抵当権をわかりやすく:お金を借りるとき土地がどうなるか

抵当権(ていとうけん)は、ひとことで言うと「お金を貸した人が、借りた人の土地や建物に付けておく『いざというときの優先券』」です。借りた人は土地や建物をそのまま使い続けられます。返せなくなったときは、裁判所の手続(競売=けいばい)で売ったお金から、ほかの人より先に返してもらえます。

この記事では、抵当権の基本(順位・効力が及ぶ範囲・物上代位)と、まわりの人を守るしくみ(土地を買った人・借りた人・法定地上権)を扱います。根抵当権(ねていとうけん)は違いだけを紹介します。条文は令和8年4月1日時点のものを e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

パン屋を開きたいはるとさんの話で考えます。はるとさんは、自分の土地と、その上の建物(1階が店、2階が住まい)を持っています。

人物立場したこと
はるとさんお金を借りる人土地と建物に抵当権を付けた
あおば銀行1番目に貸した2,000万円を貸した
しおりさん2番目に貸した500万円を貸した
まなみさん2階を借りた人はるとさんに家賃を払う
けんたさんあとから買う人競売で建物を買った
  1. はるとさんは、あおば銀行から2,000万円を借りました。土地と建物に抵当権を付け、登記(とうき=国の帳簿に記録すること)をしました。
  2. はるとさんは、そのまま店を続け、2階にも住み続けます。抵当権では、土地や建物をお金を貸した銀行に渡す必要がありません。
  3. 次に、しおりさんから500万円を借り、同じ土地と建物に2番目の抵当権を付けて登記しました。
  4. はるとさんは引っ越し、2階をまなみさんに貸しました。
  5. 店がうまくいかず、返済が止まりました。あおば銀行は競売を申し立て、土地と建物は2,200万円で売れました。
  6. 売れたお金は、登記が先のあおば銀行が先に受け取ります。しおりさんが受け取れるのは、その残りだけです。

「優先券」というたとえは、順番が決まっている点では本物のルールと同じです。ただし本物の抵当権は、銀行が土地をもらう権利ではありません。あくまで「売ったお金から先に受け取る」権利です。また、売ったお金で足りなかった分の借金は消えずに残ります。

条文ではこう決まっている

抵当権の条文は、民法369条から398条の22までです。試験で使うものを、4つのまとまりに分けて見ます。

抵当権の中身と順位(369条・373条・374条・375条)

  • 369条1項:「占有を移転しないで」担保にした不動産から、「他の債権者に先立って」返してもらえる。担保に出すのは借りた本人でなくてもよい(条文は「債務者又は第三者」)。他人の借金のために自分の土地を出す人を物上保証人(ぶつじょうほしょうにん)といいます。
  • 369条2項:土地・建物だけでなく、地上権(他人の土地に建物などを持つ権利)と永小作権(えいこさくけん=他人の土地で農業をする権利)にも抵当権を付けられる。
  • 373条:同じ不動産に抵当権がいくつもあるとき、順位は「登記の前後による」。抵当権をほかの人に主張するにも登記がいります(177条)。
  • 374条:順位は抵当権者どうしの合意で入れかえられる。利害関係のある人がいればその承諾がいり、登記をしないと効力が生じない。
  • 375条:利息などは「満期となった最後の二年分についてのみ」抵当権で優先して受け取れる。遅れたことによる損害金も合わせて2年分まで。

どこまで効力が及ぶか(370条・371条・372条)

  • 370条:抵当権は、不動産に「付加して一体となっている物」に及ぶ。ただし、土地の抵当権は上の建物には及ばない(土地と建物は別の不動産)。
  • 371条:借金が返されなくなったら、その後に生じた果実(かじつ=家賃のように物から生まれる利益)にも及ぶ。
  • 372条は296条・304条・351条を準用(同じルールを当てはめること)しています。296条により、借金が一部でも残っていれば抵当権は物の全部に及ぶ(不可分性=ふかぶんせい)。
  • 304条により、物が売られたり、貸されたり、壊れたりして代わりのお金が生まれたら、そのお金にも抵当権を使える(物上代位=ぶつじょうだいい)。ただし「払渡し又は引渡しの前に差押え」をしなければならない。
  • 351条により、物上保証人が借金をかわりに払ったり、抵当権の実行で土地を失ったりしたときは、借りた本人にその分を払うよう求められる(求償権=きゅうしょうけん)。

抵当権付きの不動産を買った人・借りた人を守るしくみ(378条〜387条・395条)

