転貸借の終わり方:元の賃貸借が合意解除・債務不履行解除・期間満了で終わったとき、転借人は出ていくか

ひとことで言うと、元の賃貸借がどう終わったかで、又借りした人(転借人=てんしゃくにん)が出ていくかどうかが変わります。話し合いでやめた(合意解除)なら、原則として転借人に主張できません(民法613条3項)。借主の賃料不払で解除したなら、大家が転借人に返すよう求めた時に転貸借も終わります(最高裁の判例)。建物の期間満了なら、転借人への通知から6か月で終わります(借地借家法34条)。

この記事では、大家の承諾を得た転貸借(適法な転貸借)の終わり方を扱います。承諾のない又貸しで解除できるかは信頼関係の破壊の記事、借家の更新と通知の時系列は借家の更新と終わり方の記事、借地の転貸の許可は借地権の譲渡・転貸の記事に任せます。条文は、令和8年4月1日時点の民法・借地借家法を e-Gov 法令検索で確かめています。

身近な例で考えると

人物立場したこと
みちこさん店舗の持ち主(賃貸人)1階の店舗をけんたさんに貸した
けんたさん借主(賃借人・転貸人)みちこさんの承諾を得て、店舗をさやかさんに又貸しした
さやかさん転借人店舗でカフェを開いている

みちこさんとけんたさんの契約(元の賃貸借)が終わる形は、大きく3つあります。

  1. 合意解除:けんたさんが「もうやめたい」と言い、みちこさんも了解した。
  2. 債務不履行解除:けんたさんが家賃を払わず、みちこさんが契約を解除した。
  3. 期間満了:契約の期間が終わり、みちこさんが更新を断った(正当の事由がある前提)。

1は、みちこさんとけんたさんの2人だけの話し合いです。2人の話し合いだけで、さやかさんの使う権利を失わせることは、原則としてできません(613条3項)。2は、けんたさんの約束違反が原因です。この場合は、さやかさんも最後は店舗を返すことになります(判例)。3は、法律が決めた終わり方で、さやかさんへの通知と6か月の期間が決められています(借地借家法34条)。

たとえるなら、転貸借は「元の契約という土台の上に建てた2階」です。土台を持ち主どうしの話し合いで外しても、2階の人は落ちません。土台が借主の約束違反で崩れたときは、2階も持ちこたえられません。ただし本物のルールでは、崩れた瞬間ではなく、大家が転借人に「返して」と求めた時に転貸借が終わります。

条文と判例ではこう決まっている

転借人の立場(民法612条・613条1項・2項)

  • 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ転貸できない(612条1項)。
  • 適法に転貸したときは、転借人は、元の賃貸借で賃借人が負う債務の範囲を限度として、賃貸人に直接、転貸借の債務を履行する義務を負う。賃料の前払は、賃貸人に主張できない(613条1項)。支払期日より前に転貸人に払った分を、賃貸人からの直接の請求に対して「もう払った」とは言えない、ということです。
  • 賃貸人は、それとは別に賃借人にも権利を行使できる(613条2項)。

合意解除(民法613条3項・昭和37年判決)

613条3項は、適法に転貸した場合、賃貸人は賃借人との賃貸借を「合意により解除したことをもって転借人に対抗することができない」と定めます。ただし、その解除の当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を持っていたときは別です(ただし書)。

この3項は、令和2年4月1日施行の民法改正(平成29年法律第44号)で加わりました。改正前の613条は1項・2項だけでした。それ以前から、最高裁判所第一小法廷昭和37年2月1日判決は、承諾のある転貸借では、転借人に不信な行為があるなど、合意解除が信義誠実の原則に反しないような特段の事由があるほかは、合意解除で転借人の権利は消滅しない、としていました(裁判要旨)。

債務不履行解除(平成9年判決・平成6年判決)

最高裁判所第三小法廷平成9年2月25日判決の裁判要旨は、賃貸借が賃借人の債務不履行を理由とする解除で終わった場合、承諾のある転貸借は「原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了する」としています。解除の時に自動的に終わるのでも、転貸借の期間が終わるまで続くのでもありません。

