ひとことで言うと、動物が他人に損害を加えたときは、その動物の占有者(せんゆうしゃ=動物を自分の支配のもとに置いている人。ふつうは飼い主)が賠償の責任を負います(民法718条1項)。占有者は、動物の種類と性質に合った「相当の注意」で管理していたときに限って、責任を免れます。占有者に代わって動物を管理する人も、同じ責任を負います(同条2項)。
注文者の責任(716条)は向きが逆です。仕事を頼んだ注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を、原則として賠償しません。注文や指図(さしず)について注文者に過失があったときは別です。この記事では、特殊な不法行為(714条〜718条)の中でこの2つを、「だれが責任を負うか」「どうすれば免れるか」で並べます。動物をめぐるトラブルの実務や補償の制度は扱いません。条文は、令和8年4月1日時点の民法を e-Gov 法令検索で確かめています。
身近な例で考えると
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| みなみさん | 大型犬の飼い主 | 犬を散歩させていた |
| りょうさん | みなみさんの友人 | 旅行の間、犬を預かった |
| ともこさん | カフェの店主(注文者) | 店の改装を頼んだ |
| かいせい工務店 | 請負人 | 改装の工事をした |
- みなみさんが散歩させていた犬が、通りがかった人にとびかかり、その人のかばんを傷つけた。
- 別の日、みなみさんは旅行の間、犬をりょうさんに預け、散歩も任せた。
- ともこさんは、カフェの改装をかいせい工務店に請け負わせた。工務店の職人が作業中の不注意で資材を倒し、隣の店の看板を壊した。
1番目では、かばんを傷つけられた人は、みなみさんに賠償を求めることができます(718条1項)。みなみさんの過失を、被害者の側で示す必要はありません。みなみさんが責任を免れるには、犬の種類と性質に従い相当の注意で管理していたことを、自分の側で示すことになります。
2番目のりょうさんは、犬の飼い主ではありません。それでも、預かって散歩させている間は、占有者に代わって動物を管理する者に当たり、718条2項で同じ責任を負います。預けた人と預かった人の責任の分け方には、この記事では立ち入りません。
3番目では、ともこさんは仕事を頼んだだけです。716条により、注文や指図に過失がなければ、隣の店の看板の損害を賠償する責任を負いません。看板を壊した職人は工務店に雇われている人なので、隣の店は、職人本人(709条)や、使用者である工務店(715条)に賠償を求めることになります。
条文ではこう決まっている
動物の占有者等の責任(718条)
- 1項本文:「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。」
- 1項ただし書:「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。」
- 2項:「占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。」
ふつうの不法行為(709条)では、被害者が、加害者の故意(こい=わざと)か過失(かしつ=不注意)を示します。718条は、責任を負うことを原則にし、免れる場合を「ただし…この限りでない」とただし書で書いています。この書き方から、相当の注意をしたことは、免れたい占有者の側で示すものと読まれています。709条より被害者が請求しやすい作りです。
注文者の責任(716条)
- 本文:「注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。」
- ただし書:「ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。」
請負人(うけおいにん)は、仕事を完成させる約束をした人で、仕事の進め方を自分で決めます。注文者の指揮や監督のもとで働く被用者(ひようしゃ)とは立場が違います。そのため、使用者が被用者の行為について責任を負う715条とは逆に、注文者は原則として責任を負いません。請負という契約の中身は請負と委任の記事で扱っています。
相当の注意の程度(最高裁判所第一小法廷 昭和37年2月1日判決)
飼主が大型犬2頭の散歩を、雇ってまだ日の浅い人に任せた事件です。その人は犬の扱い方をまだ身につけていないのに、2頭を一緒に公道で運動させ、犬が人に跳びついたとき、力に負けて制御できませんでした。判決は、718条1項ただし書の注意義務は「通常払うべき程度の注意義務」を意味し、異常な事態に対処できる程度の注意義務まで課したものではない、という点は上告人の主張のとおりだとしました。そのうえで、このような事情があるときは、飼主に犬の保管上の過失があるとしました(裁判要旨)。判決の事実では、2頭は比較的おとなしい犬とされていましたが、それで結論は変わっていません。
ほかの特殊な不法行為と並べると
714条〜718条は、本人以外の人や、物・動物が損害を生じさせたときに、だれが責任を負うかを決めています。違いは「責任を負う人」と「免れるための事情」です。
| 条 | 責任を負う人 | 免れるための事情 |
|---|---|---|
| 714条 | 責任無能力者を監督する法定の義務を負う者(代わって監督する者も) | 義務を怠らなかった、または怠らなくても損害が生ずべきであった |
| 715条 | 事業のために他人を使用する者(代わって事業を監督する者も) | 選任・監督に相当の注意をした、または相当の注意をしても損害が生ずべきであった |
| 716条 | 注文者は原則として負わない | 注文・指図に過失があれば負う |
| 717条 | まず工作物の占有者、次に所有者 | 占有者は必要な注意をすれば免れる。所有者が免れる定めはない |
| 718条 | 動物の占有者(代わって管理する者も) | 種類・性質に従い相当の注意で管理した |
714条は責任能力と監督義務者の記事、715条は使用者責任の判例の記事、717条は工作物責任の記事で詳しく扱っています。718条は、占有者だけでなく「代わって管理する者」も同じ責任を負う点で、714条2項・715条2項と同じ作りです。717条は、所有者に免れる定めがない点で、ほかの4つと違います。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例:飼い主が散歩させていた
みなみさんが散歩中の犬が、通りがかった人のかばんを傷つけた場面です。718条1項で、みなみさんが責任を負います。免れるには、犬の種類と性質に従った相当の注意をしたことを、みなみさんが示す必要があります。