  • 378条(代価弁済):抵当権付きの不動産を買った人が、抵当権者に頼まれて代金をその抵当権者に払えば、抵当権はその人のために消える。
  • 379条〜384条(抵当権消滅請求):買った人(第三取得者)の側から「この金額を払うので抵当権を消してほしい」と求められる。競売による差押えの効力が生じる前にしなければならない(382条)。書面を受け取った債権者が2か月以内に競売を申し立てなければ、その金額を承諾したとみなされる(383条・384条)。
  • 380条:借りた本人(主たる債務者)、保証人、その承継人は抵当権消滅請求ができない。
  • 387条:抵当権より後の賃貸借でも、対抗(たいこう=自分の権利を言い張ること)できる場合がある。賃貸借が登記されていて、先に登記した抵当権者全員が同意し、その同意も登記されていれば、同意した抵当権者に対抗できる。
  • 395条:抵当権者に対抗できない賃貸借で建物を使う人がいるとする。そのうち、競売の手続が始まる前から使っている人などは、買受人(かいうけにん=競売で買った人)が買った時から6か月は建物を明け渡さなくてよい。ただし、買受人が相当の期間を定めて1か月分以上の使用の対価を払うよう催告し、払わなければこの猶予はなくなる。

土地と建物の持ち主が分かれるとき(388条・389条)

  • 388条(法定地上権=ほうていちじょうけん):土地とその上の建物が同じ人のもので、どちらか(または両方)に抵当権が付いたとする。競売で持ち主が別々になったら、建物のために地上権(他人の土地に建物を持つ権利)が設定されたとみなされる。地代は当事者の請求で裁判所が決める。
  • 389条(一括競売):抵当権を付けた後に土地に建物が建てられたら、抵当権者は土地と建物をまとめて競売できる。ただし優先して受け取れるのは土地の代金だけ。

当てはまる例・当てはまらない例

例1:土地だけに抵当権→法定地上権が成立する

はるとさんが、建物の建っている自分の土地だけに抵当権を付けたとします。競売でけんたさんが土地を買うと、土地はけんたさん、建物ははるとさんのものになります。土地と建物は同じ持ち主で、土地に抵当権が付き、競売で持ち主が分かれたので、388条の法定地上権が成立します。はるとさんは建物を壊さずに済みます。

例2(当てはまらない例):空き地に抵当権→あとから建物

はるとさんが、何も建っていない土地に抵当権を付け、そのあとで店を建てたとします。388条は「土地及びその上に存する建物」が同じ持ち主で抵当権が設定された場面を決めたものです。抵当権を付けたときに建物がなかったので、法定地上権の場面には当たらないと整理されます。そのかわり、あおば銀行は389条で土地と建物をまとめて競売できます。ただし、優先して受け取れるのは土地の代金の分だけです。

例3(当てはまる例):家賃に物上代位する

返済が止まったあと、2階を借りているまなみさんは、毎月はるとさんに家賃を払っています。あおば銀行は、その家賃に物上代位できます(372条・304条)。ただし、まなみさんがはるとさんに家賃を払ってしまう前に、銀行が差し押さえておく必要があります。払われたあとでは、そのお金をつかまえられません。

例4(ひっかけやすい例):保証人が土地を買った

抵当権付きの土地を買ったけんたさんは、第三取得者として抵当権消滅請求ができます。ところが、はるとさんの借金の保証人が同じ土地を買った場合は、消滅請求ができません(380条)。保証人は、もともと借金を払う責任がある立場です。「安い金額で抵当権だけ消す」ことを認めるのはおかしい、という筋で覚えると忘れにくくなります。

例5(ひっかけやすい例):6か月の猶予は建物だけ

まなみさんは、抵当権の登記より後に2階を借りました。だから競売で建物を買ったけんたさんには、借りる権利を主張できません。それでも、競売の手続が始まる前から借りて住んでいたので、395条により6か月は明け渡しを待ってもらえます。この猶予は条文上「抵当建物」についてのルールです。土地を借りている場合には当てはまりません。また、使った分のお金を払わなくてよいわけでもありません。

似ているルールとの違い

抵当権とまぎらわしいのは、質権(しちけん)・根抵当権・保証です。どれも「お金を返してもらえないときの備え」ですが、何を当てにするかが違います。

比べる点抵当権質権根抵当権
物を渡すか渡さない(369条)渡す(344条)渡さない
担保する借金決まった借金決まった借金一定の範囲の不特定の借金
上限利息は最後の2年分2年の制限なし(346条)極度額まで

