)。
  • 661条:物の性質や瑕疵(かし=欠陥)で受寄者に生じた損害は、寄託者が賠償する。ただし、寄託者が過失なく知らなかったとき、または受寄者が知っていたときは除く。

返す時期・期間・準用(662条〜665条)

だれが返す時期を決めたとき決めなかったとき
寄託者(返してもらう)いつでも返還を求められる。期限前の請求で受寄者が損害を受けたら賠償(662条)いつでも返還を求められる
受寄者(返す)やむを得ない事由がなければ、期限前に返せない(663条2項)いつでも返せる(663条1項)
  • 664条:返す場所は、保管すべき場所。正当な事由で場所を移したときは、いまある場所で返せる。
  • 664条の2:物の一部の滅失・損傷による損害の賠償と、受寄者が出した費用の償還は、寄託者が返還を受けた時から1年以内に請求する。
  • 665条:委任の646条〜648条・649条・650条1項・2項を準用する。受任者が過失なく受けた損害の賠償を求められる650条3項は、準用されていない。

648条の準用で、受寄者は、特約がなければ報酬を請求できません。報酬をもらう寄託は、報酬の約束(特約)がある寄託です。ただし、商人が営業の範囲内で預かったときは、約束がなくても相当な報酬を請求できます(商法512条)。

混合寄託と消費寄託(665条の2・666条)

  • 混合寄託:複数の人から預かった同じ種類・品質の物は、各寄託者の承諾を得たときに限り、混ぜて保管できる。寄託者は、預けたのと同じ数量の返還を求められる。
  • 消費寄託:受寄者が契約で物を消費できる場合は、同じ種類・品質・数量の物で返す。預金・貯金はこの形で、消費貸借の一部の規定(591条2項・3項)を準用する。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(物を渡す前の寄託):はるかさんとそうたさんの口頭の約束は、絵を渡す前から寄託として成立しています。改正前の「受け取って初めて成立」で考えないようにします。
  • 当てはまらない(使ってよいと言われた):はるかさんが「ピアノは弾いてもいいよ、ただで」と言って友人に渡した。保管ではなく、無償で使わせることが目的なら、寄託ではなく使用貸借の話になります。
  • 当てはまらない(受寄者の過失のない損害):そうたさんが絵を預かる間に、自分に落ち度なく損害を受けた。委任の650条3項は準用されないので、それを根拠に賠償を求めることはできません。絵の性質や欠陥が原因なら661条の問題です。
  • ひっかけやすい(預金):銀行に預けたお金は、銀行がそのまま保管するのではなく、使ってよい約束です。消費寄託(666条)に当たります。
  • ひっかけやすい(商人の無報酬の寄託):倉庫会社が取引先の荷物を営業の範囲でサービスとして預かった。無報酬でも、商法595条で善管注意です。

似ているルールとの違い

比べる点寄託使用貸借委任
目的物を保管する物を無償で使わせる法律行為をしてもらう(準委任は事務)
受け取る前の解除寄託者はいつでも。無報酬の受寄者は書面でなければできる貸主は書面でなければできる(593条の2)—
注意の程度無報酬は自己の財産と同一。報酬ありは善管注意—無報酬でも善管注意(644条)

無報酬なら注意が軽くなるのは寄託(659条)で、委任は無報酬でも善管注意です(644条)。委任と請負の違いは請負と委任の記事で扱っています。お金を「使ってよい」と貸すのは消費貸借で、書面の要否などは消費貸借の記事にあります。

試験ではここをまちがえやすい

  • 改正前の要物契約:今の寄託は合意だけで成立します。「物を受け取るまでは寄託は成立しない」とする形は改正前の条文です。
  • 受け取る前の解除の主体:寄託者は有償・書面でもできる(損害賠償あり)。受寄者が自由にできるのは、無報酬で書面でない場合。
  • 注意の程度の3つの組:民法の無報酬の受寄者(自己の財産と同一)、商人が営業の範囲で受けた寄託(無報酬でも善管注意)、委任(無報酬でも善管注意)。
  • 返す時期の向き:寄託者は期限前でもいつでも求められる。受寄者は期限前にはやむを得ない事由が要る。
  • 準用されない規定:委任の650条3項(無過失の損害の賠償)は準用されない。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
はるかさんは、倉庫会社のみなと倉庫と、保管料を払ってピアノを預ける契約を書面で結んだ。みなと倉庫がピアノを受け取る前であれば、はるかさんは、この契約を解除することができる。

答え:○ 分かれ目は、受け取る前の解除ができるのはだれかです。657条の2第1項は、寄託者は受寄者が寄託物を受け取るまで契約を解除できるとし、有償か無償か、書面かどうかで区別していません。みなと倉庫が解除で損害を受けたときは、はるかさんが賠償します。書面があると解除できない、と考えると✕に見えます。書面による寄託で解除できなくなるのは、無報酬の受寄者の側です(同条2項ただし書)。

問2(このサイトのオリジナル問題)
無報酬で絵を預かったそうたさんが、保管中に、自分に過失なく損害を受けた。その損害は絵の性質や欠陥によるものではないが、そうたさんは、委任の規定の準用により、寄託者のはるかさんにその賠償を請求できる。

答え:✕ 分かれ目は、委任の規定のうちどれが寄託に準用されるかです。665条は、委任の646条〜648条、649条、650条1項・2項を準用しますが、受任者が過失なく受けた損害の賠償を委任者に求められる650条3項は準用していません。正しくは、そうたさんは、委任の規定を根拠に賠償を求めることはできません。寄託者が受寄者の損害を賠償するのは、物の性質や瑕疵による損害についての661条の場面です(寄託者が過失なく知らなかったときなどを除く)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
はるかさんが、友人のそうたさんに、返す時期を6か月後と決めて無報酬で絵を預けた。はるかさんは、6か月たつ前でも返還を求めることができるが、そうたさんは、やむを得ない事由がなければ、6か月たつ前に返すことはできない。

答え:○ 分かれ目は、返す時期の決まりが寄託者と受寄者で逆になることです。662条1項は、返還の時期を定めたときでも寄託者はいつでも返還を請求できるとし、663条2項は、時期の定めがあるときは受寄者はやむを得ない事由がなければ期限前に返還できないとしています。無報酬で預かっているのだから、そうたさんもいつでも返せる、と考えると✕に見えます。受寄者がいつでも返せるのは、時期を決めなかったとき(663条1項)です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 寄託は、保管の委託と承諾で成立する(657条)。改正前は物の受取りが要った。
  • 受け取る前の解除:寄託者はいつでも(損害賠償)、無報酬の受寄者は書面でなければできる。
  • 注意:無報酬は自己の財産と同一(659条)、報酬ありは善管注意、商人の営業の範囲なら無報酬でも善管注意(商法595条)。
  • 返す時期:寄託者はいつでも求められる。受寄者は、時期を決めたらやむを得ない事由がなければ期限前に返せない。
  • 委任の650条3項は準用されない。混合寄託は各寄託者の承諾、預金は消費寄託。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。改正前の657条・659条は、同じ法令の令和2年3月1日時点の版で確かめました。

このサイトで次に読むなら、典型契約13種類の一覧です。寄託と同じく改正で合意だけで成立するようになった使用貸借や、物の受取りが要る消費貸借と並べて、契約の成り立ち方を整理できます。

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