当てはまる例:預かった人が散歩させていた
りょうさんは飼い主ではありませんが、占有者に代わって犬を管理していました。718条2項で、りょうさんも1項と同じ責任を負います。「飼い主でないから関係ない」とはなりません。
当てはまらない例:請負人の職人が看板を壊した
ともこさんは、工事を頼んだ注文者です。注文と指図に過失がなければ、716条本文により、隣の店への賠償の責任は負いません。責任を負うのは、不注意で看板を壊した職人(709条)と、その職人を使っている工務店(715条)です。
ひっかけやすい例:注文者の指図に過失があった
ともこさんが「営業を止めたくないので、資材は隣の店の前の通路に積んでおいて」と指図し、その資材が倒れて看板を壊したとします。指図に過失があったと認められれば、716条ただし書により、ともこさんも責任を負います。注文者は「いつも責任を負わない」のではありません。
ひっかけやすい例:ふだんはおとなしい犬だった
「おとなしい犬だから、注意は足りていた」とは限りません。相当の注意は、動物の種類と性質に合わせた管理の注意です。昭和37年判決では、比較的おとなしい犬でも、扱いに慣れない人に大型犬2頭を一緒に公道で運動させた事情から、飼主の過失が認められました。
似ているルールとの違い
718条と709条の違いは、過失をだれが示すかです。709条では被害者が加害者の過失を示し、718条では占有者が相当の注意を示して免れます。716条と715条の違いは、損害を加えた人との関係です。指揮・監督のもとで働く被用者なら使用者が715条の責任を負い、自分の判断で仕事を進める請負人なら注文者は原則として負いません。不法行為の全体の流れは不法行為の記事にあります。
試験ではここをまちがえやすい
- 管理を任された人を外す形:「責任を負うのは占有者だけ」とする形。占有者に代わって動物を管理する者も、同じ責任を負います(718条2項)。
- 過失を示す側の入れ替え:「被害者が飼い主の過失を示さなければ請求できない」とする形。718条は、占有者の側が相当の注意を示して免れる作りです。
- 注意の程度の広げすぎ:「どんな事態にも対処できる注意が要る」とする形。昭和37年判決は、通常払うべき程度の注意義務としています。
- 注文者と使用者の入れ替え:注文者に、715条の使用者と同じ責任を負わせる形。716条は、注文者は原則として負わないとしています。
- 716条ただし書の落とし:注文や指図に過失があっても注文者は責任を負わない、とする形。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
カフェの店主ともこさんは、店の改装をかいせい工務店に請け負わせ、工務店の職人が作業中の不注意で隣の店の看板を壊した。ともこさんの注文と指図に過失がなかったときは、ともこさんは、隣の店に対し、この損害を賠償する責任を負わない。
答え:○ 分かれ目は、損害を加えたのが請負人の仕事の中かどうかです。716条本文は、注文者は請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わないとし、注文・指図に過失があるときだけを例外にしています。工事を頼んだ人なので責任を負う、と考えると✕にしてしまいます。取り違えの相手は、被用者の行為について使用者が負う715条の責任で、この場面では職人を使っている工務店がその立場です。
問2(このサイトのオリジナル問題)
みなみさんは、旅行の間、飼い犬を友人のりょうさんに預けて散歩も任せ、りょうさんが散歩させている間に、犬が通行人のかばんを傷つけた。通行人は、りょうさんに対しては、718条による賠償を求めることができない。
答え:✕ 分かれ目は、飼い主でない人が718条の責任を負うかです。718条2項は「占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う」としています。正しくは、犬を預かって散歩させていたりょうさんにも、通行人は718条による賠償を求めることができます。りょうさんが免れるには、1項ただし書と同じく、相当の注意で管理したことを示します。取り違えの相手は717条で、工作物の責任には「代わって管理する者」の定めがなく、占有者と所有者が負う作りです。
問3(このサイトのオリジナル問題)
大型犬2頭を飼うみなみさんは、雇って日が浅く扱い方を身につけていない人に、2頭を一緒に公道で散歩させ、犬が通行人にとびかかったとき、その人は制御できなかった。2頭がふだんおとなしい性質なら、みなみさんは718条の責任を免れる。
答え:✕ 分かれ目は、相当の注意をしたといえるかです。最高裁判所第一小法廷昭和37年2月1日判決は、扱い方を会得していない人が2頭を一緒に公道で運動させ、跳びつかれた際に制御できなかったなどの事情があるときは、飼主に保管上の過失があるとしました。正しくは、この場面でみなみさんは責任を免れません。判決は、求められるのは通常払うべき程度の注意で、異常な事態に対処できる程度までは求めないという前提に立っていますが、その程度の注意も足りないと判断したものです。取り違えの相手は、犬の性質だけで判断する考え方で、条文は「種類及び性質に従い」管理したかを問います。
この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。
まとめ
- 動物が他人に加えた損害は、占有者が賠償する(718条1項本文)。
- 免れるのは、種類・性質に従い相当の注意で管理したとき。示すのは占有者の側(1項ただし書)。注意の程度は通常払うべき程度(昭和37年判決)。
- 占有者に代わって管理する者も、同じ責任を負う(718条2項)。
- 注文者は、請負人が仕事の中で第三者に加えた損害を、原則として賠償しない。注文・指図に過失があれば別(716条)。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法を確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめ、注意の程度についての部分は判決全文で確かめました。
- e-Gov法令検索「民法」(709条、714条、715条、716条、717条、718条)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和37年2月1日判決(昭和34年(オ)第1049号)」(畜犬の飼主に保管上の過失を認めた事例)
このサイトで次に読むなら、工作物責任の記事です。占有者がまず責任を負い、所有者は過失がなくても負うという717条の作りを、718条と比べて確かめられます。
働く人の法律試験ノート