相続をわかりやすく:法定相続分・相続放棄・遺留分を家族の例で

相続(そうぞく)とは、亡くなった人の財産を、家族などが引き継ぐことです。預金や家だけでなく、借金も引き継ぎます(民法896条)。だれが引き継ぐかは決まっていて、配偶者(夫や妻)は常に相続人、そのほかは子→親など→きょうだいの順です(887条・889条・890条)。

引き継ぎたくなければ、相続が始まったと知った時から3か月以内に家庭裁判所で相続放棄をします(915条・938条)。また、遺言があっても、配偶者や子などには最低限の取り分(遺留分〔いりゅうぶん〕)が残されています(1042条)。この記事では、相続人と相続分、承認と放棄、遺留分、令和8年4月1日までに施行された主な改正を扱います。遺言の書き方(方式)は扱いません。

身近な例で考えると

会社員のひろしさんが亡くなった場面で考えます。財産は、住んでいたマンションと預金です。

人物ひろしさんとの関係相続での立場
ようこさん妻常に相続人
はるとさん・あおいさん長男・長女第1順位
きよこさん母第2順位
まさるさん弟第3順位

子がいるので、相続人は妻のようこさんと、子のはるとさん・あおいさんの3人です。母のきよこさんと弟のまさるさんは、相続人になりません。順位が上の人がいると、下の人には回ってこないからです。

取り分(法定相続分)は、配偶者が2分の1、子全体で2分の1です(900条1号)。子が2人なので、2分の1を2人で同じに分けます(900条4号)。

  • ようこさん:2分の1
  • はるとさん:4分の1(2分の1×2分の1)
  • あおいさん:4分の1

ここで、話を少し変えます。ひろしさんには、家族が知らなかった大きな借金がありました。時間の流れで見ます。

  1. 4月1日:ひろしさんが亡くなり、家族はその日に知る。
  2. 5月:借金の督促状が届き、財産より借金が多いと分かる。
  3. 6月:はるとさんとあおいさんが、家庭裁判所に相続放棄を申述する。
  4. その結果、2人は「初めから相続人でなかった」ことになる(939条)。

ここが大事なところです。子が全員いなくなったので、次の順位の母・きよこさんが相続人になります。相続人は、ようこさんときよこさんです。取り分は、配偶者のようこさんが3分の2、直系尊属のきよこさんが3分の1に変わります(900条2号)。きよこさんも借金を引き継ぎたくなければ、自分が相続人になったと知った時から3か月以内に、放棄をする必要があります。

「相続はバトンリレー」とたとえると分かりやすいでしょう。前の走者がいなければ、次の走者にバトンが回ります。ただし本物のルールでは、配偶者はリレーの外にいて、どの順位の人とも一緒に走ります。

条文ではこう決まっている

だれが相続人になるか

  • 配偶者:「常に相続人となる」(890条)。ほかの相続人がいれば、その人たちと同じ順位で相続する。
  • 第1順位:子(887条1項)。
  • 第2順位:直系尊属(ちょっけいそんぞく=親・祖父母など)。子がいないとき。親等(しんとう=世代の近さ。親は1親等、祖父母は2親等)の近い人が先(889条1項1号)。親が1人でもいれば、祖父母は相続人にならない。
  • 第3順位:兄弟姉妹。子も直系尊属もいないとき(889条1項2号)。
  • 代襲相続(だいしゅうそうぞく):子が、相続が始まる前に亡くなっていた、または相続欠格・廃除で権利を失ったときは、その子の子(孫)が代わりに相続する(887条2項)。孫も同じ事情なら、ひ孫へ続く(887条3項)。兄弟姉妹の場合も代襲はあるが、当てはめるのは887条2項だけ(889条2項)。つまり、きょうだいの子(おい・めい)までで、その先には続かない。
  • 胎児:相続については、生まれたものとみなす。死産なら当てはまらない(886条)。
  • 相続欠格(そうぞくけっかく。891条):亡くなった人などをわざと死なせて(または死なせようとして)刑を受けた人は、手続なしに当然、相続人になれない。遺言書を偽造・破棄・隠した人なども同じ。
  • 廃除(はいじょ。892条):ひどい虐待や侮辱などがあったとき、亡くなる人が家庭裁判所に請求して、相続人から外せる。対象は「遺留分を有する推定相続人」(すいていそうぞくにん=今亡くなったら相続人になるはずの人のうち、遺留分のある人)。

どれだけ相続するか(900条)

相続人配偶者ほかの人(全体で)
配偶者と子2分の1子が2分の1
配偶者と直系尊属3分の2直系尊属が3分の1
配偶者と兄弟姉妹4分の3兄弟姉妹が4分の1

同じ順位の人が何人かいれば、等しく分けます。ただし、父母の片方だけが同じきょうだい(半血〔はんけつ〕のきょうだい)は、両方が同じきょうだいの2分の1です(900条4号)。代襲した孫は、親が受けるはずだった分を引き継ぎます(901条)。遺言で取り分を決めることもできます(902条)。

