ひとことで言うと、意思表示(いしひょうじ=「売ります」「解除します」のように、法律上の効果を生じさせるために相手に伝える意思)は、その通知が相手方に届いた時に効力が生じます(民法97条1項。到達主義=とうたつしゅぎ)。「届いた」とは、相手が読んだ時ではなく、読める状態に置かれた時のことです。相手が正当な理由なく受け取りを妨げたときは、ふつうなら届いたはずの時に届いたとみなされます(2項)。出した人がその後に亡くなっても、効力は消えません(3項)。
この記事では、①97条の3つの項、②相手の所在が分からないときの公示による意思表示(98条)、③受け取る側の能力(98条の2)、④改正前の「承諾の発信主義」と、クーリング・オフの「発した時」との違い、を扱います。心裡留保・虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫(93条〜96条)は意思表示の記事、クーリング・オフの要件はクーリング・オフの記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の民法と宅建業法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
登場人物は、土地を売りたいゆうきさんと、買いたいまことさんです(架空の話です)。二人は離れた町に住んでいて、手紙でやりとりします。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| ゆうきさん | 申込みをした人 | 土地を売る申込みの手紙を出した |
| まことさん | 申込みを受けた人 | 買うという承諾の手紙を出した |
- 4月1日、ゆうきさんが「この土地を1,500万円で売ります」という申込みの手紙を出した。
- 4月3日、手紙がまことさんの家の郵便受けに入った。まことさんが読んだのは、旅行から帰った4月5日だった。
- 4月6日、まことさんが「買います」という承諾の手紙を出した。
- 4月8日、承諾の手紙がゆうきさんに届いた。
申込みの効力が生じたのは、まことさんが読んだ4月5日ではなく、郵便受けに入った4月3日です。まことさんが読める状態に置かれたからです。契約が成立したのは、承諾の手紙が届いた4月8日です(97条1項・522条1項)。承諾の手紙を出した4月6日ではありません。
たとえるなら、意思表示は「相手のポストに入った時に効く手紙」です。ただし本物のルールでは、ポストに入ったかどうかの形だけで決まるわけではありません。判例は、相手が知ることのできる状態に置かれたかで判断しています。受け取りを拒まれた場合や、郵便局に保管されたまま戻ってきた場合は、条文と判例で考えます。
条文ではこう決まっている
効力が生じる時(97条)
- 1項:意思表示は、その通知が相手方に「到達した時から」効力を生ずる。
- 2項:相手方が「正当な理由なく」通知の到達を妨げたときは、その通知は「通常到達すべきであった時に到達したものとみなす」。
- 3項:表意者(意思表示をした人)が通知を発した後に、死亡し、意思能力を失い、または行為能力の制限を受けても、そのために効力を妨げられない。
改正前の97条は「隔地者(かくちしゃ=離れた場所にいる人)に対する意思表示」についての規定で、到達を妨げたときの規定(いまの2項)はありませんでした。令和2年4月1日施行の改正で、相手が離れているかどうかを問わない形になり、2項が加わりました。3項の「意思能力を喪失し」も、この改正で加わった言葉です。
相手が分からないとき(98条)
- 1項:表意者が相手方を知ることができない、またはその所在を知ることができないときは、公示の方法で意思表示ができる。
- 2項:裁判所の掲示場に掲示し、掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載する。裁判所が相当と認めれば、官報の代わりに市役所などの掲示場に掲示させることもできる。
- 3項:最後に官報に掲載した日(またはその代わりの掲示を始めた日)から「2週間を経過した時」に、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと、または所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない。
- 4項:手続は簡易裁判所が扱う。相手方を知ることができないときは表意者の住所地、所在が分からないときは相手方の最後の住所地の簡易裁判所。
受け取る側の能力(98条の2)
- 本文:相手方が意思表示を受けた時に、意思能力がなかった、または未成年者か成年被後見人だったときは、その意思表示を相手方に対抗できない(=「届いたので効いている」と相手に言い張れない)。
- ただし書:①相手方の法定代理人、②意思能力を回復し、または行為能力者となった相手方が、その意思表示を知った後は、対抗できる。
98条の2に挙がっているのは、意思能力のない人・未成年者・成年被後見人です。被保佐人と被補助人は挙がっていません。改正前の98条の2は未成年者と成年被後見人だけを挙げていて、意思能力のない人は令和2年4月施行の改正で加わりました。
契約が成立する時(522条・526条)
- 522条1項:契約は、申込みに対して相手方が承諾をした時に成立する。承諾も意思表示なので、97条1項により、申込者に届いた時に効力が生じる。
- 526条:申込者が申込みの通知を発した後に、死亡し、意思能力を有しない常況になり、または行為能力の制限を受けた場合、①申込者がその事実が生じたら申込みは効力を失う旨の意思を表示していたとき、または②相手方が承諾の通知を発するまでにその事実を知ったときは、申込みは効力を失う。
