ひとことで言うと、国家賠償法は、国や市などの役所のせいで損害を受けた人が、お金で償ってもらうための法律です。公務員の仕事のしかたが原因なら1条、道路や河川などの設置・管理の不具合が原因なら2条を使います。
1条は公務員の「故意又は過失」が必要です。2条は、設置・管理に瑕疵(かし=あるべき安全さが欠けていること)があれば、過失がなくても責任が生じます。この記事は、令和8年度試験の基準日である令和8年4月1日時点の条文で書いています。
身近な例で考えると
登場人物は次のとおりです。
| 人物 | 立場 | したこと |
|---|---|---|
| けんじさん | 会社員(ひなたさんの父) | 警察官に強く腕をつかまれ、けがをした |
| ひなたさん | 中学生 | 市道の穴に自転車ではまり、けがをした |
| 県と市 | 賠償する側 | 県は警察官が属する団体、市は市道を管理する団体 |
1条の場面(けんじさん)
- 夜道で、県の警察官がけんじさんに職務質問をしました。
- 警察官は、必要もないのに強く腕をねじり上げ、けんじさんは骨折しました。
- けんじさんは、県に賠償を求めます。警察官は、県の「公権力の行使に当たる公務員」です。公権力の行使とは、役所が相手の同意なしに、力をもって一方的に何かをすることです。その警察官が、仕事中に違法に損害を与えたからです。
- けんじさんは、警察官本人に直接請求することはできません(最高裁判所の判例。下で紹介します)。賠償するのは県です。
- 県が賠償した後、警察官に故意か重大な過失があれば、県は警察官に「立て替えた分を払って」と求められます(求償=きゅうしょう)。
2条の場面(ひなたさん)
- ひなたさんは、市が管理する市道を自転車で走っていました。
- 道路に大きな穴があり、前輪がはまって転び、けがをしました。
- 市道に、道路として通常あるべき安全さが欠けていたといえれば、市が賠償します。
- 市が「職員は注意していた」と言っても、2条では過失は問われません。
たとえると、1条は「お店の店員のミスで客がけがをしたら、お店が払う」に近い仕組みです。2条は「お店の床が壊れていて客が転んだら、お店が払う」に近い仕組みです。ただし本物の国家賠償では、民法と違って、公務員本人は被害者に直接責任を負わないとされています。2条も、過失がなくても責任が生じる点で、民法の仕組みとは違います。
条文ではこう決まっている
1条1項:「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」要件を分けると、次のとおりです。
- 国または公共団体の、公権力の行使に当たる公務員であること。
- その職務(公務員としての仕事)を行うについての行為であること。
- 故意(わざと)または過失(不注意)があること。
- 違法に他人に損害を加えたこと。
1条2項:公務員に「故意又は重大な過失」があったときは、国・公共団体はその公務員に求償できます。軽い過失だけなら、求償はできません。
2条1項:「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。」営造物(えいぞうぶつ)とは、役所が公の目的のために使う道路・河川などの物のことです。条文は道路と河川を例に挙げ、「その他の公の営造物」と広く書いています。
2条2項:損害の原因について、ほかに責任を負うべき人がいるときは、国・公共団体はその人に求償できます。
3条:公務員の選任・監督や営造物の設置・管理をする団体と、給料や費用を負担する団体が違うときは、費用を負担する団体も賠償の責任を負います(1項)。賠償した団体は、内部で責任のある団体に求償できます(2項)。
4条〜6条
- 1条〜3条に書かれていないことは、民法の規定によります(4条)。
- 民法以外の法律に別の定めがあれば、それによります(5条)。
- 被害者が外国人のときは、相互の保証(その国でも日本人が同じように賠償を受けられること)があるときに限り、この法律を使います(6条)。
判例
- 最高裁判所第三小法廷 昭和30年4月19日判決:公権力の行使に当たる公務員の職務行為による損害は、国または公共団体が賠償の責任を負う、としました。職務を行った公務員は、行政機関としても個人としても、被害者に直接責任を負わない、としています。
- 最高裁判所第一小法廷 昭和45年8月20日判決(一般に「高知落石事件」と呼ばれます):国道で山から岩が落ち、走っていたトラックの助手席の人が亡くなった事件です。落石が何度も起きる場所なのに、注意の標識を立てただけで、防護柵などの対策をしていませんでした。そこで判決は、道路の管理に瑕疵があったとしました。
- 同じ判決は、営造物の設置・管理の瑕疵とは「営造物が通常有すべき安全性を欠いていること」だとしました。そして、2条1項の責任に過失はいらない、としています。防護柵の費用が多くかかり、予算に困ることが推察できても、それだけで責任を免れるとは考えられない、とも述べています。
当てはまる例・当てはまらない例
- 警察官が職務質問中に違法な力を使った → 1条。公権力の行使に当たる公務員が、職務を行うについて違法に損害を与えています。県が賠償します。
- 警察官本人を訴えて賠償させたい → できない(当てはまらない例)。昭和30年の判決により、公務員個人は被害者に直接責任を負いません。
