相隣関係と地役権をわかりやすく:となりの土地とのルール

相隣関係(そうりんかんけい)は、となり合う土地の持ち主どうしが、おたがいに少しずつがまんし合うためのルールです。法律が自動で決めていて、契約はいりません。地役権(ちえきけん)は、自分の土地を便利にするために、他人の土地を使わせてもらう権利です。こちらは契約などで作ります。

この記事では、民法209条からの相隣関係のうち試験で使う所と、280条からの地役権を扱います。隣地の使用(209条)、電気・ガス・水道の設備(213条の2)、枝の切り取り(233条)は、令和5年4月1日施行の改正(令和3年法律第24号)で今の形になりました。共有物の決め方は共有の記事、登記と第三者の関係は不動産の二重譲渡と登記で扱っています。

身近な例で考えると

人物立場したこと
みおさん奥の土地の持ち主道に出られない土地に住む
そうたさん道路側の土地の持ち主みおさんの土地を囲んでいる
ひろしさん東どなりの持ち主庭で柿の木を育てている
りんさんあとから買う人そうたさんの土地を買った
  1. みおさんの土地は、そうたさんの土地などに囲まれています。公道(こうどう=みんなが通れる道)に出られません。こういう土地を袋地(ふくろち)と呼びます。
  2. みおさんは、そうたさんの土地の端を歩いて道に出ます。契約がなくても、210条で通れます。ただし、通る場所はそうたさんの損害がいちばん少ない所にし、償金(しょうきん=使わせてもらう分のお金)を払います。
  3. みおさんは、家の外壁を直すため、ひろしさんの庭に足場を置きたくなりました。前もって目的・日時・場所・方法を知らせれば、必要な範囲で庭を使えます(209条)。
  4. ひろしさんの柿の枝が、境界線を越えて伸びてきました。みおさんは、まずひろしさんに「切ってください」と求めます。それでも切らなければ、自分で切れます(233条)。
  5. みおさんは車を使いたくなりました。そうたさんと契約して、車で通れる通路の権利を作りました。これが通行地役権です。登記(とうき=国の帳簿への記録)はしていません。
  6. そうたさんが、土地をりんさんに売りました。りんさんは「登記がないから通さない」と言えるでしょうか。答えは下の例5で見ます。

相隣関係は「おとなりどうしの最低限のマナーを法律にしたもの」とたとえられます。ただし本物のルールは、マナーより強いものです。相手の承諾がなくても使える場面があります。その代わり、償金を払う義務や、前もって知らせる義務がついてきます。

条文ではこう決まっている

となりの土地を使う(209条)

  • 1項:次の目的のため、必要な範囲で隣地を使用できる。①境界やその近くで、塀や建物などをつくる・こわす・直す。②境界標(きょうかいひょう=境目の目印)を調べる、境界を測る。③233条3項で枝を切る。
  • 1項ただし書:「住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない」。
  • 2項:日時・場所・方法は、隣地の所有者と、隣地を今使っている人(隣地使用者)の損害がいちばん少ないものを選ぶ。
  • 3項:前もって目的・日時・場所・方法を、所有者と隣地使用者に知らせる。前もって知らせるのが難しいときは、使い始めた後に遅れずに知らせればよい。
  • 4項:使われたことで損害を受けた人は、償金を請求できる。

法務省の説明資料によると、改正前の209条は「隣地の使用を請求することができる」という書き方で、どんな権利なのか分かりにくいものでした。改正後は「使用することができる」と書かれ、目的も広がりました。

道に出るための通行(210条〜213条)

  • 210条1項:他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に出るため、囲んでいる他の土地を通行できる。2項:池・川・水路・海を通らないと出られないときや、がけで道との高低差が大きいときも同じ。
  • 211条:通る場所と方法は、通る人に必要で、かつ他の土地の損害がいちばん少ないものにする。必要なら通路を開設できる。
  • 212条:通る人は償金を払う。通路を開いたことによる損害の分を除き、1年ごとに払うこともできる。
  • 213条:土地を分けたことで袋地ができたら、分けたもう一方の土地だけを通れる。この場合、償金はいらない。土地の一部を売って袋地ができた場合も同じ。

電気・ガス・水道の設備(213条の2・213条の3)

  • 213条の2第1項:他の土地に設備を置くか、他人の設備を使わないと、電気・ガス・水道などの継続的給付(けいぞくてききゅうふ=ずっと届けてもらうもの)を受けられない。そのときは、必要な範囲で設備を置いたり使ったりできる。
  • 2項・3項:場所と方法は損害がいちばん少ないものにし、前もって目的・場所・方法を知らせる。
  • 5項〜7項:償金を払う。他人の設備を使う人は、その修繕などの費用も、受ける利益の割合で負担する。
  • 213条の3:土地を分けたことでこの状態になったら、分けたもう一方の土地にだけ設備を置ける。

枝と根(233条)

