借地権(しゃくちけん=建物を建てるために他人の土地を借りる権利)は、地主が土地を売っても、条件がそろっていれば新しい持ち主に「この土地を借りています」と言い張れます。これを「対抗(たいこう)できる」といいます。条件は、①借地権そのものの登記をしているか、②土地の上に、借地権者本人の名義で登記された建物を持っていることです(借地借家法10条1項)。
②の登記は、家族の名義では足りない、自分を所有者とする表示の登記なら足りる、というのが最高裁の判例です。建物が火事などでなくなったときは、土地の見やすい場所に決まった事項を掲示すれば、なくなった日から2年までは対抗力が続きます。建物を借りる借家では、建物の引渡しが対抗の条件です(31条)。
この記事では、借地人が守られる条件を、登記の名義と建物の滅失(めっしつ=なくなること)の場面に分けて確かめます。借地借家法の全体(期間・更新・定期借地など)は借地借家法の全体図、土地や建物を二重に売ったときの一般のルールは177条の記事で扱います。条文は令和8年4月1日時点のものです。
身近な例で考えると:地主が土地を売ったとき
登場人物を紹介します。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| たくやさん | 借地人(借地権者) | もりさんの土地を借りて家を建てた |
| もりさん | 地主 | 土地をいのうえさんに売った |
| いのうえさん | 土地を買った人 | もりさんから土地を買い、登記をした |
| さきさん | 部屋を借りる人 | もりさんのアパートの一室を借りている |
- たくやさんは、家を建てるため、もりさんと土地の賃貸借の契約をしました。借地権の登記はしていません。
- たくやさんは家を建て、自分の名義で家の登記(所有権の保存登記)をしました。
- その後、もりさんが土地をいのうえさんに売り、いのうえさんは所有権移転の登記をしました。
- いのうえさんは「土地は私のものになった。家を壊して出ていって」と言います。
たくやさんは出ていく必要はありません。土地の上に、たくやさん名義で登記した家があるからです(10条1項)。民法だけで考えると、賃貸借を第三者に対抗するには賃貸借の登記が要ります(民法605条)。ところが借地権の登記は、地主の協力がないとできません。そこで借地借家法は、借地人が自分だけでできる「建物の登記」で足りる、としました。
ただし、家の登記がたくやさん本人の名義でなく、同居している長男の名義だったら結論は変わります。たとえるなら、建物の登記は「この土地は自分が借りている」と外に示す名札です。名札の名前が借地人と違えば、外から見て借地人がだれか分かりません。ただし本物のルールでは、名札になるのは登記簿の記録だけです。家の玄関に表札を出しても、登記の代わりにはなりません。
条文ではこう決まっている
- 民法605条:不動産の賃貸借は、登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗できる。
- 借地借家法10条1項:借地権は、その登記がなくても、「土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは」、第三者に対抗できる。
- 10条2項:1項の建物が滅失しても、借地権者が、①建物を特定するために必要な事項、②滅失があった日、③建物を新たに築造する旨を、土地の上の見やすい場所に掲示すれば、借地権は1項の効力を保つ。ただし、滅失から2年を過ぎた後は、その前に建物を新たに建て、かつ、その建物の登記をした場合に限る。
- 16条:10条に反する特約で、借地権者に不利なものは無効。
- 31条(借家):建物の賃貸借は、登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対して効力を生じる。
- 民法605条の2:605条、借地借家法10条・31条などで対抗要件を備えた不動産が売られたとき、賃貸人の地位は買った人に移る(1項)。ただし、買った人は、所有権移転の登記をしなければ、賃貸人の地位の移転を借主に対抗できない(3項)。
借地権には、土地の賃借権のほかに、建物を持つための地上権(ちじょうけん)もあります(借地借家法2条1号)。10条1項は、どちらの借地権にも使えます。
判例:建物の登記の名義
- 家族名義では足りない:最高裁判所大法廷昭和41年4月27日判決(昭和37年(オ)第18号)は、土地の借主が、自分と氏を同じくし同居する未成年の長男の名義で保存登記をした建物を持っていても、その後に土地の所有権を取得した第三者に、借地権を対抗できないとしました。