引き継ぐか、やめるか(承認と放棄)

  • 期間:「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内」に、単純承認・限定承認・放棄のどれかを選ぶ。家庭裁判所はこの期間をのばせる(915条1項)。
  • 単純承認:財産も借金も、限りなく引き継ぐ(920条)。
  • 単純承認とみなされる場合(921条):次のようなとき。①財産を処分した(保存行為などを除く)。②3か月以内に限定承認も放棄もしなかった。③放棄などのあとで財産を隠した・使い込んだ。
  • 限定承認:引き継いだ財産の範囲でだけ借金を払う(922条)。相続人が何人かいるときは、全員が共同してしなければならない(923条)。財産の目録を作って家庭裁判所に申述する(924条)。
  • 放棄:家庭裁判所に申述する(938条)。放棄した人は「初めから相続人とならなかったものとみなす」(939条)。1人でもできる。
  • 撤回できない:承認や放棄は、3か月の期間内でも撤回できない(919条1項)。

遺言でも奪えない取り分(遺留分)

  • だれにあるか:「兄弟姉妹以外の相続人」(1042条1項)。きょうだいには遺留分がない。
  • 割合:直系尊属だけが相続人なら3分の1、それ以外は2分の1(1042条1項)。相続人が何人かいれば、これに各自の法定相続分をかける(同条2項)。
  • 請求のしかた:遺贈(いぞう=遺言で財産をあげること)や贈与を受けた人に、足りない分に当たるお金の支払いを請求する(遺留分侵害額請求。1046条1項)。令和元年7月1日施行の改正で、お金で請求する形になった。
  • 期限:相続の開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年。相続開始の時から10年(1048条)。
  • 生前の放棄:相続が始まる前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可がいる(1049条1項)。

令和8年4月1日までに施行された主な改正

  • 配偶者居住権(令和2年4月1日施行):亡くなった人の家に住んでいた配偶者は、遺産分割か遺贈によって、その家にただで住み続ける権利を得られる(1028条1項)。期間は原則として配偶者が亡くなるまで(1030条)。人に譲ることはできない(1032条2項)。亡くなった人が、その家を配偶者以外の人と共有していたときは成立しない(1028条1項ただし書)。
  • 配偶者短期居住権:相続が始まった時に亡くなった人の家にただで住んでいた配偶者は、一定の期間、引き続きただで住める。遺産分割をする場合は、行き先が決まった日か、相続開始から6か月たった日の遅いほうまで(1037条1項1号)。
  • 相続分を超える部分と登記(899条の2):法定相続分を超えて受け継いだ部分は、登記などをしないと第三者に主張できない。登記の考え方は177条の記事で説明しています。
  • 10年たった遺産分割(令和5年4月1日施行):相続開始から10年を過ぎた遺産分割では、次の調整を使わない。生前に受けた贈与や、介護などの貢献を考える調整(903条〜904条の2)。例外として、10年以内に家庭裁判所に分割を請求した場合などがある(904条の3)。
  • 相続登記の申請義務(令和6年4月1日施行):相続で土地や建物を取得した人は、登記を申請しなければならない。期限は、相続の開始と取得を知った日から3年以内(不動産登記法76条の2第1項)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(かりょう=刑罰ではない、お金を納めさせる制裁。同法164条1項)。法務省の案内では、令和6年4月1日より前の相続も対象で、それより前に知った人の期限は令和9年3月31日です。

なお、令和8年6月24日に、成年後見と遺言のしくみを変える民法の改正法(令和8年法律第45号)が公布されました。施行は、公布から1年〜3年以内に政令で決める日です(法務省の案内による)。令和8年4月1日より後なので、令和8年度の行政書士試験・宅建試験の範囲には入りません。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:先に亡くなった長男の子が相続する

はるとさんが、ひろしさんより先に亡くなっていたとします。はるとさんには娘のゆいさんがいます。この場合、ゆいさんがはるとさんの代わりに相続人になります(887条2項)。ゆいさんの取り分は、はるとさんが受けるはずだった4分の1です(901条1項)。

当てはまらない例:放棄した長男の子

はるとさんが生きていて、相続放棄をした場合はどうでしょう。ゆいさんは代わりに相続できません。代襲の原因として887条2項に書かれているのは、「相続開始以前の死亡」「相続欠格」「廃除」の3つだけです。放棄は入っていません。放棄した人は初めから相続人でなかった扱いなので、代わる元がないのです。

ひっかけやすい例:遺品のマンションを売ってしまった

あおいさんが、葬儀のあとすぐにひろしさんのマンションを売ってしまい、その後で借金が見つかったとします。財産を処分したので、あおいさんは単純承認をしたものとみなされます(921条1号)。こうなると、あとから放棄をすることはできません。借金があるかもしれないときは、財産に手をつける前に調べることが大切です(915条2項は、承認・放棄の前に財産を調査できると定めています)。

