市場の失敗:公共財・外部性(外部不経済)・独占と寡占・情報の非対称性、政府の役割

ひとことで言うと、市場の失敗(しじょうのしっぱい)とは、市場での自由な取引に任せるだけでは、資源(お金・モノ・人の働き)がうまく配分されない場面を指す言葉です。教科書では、公共財、外部性(外部経済・外部不経済)、独占と寡占、情報の非対称性の4つの型が並べられます。こうした場面で、国は税・規制・ルールづくりなどで手を打ちます。

この記事の位置づけ:基礎知識の4分野(一般知識・業務関連法令・情報通信と個人情報保護・文章理解)のうち、一般知識の経済の記事です。足切りを越える6問は、文章理解と、条文で答えが決まる法令から先に固める、というのが基礎知識の記事の考え方で、この記事も同じ立場です。その準備が進んでから、言葉の意味を知るために読んでください。

「市場の失敗」「公共財」「外部不経済」は、法律の定義語ではありません。経済学の教科書の言葉です。そのため定義は教科書に共通する説明として書き、言い切れるのは、関係する法律の条文の部分だけにします。例はすべて架空です。特定の政策の評価は書きません。条文は令和8年4月1日時点の法令を、2026年10月17日に e-Gov 法令検索で確かめました。

身近な例で考えると

架空の「あおば町」に住む会社員のりょうさんの身のまわりで、4つの型を探してみます。

  1. 夜道の街灯:りょうさんが歩いても、ほかの人の明るさは減らない。お金を払わない人だけを暗くすることもできない。だれも自分からは費用を払いたがらない。
  2. 工場の煙:町の工場の煙で、りょうさんの洗濯物が汚れる。工場の売値には、この迷惑の分が入っていない。
  3. 町に1軒だけの店:ほかに売る店がないので、店は値段を高めにしても客が減りにくい。
  4. 中古の自転車:売り手は傷みぐあいを知っているが、りょうさんには見ただけでは分からない。

4つとも、「欲しい人と売りたい人が自由に取引すれば、ちょうどよい量と値段に落ち着く」という市場のはたらきが、そのままでは生まれない場面です。ただし本物の経済では、一つの場面に複数の型が重なることもあります。

4つの型を表で比べると

型何が起きる例(架空)国の手段の例
公共財払わない人も使えるので、市場では足りなくなる街灯・堤防国や自治体が税で用意する
外部不経済迷惑の費用が値段に入らず、作りすぎる工場の煙規制、経済的な負担(税など)
独占・寡占競争がなく、値段が高く量が少なくなる1軒だけの店独占禁止法による禁止
情報の非対称性一方だけが情報を持ち、取引がゆがむ中古の自転車説明の義務、契約の取消し

公共財の2つの性質

教科書では、公共財は次の2つの性質をもつ財(モノやサービス)と説明されます。

  • 非競合性(ひきょうごうせい):ある人が使っても、ほかの人が使える量が減らない。
  • 非排除性(ひはいじょせい):お金を払わない人を、使う人から外すことができない(または、外すのに大きな費用がかかる)。

払わなくても使えるので、費用を負担せずに利益だけを受ける人(フリーライダー)が出ます。そのため市場に任せると、必要な量が作られにくくなります。りょうさんの街灯がその例です。逆に、店で売るパンは、だれかが食べればその分なくなり(競合的)、お金を払わない人には売らないこともできます(排除できる)。こうした財は「私的財」と呼ばれます。

外部不経済と「内部化」

外部性とは、ある人の活動が、市場の取引を通さずに、ほかの人に影響を与えることです(教科書の説明)。よい影響は外部経済、悪い影響は外部不経済と呼ばれます。外部経済の例として教科書で挙げられるのは、果樹園の近くで蜂を飼うと、蜂が花粉を運んで果樹園の実りを助ける場面です。

外部不経済を減らす考え方として、教科書では「内部化」が説明されます。迷惑の費用を、原因をつくった人自身の負担に組み込むことです。手段の例は、規制、税などの経済的な負担、排出できる量の取引などです。環境の法律にも、これに当たる考え方の条文があります。

  • 環境基本法21条(規制):国は、環境の保全上の支障を防止するため、規制の措置を講じなければならない。
  • 環境基本法22条2項(経済的な負担):負荷活動を行う者に「適正かつ公平な経済的な負担を課すことにより」、自ら環境への負荷の低減に努めるよう誘導する施策について、国は、効果や国内経済への影響を調査・研究し、必要な場合は国民の理解と協力を得るよう努める。
  • 環境基本法37条(原因者負担):国や地方公共団体などが公害などを防ぐ事業を行う場合に、国と地方公共団体は、その事業の必要を生じさせた者に、「その事業の必要を生じさせた限度において」事業の費用の「全部又は一部」を適正かつ公平に負担させるために必要な措置を講ずる。

環境基本法の全体は環境基本法の記事、廃棄物になったあとまで製品の作り手の責任を考える決まりは循環型社会形成推進基本法の記事で扱っています。温室効果ガスの排出の抑制などを定めた法律の条文は地球温暖化対策推進法の記事で扱っています。

独占・寡占と、情報の非対称性に関わる法律

独占は売り手が1社だけ、寡占は少数の売り手だけの状態です(教科書の説明)。競争が働かないので、値段が高く、量が少なくなりやすいとされます。法律では、独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)3条が「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない」と定めています(不当な取引制限は、他の事業者と共同して対価を決定するなどして、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。2条6項)。公正取引委員会は、この法律の目的を「公正かつ自由な競争を促進し,事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすること」と説明しています。独占禁止法の中身は、この記事ではこの1行にとどめます。需要曲線と供給曲線の基本と、値段が変わったときに需要量がどれだけ変わるか(需要の価格弾力性)は需要の価格弾力性の記事で扱っています。

