不法行為をわかりやすく:事故の損害賠償と使用者責任のしくみ

不法行為(ふほうこうい)とは、わざと、または不注意で、他人に損害を与えた人が、その損害をお金で償うルールです(民法709条)。相手と契約をしていなくても成り立ちます。そして、働く人が仕事中に事故を起こしたときは、雇っている人(使用者)も賠償の責任を負います(715条)。

この記事では、709条の条件、責任を負わない人(責任能力)、使用者責任、建物などから起きた事故の責任、過失相殺、時効を扱います。公務員が起こした損害(国家賠償法)は国家賠償法の記事で説明します。

身近な例で考えると

お弁当の配達中に起きた自転車事故で考えます。登場人物は次の3人です。

人物立場したこと
そうたさん大学生のアルバイト自転車でお弁当を配達
はやしさん弁当店の店主そうたさんを雇っている
みさきさん歩いていた人ぶつかられてけがをした
  1. そうたさんが、配達の途中でスマホの地図を見ながら自転車をこぎます。
  2. 前を見ていなかったので、歩いていたみさきさんにぶつかります。
  3. みさきさんは腕を骨折し、持っていたスマホの画面も割れました。
  4. みさきさんは、治療費、スマホの修理代、仕事を休んだ分の給料、つらい思いをしたことへの償い(慰謝料〔いしゃりょう〕)を払ってほしいと考えます。

そうたさんとみさきさんの間に、契約はありません。それでも、そうたさんは前を見ないという不注意で、みさきさんの体と物を傷つけました。だから709条により、そうたさんは賠償しなければなりません。お金にならない心の痛みも、慰謝料として請求できます(710条)。

では、店主のはやしさんはどうでしょう。事故を起こしたのは、はやしさんの仕事(配達)をしている最中です。この場合、はやしさんも「使用者責任」として賠償の責任を負います(715条1項)。みさきさんは、そうたさんにも、はやしさんにも請求できます。もちろん、同じ損害を二重にもらうことはできません。

はやしさんが先に全額を払った場合、はやしさんは、あとでそうたさんに「払った分を返して」と求めることができます。これを求償(きゅうしょう)といいます(715条3項)。ただし最高裁は、使用者からの求償を「信義則上相当と認められる限度」に限っています。信義則(しんぎそく)は「おたがい誠実にふるまう」という考え方です。つまり、公平に見て相当な額までしか取り戻せず、全額とは限りません。令和2年2月28日の最高裁第二小法廷判決が、昭和51年7月8日の最高裁第一小法廷判決を引いて、このことを述べています。

反対に、そうたさんが先に全額を払った場合はどうでしょう。令和2年2月28日の最高裁判決は、働く人の側からも、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額を、使用者に求償できるとしました。

「会社の名前で起きた事故は会社も責任を持つ」というたとえは、だいたい合っています。ただし本物のルールでは、事故がその仕事をしている中で起きたこと(事業の執行について)が必要です。また、使用者が「選び方も監督もきちんとしていた」と示せば責任を負わない道も、条文上はあります。

条文ではこう決まっている

709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。分けると、次の4つがそろえば成り立ちます。

  1. 故意(こい)または過失(かしつ)がある:故意=わざと。過失=注意すれば防げたのに、注意しなかった。
  2. 他人の権利や、法律が守っている利益を傷つけた:体・物・名誉など。はっきりした「権利」でなくても、法律上守られる利益ならよい。
  3. 損害が出た:治療費、修理代、休んだ分の給料、心の痛みなど。
  4. その行為と損害がつながっている:条文の「これによって」の部分。因果関係(いんがかんけい)といいます。