- 表示の登記で足りる:最高裁判所第一小法廷昭和50年2月13日判決(昭和47年(オ)第1008号)は、借地人が、自分を所有者と書いた表示の登記(建物の所在・種類・床面積などを記録する登記)のある建物を持つ場合は、「登記したる建物を有するとき」に当たるとしました。
どちらの判決も、当時の「建物保護に関する法律」1条についてのものです。この法律は借地借家法の施行で廃止され(借地借家法附則2条)、同じ内容は今の10条1項にあります。表示の登記と権利の登記の違いは表示に関する登記の記事で確かめられます。
当てはまる例・当てはまらない例
当てはまる例
- たくやさんの家に、たくやさんを所有者とする表示の登記だけがある(所有権の保存登記はしていない)。→ 判例により、10条1項の「登記されている建物」に当たります。いのうえさんに対抗できます。
- 家が火事で焼けた。たくやさんは、建物を特定する事項・焼けた日・建て直す旨を土地の見やすい場所に掲示した。その半年後に土地が売られた。→ 滅失から2年以内なので、掲示によって対抗力が続きます(10条2項)。
当てはまらない例
- 家の登記が、同居する長男の名義だった。→ 判例により、借地権を土地の買主に対抗できません。
- 家を建てたが、登記を一つもしていない。→ 借地権の登記もなければ、10条1項の条件を満たしません。
- 火事から2年を過ぎた後に土地が売られた。掲示は続けていたが、まだ建て直していない。→ 2年を過ぎた後は、建て直して登記していることが要ります(10条2項ただし書)。掲示だけでは対抗できません。
ひっかけやすい例
- 地主のもりさんと「建物の登記をしても、土地を売ったときは借地権を主張しない」と特約した。→ 10条に反し借地権者に不利な特約なので無効です(16条)。
- さきさんは、もりさんのアパートの部屋を借り、かぎを受け取って住んでいる。もりさんがアパートをいのうえさんに売った。→ 建物の賃貸借は、引渡しがあれば登記がなくても対抗できます(31条)。借地の「建物の登記」と、借家の「引渡し」を入れかえないようにします。
似ているルールとの違い
借りる権利を第三者に対抗する方法を並べます。
| 借りているもの | 民法の方法 | 借地借家法の方法 |
|---|---|---|
| 建物を建てるための土地 | 賃借権の登記(605条) | 本人名義で登記された建物(10条1項) |
| 建物が滅失した後の土地 | 賃借権の登記(605条) | 掲示(2年まで)、その後は再築と登記(10条2項) |
| 建物(借家) | 賃借権の登記(605条) | 建物の引渡し(31条) |
| 駐車場などの土地 | 賃借権の登記(605条) | 借地借家法は使えない |
駐車場や資材置き場として土地を借りる場合は、建物の所有が目的ではないので借地借家法は使えません。対抗するには、民法605条の登記が要ります。
もう一つ、守られる側(借主)と、新しい持ち主の側の条件を分けて覚えます。借主が10条や31条で対抗要件を備えていれば、賃貸人の地位は土地や建物を買った人に移ります(605条の2第1項)。そのうえで、新しい持ち主が「家賃・地代は私に払って」と言うには、所有権移転の登記が要ります(同条3項)。敷金を返す義務も新しい持ち主に移ります(同条4項)。詳しくは賃貸借の記事の「持ち主が変わったとき」にあります。
試験ではここをまちがえやすい
当サイトが数えた宅建試験の全40回(不動産適正取引推進機構が公開している昭和63年度〜令和7年度の問題、2,000問)では、借地借家法の借地が主な論点の問題は37問で、直近10回(令和7年度〜平成30年度。令和2・3年度は10月・12月の2回ずつ)は10回とも1問ずつでした。対抗要件だけの問数は数えていません(分け方は当サイトの判断で、公式の分類ではありません。数え方は宅建の出題論点ランキング)。取り違えやすい形は次のとおりです。
- 名義:建物の登記は借地権者本人の名義であることが要ります。同居の家族の名義では対抗できない(最高裁昭和41年4月27日大法廷判決)。
- 登記の種類:所有権の保存登記でなくても、自分を所有者とする表示の登記で足ります(最高裁昭和50年2月13日判決)。
- 掲示の中身と期間:掲示するのは「建物を特定する事項・滅失の日・新たに築造する旨」の3つ。対抗力が掲示だけで続くのは滅失から2年まで。
- 借地と借家の入れかえ:借地は「本人名義で登記された建物」、借家は「建物の引渡し」。「借地は土地の引渡しで対抗できる」は誤りです。