情報の非対称性は、取引の一方だけが品質などの情報を持っている状態です(教科書の説明)。法律にも、同じ問題意識を書いた条文があります。消費者基本法1条は「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ」、消費者契約法1条は「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み」と書き出しています。消費者基本法の中身は消費者基本法の記事で扱っています。

「政府の失敗」とは

教科書では、市場の失敗を正そうとする国の働きかけが、かえって資源の配分をゆがめることがある、という意味で「政府の失敗」という言葉が使われます。言葉の意味だけを押さえれば足ります。どの政策がそれに当たるかという評価は、この記事では扱いません。税で公共財を用意するなどの財政の働き(資源配分・所得の再分配・経済の安定化)は財政の3つの機能の記事で扱っています。

当てはまる例・当てはまらない例

  1. 当てはまる例:町の堤防。完成すれば町の全員が守られ、払わない人だけを外せない。公共財の例です。
  2. 当てはまる例:工場の騒音で周りの人が眠れないが、その迷惑が製品の値段に入っていない。外部不経済の例です。
  3. 当てはまらない例:人気のパン屋に行列ができ、売り切れた。値段と量の調整の問題で、それだけでは4つの型のどれにも当たりません。
  4. ひっかけやすい例:国や自治体が用意しているものが、すべて公共財というわけではありません。教科書の定義は、非競合性と非排除性という性質で決まります。
  5. ひっかけやすい例:蜂を飼う人が果樹園の実りを助けるのは、よい影響なので外部「経済」です。「外部性=悪い影響」と覚えると取り違えます。

試験ではここをまちがえやすい

  • 公共財の2つの性質:非競合性(使っても減らない)と非排除性(払わない人を外せない)。「国が作るもの」という意味ではない。
  • 外部経済と外部不経済:市場を通さない影響のうち、よいほうが外部経済、悪いほうが外部不経済。
  • 内部化の手段:規制だけではない。環境基本法22条2項は、経済的な負担を課して負荷の低減を誘導する施策にも触れている。
  • 独占禁止法3条:私的独占と不当な取引制限の両方を禁じる。
  • 原因者負担:環境基本法37条は、事業の必要を生じさせた限度で、費用の「全部又は一部」を負担させる措置。
  • 情報の格差:消費者基本法1条と消費者契約法1条の両方の書き出しにある。

○✕でたしかめよう

問1(このサイトのオリジナル問題)
環境に負荷を与える者に経済的な負担を課して負荷を減らすよう促す方法について、環境基本法には規定がない。同法が定める国の施策は、規制の措置に限られている。

答え:✕ 分かれ目は、経済的な負担の施策の規定があるかです。環境基本法22条2項は、負荷活動を行う者に適正かつ公平な経済的な負担を課し、自ら負荷の低減に努めるよう誘導する施策について、国が効果や影響を調査・研究し、必要な場合に国民の理解と協力を得るよう努めると定めています。正しくは、規制の措置(21条)のほかに、経済的な措置の条文もあります。教科書の「内部化」の手段のうち、規制だけが法律にあると考えた取り違えです。

問2(このサイトのオリジナル問題)
独占禁止法3条は、私的独占だけでなく、事業者が他の事業者と共同して対価を決定するなどして、一定の取引分野における競争を実質的に制限する不当な取引制限も、同じ条で禁じている。

答え:○ 独占禁止法3条は「事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない」と定めています。不当な取引制限の定義(2条6項)には、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げることなどが入っています。「独占の禁止」という名前から、私的独占だけの条文だと考えると✕に見えます。不公正な取引方法の禁止は別の条(19条)なので、3条の2つと分けて覚えます。

問3(このサイトのオリジナル問題)
あおば町の工場の排水が原因で、町が公害を防ぐための事業を行う必要が生じた。環境基本法37条によれば、町がこの工場に負担させる措置の対象は事業の費用の一部に限られ、費用の全部を負担させることは予定されていない。

答え:✕ 分かれ目は、原因をつくった者に負担させる範囲です。環境基本法37条は、国と地方公共団体が、公害などを防ぐ事業の必要を生じさせた者に、「その事業の必要を生じさせた限度において」事業の費用の「全部又は一部」を適正かつ公平に負担させるために必要な措置を講ずるとしています。正しくは、一部に限られず、必要を生じさせた限度の中なら全部を負担させることも条文の範囲です。上限を画するのは「必要を生じさせた限度」という言葉で、「一部だけ」という決まりではありません。規制の措置(21条)や経済的な負担の施策(22条2項)とは別の、事業の費用の負担の条文です。

この分野の○✕は、行政書士の5分○✕ドリルの「基礎知識」で続けて解けます。

まとめ

  • 市場の失敗は教科書の言葉。4つの型は公共財・外部性・独占と寡占・情報の非対称性。
  • 公共財は非競合性と非排除性。払わずに使う人(フリーライダー)が出る。
  • 外部不経済の内部化は、規制や経済的な負担。環境基本法21条・22条2項・37条に関係する条文がある。
  • 独占禁止法3条は私的独占と不当な取引制限を禁じる。情報の格差は消費者基本法・消費者契約法の1条にある。

このサイトで次に読むなら、金融政策の手段の記事です。市場に働きかけるもう一つの道具として、日本銀行の手段を条文で確かめられます。

参考にした公式の情報(2026年10月確認)

条文は、e-Gov 法令検索で令和8年4月1日時点の法令を、2026年10月17日に確かめました。公正取引委員会の説明も同じ日に確かめています。「市場の失敗」「公共財」「外部性」「情報の非対称性」「政府の失敗」の意味は、法律の定義語ではないため、経済学の教科書に共通する説明として書いています。

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