効果は、損害の賠償です。賠償は、とくに決めがなければお金で払います(722条1項が417条を準用)。ほかに、次の条文がセットで出てきます。

  • 710条:体・自由・名誉・財産のどれを傷つけた場合でも、お金以外の損害(心の痛み)も賠償する。
  • 711条:人の命を奪ったときは、亡くなった人の父母・配偶者・子に対しても賠償する。
  • 712条・713条:自分のしたことの責任が分かる力(責任能力)がない人は、責任を負わない。未成年者で、その力がなかった場合が712条。心の病気などでその力がない状態のときが713条(ただし、わざと・不注意で一時的にその状態を招いたときは責任を負う)。
  • 714条:712条・713条で本人が責任を負わないとき、監督する義務のある人(親など)が責任を負う。監督を怠らなかったときなどは免れる。
  • 715条:事業のために人を使う人は、働く人がその仕事中に他人に与えた損害を賠償する。選び方と監督に相当の注意をしたときなどは免れる(1項ただし書)。使用者から働く人への求償はできる(3項)。
  • 717条:建物・塀・看板など土地の工作物(こうさくぶつ)に欠陥があって損害が出たら、まず占有者(借りて使っている人)が責任を負う。占有者が必要な注意をしていたときは、所有者が責任を負う。
  • 719条:何人かで一緒に損害を与えたら、各自が連帯して(それぞれが全額について)責任を負う。そそのかした人・手助けした人も、一緒にやった人とみなす。
  • 720条:他人の不法行為から自分や他人を守るため、やむを得ずした行為(正当防衛)などは、賠償の責任を負わない。
  • 721条:おなかの中の赤ちゃん(胎児〔たいじ〕)も、損害賠償の請求については、生まれたものとみなす。
  • 722条2項:被害者にも不注意があったときは、裁判所はそれを考えて賠償の額を決めることができる(過失相殺〔かしつそうさい〕)。
  • 724条・724条の2:時効。被害者(またはその法定代理人=親など、本人に代わって手続をする人)が損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で、請求できなくなる。人の命や体を傷つけた場合は「3年」が「5年」になる。

当てはまる例・当てはまらない例

当てはまる例:スマホを見ながらの自転車

そうたさんの事故は、前を見ていれば防げました。過失があり、みさきさんの体とスマホが傷つき、損害が出て、事故とのつながりもあります。4つがそろうので709条が成り立ちます。

当てはまらない例:幼い子が窓ガラスを割った

はやしさんの5歳の子が、公園でボールを投げて、近所の家の窓を割ったとします。子どもに「自分のしたことの責任が分かる力」がなければ、子ども本人は責任を負いません(712条)。そのかわり、監督する義務のある親のはやしさんが責任を負います(714条1項)。注意したいのは、712条には「何歳まで」という数字が書かれていないことです。年齢で機械的に決まるわけではありません。

ひっかけやすい例:店の看板が落ちた

はやしさんは、ビルの1階を大家のたなかさんから借りて店を開いています。ある日、店の看板が古くなって落ち、通りかかったみさきさんがけがをしました。717条では、まず借りて使っている占有者のはやしさんが責任を負います。はやしさんが「必要な注意をしていた」と示せば、次は所有者のたなかさんが責任を負います。

ひっかけになるのは、所有者には「注意していたら免れる」という道が条文にない点です。たなかさんが「私も注意していた」と言っても、717条1項ただし書の場面では責任を免れません。

ひっかけやすい例:被害者も信号を無視していた

みさきさんが赤信号で道を渡っていたとします。それでも、そうたさんの責任はなくなりません。ただ、裁判所はみさきさんの不注意を考えて、賠償の額を減らすことが「できる」とされています(722条2項)。減らすかどうかは裁判所が決めます。

判断が分かれる例:仕事の帰りに寄り道していた

配達を終えたそうたさんが、自分の買い物のために寄り道している途中で事故を起こしたとします。このとき、はやしさんの使用者責任には「事業の執行について」起きた事故かどうかが問題になります。仕事と関係のない私用中なら、715条は当てはまりにくくなります。ただし、どこまでが「事業の執行について」かは事情ごとに判断されます。「帰り道だから関係ない」と決めつけることはできません。なお、そうたさん本人の709条の責任は、仕事中かどうかに関係なく成り立ちます。

似ているルールとの違い

まず、契約の約束を守らなかったときの「債務不履行(さいむふりこう)」との違いです。くわしくは債務不履行と解除の記事で説明しています。

比べる点不法行為債務不履行
相手との約束なくてよい契約などの債務がある
時効(物の損害など)知った時から3年/行為の時から20年知った時から5年/行使できる時から10年
時効(命・体の損害)知った時から5年/行為の時から20年知った時から5年/行使できる時から20年
過失相殺減らすことが「できる」(722条2項)考慮して「定める」(418条)

命や体を傷つけた場合は、どちらのルールでも「5年・20年」にそろいます(724条の2、166条1項・167条)。物の損害では数字がずれるので、表で区別して覚えます。時効のしくみは時効の記事で確かめてください。