  • 1項:となりの竹木(ちくぼく=竹や木)の枝が境界線を越えたら、竹木の所有者に「その枝を切除させることができる」。
  • 2項:その竹木がみんなの共有なら、共有者のそれぞれが枝を切り取れる。
  • 3項:次のどれかなら、越えられた側が自分で枝を切り取れる。①切るよう催告(さいこく=求めること)したのに、相当の期間内に切らない。②所有者が分からない、または居場所が分からない。③急迫の事情がある。
  • 4項:根が境界線を越えたら、その根は自分で切り取れる。

境界の近くの建物・窓・目印(223条〜236条)

  • 223条・224条:境界標は、となりと共同の費用で設けられる。設置と保存の費用は半分ずつ。測量の費用は土地の広さに応じて分ける。
  • 225条:持ち主の違う建物が2棟あり、間に空地があれば、共同の費用で囲障(いしょう=塀や垣根)を設けられる。話がまとまらなければ、板塀や竹垣などで高さ2メートルのもの。
  • 229条:境界線の上にある境界標・囲障・障壁・溝・堀は、となりどうしの共有と推定する。
  • 234条:建物は境界線から50センチメートル以上離す。違反する建築は、中止や変更をさせられる。ただし、建築に着手してから1年たつか、建物が完成した後は、損害賠償の請求だけになる。
  • 235条:境界線から1メートル未満の所に、他人の宅地を見通せる窓や縁側(ベランダを含む)をつくる人は、目隠しを付ける。
  • 236条:234条・235条と違う慣習があれば、その慣習に従う。

地役権(280条〜293条)

  • 280条:決めた目的に従い、他人の土地を自分の土地の便益(べんえき=役に立つこと)に使える。便利になる土地を要役地(ようえきち)、使われる土地を承役地(しょうえきち)といいます。ただし、相隣関係の規定のうち公の秩序に関するものに反してはいけない。
  • 281条:地役権は要役地の所有権についていく。要役地を売れば、地役権もいっしょに移る(契約で別に決めればそうならない)。要役地から切り離して売ったり、他の権利の目的にしたりはできない。
  • 282条:土地の共有者の一人は、自分の持分についてだけ地役権を消すことはできない。土地を分けても、地役権は原則として各部分に残る。
  • 283条:地役権は「継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるもの」に限り、時効で取得できる。284条:共有者の一人が時効で取得すれば、他の共有者も取得する。
  • 291条:地役権の消滅時効(166条2項の20年)は、継続的でない地役権なら最後に使った時から、継続的な地役権なら使うのを妨げる事実が生じた時から数える。293条:一部を使わなければ、その部分だけが消える。
  • 地役権は登記できる権利です(不動産登記法3条4号)。第三者に主張するには、原則として登記がいります(177条)。

当てはまる例・当てはまらない例

例1(当てはまる例):催告しても切らない枝

みおさんは、ひろしさんに柿の枝を切るよう頼みました。相当の期間がたっても、ひろしさんは切りません。この場合、みおさんは自分で枝を切れます(233条3項1号)。そのために必要なら、ひろしさんの庭も使えます(209条1項3号)。条文は「相当の期間」とだけ書き、日数は決めていません。

例2(当てはまらない例):貸している家の中を通る

ひろしさんが家をあやさんに貸していて、あやさんが住んでいるとします。みおさんが工事のため、その家の中を通りたいと考えました。209条で使えるのは隣地で、住家に入るには「居住者の承諾」がいります。持ち主のひろしさんが「いいよ」と言っても、住んでいるあやさんの承諾がなければ入れません。

例3(ひっかけやすい例):自分たちで分けて袋地ができた

みおさんの土地とそうたさんの土地が、もとは1つの土地を分けたものだったとします。分けたせいで袋地ができたので、みおさんが通れるのはそうたさんの土地だけです。償金はいりません(213条1項)。最高裁判所第三小法廷 平成2年11月20日判決は、この通行権は、通られる土地が売られて持ち主が代わっても消えないとしました。

例4(ひっかけやすい例):ときどき横切っていただけ

みおさんが、そうたさんの空き地を、ときどき近道として横切っていたとします。長く続けても、地役権を時効で取得できるとは限りません。283条は、継続的に使われ、かつ外から見て分かるものに限っています。通路のような目に見える形がなく、ときどき通るだけでは、この2つの条件に当てはめにくくなります。

例5(判例):登記のない通行地役権と、土地を買った人

場面の6番目に戻ります。最高裁判所第二小法廷 平成10年2月13日判決は、次の場合、承役地を買った人は「登記がない」と主張できる第三者に当たらないとしました。①売られた時点で、要役地の持ち主が通路として続けて使っていることが、位置や形から見て明らかだった。②買った人がそれを知っていたか、知ることができた。この2つがそろえば、地役権があると知らなくても同じです(特別な事情がある場合を除く)。舗装された通路が毎日使われていたなら、りんさんは通行を拒みにくいことになります。

