賃貸借をわかりやすく:敷金・転貸・修繕のルール

賃貸借(ちんたいしゃく)は、ひとことで言うと「物を使わせてもらう代わりに賃料を払い、終わったら返す契約」です(601条)。試験でとくに大事なのは3つです。①敷金(しききん)は、部屋を返した後に、未払いの家賃などを差し引いて戻る。②又貸し(転貸=てんたい)や借りる権利の譲渡には、大家の承諾がいる。③修繕は原則として大家の義務で、大家が直さないときは借主が直せる。

この記事では、民法の賃貸借のルールを扱います。建物を借りる場合や、建物を建てるために土地を借りる場合は、借地借家法(しゃくちしゃっかほう)が民法より優先する部分があります。その違いは表で紹介し、詳しくは借地借家法の記事にまとめています。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

大学生のひなたさんが、アパートを借りる話で考えます。

人物立場したこと
やまもとさん大家(賃貸人)アパートの一室を貸した
ひなたさん借りる人(賃借人)家賃6万円・敷金12万円で借りた
れんさんひなたさんの友人夏休みに部屋を又借りした
ことねさん新しい持ち主アパートを買った
  1. 4月:ひなたさんは、やまもとさんから部屋を借り、敷金12万円を預けて入居しました。
  2. 6月:備え付けのエアコンが壊れました。ひなたさんはやまもとさんに知らせましたが、いつまでたっても直してくれません。ひなたさんは自分で業者を呼んで直し、修理代をやまもとさんに請求しました。
  3. 8月:ひなたさんは帰省中、やまもとさんに黙って友人のれんさんに部屋を貸しました。
  4. 翌年1月:やまもとさんは、アパートをことねさんに売りました。
  5. 翌年3月:ひなたさんは卒業して部屋を返しました。壁には家具の跡と日焼けがあり、タバコの焦げ跡が1か所ありました。

このあと、修理代は請求できるのか、黙って又貸ししたらどうなるのか、敷金はだれに返してもらうのか、何を直して返すのか。順に条文で確かめます。

敷金は「部屋を返すときのための預け金」とたとえられます。ただし本物のルールでは、預け金を家賃に回すかどうかを決められるのは大家の側だけです。借主から「今月の家賃は敷金から払って」とは言えません。

条文ではこう決まっている

借りている間のルール(606条〜614条)

  • 606条1項:大家は、使うために必要な修繕をする義務を負う。ただし、借主のせいで修繕が必要になったときは別。
  • 606条2項:大家が建物を保つために必要なことをしようとするとき、借主は拒めない。
  • 607条の2:借主が修繕の必要を知らせた(または大家が知った)のに、大家が相当の期間内に直さないとき、または急ぎの事情があるときは、借主が修繕できる。
  • 608条:借主が、大家が負担すべき必要費(ひつようひ=使える状態を保つための費用)を払ったら、「直ちに」返してもらえる。有益費(ゆうえきひ=物の価値を高める費用)は、契約が終わった時に返してもらう。
  • 611条:借主のせいでない理由で一部が使えなくなったら、使えない割合に応じて賃料は「減額される」。残りでは目的を達せないなら、借主は解除できる。
  • 612条:借主は、大家の承諾がなければ、借りる権利を譲ったり、又貸ししたりできない。違反して第三者に使わせたら、大家は解除できる。
  • 613条1項:大家の承諾を得た又貸しなら、又借りした人(転借人=てんしゃくにん)は、大家に直接、義務を負う。範囲は、大家と借主の契約で借主が負う義務までです。転借人は「借主に家賃を前払いした」と言って、大家への支払いを断れない。
  • 613条3項:大家と借主が話し合いで契約をやめても(合意解除)、それを転借人に主張できない。ただし、その時に大家が、借主の不払いなどを理由に解除できる立場にあったときは別。
  • 614条:建物や宅地の賃料は、決めていなければ「毎月末」に払う(後払い)。

持ち主が変わったとき(605条〜605条の4)

  • 605条:不動産の賃貸借は、登記(とうき=国の帳簿に権利を記録すること)をすれば、その後に持ち主になった人などにも主張できる。建物の賃貸借は、借地借家法31条により、登記がなくても建物の引き渡しを受けていれば主張できる。
  • 605条の2第1項:借主がこうした対抗要件(たいこうようけん=他の人にも主張できるための条件)を備えた後に不動産が売られたら、大家の立場は買った人に移る。
  • 605条の2第3項:買った人が借主に大家として主張するには、所有権移転の登記が必要。
  • 605条の2第4項:大家の立場が移ったら、費用を返す義務と敷金を返す義務も、買った人に移る。
  • 605条の4:対抗要件を備えた借主は、居座っている第三者に、妨害をやめることや明け渡しを求められる。

