和解:民法695条・696条の和解契約と、和解したあとで錯誤を言えるか・後遺症が出たら

ひとことで言うと、和解(わかい)は、争っている人どうしが互いに譲り合って、争いをやめる約束です(民法695条)。いったん和解すると、あとで「本当は自分が正しかった」という確かな証拠が出ても、和解で決めた内容は覆りません(696条)。

ただし判例は、和解の前提にした事実に大きな勘違い(錯誤)があった場合には、和解の効力が否定されうるとしています。また、示談のあとに、その当時は予想できなかった後遺症が出た場合は、その損害の賠償をあとで請求できるとしています。この記事では、この3つを扱います。裁判所でする和解は一言だけ触れ、示談書の書き方は扱いません。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

人物立場したこと
たくやさん電器店の店主中古の業務用冷蔵庫を売った
ひろみさんカフェの店主その冷蔵庫を買った
  1. 4月:ひろみさんは、たくやさんから冷蔵庫を買い、店に置いた。
  2. 5月:たくやさんは「代金は50万円」、ひろみさんは「30万円の約束だった」と言い、争いになった。
  3. 6月:2人は話し合い、「代金は40万円とし、ほかにはお互い何も請求しない」と約束した。これが和解です。
  4. 7月:ひろみさんの店の奥から、代金30万円と書いた見積書が出てきた。

4番目で、ひろみさんは「やはり30万円だった」と言えるでしょうか。和解は、どちらの言い分が正しいか分からないまま、互いに譲って争いを終わらせる約束です。あとで証拠が出たら覆せるのでは、和解をした意味がなくなります。そこで696条は、和解で決めたことは、あとで反対の確証が出ても覆らないとしています。ひろみさんは40万円を払います。

たとえるなら、和解は、試合の途中で「引き分けで終わりにしよう」と握手するようなものです。握手のあとで「本当は勝っていた」と分かっても、試合はやり直しません。ただし本物のルールでは、握手の前提にした事実に大きな勘違いがあった場合は、錯誤の規定で約束の効力が否定されることがあります(後で判例で説明します)。

条文ではこう決まっている

和解が成り立つ条件(695条)

695条は「和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる」と定めます。分けると、次の3つです。

  • 当事者の間に争いがあること。
  • 互いに譲歩すること。片方だけが引くのではありません。
  • 争いをやめると約束すること。約束によって効力を生じるので、条文は書面を条件にしていません。

和解の効力(696条)

696条は、和解で当事者の一方が「争いの目的である権利」を持つと認められた(または相手方が持たないと認められた)場合を定めています。そのあとで、その人が実は権利を持っていなかった確証(または相手方が持っていた確証)が得られても、その権利は和解によってその人に移転した(または消滅した)ものとする、という内容です。

例でいえば、たくやさんは和解で40万円の代金債権があると認められました。あとで30万円の約束だった確証が出ても、40万円の債権は和解によってたくやさんのものになったと扱われます。これを和解の確定の効力と呼ぶことがあります。

裁判所でした和解(民事訴訟法267条)

訴訟の中で和解をして、それが調書に記載されると、その記載は「確定判決と同一の効力を有する」とされています(民事訴訟法267条)。この記事の中心は、裁判所の外でもできる民法の和解です。

判例で決まっていること

和解の前提にした事実の錯誤(最高裁判所第一小法廷 昭和33年6月14日判決)

約62万円の支払義務があるかどうかを争っていた訴訟の中で、当事者が和解をしました(裁判所でした和解です)。内容は、仮差押え(かりさしおさえ=裁判の前に相手の財産を動かせなくしておく手続)をしていたジャムを、代物弁済(だいぶつべんさい=お金の代わりに物で払うこと)として渡すというものです。ジャムは市場で通用する一定の品質の品であることが前提で、1箱3,000円と見込まれていました。ところが、実際は粗悪品でした。