ひっかけやすい例:弟には遺留分がない

ひろしさんに子も親もいなかったとします。相続人は妻のようこさんと弟のまさるさんです。ひろしさんが「全財産を妻に」という遺言を残していたら、まさるさんは何も受け取れません。まさるさんは兄弟姉妹なので、遺留分がないからです(1042条1項)。

計算の例:遺言で友人に全部あげた

ひろしさんが「全財産を友人のこうじさんに遺贈する」という遺言を残したとします。相続人は、ようこさん・はるとさん・あおいさんです。遺留分の全体は2分の1。これに各自の法定相続分をかけます。

  • ようこさん:2分の1×2分の1=4分の1
  • はるとさん・あおいさん:2分の1×4分の1=それぞれ8分の1

3人は、こうじさんに、この割合に足りない分のお金を請求できます(1046条1項)。遺言そのものが無効になるわけではありません。

似ているルールとの違い

相続をどう受けるかの3つの選び方を比べます。

選び方借金の扱い手続1人でできるか
単純承認全部引き継ぐ不要(みなされることもある)できる
限定承認財産の範囲で払う家庭裁判所に申述できない(全員で)
相続放棄引き継がない家庭裁判所に申述できる

もう一つ、まぎらわしいのが「相続放棄」と「遺留分の放棄」です。遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可があれば、相続が始まる前にできます(1049条1項)。相続放棄は、相続が始まったあと、915条の期間内に家庭裁判所に申述する手続です。また、遺留分を放棄しても相続人のままです。遺言がなければ、ふつうに相続します。

相続欠格と廃除も比べておきます。欠格は、891条に当たれば手続なしに当然に相続人でなくなります。廃除は、家庭裁判所への請求が必要で、対象は遺留分のある推定相続人だけです。遺留分のないきょうだいに財産を渡したくなければ、遺言で足ります。

遺産を分けるまでの間、相続人みんなで持っている状態は「共有」です(898条)。共有の使い方・直し方・売り方は共有の記事で説明しています。

試験ではここをまちがえやすい

  • 3か月の起算点:「亡くなった時から」ではなく「自己のために相続の開始があったことを知った時から」。
  • 放棄と代襲:放棄は代襲の原因にならない。死亡・欠格・廃除の3つだけ。
  • 子が全員放棄したら:次の順位(直系尊属、いなければ兄弟姉妹)が相続人になる。配偶者だけが残るわけではない。
  • 限定承認は全員で、放棄は1人で:逆にしたひっかけに注意。
  • 遺留分:兄弟姉妹にはない。直系尊属だけなら3分の1、ほかは2分の1。請求できるのはお金。期限は1年・10年。
  • 配偶者居住権:譲渡できない。相続が始まった時に住んでいたことが条件。
  • 相続登記:義務は3年以内。過料は10万円以下。民法ではなく不動産登記法の条文。

行政書士試験では、相続人の範囲や代襲、承認・放棄の期間と効果を、条文の言葉で正しいかどうか問う形が考えられます。宅建試験では、家族の関係図から法定相続分を計算させる形や、遺留分・配偶者居住権・相続登記を不動産の場面で問う形が問われやすい形です。数字(3か月・1年・10年・3年)は期間・数字の一覧でまとめて見直せます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題) たけしさんが亡くなり、妻と長男・次男が相続人になった。長男が相続放棄をしたときは、長男の子が長男に代わって相続人になる。

答え:✕ 代襲相続の原因は、相続開始以前の死亡・相続欠格・廃除です(887条2項)。放棄は含まれません。この場合、相続人は妻と次男になり、次男が子の分(2分の1)を1人で受けます。

問2(このサイトのオリジナル問題) なおみさんには子も親もいない。相続人は夫と兄である。なおみさんが「全財産を夫に相続させる」と遺言したとき、兄は夫に遺留分侵害額を請求できる。

答え:✕ 遺留分は「兄弟姉妹以外の相続人」にだけあります(1042条1項)。兄には遺留分がないので、請求できません。

問3(このサイトのオリジナル問題) 相続放棄は、被相続人が亡くなった日から3か月以内に、家庭裁判所に申述しなければならない。

答え:✕ 期間の始まりは「自己のために相続の開始があったことを知った時」です(915条1項)。亡くなった日ではありません。また、この期間は家庭裁判所がのばすこともできます。

まとめ

  • 配偶者は常に相続人。ほかは子→直系尊属→兄弟姉妹の順。
  • 相続分は、配偶者が子と2分の1・親と3分の2・きょうだいと4分の3。
  • 知った時から3か月以内に、承認か放棄。限定承認は全員で、放棄は1人で。放棄は代襲の原因にならない。
  • 遺留分は兄弟姉妹以外。割合は2分の1(直系尊属だけなら3分の1)。お金で請求し、期限は1年・10年。
  • 相続登記は、知った日から3年以内に申請する義務(令和6年4月1日から)。

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参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、行政書士試験・宅建試験の基準日である令和8年4月1日時点の内容を、e-Gov法令検索で確かめています。施行日は e-Gov の改正履歴で確かめました。