終わるとき・返すとき(604条・616条の2・617条・621条・622条の2)

  • 604条:賃貸借の期間は50年を超えられない。長く決めても50年になる。
  • 616条の2:借りた物の全部が使えなくなったら、賃貸借はそれで終わる。
  • 617条:期間を決めていないときは、いつでも解約を申し入れられる。申入れから土地は1年、建物は3か月、動産(自転車などの動かせる物)は1日で終わる。
  • 621条:借主は、借りた後に生じた損傷を元に戻す義務を負う(原状回復)。ただし、ふつうに使って生じた損耗と経年変化(年月による劣化)は除く。借主のせいでない損傷も除く。
  • 622条の2第1項:大家は、賃貸借が終わり「かつ、賃貸物の返還を受けたとき」などに、敷金から借主の未払い分を差し引いた残りを返す。
  • 622条の2第2項:借主が家賃などを払わないとき、大家は敷金をそれに充てられる。借主の側から「敷金を充てて」とは請求できない。

当てはまる例・当てはまらない例

例1(当てはまる例):エアコンの修理代はすぐ請求できる

ひなたさんは故障を知らせたのに、やまもとさんは直しませんでした。だから、ひなたさんは自分で修理できます(607条の2第1号)。エアコンの修理代は、使える状態を保つための必要費です。契約の終わりを待たずに「直ちに」返してもらえます(608条1項)。

例2(ひっかけやすい例):黙って又貸ししても、すぐ解除とは限らない

ひなたさんは、承諾なしにれんさんへ部屋を使わせました。条文だけを見ると、やまもとさんは解除できます(612条2項)。ただし裁判では、大家との信頼関係を裏切る行為(背信行為=はいしんこうい)とまでは言えない「特段の事情」があるかも見られています。

最高裁判所第二小法廷の昭和43年3月29日判決は、借りる権利を無断で譲った場面の判決です。背信行為と認めるに足りない特段の事情は、借主の側が主張・立証(しょうめい)すべきだとしています(裁判所ウェブサイトの判示事項・裁判要旨による)。又貸しの場面では、最高裁判所第一小法廷の昭和37年3月29日判決があります。借主の又貸しが大家との信頼関係を著しく裏切る行為だとして、解除を認めた事例です(同じく判示事項による)。

覚え方は2点セットです。条文の原則は「無断の又貸しなら解除できる」。ただし、借主が特段の事情を示せば、解除が認められないことがあります。

例3(当てはまる例):敷金はことねさんに返してもらう

ひなたさんは部屋の引き渡しを受けて住んでいたので、借地借家法31条の対抗要件があります。アパートがことねさんに売られると、大家の立場はことねさんに移ります(605条の2第1項)。敷金を返す義務もことねさんに移るので、ひなたさんはことねさんに返還を求めます(同条4項)。ただし、ことねさんが所有権移転の登記をする前は、ひなたさんに家賃を請求できません(同条3項)。

例4(当てはまらない例):家具の跡と日焼けは直さなくてよい

家具を置いた跡や壁の日焼けは、ふつうに暮らしていれば生じる損耗・経年変化です。621条のかっこ書きで原状回復の対象から除かれています。一方、タバコの焦げ跡は、ふつうの使い方で生じたとは言いにくい損傷です。その修理代は敷金から差し引かれることがあります。

例5(ひっかけやすい例):敷金は部屋を返した後

ひなたさんが「敷金を返してくれるまで部屋を出ない」と言えるでしょうか。622条の2第1項1号は、敷金を返す時期を「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」としています。部屋を返すのが先で、敷金の返還はその後です。「部屋の明け渡しと敷金の返還は同時」とする選択肢はひっかけです。

似ているルールとの違い

民法の賃貸借とまぎらわしいのは、借地借家法と使用貸借(しようたいしゃく)です。使用貸借は、ただで物を借りる契約です(593条)。賃料を払うかどうかで、賃貸借と分かれます。

借地借家法は、建物の所有を目的とする土地の賃借権(借地)と、建物の賃貸借(借家)について、特別の定めを置く法律です(借地借家法1条)。建物を借りる場合の主な違いは次のとおりです。