改正前の526条1項は「隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する」としていました(承諾の発信主義)。この規定は令和2年4月1日施行の改正でなくなり、承諾も到達で効力が生じる形にそろいました。いまの526条は、申込者の死亡などを扱う別の中身の規定です。
当てはまる例・当てはまらない例
| 場面 | 効力 | 根拠 |
|---|---|---|
| 郵便受けに入ったが、まだ読んでいない | 到達している | 97条1項、昭和36年判決の考え方 |
| 正当な理由なく受け取りを妨げた | 通常届くはずの時に到達とみなす | 97条2項 |
| 出した後に表意者が亡くなった | 効力は妨げられない | 97条3項(申込みは526条の例外) |
| 相手の所在が分からない | 公示から2週間で到達とみなす。過失があれば生じない | 98条3項 |
| 受けた相手が未成年者 | 対抗できない。法定代理人が知った後は対抗できる | 98条の2 |
例1:会社の事務室で、受け取る権限のない人が受け取った(当てはまる例)
最高裁判所第一小法廷昭和36年4月20日判決(昭和33年(オ)第315号)は、延滞した賃料の支払を求める催告書が、会社の事務室で、代表取締役の娘に手渡された事件です。娘には受け取る権限がなく、内容も知らないまま、机の上の印を押して受け取り、机の引き出しに入れました。会社の人は、その後しばらく催告書に気づきませんでした。
判決は、到達とは、代表取締役や受け取る権限のある人が受け取ったり内容を知ったりすることではなく、その人たちにとって「了知可能の状態」に置かれたことだとしました。言いかえると、書面がその人たちの「勢力範囲(支配圏)」内に置かれれば足りるとして、到達を認めています。ただし、これは会社の事務室で手渡された事情のもとでの判断です。権限のない人が受け取ればいつでも届いたことになる、と広げて覚えないようにします。
例2:不在で戻ってきた内容証明郵便(ひっかけやすい例)
最高裁判所第一小法廷平成10年6月11日判決(平成9年(オ)第685号)は、遺留分減殺(いまの遺留分侵害額請求にあたる、改正前の制度)の意思表示を書いた内容証明郵便が、受取人の不在で郵便局に保管され、留置期間(保管の期間)が過ぎて差出人に戻ってきた事件です。判決は、受取人が不在配達通知書の記載などから内容を十分に推知(すいち=おしはかること)でき、受取方法を指定すれば大きな労力なく受け取れたなどの事情から、遅くとも留置期間が満了した時点で到達したと認めました。
戻ってきた郵便はいつでも届いたことになる、という一般のルールではありません。判示事項も「到達が認められた事例」となっています。どんな事情があれば届いたと言えるかを示した例として読みます。この判決は改正前の事件で、いまは、正当な理由なく到達を妨げた場合について97条2項があります。
例3:出した後に亡くなった(当てはまる例。申込みには例外)
ゆうきさんが、まことさんとの売買契約を解除する通知を出し、届く前に亡くなったとします。通知が届けば、解除の効力が生じます(97条3項)。申込みだけは526条の例外があり、申込者が「死亡したら効力を失う」と表示していたときや、相手が承諾の通知を発するまでに死亡を知ったときは、申込みは効力を失います。
例4:未成年者に届いた通知(当てはまらない例)
相手が未成年者のときは、通知が本人に届いても、その意思表示を相手に対抗できません(98条の2本文)。親などの法定代理人がその通知を知った後は、対抗できます(ただし書1号)。成年年齢は18歳なので、17歳の人は未成年者です。被保佐人は98条の2に挙がっていないので、被保佐人に届いた通知は、この規定では妨げられません。
例5:電子メールで送ったとき
電子メールで送った意思表示がいつ届いたことになるかを、一律に決めた規定は民法にありません。この記事では一律の答えは書きません。判例の「了知可能の状態」という考え方に当てはめて、事案ごとに判断されることになります。
似ているルールとの違い
| ルール | 効力が生じる時 | 条文 |
|---|---|---|
| 意思表示の原則 | 相手方に到達した時 | 民法97条1項 |
| 承諾(改正前) | 隔地者間は、承諾の通知を発した時 | 改正前526条1項(令和2年4月になくなった) |
| 承諾(いま) | 申込者に到達した時 | 民法97条1項・522条1項 |
| 宅建業法のクーリング・オフ | 書面を発した時 | 宅建業法37条の2第2項 |
| 公示による意思表示 | 最後の掲載などから2週間を経過した時 | 民法98条3項 |
クーリング・オフは、買主を守るために、撤回や解除の書面を「発した時」に効力が生じるとした宅建業法の特別のルールです(37条の2第2項)。民法の原則(到達)とは逆なので、条文に書いてあります。民法の問で「発した時」と答えたり、クーリング・オフの問で「届いた時」と答えたりすると誤ります。
もう一つの取り違えは、改正前の承諾の発信主義です。改正前の知識のまま「契約は承諾を発した時に成立する」と答えると誤ります。令和8年4月1日時点の民法では、承諾が申込者に届いた時に成立します。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、意思表示が主な論点の問題は20問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では4問でした。ほかの論点が主な問題の中に、副の論点として含むものも9問あります。到達だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 「本人が読んだ時」に効力が生じる、とする形:読める状態に置かれた時です(97条1項、昭和36年判決)。
- 契約は承諾を「発した時」に成立する、とする形:改正前の526条1項です。いまは承諾が届いた時です。
