典型契約13種類の一覧:諾成と要物、有償と無償、双務と片務で分けて覚える

ひとことで言うと、典型契約(てんけいけいやく)は、民法が名前と中身を定めている13の契約です。贈与・売買・交換・消費貸借・使用貸借・賃貸借・雇用・請負・委任・寄託・組合・終身定期金・和解の13です(民法549条〜696条)。有名契約とも呼ばれます。「典型契約」は教科書の呼び名で、条文にこの言葉があるわけではありません。13のうち和解は和解の記事で、典型契約の一覧には入らない広告での報酬の約束(懸賞広告)は懸賞広告の記事で扱っています。

契約は、この13に当てはまらなくても、内容を自由に決めて結べます。民法が13を定めているのは、よくある契約について、当事者が決めていない点を補うためです。この記事は、13の契約を見分ける地図です。それぞれの細かいルールは、表の中の各記事で扱っています。

身近な例で考えると

会社員のまことさんの1週間に、契約がいくつも出てきます。

  1. 月曜:パン屋でパンを買った(売買)。
  2. 火曜:雨が降り、同僚から傘を無料で借りた(使用貸借)。
  3. 水曜:住んでいる部屋の家賃を払った(賃貸借)。
  4. 木曜:自転車の修理を頼み、直ったら代金を払う約束をした(請負)。
  5. 金曜:旅行の間、友人に植木を無料で預かってもらう約束をした(寄託)。
  6. 土曜:友人に1万円を借り、現金を受け取った(消費貸借)。

どれも書面は作っていません。それでも、民法522条2項により、法令に特別の定めがある場合を除き、契約は書面などの方式がなくても成立します。ただし、土曜の消費貸借だけは、現金を受け取ったときに初めて成立します(587条)。この「受け取りが要る契約」があることが、13の契約を分けるときの最初の分かれ目です。

たとえるなら、13の典型契約は、契約の「ひな形の棚」です。ただし本物のルールでは、ひな形は当事者が決めなかった点を補うもので、当事者は多くの点でひな形と違う約束をすることもできます。

条文ではこう決まっている:13の契約の一覧

分け方契約(条)ひとことでくわしい記事
物や権利を移す贈与(549条)無償で財産を与える贈与
物や権利を移す売買(555条)財産権を移し、代金を払う契約不適合責任
物や権利を移す交換(586条)金銭以外の財産権を互いに移す—
物を貸す消費貸借(587条)借りた物を使い、同じ種類・品質・数量の物で返す消費貸借
物を貸す使用貸借(593条)無償で使い、その物を返す使用貸借
物を貸す賃貸借(601条)賃料を払って使い、その物を返す賃貸借
働く・頼む雇用(623条)労働に従事し、報酬を受ける—
働く・頼む請負(632条)仕事を完成し、その結果に報酬を払う請負と委任
働く・頼む委任(643条)法律行為を頼む(法律行為でない事務は準委任。656条)請負と委任
働く・頼む寄託(657条)物の保管を頼む寄託
その他組合(667条)出資して共同の事業をする民法上の組合
その他終身定期金(689条)ある人が死ぬまで定期に金銭などを給付する—
その他和解(695条)互いに譲歩して争いをやめる—

成立のしかた:諾成と要物、書面で変わること

合意だけで成立する契約を諾成契約(だくせいけいやく)、物の受け渡しがないと成立しない契約を要物契約(ようぶつけいやく)といいます。13のうち、いまの民法で要物契約なのは、書面によらない消費貸借だけです。

契約成立書面で変わること
消費貸借口頭なら、物を受け取って成立(587条)書面ですれば合意だけで成立。借主は受け取るまで解除できる(587条の2)
使用貸借合意で成立(593条)書面でなければ、貸主は借主が受け取るまで解除できる(593条の2)
寄託合意で成立(657条)無報酬の受寄者は、書面でなければ受け取るまで解除できる(657条の2第2項)
贈与合意で成立(549条)書面によらない贈与は、履行の終わった部分を除き解除できる(550条)