比べる点民法の賃貸借借地借家法(建物)
第三者に主張する条件登記(605条)建物の引き渡し(31条)
期間の上限50年(604条)604条は使わない(29条2項)
1年未満の期間そのまま有効期間の定めがないとみなす(29条1項)
期間なしの解約申入れから3か月(617条)大家からは6か月(27条)・正当事由が必要(28条)

土地を借りて建物を建てる場合は、借地権の登記がなくても、土地の上に借主の名前で登記した建物があれば第三者に主張できます(借地借家法10条1項)。借地借家法の期間や更新のルールは、借地借家法の記事で扱います。

試験ではここをまちがえやすい

  • 「借主は、未払いの家賃に敷金を充てるよう大家に請求できる」→誤り(622条の2第2項)。
  • 「敷金の返還と部屋の明け渡しは同時に行う」→誤り。返還を受けたときに敷金を返す、という順番です(622条の2第1項1号)。
  • 「必要費は契約が終わったときに返してもらう」→誤り。必要費は直ちに、有益費は終了時です(608条)。
  • 「通常の損耗も、借主が元に戻す義務を負う」→誤り(621条)。
  • 「一部が使えなくなったら、借主が請求して初めて賃料が減る」→条文は「減額される」としています(611条1項)。
  • 「大家と借主が合意解除すれば、承諾を得た転借人も出ていかなければならない」→原則として転借人には主張できません(613条3項)。
  • 「新しい持ち主は、登記がなくても借主に家賃を請求できる」→誤り(605条の2第3項)。

行政書士試験では、転貸の三者関係(大家・借主・転借人)や敷金のルールを、条文の言い回しどおりに問うのが、問われやすい形の一つです。転貸の解除や無断譲渡は、条文と判例の考え方の組み合わせで問われることも考えられます。

宅建試験では、同じ場面を民法と借地借家法の両方で考えさせるのが、問われやすい形の一つです。「土地か建物か」「建物の所有が目的か」をまず確かめ、借地借家法が使われるかを決めてから条文を当てはめると混乱しません。賃貸の保証人については保証の記事(極度額)も確かめてください。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題):かいとさんは、すみれさんから一軒家を借りている。雨漏りがしたのですみれさんに知らせたが、相当の期間がたっても直してもらえないので、かいとさんが自分で屋根を直した。かいとさんは、その費用を賃貸借が終わるまで請求できない。

答え:✕。知らせたのに相当の期間内に直されないときは、借主が修繕できます(607条の2第1号)。雨漏りの修理は必要費なので、直ちに償還(しょうかん=払ったお金を返してもらうこと)を請求できます(608条1項)。

問2(このサイトのオリジナル問題):かいとさんが家を返したとき、壁紙には年月による色あせだけがあった。すみれさんは、色あせた壁紙の張り替え代を敷金から差し引くことができる。

答え:✕。経年変化は原状回復の対象から除かれています(621条)。借主に元に戻す義務がないので、その費用は敷金から差し引けません(622条の2第1項は、差し引けるのを借主の金銭債務に限っています)。

問3(このサイトのオリジナル問題):かいとさんが家の引き渡しを受けて住んでいる間に、すみれさんが家をだいちさんに売り、所有権移転の登記もした。特別な合意がなければ、敷金を返す義務はだいちさんに移る。

答え:○。建物の引き渡しで対抗要件を備えた後に売られたので、大家の立場はだいちさんに移ります(605条の2第1項、借地借家法31条)。敷金を返す義務も移ります(605条の2第4項)。

まとめ

  • 修繕は大家の義務(606条)。大家が直さないときや急ぎのときは借主が直せる(607条の2)。必要費は直ちに、有益費は終了時に返してもらう(608条)。
  • 又貸し・譲渡には大家の承諾が必要。無断なら解除できるのが原則(612条)。承諾ある転貸では、合意解除を転借人に主張できない(613条3項)。
  • 敷金は部屋を返した後、未払い分を引いて返る。借主から「敷金を充てて」とは言えない(622条の2)。
  • 原状回復に、通常の損耗と経年変化は含まれない(621条)。
  • 対抗要件のある借主がいる不動産が売られたら、大家の立場と敷金の返還義務は買主に移る。買主が主張するには登記が必要(605条の2)。

宅建試験を受ける人は、続けて借地借家法の記事を読むと、更新や正当事由まで含めて「借りる側がどこまで守られるか」が一つにつながります。抵当権の付いた部屋を借りた場合の扱いは、抵当権の記事の「6か月の猶予」で確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点(行政書士試験・宅建試験の出題の基準日)の内容を e-Gov 法令検索で確かめています。