似ているルールとの違い

いちばんまぎらわしいのは、210条の通行権と、契約などで作る通行地役権です。どちらも「となりの土地を通る権利」ですが、生まれ方が違います。

比べる点210条の通行権通行地役権
どう生まれるか袋地なら法律で当然に契約や時効取得で
通れる場所必要で損害が最少の所(211条)決めた目的に従う(280条)
お金償金を払う(分けた場合は不要)契約で決める
登記登記できる権利に入っていない登記できる(不動産登記法3条)

宅建試験では、建築基準法との組み合わせにも気をつけます。最高裁判所第三小法廷 昭和49年4月9日判決は、210条の通路の幅を決めるとき、建築基準法43条の基準を判断の材料にできるとしました。接道義務の中身は道路と接道義務の記事で扱います。また、民法234条の「50センチメートル」に対し、建築基準法63条は、防火地域・準防火地域で外壁が耐火構造の建物は、外壁を隣地境界線に接して設けられると定めています。2つの条文の文言を並べて確かめておきましょう(防火地域・準防火地域の記事)。

試験ではここをまちがえやすい

  • 「越境した枝は、すぐ自分で切ってよい」→誤り。原則は所有者に切除させる。自分で切れるのは233条3項の3つの場合だけ。根は自分で切れる(4項)。枝と根の違いが定番のひっかけです。
  • 「隣地を使うには、いつでも隣人の承諾がいる」→改正後の209条は「使用することができる」。承諾がいるのは住家に立ち入るときで、しかも居住者の承諾です。
  • 「分けてできた袋地の持ち主は、どの土地でも通れ、償金も払う」→誤り。分けたもう一方の土地だけで、償金は不要(213条)。
  • 「50センチメートル未満の建物は、完成後でも取り壊させられる」→誤り。着手から1年たつか完成した後は、損害賠償だけ(234条2項)。
  • 「目隠しは1メートル以内」→条文は「1メートル未満」で、他人の宅地を見通せる窓・縁側に限る(235条)。
  • 「地役権だけを要役地と切り離して売れる」→誤り(281条2項)。「共有者の一人が自分の持分について地役権を消せる」→誤り(282条1項)。
  • 「どんな地役権でも時効で取得できる」→誤り。継続的で、外から見て分かるものだけ(283条)。

宅建試験で問われやすい形は、場面への当てはめです。枝と根の違い、袋地の通行と償金、50センチメートル・1メートルの数字、通行地役権と登記が典型です。数字は「建物50センチメートル以上・窓1メートル未満」をセットで覚えます。

行政書士試験では、5肢択一式で条文の要件を少し変えた選択肢が、問われやすい形の一つです。とくに地役権の付従性・不可分性(281条・282条)、時効取得の条件(283条・284条)、平成10年判決の「登記がなくても主張できる場合」は、要件を言葉で言えるようにしておくと記述式(40字程度)にも備えられます。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題):ゆいさんの庭に、となりのけいさんの桜の枝が境界線を越えて伸びてきた。けいさんの居場所は分かっていて、急迫の事情もない。ゆいさんは、けいさんに何も言わずに、その枝を自分で切り取ることができる。

答え:✕。枝は、まず所有者に切除させるのが原則です(233条1項)。自分で切れるのは、催告しても相当の期間内に切らないときなど、3項の3つの場合だけです。

問2(このサイトのオリジナル問題):ゆいさんとけいさんは、1つの土地を2つに分けて持つことにした。その結果、ゆいさんの土地が公道に通じなくなった。ゆいさんは、けいさんの土地だけを通行でき、償金を払う必要はない。

答え:○。分割で袋地ができたときは、他の分割者の土地だけを通行でき、償金はいりません(213条1項)。

問3(このサイトのオリジナル問題):ゆいさんとけいさんが共有する土地のために、となりの土地に通行地役権がある。ゆいさんは、自分の持分についてだけ、この地役権を消滅させることができる。

答え:✕。土地の共有者の一人は、その持分について、地役権を消滅させることはできません(282条1項)。

まとめ

  • 隣地は、目的の範囲で事前に知らせて使える(209条)。住家に入るには居住者の承諾がいる。
  • 袋地の持ち主は、損害が最少の場所を償金を払って通れる(210条〜212条)。分けてできた袋地は、分けた相手の土地だけを償金なしで通る(213条)。
  • 枝は原則として所有者に切らせ、3つの場合だけ自分で切れる。根は自分で切れる(233条)。
  • 建物は境界線から50センチメートル以上(234条)、1メートル未満の窓・縁側には目隠し(235条)。
  • 地役権は要役地についていき、切り離せない(281条)。時効取得は継続的で外から見て分かるものだけ(283条)。

通行地役権と登記の話は、177条の「第三者」の考え方が土台です。先に不動産の二重譲渡と登記の記事を読むと、平成10年判決の意味がつかみやすくなります。時効取得の基本は時効の記事で確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、令和8年4月1日時点(行政書士試験・宅建試験の出題の基準日)の内容を e-Gov 法令検索で確かめています。令和3年法律第24号の一部が令和5年4月1日に施行されたことは、e-Gov の改正履歴で確かめました。