また、最高裁判所第二小法廷平成6年7月18日判決の裁判要旨は、賃料の不払を理由に解除するには、「特段の事情のない限り」、転借人に通知などをして賃料の代払(だいばらい=代わりに払うこと)の機会を与えなければならないものではない、としています(この判決には反対意見があります)。

期間満了・解約の申入れ(借地借家法34条)

建物の転貸借があるとき、建物の賃貸借が「期間の満了又は解約の申入れ」で終わる場合は、賃貸人は転借人にその旨を通知しなければ、終了を転借人に主張できません(34条1項)。通知したときは、転貸借は、通知がされた日から6か月を経過することで終わります(34条2項)。

3つの終わり方を1枚にすると

元の賃貸借の終わり方転借人に主張できるか転貸借はいつ終わるか
合意解除原則できない(613条3項)。当時、不履行による解除権があればできる主張できなければ、合意解除では終わらない
賃借人の債務不履行による解除できる。特段の事情がない限り、代払の機会は不要(平成6年判決)原則、賃貸人が転借人に返還を請求した時(平成9年判決)
建物の期間満了・解約の申入れ転借人に通知すればできる(34条1項)通知の日から6か月を経過した時(34条2項)

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:話し合いでやめても、カフェは続けられる

けんたさんに家賃の遅れなどはなく、みちこさんとけんたさんが合意解除しました。みちこさんは、合意解除をさやかさんに主張できません(613条3項本文)。さやかさんはカフェを続けられます。

当てはまらない例:不払いが原因なら転借人にも及ぶ

けんたさんが家賃を払わず、みちこさんが解除しました。合意解除ではないので613条3項の場面ではありません。みちこさんがさやかさんに店舗を返すよう求めた時に、原則として転貸借は終わります(平成9年判決)。

ひっかけやすい例:形は合意解除でも、解除権があった

けんたさんの家賃不払で、みちこさんがすでに解除権を持っていた。そのうえで、2人が話し合いで契約をやめた場合です。形は合意解除でも、613条3項ただし書に当たり、みちこさんは合意解除をさやかさんに主張できます。

ひっかけやすい例:6か月の猶予を合意解除に持ち込む

「通知から6か月」は、建物の賃貸借が期間の満了か解約の申入れで終わる場合の決まりです(34条)。合意解除にも債務不履行解除にも、この6か月はありません。合意解除なら原則として主張そのものができず、債務不履行解除なら返還の請求の時に終わります。

似ているルールとの違い

ルール中身場面
転借人の直接の義務(613条1項)賃借人の債務の範囲を限度に、賃貸人に直接履行する転貸借が続いている間
転借人への通知(借地借家法34条)通知しないと終了を主張できない。通知から6か月で終わる建物の期間満了・解約の申入れ
転借人の造作買取請求(借地借家法33条2項)賃貸人の同意を得て付けた造作を、賃貸人に時価で買い取らせる建物の期間満了・解約の申入れ

613条1項の「範囲を限度として」は、令和2年4月施行の改正で書き加えられた言葉です。たとえば転貸の家賃が元の家賃より高くても、賃貸人が転借人に直接求められるのは、元の賃貸借で賃借人が負う額までです。賃貸借の基本のしくみは賃貸借の記事で確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、賃貸借が主な論点の問題は26問、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)では8問でした。借地借家法の借家が主な論点の問題は40問、直近10回では10問です。転貸借の終わり方だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。取り違えやすい形は次のとおりです。