- 受け取りを拒めば効力は生じない、とする形:正当な理由がなければ、通常届くはずの時に届いたとみなします(97条2項)。
- 出した後に死亡すれば意思表示は効力を失う、とする形:97条3項で効力は妨げられません。申込みだけ526条の例外があります。
- 公示の後2週間で例外なく到達とみなす、とする形:表意者に過失があれば、到達の効力を生じません(98条3項ただし書)。
- 被保佐人も受け取る能力がない、とする形:98条の2に挙がるのは、意思能力のない人・未成年者・成年被後見人です。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
ゆうきさんは、まことさんとの売買契約を解除する通知を発した後、その通知が届く前に意思能力を失い、まことさんは、通知を受け取る前にそのことを知った。この場合でも、通知がまことさんに届けば、解除の効力は生じる。
答え:○ 分かれ目は、相手方が知っていたことで効力を失う例外が、解除の通知にもあるかです。表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、または行為能力の制限を受けても、意思表示はそのために効力を妨げられません(97条3項)。相手方が承諾の通知を発するまでに知ったときに効力を失うとするのは、申込みについての526条で、解除の通知にはこの例外がありません。相手が知っていれば効力を失うと考えると✕に見えますが、それは申込みの例外(526条)を解除に広げた取り違えです。
問2(このサイトのオリジナル問題)
ゆうきさんは、まことさんの引っ越し先を少し調べれば分かったのに調べず、所在を知ることができないとして、公示による意思表示で売買契約を解除した。この場合も、最後に官報に掲載した日から2週間を経過すれば、解除の意思表示はまことさんに到達したものとみなされる。
答え:✕ 分かれ目は、表意者の過失です。公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日などから2週間を経過した時に、到達したものとみなされます(98条3項本文)。ただし、表意者が相手方の所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じません(同項ただし書)。正しくは、調べれば分かったのに調べなかったゆうきさんの解除は、まことさんに届いたことになりません。2週間のみなし到達の本文だけを覚え、ただし書を落とした取り違えです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
まことさん(16歳)は、親の同意を得て、ゆうきさんから中古の自転車を買った。その後、解除できる事情が生じ、ゆうきさんが解除の通知をまことさん本人に届けた場合、まことさんの親(法定代理人)がその通知を知った後は、ゆうきさんは解除をまことさんに対抗できる。
答え:○ 分かれ目は、98条の2ただし書の「知った後」です。意思表示を受けた時に相手方が未成年者だったときは、その意思表示を相手方に対抗できません(98条の2本文)。ただし、相手方の法定代理人がその意思表示を知った後は、この限りでありません(同条ただし書1号)。未成年者に届けた通知は効力が生じないままだ、と考えると✕に見えます。未成年者が自分でした契約を取り消せるルール(5条2項)と、受け取る側の能力のルールを取り違えた考え方です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 意思表示は、相手方に到達した時から効力が生じる(97条1項)。到達とは、知ることのできる状態に置かれること(昭和36年判決)。
- 正当な理由なく到達を妨げたときは、通常到達すべきであった時に到達したとみなす(97条2項)。
- 発した後の死亡・意思能力の喪失・行為能力の制限では、効力は妨げられない(97条3項)。申込みは526条の例外あり。
- 公示による意思表示は、最後の掲載などから2週間で到達とみなす。表意者に過失があれば効力を生じない(98条3項)。
- 承諾の発信主義(改正前526条1項)は令和2年4月になくなった。クーリング・オフは書面を発した時(宅建業法37条の2第2項)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法・宅建業法を確かめました。改正前の97条・98条の2・526条は、e-Gov法令検索の2019年4月1日時点の条文で確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、昭和36年判決は判決全文も確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(5条、97条、98条、98条の2、522条、526条)
- e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」(37条の2)
- 法務省「民法の一部を改正する法律(債権法改正)について」(令和2年4月1日施行)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和36年4月20日判決(昭和33年(オ)第315号)」(催告書の到達を認めた事例)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 平成10年6月11日判決(平成9年(オ)第685号)」(留置期間の経過で返送された内容証明郵便の到達が認められた事例)
このサイトで次に読むなら、権利能力・意思能力・行為能力の違いです。98条の2に出てくる意思能力と行為能力の区別を、先に固めておけます。
働く人の法律試験ノート