令和2年4月施行の改正の前は、使用貸借(旧593条)と寄託(旧657条)も、物を「受け取ることによって」効力を生じる要物契約でした。いまは合意だけで成立し、その代わりに「受け取る前の解除」の決まりが置かれています。

有償と無償、双務と片務

有償契約は、当事者が互いに対価となる給付(お金・物・労務など)をする契約、無償契約はそうでない契約です。双務契約(そうむけいやく)は、当事者が互いに対価となる義務を負う契約、片務契約(へんむけいやく)は一方だけが義務を負う、または義務が対価の関係にない契約です。この分け方は教科書で説明される分類で、条文に一覧があるわけではありません。条文の定義の言葉から、次のように読めます。

グループ契約条文の手がかり
有償・双務売買・交換・賃貸借・雇用・請負代金・賃料・報酬を払う約束(交換は互いに財産権を移す約束)が定義に入っている
無償・片務贈与・使用貸借定義に「無償」とある
有償か無償かが特約しだい消費貸借・委任・寄託特約がなければ利息・報酬を請求できない(589条1項、648条1項、665条で寄託に準用)

委任と寄託は、報酬の特約があれば双務、なければ片務と説明されます。消費貸借は、物を受け取って成立した後は借主だけが返す義務を負うので、利息付きでも片務契約と説明されるのが一般的です。組合・終身定期金・和解は、定義の言葉だけでは分けにくいので表に入れていません。

この分け方が効く条文が2つあります。双務契約では、相手が履行を提供するまで自分の履行を拒める(同時履行の抗弁。533条)。有償契約には、売買の規定が準用される(559条。契約の性質が許さないときを除く)。組合は出資をし合う契約ですが、533条と536条(危険負担)は組合契約には使わないと定められています(667条の2第1項)。

当てはまる例・当てはまらない例

  • 当てはまる(傘の使用貸借):火曜の傘は、無償で使ってその傘を返す約束なので使用貸借です。傘を受け取る前でも契約は成立しています。書面がないので、同僚は傘を渡す前なら解除できます(593条の2)。
  • 当てはまる(交換に金銭が加わる):自分の自転車に1万円を足して、友人のバイクと取り替える。金銭以外の財産権を互いに移すので交換で、足した1万円には売買の代金の規定が準用されます(586条2項)。
  • 当てはまらない(保証):友人の借金の保証人になる約束は、13の典型契約に入りません(保証は債権の総則の446条以下)。そのうえ、保証契約は書面(または電磁的記録)でしなければ効力を生じません(446条2項・3項)。保証人の言い分は保証と連帯保証の記事で扱っています。
  • 当てはまらない(定型約款):スマホの利用規約のような定型約款(548条の2以下)は、契約の種類の名前ではありません。多くの人と同じ内容で取引するときに、約款の条項が契約の内容になる場合を決めたルールです。定型約款の記事で説明しています。
  • ひっかけやすい(無報酬の委任・寄託):委任も寄託も、特約がなければ報酬を請求できません(648条1項・665条)。「仕事を頼んだのだから当然に報酬が要る」は請負・雇用の考え方です。なお、商人が営業の範囲内で他人のために行為をしたときは、約束がなくても相当な報酬を請求できます(商法512条)。

似ているルールとの違い

「受け取る前の解除」は、だれが解除できるかが契約ごとに違います。ここがいちばん入れ替えやすい所です。

契約受け取る前に解除できる人書面があると
書面でする消費貸借借主(貸主に損害があれば賠償)(書面が成立の前提)
使用貸借貸主貸主も解除できない
寄託寄託者(受寄者に損害があれば賠償)。無報酬の受寄者も無報酬の受寄者は解除できない。寄託者はできる