- 新しい持ち主の側の条件:借主が対抗できることと、新しい持ち主が賃料を請求できることは別です。後者には所有権移転の登記が要ります(605条の2第3項)。
○✕でたしかめよう
問1(このサイトのオリジナル問題)
たくやさんは、もりさんから借りた土地の上に家を建て、同居している未成年の長男の名義で家の保存登記をした。その後、もりさんが土地をいのうえさんに売った場合、たくやさんは、借地権をいのうえさんに対抗できる。
答え:✕ 分かれ目は、建物の登記の名義です。借地借家法10条1項は「借地権者が登記されている建物」を求めています。最高裁判所大法廷昭和41年4月27日判決は、同居する未成年の長男の名義で保存登記をした建物では、その後に土地を取得した第三者に借地権を対抗できないとしました。正しくは、たくやさん本人の名義の登記(表示の登記でもよい)が要ります。取り違えの相手は、表示の登記でも足りるとした判例(最高裁昭和50年2月13日判決)で、登記の種類は広く認められても、名義は本人に限られます。
問2(このサイトのオリジナル問題)
たくやさんは家の所有権の保存登記をしていないが、家には、たくやさんを所有者とする表示の登記がされている。この場合でも、たくやさんは、借地権を土地の買主のいのうえさんに対抗できる。
答え:○ 分かれ目は、10条1項の「登記」に表示の登記が含まれるかです。最高裁判所第一小法廷昭和50年2月13日判決は、借地人が自分を所有者と記載した表示の登記のある建物を持つときは、登記した建物を有するときに当たるとしました(当時の建物保護に関する法律1条。今の借地借家法10条1項)。「権利の登記(保存登記)がないと対抗できない」と考えると✕にしやすい肢です。名義は本人でなければならない、という前の判例と組で覚えます。
問3(このサイトのオリジナル問題)
いのうえさんは、もりさんから土地を買ったが、まだ所有権移転の登記をしていない。たくやさんの借地権(土地の賃借権)が借地借家法10条1項の対抗要件を備えている場合、いのうえさんは、たくやさんに対し、新しい地主として地代を自分に払うよう求めることができる。
答え:✕ 分かれ目は、新しい持ち主の側に登記が要るかです。借主が対抗要件を備えた土地が売られると、賃貸人の地位は買主に移りますが(民法605条の2第1項)、その移転は、所有権移転の登記をしなければ借主に対抗できません(同条3項)。正しくは、いのうえさんは登記をしてから地代を請求できます。借地人が対抗するための条件(10条1項)と、新しい地主が賃貸人として振る舞うための条件(登記)を取り違えた形です。
この分野の○✕は、宅建の5分○✕ドリルの「権利関係」で続けて解けます。
まとめ
- 借地権は、借地権の登記か、本人名義で登記された建物があれば、土地を買った人に対抗できる(借地借家法10条1項)。
- 家族名義の登記では対抗できない。自分を所有者とする表示の登記なら足りる(最高裁判例)。
- 建物が滅失したら、3つの事項を土地に掲示すれば2年まで対抗力が続く。その後は再築と登記が要る。
- 借家は建物の引渡しで対抗できる(31条)。
- 新しい持ち主が賃料を請求するには、所有権移転の登記が要る(民法605条の2第3項)。
次に読むなら、抵当権と賃借権はどちらが優先するかがおすすめです。対抗要件を備えた時期と抵当権の登記の先後で、競売のあとに借り続けられるかが決まります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
宅建試験の出題の根拠となる法令は、試験を実施する年度の4月1日現在施行されているものです(不動産適正取引推進機構)。条文は、令和8年4月1日時点で施行されている内容を e-Gov 法令検索(法令API)で確かめました。判例は裁判所ウェブサイトで確かめました。
- e-Gov法令検索「借地借家法」(2条、10条、16条、31条、附則2条)
- e-Gov法令検索「民法」(605条、605条の2)
- 裁判所「最高裁判所大法廷昭和41年4月27日判決(昭和37(オ)18)」(長男名義の登記では対抗できない)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷昭和50年2月13日判決(昭和47(オ)1008)」(表示の登記で足りる)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の概要」(法令の基準日)
- 不動産適正取引推進機構「宅建試験の問題及び正解番号表」(出題数を数えた元の問題)
働く人の法律試験ノート