- 公務員に故意も過失もない → 1条の責任は生じない。1条は故意または過失が要件です。
- 市道の穴で転んだ → 2条。道路の管理に瑕疵があれば、市の過失がなくても市が賠償します。
- 「対策の予算がなかった」と市が反論した → それだけでは免れない(ひっかけやすい例)。昭和45年の判決は、予算に困ることが推察できても、それだけで責任を免れるとは考えられないとしました。
- 道路の穴の原因が工事業者の手抜きだった → 市が賠償し、業者に求償できる。2条2項の「他に損害の原因について責に任ずべき者があるとき」に当たります。
似ているルールとの違い
まず、1条と2条を比べます。
| くらべる点 | 1条 | 2条 |
|---|---|---|
| 原因 | 公務員の職務上の行為 | 営造物の設置・管理の瑕疵 |
| 過失 | 故意または過失が必要 | 不要(昭和45年判決) |
| 求償の相手 | 故意・重大な過失の公務員 | ほかに原因の責任がある人 |
次に、民法の似たルールと比べます。民法は令和8年4月1日時点の条文で確かめました。
| くらべる点 | 国家賠償法 | 民法 |
|---|---|---|
| 人の行為の責任 | 1条:国・公共団体が負う | 715条:使用者が負う |
| 責任を免れる道 | 1条に免責の規定なし | 選任・監督に相当の注意をしたときなど |
| 本人への求償 | 故意・重大な過失のとき | 715条3項:求償を妨げない |
| 物の不具合の責任 | 2条:過失不要 | 717条:占有者は必要な注意をすれば免れ、所有者が負う |
民法715条では、使用者が被用者(雇われている人)の選任と監督に相当の注意をしたときなどは、責任を免れます。国家賠償法1条には、このような免責の規定はありません。不法行為そのものの考え方は不法行為の記事で確かめられます。
損害賠償の時効など、国家賠償法に書かれていないことは民法によります(4条)。期間の数字は期間・数字の一覧にまとめています。
試験ではここをまちがえやすい
行政書士試験では、条文の要件の言葉と、判例の結論が問われやすい形です。
- 「公務員に過失があれば、国・公共団体は常に求償できる」→ 誤り。求償できるのは「故意又は重大な過失」のときだけです。
- 「被害者は、国・公共団体と公務員個人のどちらにも請求できる」→ 誤り。昭和30年の判決は、公務員個人は被害者に直接責任を負わないとしました。
- 「2条の責任には、管理者の過失が必要」→ 誤り。昭和45年の判決は過失はいらないとしています。
- 「予算が足りなければ、2条の責任を免れる」→ 誤り。予算に困ることだけでは、直ちに免れません。
- 「費用を負担しているだけの団体は責任を負わない」→ 誤り。3条1項で費用負担者も責任を負います。
- 「外国人が被害者のときも、常にこの法律が使える」→ 誤り。相互の保証があるときに限ります(6条)。
- 「国家賠償法に書かれていないことは、行政事件訴訟法による」→ 誤り。民法の規定によります(4条)。
1条の要件は記述式でも出しやすい形です。要件を短い言葉で書けるようにしておきましょう。書き方の型は記述式の書き方の記事にまとめています。
○✕でたしかめよう
(このサイトのオリジナル問題)
問1:公権力の行使に当たる公務員が職務中に違法に他人に損害を与えた場合、被害者は、国または公共団体のほか、その公務員個人にも直接賠償を求めることができる。
答え:✕。最高裁判所第三小法廷 昭和30年4月19日判決は、公務員個人は被害者に対して責任を負わないとしました。
問2:国家賠償法2条1項の責任は、道路を管理する公共団体に過失がなければ生じない。
答え:✕。最高裁判所第一小法廷 昭和45年8月20日判決は、2条1項の責任について過失は必要ないとしました。
問3:国家賠償法1条1項により国または公共団体が賠償した場合、公務員に重大な過失があったときは、国または公共団体はその公務員に求償することができる。
答え:○。1条2項は「故意又は重大な過失があつたとき」に求償できると定めています。
まとめ
- 公務員の職務上の違法な行為は1条、道路・河川など公の営造物の設置・管理の瑕疵は2条。
- 1条は故意・過失が必要。2条は過失不要で、予算不足だけでは責任を免れない。
- 公務員個人は被害者に直接責任を負わない。国・公共団体の求償は故意・重大な過失のときだけ。
- 費用を負担する団体も責任を負う(3条)。書かれていないことは民法による(4条)。
- 外国人の被害者は、相互の保証があるときに限る(6条)。
国家賠償はお金で償う仕組みで、処分そのものを取り消す仕組みとは別です。処分を取り消してもらう道は取消訴訟の要件の記事で確かめると、行政救済法の全体がつながります。
参考にした公式の情報(2026年10月確認)
条文は、e-Gov法令検索で令和8年4月1日時点の版を指定して確かめました。判例は裁判所ウェブサイトで年月日と要旨を確かめました。
- e-Gov法令検索「国家賠償法」(1条〜6条)
- e-Gov法令検索「民法」(715条、717条)
- 裁判所「最高裁判所第三小法廷 昭和30年4月19日判決」(国家賠償と賠償責任の負担者)
- 裁判所「最高裁判所第一小法廷 昭和45年8月20日判決」(国道への落石事故と道路の管理の瑕疵)
- 行政書士試験研究センター「令和8年度 試験案内」(出題の基準日)
働く人の法律試験ノート