借地権の譲渡・転貸と建物の建て替え:地主が承諾しないときの裁判所の許可

借地の上の家を売ると、家と一緒に借地権も買った人に移ります。借地権が土地の賃借権(ちんしゃくけん=借りて使う権利)なら、地主の承諾がいります(民法612条1項)。地主が承諾しないときに、裁判所の許可で承諾に代える仕組みが、借地借家法の17条〜20条です。

ひとことで言うと、「家を売る前なら借地権者が、競売で家を買ったなら買った人が、裁判所に申し立てる」です。建て替えや借地条件の変更でも、地主が承諾しないときは裁判所が間に入ります。借地権が地上権(ちじょうけん)なら、そもそも譲渡に地主の承諾はいりません。

当サイトが、不動産適正取引推進機構が公開している過去の試験(昭和63年度〜令和7年度の40回、2,000問)を1問ずつ読んで数えたところ、借地借家法の借地が主な論点の問題は37問(37回)で、直近10回では10回すべてに1問ずつ出ていました。裁判所の許可や建て替えは、この借地の問題の中の肢として出る論点です(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません)。

この記事では、借地権の譲渡・転貸、建物の建て替え、借地条件の変更で、地主が承諾しないときの扱いを扱います。期間・更新・対抗力などの全体は借地借家法の記事、地上権と賃借権の違いは地上権と賃借権の記事にあります。

身近な例で考えると

人物立場したこと
まさこさん地主土地を貸している
ひろしさん借地権者(土地の賃借権)借地の上に家を持つ
ともやさん家を買いたい人ひろしさんから家を買う
あやのさん競売で家を買った人ひろしさんの家を競売で買い受ける
  1. ひろしさんは、転勤で家を手放すことにした。ともやさんが家を買いたいと言っている。
  2. 家を売ると土地の賃借権も移るので、ひろしさんは、まさこさんに承諾を求めた。まさこさんは「知らない人には貸したくない」と断った。
  3. ともやさんが借地権を引き継いでも、まさこさんに不利になるおそれはない。そこで、ひろしさんは、売る前に、裁判所に「承諾に代わる許可」を申し立てた(19条1項)。
  4. 裁判所は、ひろしさんに承諾料のようなお金を払わせることを条件に、許可を出せる。
  5. まさこさんは「それなら、私が家と借地権を買い取る」と申し立てた。裁判所の定める期間内なら、この申立てができる(19条3項。介入権)。

別の場面です。ひろしさんがローンを払えなくなり、家が競売にかけられ、あやのさんが買い受けました。あやのさんは、代金を払ったあと2か月以内に限り、自分で裁判所に許可を申し立てられます(20条1項・3項)。

たとえるなら、裁判所の許可は、地主の「はんこ」の代わりです。ただし本物のルールでは、地主に不利になるおそれがないことが条件で、裁判所は、承諾料にあたるお金の支払や条件の変更を組み合わせて、両方の利益のつり合いをとります。

条文ではこう決まっている

  • 民法612条:賃借人は、賃貸人の承諾がなければ、賃借権を譲り渡したり、転貸(てんたい=また貸し)したりできない。無断で第三者に使わせたときは、賃貸人は契約を解除できる。
  • 譲渡・転貸の許可(19条):借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合で、第三者が賃借権を取得しても地主に不利となるおそれがないのに、地主が承諾しないとき。裁判所は、借地権者の申立てにより、承諾に代わる許可ができる。借地条件の変更を命じたり、許可を財産上の給付(お金の支払)にかからせたりもできる(1項)。地主は、裁判所が定める期間内に、自ら建物と賃借権を譲り受ける申立てができる(3項)。転借地権者にも準用する(7項)。
  • 競売・公売の場合(20条):第三者が、賃借権の目的の土地の上の建物を競売・公売で取得した場合で、地主が賃借権の譲渡を承諾しないとき。裁判所は、その第三者の申立てにより許可ができる(1項)。申立ては、建物の代金を支払った後2か月以内に限る(3項)。
  • 借地条件の変更・増改築(17条):建物の種類・構造・規模・用途を制限する借地条件の変更は、事情が変わったのに協議が調わないとき、当事者の申立てで裁判所が変更できる(1項)。増改築を制限する借地条件があるときは、借地権者の申立てで、承諾に代わる許可ができる(2項)。
  • 更新後の建て直し(18条):更新の後、借地権者が、残りの期間を超えて残る建物を建てるやむを得ない事情があるのに、地主が承諾しないとき。借地権者の申立てで、承諾に代わる許可ができる。
  • 鑑定委員会(17条6項ほか):裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、裁判の前に鑑定委員会の意見を聴く。
  • 強行規定(21条):17条〜19条に反する特約で、借地権者や転借地権者に不利なものは無効。

だれが・どの場面で申し立てるか

場面申し立てる人条文
借地条件(建物の種類・構造など)の変更当事者(地主も借地権者も)17条1項
増改築の許可借地権者17条2項
更新後の建て直しの許可借地権者18条1項
建物の譲渡にともなう賃借権の譲渡・転貸借地権者(譲渡の前)19条1項
地主が自分で買い取る(介入権)地主(裁判所が定める期間内)19条3項
競売・公売で建物を取得取得した第三者(代金支払後2か月以内)20条1項・3項

建物の建て替えはどう扱われるか

借地の上の家が古くなったり、火事でなくなったりして建て直すときは、地主の承諾の有無と、更新の前か後かで分かれます(7条・8条・18条)。

時期地主が承諾した地主が承諾しない
最初の期間中承諾の日か建てた日の早いほうから20年延びる(7条1項)期間は延びない。ただし通知から2か月以内に異議がなければ承諾とみなす(7条2項)
更新の後同じく20年延びる(7条1項)地主は解約の申入れができ、3か月で終わる(8条2項・3項)。やむを得ない事情があれば借地権者は裁判所に許可を申し立てられる(18条)