次に、本人以外が責任を負う3つの条文の比べです。

条文責任を負う人免れる道
714条親など監督する義務のある人監督を怠らなかったときなど
715条雇っている人(使用者)選び方・監督に相当の注意をしたときなど
717条まず占有者、次に所有者占有者はある。所有者は条文にない

公務員が仕事中に損害を与えた場合は、国家賠償法1条により、国または公共団体が賠償します。民法715条と似ていますが、別の法律です。行政書士試験では行政法の分野で出ます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 時効の「3年」と「5年」:命・体の損害だけが5年(724条の2)。物の損害は3年のまま。20年の起算点は「不法行為の時」で、「知った時」ではない。
  • 3年の起算点:「損害及び加害者を知った時」。損害だけ分かっていて、だれがやったか分からないうちは進まない。
  • 過失相殺の言葉:不法行為は「できる」、債務不履行は「定める」。
  • 711条の近親者:条文に並ぶのは父母・配偶者・子。祖父母やきょうだいは条文には書かれていない。ただし、条文にない人はどんな場合も請求できない、とまでは言えない。試験では「条文に並ぶのはだれか」として覚える。
  • 717条の所有者:所有者には免責の規定がない。
  • 使用者からの求償:715条3項で求償はできるが、判例上、信義則上相当な限度に限られる。働く人から使用者への求償も、相当と認められる額について認められている。
  • 加害者からの相殺:次の2つの賠償は、加害者の側から相殺(そうさい=お互いの借りを打ち消し合うこと)を主張できない(509条)。①「悪意による不法行為」に基づく賠償(ここでの悪意=相手を傷つけようとする意思)。②命・体を傷つけた損害の賠償。物を不注意で壊しただけの賠償は、この条文の対象に入っていない。
  • 胎児:損害賠償の請求については、生まれたものとみなす(721条)。相続についても同じ扱いの条文がある(886条)。

行政書士試験では、5肢択一式で条文の言葉どおりかを問う形のほか、記述式(40字程度)で「だれが・何を根拠に・何を請求できるか」を書かせる形が考えられます。条文の要件と効果を短く言えるようにしておくと、両方に効きます(記述の書き方は記述式の記事)。宅建試験では、使用者責任・工作物責任・共同不法行為・時効を、事故の場面にあてはめて判断させる形が問われやすい形です。民法全体の優先順位は民法の勉強法を参考にしてください。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題) こうきさんは、すずさんが運転する車にはねられて足を骨折した。こうきさんの損害賠償請求権は、こうきさんが損害と加害者を知った時から3年間行使しないと、時効によって消える。

答え:✕ 体を傷つけられた場合なので、「3年」は「5年」に読みかえます(724条の2)。物だけが壊れた場合なら3年です。

問2(このサイトのオリジナル問題) れんさんが借りているカフェの外壁のタイルがはがれ落ち、通行人がけがをした。れんさんが損害を防ぐのに必要な注意をしていたときは、建物の持ち主であるかなえさんも賠償の責任を負わない。

答え:✕ 占有者のれんさんが必要な注意をしていたときは、所有者のかなえさんが賠償しなければなりません(717条1項ただし書)。所有者には免責の規定がありません。

問3(このサイトのオリジナル問題) 引っ越し会社の社員が作業中に客の家具を壊し、会社が客に全額を賠償した。この場合、会社は社員に対して、いつでも払った全額を求償できる。

答え:✕ 715条3項は求償を認めていますが、最高裁は、使用者からの求償を損害の公平な分担という見地から「信義則上相当と認められる限度」に限るとしています。全額とは限りません。

まとめ

  • 709条は「故意・過失」「権利や法律上の利益の侵害」「損害」「つながり」の4つ。契約がなくても成り立つ。
  • 本人以外の責任は、714条(監督する人)・715条(使用者)・717条(占有者→所有者)。所有者には免責の規定がない。
  • 過失相殺は「できる」(722条2項)。債務不履行は「定める」(418条)。
  • 時効は「知った時から3年・行為の時から20年」。命・体の損害は3年が5年になる。

次に読むなら、債務不履行と解除がおすすめです。この記事の表で比べた「約束違反の賠償」を、条文から一度に整理できます。期間の数字をまとめて見直したいときは、期間・数字の一覧も使えます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、行政書士試験・宅建試験の基準日である令和8年4月1日時点の内容を、e-Gov法令検索で確かめています。