寄託の受け取る前の解除と、返す時期の決まりは寄託の記事で、組合の533条・536条を使わない理由は民法上の組合の記事で確かめられます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 改正前の要物契約:使用貸借と寄託は、いまは合意だけで成立します。要物契約として残るのは、書面によらない消費貸借です。
  • 受け取る前の解除の主体:書面の消費貸借は借主、使用貸借は貸主、寄託は寄託者(と無報酬の受寄者)。主体を入れ替えた形に注意。
  • 書面が要る契約:522条2項の原則で、契約に方式は要りません。保証契約(446条2項)はその例外で、13の典型契約ではありません。
  • 報酬・利息は特約しだい:消費貸借の利息(589条1項)、委任・寄託の報酬(648条1項)は、特約がなければ請求できない。
  • 準用のつながり:有償契約には売買の規定(559条)。交換に足した金銭は売買の代金の規定(586条2項)。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
Aは、自分の土地をBに渡し、その引換えに、Bの建物と100万円を受け取る約束をした。この100万円については交換の規定だけが使われ、売買の代金に関する規定は使われない。

答え:✕ 分かれ目は、交換に金銭が加わったときの準用です。586条2項は、当事者の一方がほかの権利とともに金銭の所有権を移す約束をしたときは、その金銭について売買の代金に関する規定を準用するとしています。正しくは、Bが渡す100万円には売買の代金の規定が準用されます。交換の定義(586条1項)は「金銭の所有権以外の財産権」を互いに移す契約なので、金銭が混ざった部分は売買の側で扱う、という作りです。

問2(このサイトのオリジナル問題)
令和2年4月施行の改正後の民法では、使用貸借と寄託は当事者の合意だけで成立するが、書面によらない消費貸借は、借りる人が物を受け取らなければ成立しない。

答え:○ 分かれ目は、改正後も要物契約として残った契約です。使用貸借(593条)と寄託(657条)は約束によって効力を生じる形になり、消費貸借は、口頭なら「受け取ることによって」効力を生じる(587条)ままです。改正前は3つとも物の受取りで成立したので、3つとも同じだと考えると✕にしてしまいます。消費貸借も、書面ですれば合意だけで成立します(587条の2第1項)。

問3(このサイトのオリジナル問題)
Aは、引っ越しの間、会社員の友人Bに、自分の荷物を3か月預かってもらった。報酬の約束はしていない。この場合でも、Bは、Aに対し、相当な額の保管料を請求できる。

答え:✕ 分かれ目は、報酬の約束がない寄託で報酬を請求できるかです。寄託には委任の648条1項が準用され(665条)、受寄者は特約がなければ報酬を請求できません。正しくは、Bは保管料を請求できません。物を預かる手間がかかっても、寄託は委任・消費貸借と同じく「特約しだい」のグループです。約束がなくても相当な報酬を請求できるのは、商人が営業の範囲内で他人のために行為をした場合の商法512条で、会社員の友人Bが個人として預かるこの場面には当たりません。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「民法」で続けて解けます。

まとめ

  • 典型契約は13:贈与・売買・交換/消費貸借・使用貸借・賃貸借/雇用・請負・委任・寄託/組合・終身定期金・和解。
  • 契約は方式なしで成立するのが原則(522条2項)。要物契約は書面によらない消費貸借だけ。
  • 改正で使用貸借・寄託は諾成に。受け取る前の解除は、消費貸借(書面)は借主、使用貸借は貸主、寄託は寄託者。
  • 有償・双務は売買・交換・賃貸借・雇用・請負。贈与・使用貸借は無償。消費貸借・委任・寄託は、有償か無償かが特約しだい。
  • 保証は典型契約ではないが、書面がなければ効力を生じない(446条2項)。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の法令を確かめました。改正前の587条・593条・657条は、同じ法令の令和2年3月1日時点の版で確かめました。

  • e-Gov法令検索「民法」(446条、522条、533条、548条の2、549条、550条、555条、559条、586条、587条、587条の2、589条、593条、593条の2、601条、623条、632条、643条、648条、656条、657条、657条の2、665条、667条、667条の2、689条、695条)
  • e-Gov法令検索「商法」(512条)

このサイトで次に読むなら、消費貸借の記事です。13の中でただ一つ要物契約が残る消費貸借について、書面でする場合との違いと、利息・返す時期のルールを確かめられます。

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