  • ただし書の落とし:「合意解除は転借人に主張できない」だけで考え、解除の当時に債務不履行による解除権があった場合を見落とす形(613条3項ただし書)。
  • 終わる時の入れ替え:債務不履行解除で、転貸借が「解除の時」や「解除の通知が賃借人に届いた時」に終わるとする形。判例は、賃貸人が転借人に返還を請求した時です。
  • 34条の持ち込み:通知から6か月の猶予を、合意解除や債務不履行解除にも当てはめる形。
  • 代払の機会:不払で解除する前に、転借人に払う機会を与えなければ解除できない、とする形。判例は、特段の事情のない限り不要としています。
  • 直接請求の額:転借人に、転貸の家賃の額まで直接請求できるとする形。限度は賃借人の債務の範囲です(613条1項)。
  • 前払の扱い:転借人が支払期日より前に転貸人へ払った家賃を、賃貸人の直接の請求に対して主張できるとする形。前払は賃貸人に対抗できません(613条1項後段)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
店舗の持ち主みちこさんの承諾を得て、借主けんたさんはさやかさんに店舗を転貸した。家賃の遅れなどがないまま、みちこさんとけんたさんが賃貸借を合意解除した場合、さやかさんは、合意解除の日から6か月を経過した時に、店舗を明け渡す義務を負う。

答え:✕ 分かれ目は、元の賃貸借の終わり方です。613条3項は、適法な転貸の場合、賃貸人は合意解除を「転借人に対抗することができない」と定め、解除の当時に債務不履行による解除権があったときだけを除いています。正しくは、さやかさんは合意解除を理由に明け渡す必要はありません。取り違えの相手は、建物の期間満了・解約の申入れで終わるときの、通知から6か月の決まり(借地借家法34条)です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
問1の3人で、合意解除はせず、けんたさんが家賃を払わないため、みちこさんがけんたさんとの賃貸借を解除しようとしている。判例によれば、特段の事情がなければ、みちこさんは、さやかさんに通知して家賃を代わりに払う機会を与えていなくても、解除することができる。

答え:○ 分かれ目は、転借人に代払の機会を与えることが解除の条件かどうかです。最高裁判所第二小法廷平成6年7月18日判決は、適法な転貸借があっても、賃料の不払を理由に解除するには、特段の事情のない限り、転借人に通知等をして賃料の代払の機会を与えなければならないものではない、としました。転借人を守る613条3項の印象から、機会を与えなければ解除できないと考えると✕にしてしまいます。転借人が守られるのは合意解除の場面で、債務不履行解除ではありません。

問3(このサイトのオリジナル問題)
問1の3人で、さやかさんは翌月分の家賃を、支払期日より前にけんたさんに払っていた。その支払期日が過ぎてから、けんたさんの家賃不払を理由に、みちこさんがさやかさんにその月の分を直接払うよう求めた。さやかさんは、けんたさんに払い済みであることを理由に、支払を拒むことができる。

答え:✕ 分かれ目は、さやかさんの支払が前払に当たるかです。613条1項は、転借人は賃貸人に転貸借の債務を直接履行する義務を負うとし、後段で「賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない」と定めます。正しくは、支払期日より前にけんたさんに払った分は前払なので、さやかさんはそれを理由にみちこさんの請求を拒めません。取り違えの相手は、債権者に払えば債務は消えるという弁済の原則です。転貸人への前払は、その原則どおりには賃貸人に主張できません(613条1項後段)。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。

まとめ

  • 合意解除は、承諾を得た転借人に原則として主張できない。解除の当時に債務不履行による解除権があればできる(613条3項)。
  • 債務不履行解除なら、転貸借は原則、賃貸人が転借人に返還を請求した時に終わる(平成9年判決)。
  • 不払で解除する前に、転借人に代払の機会を与える必要は、特段の事情のない限りない(平成6年判決)。
  • 建物の期間満了・解約の申入れなら、転借人に通知し、通知の日から6か月で終わる(借地借家法34条)。
  • 転借人が賃貸人に直接負う義務は、賃借人の債務の範囲が限度(613条1項)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の民法・借地借家法を確かめ、改正前の613条は2020年3月31日時点の条文で確かめました。判例は、裁判所ウェブサイトで裁判年月日・法廷・事件番号・判示事項・裁判要旨を確かめました。

このサイトで次に読むなら、借家の更新と終わり方の記事です。期間満了で終わるときの通知の時期と、通知から6か月で転貸借が終わる流れを、時系列で確かめられます。

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