根抵当権は、取引が続くお店どうしのように、借金が増えたり減ったりする関係で使います。398条の2第1項は「一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保する」と定めています。保証は「物」ではなく「人」を当てにする担保です。詳しくは保証と連帯保証の記事で扱います。

もう一つ、法定地上権と一括競売も混ぜやすい組み合わせです。違いは「抵当権を付けたときに建物があったか」です。あった→法定地上権(388条)。なかった→一括競売ができる(389条)。

試験ではここをまちがえやすい

  • 「土地の抵当権は上の建物にも及ぶ」→誤り。370条は「抵当地の上に存する建物を除き」としています。
  • 「利息は全部、抵当権で優先される」→誤り。優先されるのは最後の2年分です(375条)。それより前の利息も借金としては残ります。
  • 「物上代位は、お金が払われた後でもできる」→誤り。払渡し・引渡しの前の差押えが必要です(304条)。
  • 「保証人も抵当権消滅請求ができる」→誤り(380条)。「差押えの後でもできる」も誤り(382条)。
  • 「順位の変更は合意だけで効力が生じる」→誤り。登記をしなければ効力が生じません(374条2項)。
  • 「抵当権は、借金とは別に時効で消える」→債務者と抵当権設定者に対しては、担保する借金と同時でなければ時効で消えません(396条)。

行政書士試験では、5肢択一式で条文の要件を細かく変えた選択肢が、問われやすい形の一つです。記述式(40字程度)で、法定地上権の要件や物上代位の差押えのように「何がそろえば何ができるか」を書かせる形も考えられます。要件を言葉で言える状態にしておくと、両方に効きます。書き方の型は記述式の書き方で確かめてください。

宅建試験で問われやすい形は、土地と建物の取引の場面への当てはめです。抵当権付きの物件を借りた人の立場(対抗できるか、6か月の猶予)、法定地上権が成立するか、抵当権付きの物件を買った人の保護(代価弁済・消滅請求)が典型です。抵当権と賃借人の関係は、借地借家法の対抗力とあわせて整理すると混乱しません(借地借家法の記事)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題):ゆきさんは、自分の土地とその上の自分の家のうち、家だけにふたば銀行の抵当権を付けた。競売で家をこうじさんが買った場合、こうじさんのために法定地上権が成立する。

答え:○。388条は「その土地又は建物につき抵当権が設定され」と定めています。建物だけに抵当権が付いた場合も対象です。土地と建物が同じ持ち主で、競売で持ち主が分かれたので、建物を買ったこうじさんのために地上権があるとみなされます。

問2(このサイトのオリジナル問題):ふたば銀行が抵当権を付けた倉庫に、トラックがぶつかって壊れた。倉庫の持ち主は、運転手から賠償金を受け取ることになった。ふたば銀行がこの賠償金に物上代位するには、賠償金が持ち主に払われた後に差し押さえても間に合う。

答え:✕。304条1項ただし書は「払渡し又は引渡しの前に差押え」を求めています。払われた後では物上代位できません。

問3(このサイトのオリジナル問題):抵当権付きのマンションの一室を買ったこうじさんが抵当権消滅請求の書面を送ったところ、抵当権者は2か月以内に競売を申し立てなかった。この場合、抵当権者はこうじさんが示した金額を承諾したものとみなされる。

答え:○。書面の送付を受けた後2か月以内に競売を申し立てないと、承諾したものとみなされます(384条1号)。

まとめ

  • 抵当権は、物を渡さずに担保にでき、競売の代金から先に返してもらえる権利(369条)。順位は登記の順(373条)。
  • 土地の抵当権は建物に及ばない(370条)。利息は最後の2年分まで(375条)。物上代位は払渡し前の差押えが必要(304条)。
  • 買った人は代価弁済・抵当権消滅請求で守られる。ただし主たる債務者・保証人は消滅請求できない(380条)。
  • 抵当権を付けた時に、土地と同じ持ち主の建物があれば法定地上権(388条)。建物がなく後から建てられたら一括競売ができる(389条)。
  • 抵当権に対抗できない建物の借主でも、競売の手続が始まる前から使っている人などは、6か月の明け渡し猶予がある(395条)。

抵当権の順位も、抵当権付きの物件を買った人の立場も、「登記の順番」で決まる点が土台です。その土台を固めるなら、不動産の二重譲渡と登記(177条)の記事を先に読むと流れがつながります。抵当権が付いた部屋を借りる場面は、賃貸借の記事で続きを扱っています。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点(行政書士試験・宅建試験の出題の基準日)の内容を e-Gov 法令検索で確かめています。