判決は、このような和解は「要素に錯誤があるもの」として無効と解すべきだとしました(裁判要旨)。争いの目的は、支払義務があるかどうかでした。ジャムの品質は争いの目的ではなく、和解で渡すと決めた物について、両方が前提にしていた事柄です。判決は、和解が要素の錯誤で無効である以上、確定判決のような効力(判決の言葉では「実質的確定力」)も持たないとしています。裁判所でした和解でも、民法の錯誤の規定で効力が否定されうる、ということです。

この判決は、令和2年4月施行の改正の前のものです。改正前の錯誤の効果は「無効」でしたが、いまの95条1項では「取り消すことができる」です。いまの条文では、錯誤が重要であること、基礎とした事情の錯誤ならその事情が表示されていたこと、表意者に重大な過失がないこと(例外あり)といった95条の要件に当てはめて考えます。錯誤の要件の全体は意思表示の記事にあります。

示談と、予想できなかった後遺症(最高裁判所第二小法廷 昭和43年3月15日判決)

交通事故の損害賠償で、早い時期に少額の賠償金で示談がされたあと、示談の当時は予想しなかった後遺症が出た事件です。裁判要旨は次のとおりです。

  • 「交通事故による全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて、早急に、小額の賠償金をもつて示談がされた場合において、右示談によつて被害者が放棄した損害賠償請求は、」
  • 「示談当時予想していた損害についてのみと解すべきであつて、その当時予想できなかつた後遺症等については、被害者は、後日その損害の賠償を請求することができる。」

示談(じだん)は法律の用語ではありませんが、この判決の参照法条には695条・696条が挙がっています。示談で放棄したのは、当時予想していた損害についての請求です。予想していた損害の分を、あとから「額が少なすぎた」として請求し直せるわけではありません。不法行為の賠償の基本は不法行為の記事で扱っています。

判決場面結論
昭和33年6月14日和解で渡す物の品質を前提にしたが、粗悪品だった要素の錯誤で無効(改正前の言葉)
昭和43年3月15日少額で早く示談したあと、予想しなかった後遺症が出た後遺症の損害はあとで請求できる

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:見積書が出てきても40万円

ひろみさんの例です。争いの目的である代金の額について、互いに譲って40万円に決めました。あとで30万円の見積書が出ても、696条により和解は覆りません。

当てはまらない例:片方だけが引いた

たくやさんが「もう面倒だから、残りは請求しない」と一方的に言っただけなら、互いの譲歩がないので、695条の和解には当たりません。債権者が債務を免除する意思を示したときは、債権が消滅します(519条)。免除のほかの債権が消える場面は代物弁済・更改・免除・混同の記事で扱っています。

当てはまらない例:もともと争いがない

代金が40万円であることに争いはなく、支払いを2回に分けてもらっただけなら、争いをやめる約束ではありません。和解ではなく、支払方法の取決めです。

ひっかけやすい例:渡す物の品質を勘違いしていた

和解で、40万円の代わりに、ひろみさんの店にある特定の産地のコーヒー豆を渡すことにしたとします。その豆であることを前提にしたのに、別の質の低い豆だったなら、昭和33年判決と同じく、和解の前提の錯誤の問題です。「和解したから何も言えない」とはなりません。

ひっかけやすい例:示談書に「一切請求しない」と書いた

歩いていたゆうなさんが、そうまさんの自転車にぶつけられてけがをし、早い時期に少額で示談したとします。示談書に「今後一切の請求をしない」と書いていても、当時予想できなかった後遺症の損害は、昭和43年判決の考え方で、あとで請求できます。

似ているルールとの違い

制度どう成り立つか効果
和解(695条・696条)互いに譲歩して争いをやめる約束決めた内容は反対の確証が出ても覆らない
債務の免除(519条)債権者の一方的な意思表示その債権が消滅する
訴訟の中の和解(民事訴訟法267条)和解を調書に記載する確定判決と同一の効力