7条1項の「20年」は、残りの期間のほうが長いときや、当事者がもっと長い期間を決めたときは、そちらによります。更新の後に建物が滅失(めっしつ=なくなること)したときは、借地権者のほうからも解約の申入れができます(8条1項)。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる(売る前の申立て):ひろしさんが、ともやさんに家を売る前に19条1項の申立てをする。申立てをするのは、売る側のひろしさん。
  2. 当てはまる(競売):あやのさんが競売で家を買い、代金を払った。地主が承諾しないので、代金を払ってから2か月以内に、あやのさん自身が申し立てる(20条)。
  3. 当てはまらない(地上権):ひろしさんの借地権が地上権なら、地上権は物権(ぶっけん=物を直接支配する権利)なので、譲渡に地主の承諾はいらない。612条も19条・20条も「賃借権」の規定で、裁判所の許可を求める場面がない。
  4. ひっかけやすい(売ってしまった後):ひろしさんが、承諾も許可もないまま、ともやさんに家を売ってしまった。19条は「譲渡しようとする場合」の申立てなので、使えない。ともやさんは、地主に建物を時価で買い取るよう請求できる(14条)。この請求は建物買取請求権の記事で扱っています。
  5. ひっかけやすい(借家の転貸):建物の賃貸借(借家)の転貸には、裁判所の許可の仕組みはない。貸主が承諾しなければ、民法612条のとおり、転貸できない。

似ているルールとの違い

比べる点19条(任意の売買)20条(競売・公売)
申し立てる人借地権者(売る人)建物を取得した第三者
時期譲渡しようとするとき(売る前)代金を払った後2か月以内
地主の介入権ある(19条3項)ある(20条2項で準用)
21条の強行規定入っている挙がっていない

民法の賃貸借で、無断の転貸があっても、背信的(はいしんてき=信頼を裏切る)とまでいえないときは解除できない、という考え方や、転借人の立場は賃貸借の記事で扱っています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 申し立てる人の入れかえ:任意に売る場合は売る側の借地権者、競売の場合は買った第三者です。
  • 期限の入れかえ:「代金を払った後2か月以内」は20条(競売)の期限です。地主の介入権は「裁判所が定める期間内」で、条文に決まった月数はありません。
  • 売った後の申立て:19条の申立ては、譲渡しようとする段階のものです。売ってしまった後は、第三者の建物買取請求(14条)の話になります。
  • 地上権と賃借権:地上権の譲渡には地主の承諾がいりません。承諾と裁判所の許可が問題になるのは、土地の賃借権です。
  • 建て替えの時期:最初の期間中は、通知に2か月以内に異議がなければ承諾とみなされます(7条2項)。更新の後の通知には、このみなし承諾がありません。

宅建試験では、借地の問題(直近10回は毎回1問)の中で、申し立てる人や期限、建て替えと期間の延長を、肢の一つとして確かめておく範囲です。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
借地権者A(土地の賃借権)が、借地上の建物をCに売ろうとしている。地主Bが賃借権の譲渡を承諾しないときは、買主となるCが、自ら裁判所に承諾に代わる許可を申し立てることができる。

答え:✕ 分かれ目は、だれが申し立てるかです。任意の売買で建物を譲渡しようとするときの申立ては、借地権者Aがします(借地借家法19条1項)。正しくは、Cではなく、売る側のAが申し立てます。建物を取得した第三者が自分で申し立てられるのは、競売・公売で取得した場合(20条1項)で、その場面と取り違えた文です。

問2(このサイトのオリジナル問題)
借地権者A(土地の賃借権)の借地上の建物が競売にかけられ、Cが買い受けて代金を支払った。地主Bが賃借権の譲渡を承諾しないとき、Cは、代金の支払から2か月以内であれば、自ら裁判所に承諾に代わる許可を申し立てることができる。

答え:○ 分かれ目は、任意の売買か、競売かです。競売・公売で建物を取得した第三者は、自分で申し立てられます(20条1項)。申立ての期限は、建物の代金を支払った後2か月以内です(同条3項)。任意の売買では借地権者が申し立てる(19条1項)ので、その形だけを覚えていると✕にしてしまいます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
借地権者Aが19条1項の申立てをした場合、地主Bは、自ら建物と賃借権の譲渡を受ける旨の申立てをすることができるが、その申立ては、Aの申立てから2か月以内にしなければならない。

答え:✕ 分かれ目は、介入権の申立ての期限です。19条3項は、地主の申立ては「裁判所が定める期間内」にするとしています。正しくは、条文に「2か月」という決まった期限はなく、裁判所が期間を定めます。「2か月以内」は、競売で建物を取得した人の申立ての期限(20条3項:代金を支払った後2か月以内)で、その数字を持ち込んだ誤りです。

まとめ

  • 土地の賃借権の譲渡・転貸には地主の承諾がいる(民法612条)。地上権ならいらない。
  • 任意に売る前:借地権者が裁判所に承諾に代わる許可を申し立てる(19条)。地主は裁判所が定める期間内に介入権を使える。
  • 競売・公売:買った第三者が、代金を払った後2か月以内に申し立てる(20条)。
  • 建て替え:承諾があれば20年延びる(7条1項)。最初の期間中は2か月以内に異議がなければ承諾とみなす(7条2項)。更新後に承諾がなければ、地主は解約申入れができ、借地権者は18条の許可を申し立てられる。
  • 17条〜19条に反する借地権者に不利な特約は無効(21条)。

この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。借地の肢をまとめて解くと、申し立てる人と期限の取り違えに気づきやすくなります。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を、e-Gov法令検索(法令API)で確かめています。

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