和解は、民法が名前と中身を定める13の典型契約の一つです(典型契約の一覧)。加害者が2人以上いる事故で、そのうち1人とだけ和解したときの扱いは、共同不法行為の記事で判例とともに扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 確定の効力を広げる形:「和解した以上、錯誤は主張できない」と言い切る形。696条で覆らないのは争いの目的について決めたことで、和解の前提にした事実の錯誤は別です(昭和33年判決)。
  • 改正前の言葉の形:錯誤の効果を「無効」とする形。いまの95条1項は「取り消すことができる」です。判決を引くときは、改正前の判決なので「無効」と書かれている、と区別します。
  • 示談の範囲を広げる形:「示談のあとでも、額が少なければ増額を請求できる」とする形。あとで請求できるのは、示談の当時予想できなかった後遺症などの損害です。
  • 要件の落とし:互いの譲歩がない、または争いがないのに「和解」とする形。
  • 裁判上の和解の効力:調書に記載された和解は「確定判決と同一の効力」です(民事訴訟法267条)。裁判の外で争いを解く和解・調停・仲裁(ADR)と民事訴訟の違いはADRと民事訴訟の記事で比べています。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
冷蔵庫の代金が50万円か30万円かで争ったたくやさんとひろみさんは、40万円とする和解をした。その後、30万円と書いた見積書が見つかり、30万円の約束だったとはっきりしても、ひろみさんは40万円の支払を免れない。

答え:○ 分かれ目は、争いの目的そのものについて、あとから反対の確証が出た場面かです。696条は、和解で権利があると認められたあとに、権利を持っていなかった旨の確証が得られても、その権利は和解によって移転したものとするとしています。はっきりした証拠が出たのだから錯誤で取り消せる、と考えると✕にしてしまいます。錯誤で和解の効力が否定された判例は、和解の前提にした事実を勘違いしていた事案(昭和33年判決)で、この問とは場面が違います。

問2(このサイトのオリジナル問題)
問1の和解で、40万円の代わりに、ひろみさんの店にある特定の産地のコーヒー豆20袋を、その豆であることを前提に渡すことにしたが、実際は質の低い別の豆だった。この場合、たくやさんは、この点の錯誤を理由に和解の効力を争うことができない。

答え:✕ 分かれ目は、錯誤が争いの目的についてか、和解の前提についてかです。最高裁判所第一小法廷昭和33年6月14日判決は、一定の品質のジャムを代物弁済として渡す前提で和解したのに粗悪品だった事案で、和解は要素の錯誤により無効としました。正しくは、前提にした事実の錯誤なら、いまの95条の要件を満たせば和解を取り消すことができます(改正前は「無効」)。取り違えの相手は、争いの目的そのものについての確定の効力(696条)です。

問3(このサイトのオリジナル問題)
ゆうなさんは自転車にぶつけられてけがをし、損害の全体が分からないうちに、早く少額で示談して「今後一切の請求をしない」と書いた。その後、当時予想できなかった後遺症が出た場合、ゆうなさんは、その損害の賠償を請求できる。

答え:○ 分かれ目は、示談で放棄した請求の範囲です。最高裁判所第二小法廷昭和43年3月15日判決は、全損害を正確に把握し難い状況のもとで早急に小額の賠償金で示談がされた場合、放棄した請求は示談当時予想していた損害についてのみで、予想できなかった後遺症等は後日請求できるとしました。「一切」と書いたので請求できない、と考えると✕にしてしまいます。反対に、当時予想していた損害の分は、示談の額が少なかったとしても請求し直せません。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 和解は、互いに譲歩して争いをやめる約束(695条)。一方だけが引くのは和解ではない。
  • 和解で決めたことは、あとで反対の確証が出ても覆らない(696条)。
  • 和解の前提にした事実の錯誤は、和解の効力を否定する理由になる(昭和33年判決。いまは95条で取消し)。
  • 示談の当時予想できなかった後遺症の損害は、あとで請求できる(昭和43年判決)。
  • 訴訟の中の和解は、調書に記載すると確定判決と同一の効力(民事訴訟法267条)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点のものを確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、昭和33年判決の事案は判決全文で確かめました。

このサイトで次に読むなら、意思表示の記事です。和解の前提の錯誤を、いまの95条の要件(重要性・表示・重大な過失)で確かめ直せます。

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